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「オリンパスの損失隠しとIFRS」
株式会社オージス総研

2011年12月号
  • 「オリンパスの損失隠しとIFRS」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

 オリンパスの損失隠しや大王製紙の多額貸付問題など、会計に関する不祥事が続いています。そこで今回は、オリンパスの損失隠しについて、IFRSの観点から見ていきたいと思います。
○経緯
 「オリンパスの損失隠しについて、本稿に関係しそうな経緯を簡単に説明します。 2008年にオリンパスは医療機器メーカー「ジャイラス」の買収をしましたが、これが相場より高額であり、また仲介した米投資助言会社「Axes(アクシーズ)」多額の報酬を支払ったことが問題となりました。その後の報道によると、買収資金の一部を1990年代に発生した有価証券投資などの損失穴埋めに流用したとのことです。 また2006年~2008年には、国内の資源リサイクル会社「アルティス」、調理容器製造販売会社「NEWS CHEF」、健康食品販売会社「ヒューマラボ」の3社を買収していますが、この買収資金の一部についても、損失の穴埋めに使われたということです。
○IFRSおよび日本の会計基準
 このオリンパスの例で、関係する規定として企業結合があります。
企業結合の会計処理として、日本はかつて、プーリング法(買収する会社を簿価で評価する方法)と、パーチェス法(買収する会社を時価で評価する方法)を選択できましたが、2010年には、プーリング法がなくなり、パーチェス法しか選択できなくなりました。これはIFRSの影響を受けたもので、IFRSは取得法(パーチェス法と同じ)を採用しています。従って日本基準とIFRSの規定は、ほぼ同等になったと言えます。しかし、いくつかの点で異なるところもあります。ここでは、今回の件に関わりそうな、次の2点について、さらに詳しく見ていきたいと思います。

 ・のれんの償却
 ・企業結合に直接起因する費用

・のれんの償却
 IFRSのIAS第36号「資産の減損」では減損テストについて「のれんが配分されている資金生成単位については、毎年、さらに減損の兆候がある場合にはいつでも、のれんを含む当該単位の帳簿価格と回収可能価格との比較により減損テストを行わなければならない。」とあります。一方日本基準ではのれんを20年以内に定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することになります。
 日本基準においても減損の兆候の評価をして、減損の判定が行われれば、減損損失の計上が行われます。IFRSとの違いは、減損の兆候の評価において、日本基準では「少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合」との数値基準が明確に設定されています。
 また、減損の判定において、IFRSは減損の兆候があればすぐに、回収可能価額を見積る必要がありますが、日本基準では、割引前の見積将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合、回収可能価額を見積ることになります。つまり日本基準のほうが1ステップ手順が多いことになり、IFRSのほうが減損を認識しやすいということになります。
 従ってIFRSの場合、高額で「ジャイラス」を買収したのち、翌年の減損テストにおいてその評価額が極端に下がるという異常事態が発生し、不審の目を向けられてしまうことになります。
 もっともオリンパスは、国内の3社の買収については、買収完了直後の2009年3月期決算で、買収額の7割以上に相当する557億円の減損処理を実施していますので、ここで明らかに異常がおきているということになります。
・企業結合に直接起因する費用
 次に企業結合に直接起因する費用について考えていきます。
 IFRS3号では、「企業結合に関連して取得企業で発生する費用(取得関連費用)は「引き渡された対価」に含まれない」とあります。具体的には、「アドバイサリー、法律、会計、評価や他の専門家やコンサルティング料などの手数料」などがあります。
 さらに、「取得関連費用は、原則、費用が発生した年度、サービスを提供された年度の費用として会計処理されることになる。」とあります。
 一方、日本基準では企業結合に直接起因する費用は買収した会社の取得価格として資産計上が認められています。
 そのため、仲介した米投資助言会社「Axes(アクシーズ)」に支払った多額の報酬について、IFRSとしては、企業結合に直接起因する費用として、別途計上されますが、日本基準では、取得価格といっしょに資産計上されてしまうので、日本基準とIFRSを比較した場合、IFRSのほうがより、わかりやすい(異常を発見しやすい)と言えます。

○まとめ

 オリンパスの損失隠し問題とIFRSについて考えてきました。もちろん、IFRSならばこの問題が発生しないとか、発覚が早くなると単純に言えるものではありません。またIFRSは日本の会社経営には合わないという意見も良く聞きます。
しかしこのような会計の問題が多発すると、かつてのレジェンド問題※1のように、海外から日本の会計基準や会社経営が信用されなくなってしまう可能性もあります。
会社としてのガバナンス、やGRC (Governance, Risk, and Compliance)などを考慮にいれた管理会計、財務会計システムの構築を考え、その中でIFRSも取り入れていくべきなのではないでしょうか。

※1:1999年3月期から日本企業の英文財務諸表の注記と監査報告書に「この財務諸表は日本の会計基準で作成されており、また監査も日本の監査基準で行われている」といった旨の警告の説明文(Legend Clause)が付されたことを指す。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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