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「「続」スマートグリッド社会成熟度モデル(第11回)」

2012.01.17 株式会社オージス総研  乾 昌弘

 平成24年(2012年)明けましておめでとうございます。旧年中は、ご愛読どうも有り難うございました。今年もよろしく御願いします。今年は、電力供給にとって節目の年になると思います。新しい電力供給のあり方について注目したいと思っています。
 なお、このWebマガジンも毎月とはいかないまでも、できるだけ続けたいと思いますので、よろしく御願い申し上げます。

1. 特徴的なキーワードとの関連

 平成21年度から成熟度モデルを検討して参りましたが、スマートグリッドにおける特徴的なキーワードとの関連を述べてみたいと思います。ここでは、3.11と関連するサステナブル、レジリエント、デマンドレスポンス、ネガワット、及びプロシューマ、アンシラリーについて取り上げます。

(1)サステナブル(Sustainable)
 これは持続可能なという意味で、一般に使われている言葉です。環境の変化があっても、安定的に電力が供給できなければなりません。また、経済的に破綻しないようなモデルも必要です。各家屋および「分散型電源/熱源」が耐震性に優れていること。また、たびたび申し上げていますが、「経済的に成り立っていること」が必要です。もう一方で、住民のモチベーションの維持も必要ですから、「住民の理解」も重要です。
 さらに、成熟度モデルのレベル5の「要点」に記述している「世帯の増減など変化に対応したネットワークを構成している。」ということも重要だと思っています。

(2)レジリエント(Resilient)
 サステナブルと重なっているところはあると思いますが、(万が一機能が停止しても)回復力があるという意味です。IT分野では、ブレードサーバーで耳にしたサービスですが、ソフトウェアの世界ではあまり耳にしません。おそらく、ソフトウェアの場合はバックアップを取っておいて、すぐにそれを利用できる仕組みがあるからだと思います。
 系統電力、太陽光発電などの「分散型電源/熱源」、EVなどの蓄電池を如何に「HEMS」で制御できるかに懸かっていると思います。また、地域の中でエネルギーを融通できることも重要になります。

(3)デマンドレスポンス(Demand Response)
 これは皆さん御存知のとおりで、特にピークカットに必要です。電力会社が直接家庭の電力を制御するより、むしろ電力料金を柔軟に運用して住民が自主的に制御する方が普及すると思います。成熟度モデルでは、レベル3から「家電の稼動時刻設定や優先順位付け」を、レベル4から本格的な「デマンドレスポンス」を定義しています。

(4)ネガワット(Negawatt)
 節電した量を新たに生み出した電力量とみなします。今夏から大口需要家の節電分を電力会社が買い取るようです。スマートメータが普及すれば、家庭用にも適用可能で、「Demand Response」の一種とみなすこともできます。この場合は、逼迫時払戻金が支払われます。

 ところで直接関係ありませんが、ネガワットから高校の物理で習った「ダランベールの原理」を思い出しました。
 Σ(F-mα)=0:外力Fに対してmαという仮定の力で釣合っているとみなします。ニュートンの運動方程式を力のバランスに変形したものです。ネガワットの場合は、仮定の電力量が節電した電力量と釣合っているという式になります。つまり、
 Σ(節電量-仮定の電力量)=0

(5)プロシューマ(Prosumer)
 ProducerとConsumerの造語で、未来学者アルビン・トフラーが1980年に発表した著書「第三の波」の中で示した概念です [1]。これは一般的な概念ですが、例えばエネルギーを消費すると同時に生産する立場にもなるということです。
 プロシューマになると生産、消費及び蓄電をどのように行うかなど、エネルギー需給に大きな関心を寄せるようになります。これは、「社会成熟度モデル」そのものの基盤をなすものと考えられます。

(6)アンシラリー(Ancillary)
 電力の質(周波数や電圧)を一定の保つサービスです。自然エネルギー由来の発電が増えると、お互いのならし効果が見込めるとはいえ、電力の質が不安定にあるおそれがあります。基本的には、電力会社など電力を大量に供給する会社が調整して対処する必要があります。
 しかし以前書きましたように、この変化を系統側だけで吸収しようとすると、莫大な量の蓄電池が必要となります。従って、例えばスマートハウスでは、短い周波数は蓄電池(定置用または電気自動車)長い周波数は燃料電池を制御することによって吸収する実証実験がおこなわれています。つまりは「HEMS」の制御内容が重要ということになります。
 さらに、 昨年11月号(「続」スマートグリッド社会成熟度モデル 第9回)でもありましたように、系統貢献へのアンシラリー費用(例:コントロールによって、EV、PVの寿命が短くなる)を評価して需要家に支払うことが今後の課題の一つであるといわれています。

[1] ウィキぺディアより

2.今後の日本のスマートグリッドについて

 (1)クラスター型スマートシティの普及
 昨年9月号(「続」スマートグリッド社会成熟度モデル 第7回)
で紹介した内容をもう一度整理したいと思います。 複数の先生方がクラスター型のスマートシティ(スマートグリッド)が普及していくというをお話をされています。北九州市(新日鉄八幡東田地区)の実証事業や藤沢市(パナソニック電工工場跡地)などが着実に進んでいるとすれば、やはりクラスター型がまず普及していくように思います。成熟度レベルは一時的に1と5の両極端になる可能性もあり、その後、いろいろなレベルの地域が生まれるといったことも考えられます。
 ドイツのモデルシティ・マンハイム(MoMa)プロジェクトが、基本的な考え方の一つになると思います。その目標の一つが、

 ・住宅(セル)ひとつひとつがエネルギーの自給自足を行い、不足する場合は隣の住宅(セル)からエネルギー融通を受けることで、地域レベル(マイクログリッド)でのエネルギーマネジメントを実現
 ・将来的にはマイクログリッド間での融通も視野に含む

 (2)都市と地方の役割を決めることが重要
 世界的に都市に人口が集中し、都市間競争の時代だといわれています。都市の中でクラスター型のスマートシティが普及することによって、競争を勝ち抜くということも考えられます。また、都市と地方で同じ事をやるのではなく、分担をはっきりさせることが必要です。ドイツで行われた政策も一つの見本になると思います。
 旧西ドイツでは、経済が発展して電力を大量に消費しています。それに対して旧東ドイツでは、経済的に遅れており農業が中心です。そこで、ドイツ政府は、旧東ドイツに風力発電設備などを配置して、その電力をFIT(固定価格買取)制度で買い取って、旧西ドイツに送るという政策をとりました [2]。
 現在、日本では北海道の風力発電設備で発電した電力を、東京電力管内で消費する計画が進んでいます。

[2] 参考文献:柏木「国益・効果を最大化させる日本独自の統合的な制度設計が不可欠」

 執筆者略歴
乾昌弘 技術士(情報工学部門)
株式会社オージス総研 技術部 部長補佐
1979年:京都大学工学部精密工学科卒業
1981年:東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1981年:大阪ガス入社
1991年:オージス総研出向
2003年:財団法人エネルギー総合工学研究所出向
2006年より現職

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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