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「今度こそ、”データ利活用による継続的業務改善”を実践しよう!(3)」

2012.02.08 株式会社オージス総研  藤本 正樹

 前回までは、「データ利活用を実施する"目的"を明確にする」ことが必要な理由についてご紹介しました。今回は、
 (1)データ利活用を実施する"目的"を明確にする。
 (2)"目的"に沿ったデータ利活用のあるべき姿(To-Be)を策定する。
の手順、留意点についてご紹介します。

(1)データ利活用を実施する"目的"を明確にする。

 このポイントについては第1回でも触れましたが、BSC(バランスト・スコアカード)を使用して目的の整理を行うことが必要です。既に明確な目的がある場合はこの作業は不要ですが、その際には、
 ・その目的が"なぜ存在するのか(理由や背景)"を関係者全員が理解していること
 ・目的が曖昧でないこと
を満たしているかどうかを再確認してみてください。

曖昧な例

 もし、満たせていない場合には、「本当に必要なデータは何か」が分からず、いつのまにかデータの収集が目的になってしまう(手段の目的化)可能性が高くなりますので、BSCなどを用いて関係者間で目的の再設定を実施することをお勧めします。

 国内展開している製造業を例にして下記のモデル企業を設定しましたので、ここからはその内容に沿ってご紹介していきます。

【概要】

【背景】

【経営上の課題】

 まずは目的の設定です。ここではBSCの「戦略マップ(戦略を可視化したもの)」を使用します。(BSCの詳細については、こちらをご参照下さい)
 前述の概要、背景、課題、あるいは外部情報をインプットとして、戦略マップを作成します。(図1)

モデル企業の戦略マップ
図1 モデル企業の戦略マップ

 図1の戦略マップに記載されている内容こそが、いわゆる"BI導入の目的"となるべきものです。簡単に整理すると、「顧客に対する理解を深め、顧客に合った製品、消耗品、周辺オプション製品を提案、販売することにより、顧客のライフタイムバリューを高める」となります。

(2)"目的"に沿ったデータ利活用のあるべき姿(To-Be)を策定する。

 前述の"目的"をベースに、データ利活用のTo-Be像を明確にします。
 この手順では、「成熟度」の考え方を使用します。成熟度とは、企業の経営や情報化の現状などの実現レベルを、多段階で評価し、段階に応じた施策を行っていくための度合いのことです。成熟度を測ることで企業の現在のレベルが明らかになり、今後どのような施策を実施していくべきかを明確にすることが出来ます。もっと簡潔に言い換えると、「企業の様々な活動がどの程度うまくいっているかを表す度合い」というところでしょうか。

 【参考:成熟度を利用したフレームワークの例】
 CMM(米カーネギーメロン大学ソフトウェアエンジニアリング研究所)
 COBIT(情報システムコントロール協会(ISACA)、ITガバナンス協会(ITGI))
 IT経営成熟度(ITコーディネータ協会)
 日本経営品質賞(経営品質協議会)

成熟度モデルを使用した作業イメージ(COBIT4.1日本語版を基に作成)
図2 成熟度モデルを使用した作業イメージ(COBIT4.1日本語版を基に作成)

 データ利活用における現状(As-Is)とあるべき姿(To-Be)を明確にするときの"軸"については、企業や組織内におけるBIを展開する範囲(部門、全社、など)とBIの利活用レベル(レポーティングとしてのみ利用、現状分析、など)は必ずしも比例しているわけではないために、展開レベルと利活用レベルの2軸によるポジショニングが必要と考えられます。
 そのため、「BI展開レベル(BIを適用する範囲)」(図3)と「BI利活用ステージ(BIを利活用するレベル)」(図4)の2軸を使用して、"目的"に応じたBIの適切な利活用度合いを測ります。(図4)

BI展開レベル
図3 BI展開レベル

BI利活用ステージ[1]
図4 BI利活用ステージ[1]

BI利活用ポジショングリッド
図5 BI利活用ポジショングリッド

 それでは成熟度の考え方に従って、As-IsとTo-Beの設定を行います。

 (2)-1.As-Is設定

 図3、図4に示したような各レベル、ステージの内容を基に、今の企業・組織の状況がどこに当てはまるかをチェックします。ちなみに、弊社では「BI利活用ポジショングリッド診断」という診断ツールを準備しており、20個程度の項目にご回答いただくことにより、As-Isを確認できるようになっています。
 なお、部署や立場の違いによって、この結果(どこに当てはまるか)の認識が異なることがあるため、関係者全員のコンセンサスを得ながら決定していくことが重要であるということにご注意ください。

 さて、モデル企業においてはどうでしょうか。データ利活用の状況について、ヒアリングした結果が以下の通りとします。

【データ利活用に関する状況】

 「各部門のシステムからレポートを出力している」、「分析業務は出来る人がやっているだけで、結果も共有されていない」ということが記載されていますので、「BI展開レベル:スポット、BI利活用ステージ:レポーティング」であると思われます。

モデル企業のAs-Is
図6 モデル企業の"As-Is"

 (2)-2.To-Be設定

 "目的"をインプットにして、「その"目的"を達成するためには、ポジショングリッド上のどこに位置していなければならないか」を、As-Isの場合と同じように図2、図3に示した内容を基に決定します。ここでもやはり、関係者全員のコンセンサスを取ることが重要となります。

 さて、モデル企業を見てみましょう。モデル企業における"BI導入の目的"は、「顧客に対する理解を深め、顧客に合った製品、消耗品、周辺オプション製品を提案、販売することにより、顧客のライフタイムバリューを高める」でした。この"目的"を達成するためのTo-Beはどこに設定すれば良いのでしょうか?

BI展開レベルについて
 顧客を理解し、クロスセルを実施していくためには、顧客情報が部門(ここでは主に営業部、サービス部)を跨いで共有されている必要があります。また、共有した情報を分析した結果についても共有し、業務内で活用していくことが求められます。
 また、部門を跨いだデータ利活用を主導するような組織や役割が必要になると思われます(このような組織を「BICC(Business Intelligence Competency Center)」と言います)。
  
BI利活用ステージについて
 クロスセルを効率的に実施するには、顧客毎に"そろそろ必要になりそうな消耗品"、あるいは"興味のありそうな周辺オプション製品"をこちらから予測して、お勧めすることが求められます。いわゆる「リコメンデーション」と呼ばれるサービスです。

 このように見てみると、モデル企業が目指すべきTo-Beは「BI展開レベル:戦略的、BI利活用ステージ:将来予測」というポジションであることが分かります。

モデル企業のTo-Be
図7 モデル企業の"To-Be"

 以上のように、データ利活用における"現状(As-Is)"と"将来像(To-Be)"を明確にするための"物差し"、また、継続的改善を行う際の"羅針盤" を用いて、今後どのような施策を実施するのかを明確にすることが重要なのです。

「BI利活用ポジショングリッド」を使用したTo-Be設定のイメージ
図8 「BI利活用ポジショングリッド」を使用したTo-Be設定のイメージ

 次回は、As-IsからTo-Beに向かう"BI実施計画"立案についてご紹介していきます。

(参考文献)
[1]BeyeNETWORK and Decision Management Solutions.「Operational Analytics:Putting Analytics to Work in Operational Systems」(2010/05) を基に追記

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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