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「ソーシャルメディアのエンタープライズ利用における注意点 第6回」

2012.07.12 株式会社オージス総研  竹政 昭利

 

 ※ 本稿は、財団法人経済産業調査会発行 「特許ニュース」 No.13250 (2012 年6 月14 日発行)への寄稿記事です。

1. はじめに

 第1回では『ソーシャルメディアの位置づけと課題』と題してソーシャルメディアを広く捉え、その分類をし、有効性と課題について紹介した。第2回」では『ソーシャルメディアの課題と形成する技術(ハードとソフト)』と題して、前半で実名と匿名の違い、炎上の3つの原因を解説し、後半ではソーシャルメディアを形成する技術を端末(デバイス)とサーバーに分け、ハードウェア、ソフトウェアについて紹介した。第3回」では『業務プロセスにおけるソーシャルメディアを利用したサービス』と題して、ソーシャルメディアが、マーケティングやブランディングのためだけでなく、経営、研究、開発/製造、調達、保守など広く業務プロセスの全般と関わっていることを見てきた。第4回」では『ソーシャルメディアを利用する企業の動向と事例』と題して、企業におけるTwitter、Facebook、YouTube、mixiなどの利用動向と実際の活用事例を紹介した。また、ポリシーやガイドラインが炎上防止に有効である事も紹介した。第5回」の『ソーシャルメディアと法的な課題』では、ソーシャルメディアと著作権や特許権などの知的財産権、プライバシー権などの権利について解説を行った。著作権についてはまだ世間では、その理解が十分ではなく、厳密に見ると著作権違反のケースが多数見受けられる。ソーシャルメディアに関する特許件数に関しては、現状はまだそれほど多いとは言えない。しかし、今後増加が予想されることを述べた。
 最終回である本稿では『ソーシャルメディアのエンタープライズ利用における注意点』と題して、ソーシャルメディア、特にFacebookページを広告目的で利用する場合の注意点と、ソーシャルメディアを利用、運用していく上で心掛けておくべき点について説明していく。

2. Facebookページの広告目的利用禁止

 Facebookページは、企業、有名人、各種団体などが、ユーザとの交流のために作成し、公開するものである。特に、企業がFacebookページを使用する場合、広告目的が多いと思われる。その広告の一環として、コンテストやプロモーション(懸賞)を企画することもあるだろう。
 ここで、一旦Facebookの「利用規約」※1に目を通してみよう。「3. 安全 9.」によれば、コンテストや懸賞(プロモーション)は、プロモーションガイドライン(Facebookページ利用規約※2)に従う、となっている。

3.安全 
  1. Facebookでコンテストや懸賞など(「プロモーション」)を実施したり、宣伝する場合、弊社のプロモーションガイドラインおよび当該法規にしたがうものとします。

 次に、「Facebookページ利用規約」を見てみる。まず、「I 一般規定」の「A. Facebookページの広告」の項目には、「Facebookページに外部広告を掲載することはできません。」と明記されている。

I 一般規定
  1. Facebookページの広告
    広告および商用コンテンツ(Facebookページの投稿コンテンツを含む)には、広告ガイドラインが適用されます。
    Facebookページに外部広告を掲載することはできません。
  2. カバー
    すべてのカバーは公開情報です。つまり、カバーはFacebookページを訪問するすべてのユーザーに表示されます。虚偽的な、誤解を招くような、または第三者の著作権を侵害するカバーは認められません。カバーを自分の個人タイムラインにアップロードするようユーザーにすすめることはできません。
    カバーには以下を含めることはできません。
    1. 「40%オフ」や「socialmusic.comからダウンロード」などの価格または購入情報。
    2. ウェブサイトのアドレス、メール、住所などの連絡先情報や、[基本データ]セクションに記載すべき情報。
    3. 「いいね!」や「シェア」などのFacebookの機能やアクションの言及、またはこうした機能を指す矢印。
    4. 「今すぐ購入」や「友達に教えよう」といったアクションを促す表現。

 さらに、カバーについても規定がされている。カバーとはFacebookページの上部横長の部分であり、一番目に付きやすい箇所である。写真などを表示している例が多い。「B. カバー」には禁止事項が列挙されている。
 「i.」「40%オフ」や「socialmusic.comからダウンロード」など直接的に購入を促す情報。
 「ii.」連絡先情報や基本データ。
 「iii.」「いいね!」を押してくださいなどの言及や矢印。
 「iv.」「今すぐ購入」や「友達に教えよう」などのアクションを促す表現。
 このように、直接購買に結び付けるような表現が禁止対象となっている。
 企業のWebページでは広告のためにごくあたりまえに表現されているものが、Facebookページでは禁止されていることになる。
 次に、プロモーション(懸賞)について見てみる。
 Facebookページ利用規約※3の「III. Facebookページの機能」の「E.プロモーション」には、プロモーション(懸賞)を行う上での条件が規定してある。

III. Facebookページの機能
  1. プロモーション
    1. Facebook上でのプロモーションは、Facebook.com上のアプリのキャンバスページまたは、Facebookページのアプリ内で運営する必要があります。
    2. Facebook上でのプロモーションには、以下を含める必要があります。
      1. 応募者または参加者によるFacebookの免除
      2. プロモーションはFacebookが後援、支持、または運営するものではなく、Facebookとは関係がないことの表明。
      3. 参加者の情報がFacebookではなく、[情報の受取人]に提供されることの開示。
    3. Facebookページへの「いいね!」や、スポットへのチェックイン、アプリとのつながり以外のFacebook機能を使った何らかの動作を実行することを参加または応募の条件とすることはできません。たとえば、ウォールの投稿に対して「いいね!」する、ウォールにコメントを投稿したり、写真をアップロードする、などの動作を参加または応募の条件とすることはできません。
    4. Facebook機能をプロモーションの参加または応募手段として使用することはできません。たとえば、Facebookページへの「いいね!」や、スポットへのチェックインにより、自動的にプロモーションに参加または応募するように設定することはできません。
    5. 「いいね!」ボタンなどのFacebook機能をプロモーションの投票手段として使用することはできません。
    6. Facebookのメッセージ、チャット、プロフィール(タイムライン)またはFacebookページへの投稿など、Facebookを通じて当選者に通知することはできません。

 「i.」によれば、プロモーション(懸賞)は、自分でアプリを作成しそれをキャンバスページで実行するか、サードパーティ製のアプリ上で行われる必要がある。これはFacebookページ内には、プロモーション(懸賞)に関するデータを保存しない、ということである。キャンバスページとはFacebookの中にある白紙のキャンバスのようなもので、作成したアプリはそこで実行される。
 「ii. b.」によれば、プロモーション(懸賞)を行うときはFacebookと関係ないことを表明しないとならない。
 「iv.」によれば、「いいね!」を押すだけで、プロモーション(懸賞)に参加する仕組みにはできないが、「いいね!」を押したのち、アプリなどを使ってプロモーション(懸賞)に参加することはできることになる。しかし、「iii.」によれば、この「いいね!」はFacebookページ自体のものならば良いが、投稿に対して「いいね!」を押すことを参加または応募の条件としてはならないことになる。
 現実には、この規約違反をしているFacebookページ(企業)は多数ある。
 かつてブラジルの航空会社GOL airline社は、座席のイメージをFacebookページに表示し、その座席番号を一番早くコメント欄に書きこんだファンに、ペア往復航空券が当たるというキャンペーンを行った。これによりGOL airline社は3日で19万人のファンを獲得したようである。しかしこれは、上記プロモーションガイドラインに違反しており、その結果GOL airline社はFacebook社より警告を受けることになった。
 また、警告のみならず、ページが削除されてしまった例もある。2010年12月にフランスの大手衣料品店Kiabi社のFacebookページは、プロモーションガイドライン違反でページが完全に削除された。Kiabi社は自社のFacebookページのウォールにコンテスト用のコンテンツを載せファンに投稿させていたということである。プロモーションガイドラインの「iii.」に違反することになる。ちなみにKiabi社のFacebookページには13万人のファンがいたということである。
 思うにFacebook社は、Facebookページは直接的な広告などを表示させるものではなく、まずは会社と顧客との信頼関係を結ぶツールであるべき、と考えているのではないだろうか。
 Facebook社は、2010年3月16日に、マーケティング担当者向けカンファレンス「fMC Tokyo」を開催したが、そこで、Facebook社のグローバルディレクターのヘザー・ホプキンズ氏が次のように言っている。
 「企業のみなさんには、ユーザーが面白いと思うようなことを伝えてほしい。企業の広告でも、誰かが面白いと言ったら、それはもう広告ではなく会話になる。友達から勧められると、感情が動くし、ブランドの歴史を知ると記憶に残る。フェイスブックでは、リアルの世界と同じような情報をシェアして、友達や家族と話すということができる。」※4
 ここからも、単に一方的な広告ではなく、コミュニケーションに発展させることで企業と顧客の関係をより強固なものにしたい、というFacebook社の姿勢がうかがえる。

3.ソーシャルメディア利用において心掛けておくべき点

 ソーシャルメディアには、そこに特有の考え方や感じ方がある。ときにはそれが誤解を生みトラブルの原因になる事もある。
 ここからは、ソーシャルメディアを利用する上で、心掛けておくべき点を中心に、ソーシャルメディア利用によってもたらされた新しい概念や諸問題にも触れながら解説していく。

○ウラを取る
 ソーシャルメディアで流れている情報は玉石混淆である。非常に有用な情報もあれば、悪質なデマもある。たとえ信頼できる人からの情報だとしても、鵜呑みにせずその情報源を確認しウラを取る必要がある。
 但馬救命救急センターのブログ「TECCMC's BLOG」は、2012年4月23日「マスコミの人間に心はあるのか」と題して、新聞記者の霊安室における対応について批判を載せ、インターネット上で反響を呼んだ。しかし、名指しされた新聞社は、そのような事実はないと反論した。その後記載されていた新聞社の実名が消されるなどブログに訂正修正が入っている。※5※6
 このようにソーシャルメディアはマスメディアと同じか場合によってはそれ以上の影響力がある。マスメディアは報道をする前には、誤報を恐れその情報源をたどり真偽の確認を念入りに行うが、ソーシャルメディアについてもデマの発信源にならないように、ウラを取ることが重要である。そしてもし間違った内容を投稿してしまった場合、速やかに謝罪と訂正をすることが取るべき対応である。
 またマスメディアも、ソーシャルメディアという新しいメディアの扱いに慣れていないようである。2012年1月26日付日本経済新聞朝刊に、東北大学の沼崎一郎教授らのTwitterの投稿が掲載された。しかし、沼崎教授は、この件についてTwitterで、「無断転載だ」と投稿している。沼崎教授は著作権の違反を言っているのではなく、本人の発言かどうかの確認を取るのは取材のイロハであり、それを怠った事を批判しているのである。※7
 明らかにデマでない場合も、本人の投稿の一部だけ抜き出して投稿すると、もともとの意図とは異なったものになってしまう可能性がある。特に、Twitterには140文字以内という制限があるため、一連の流れを無視して一部の投稿のみを取り出してしまうと、やはりそこから元々の発信者の真意を汲み取ることは困難となるだろう。

○上から目線
 あなたもソーシャルメディアと現実(リアル)の会話に違いを感じることがあるだろう。Facebookは実名で利用するため、そこでなされるのは比較的現実(リアル)の会話に近いものになる。そこでは、友達、知り合い、会社の同僚や上司、取引先などが一堂に会するので、話題が当たり障りのないもの(旅行や食べ物など)になりがちである。一方、Twitterは半匿名のため、そこでなされるのはもう少しラフな会話となり、参加者は互いに相手とは対等であると感じるようになる。
 これについて、冷泉 彰彦氏は『「上から目線」の時代』※8の中で、日本語の会話には上下関係がある、という点を指摘している。日本語の場合、話し手が上で聞き手が下という役割分担がある。そのため聞き手が途中で話を遮るのはタブーとされる。一方、英語の場合は話し手と聞き手の上下関係は薄いので、聞き手の側に内容的に意味があれば、聞き手と話し手の地位が入れ換わることも許される場合がある、と述べている。
 確かに巷には、「それが人にモノを尋ねるときの態度か!」という言い回しがある事に思い至る。これは質問される側と質問する側の上下関係を前提としている言葉である。それ以外にも漫才における「ボケとツッコミ」の役割分担、敬語による上下関係など様々な場面に上下関係が存在していたことに気が付く。この上下関係作ることで会話が落ち着き、その安心感をベースとして初めて話題が広がるのである。
 そのため、現実(リアル)の会話の中でこの上下関係を崩すと、会話している当事者は相手を見下しているという認識はないが互いに上から目線を感じる、ということである。
 ところが、Twitterは現実(リアル)の世界と異なり上下関係は薄く、そこで交わされるのは対等な関係に近い会話になる。Twitterの場だけならば、そういうものだと割り切る事もできる。しかしときにはTwitterで交わされる会話に慣れたヘビーユーザーがオフ会などで集まった場合、Twitterの場と同様の対等な関係を現実(リアル)に持ち込んで会話をすることがある。Twitterのヘビーユーザー同士ならば、それが普通のコミュニケーションスタイルなのだろうが、そこに"一般の人"が入ると、あたかも上から目線で責められているように感じるようである。こうなってしまうとせっかくTwitterなどのソーシャルメディアと現実(リアル)が融合し、よりレベルアップしたコミュニケーションが確立する可能性があるのに、それが阻害されてしまうことになる。
 一方、Twitter とは違いFacebookにはすでに現実(リアル)が持ちこまれている。対等と上下の両方の関係がクロスオーバーする中で、どのように建設的な会話を作っていくかが課題となる。
 これからソーシャルメディアを使う人が増えてくると、あまり経験したことがないコミュニケーション上の課題が増えてくる可能性があるが、そのようなときも、会話する相手をリスペクト(尊敬)する気持ちを忘れないようにすることが重要である。

○インターネットでは多様性が担保されている、という誤解
 インターネットを使えば、世界のどこにいる人ともコミュニケーションをとることが可能である。インターネットからは様々な意見を拾うことが可能であり、ソーシャルメディアの特徴も、多様性である。そこには様々な人々の様々な意見があり、たくさんの人と対話をすることで新しい考えが浮かび、やがてはイノベーションへとつながっていくのである。
 「ぐぐる」という言葉ができるほど、Googleで言葉を検索することは一般的によく行われている。この検索であるが、同じ単語を同時に、複数の人が検索した場合、その結果は必ずしも同一にはならない。検索結果の順番が異なったり、検索結果の件数自体も変わってくる場合がある。これは、Googleのアカウントでログインをして検索をすると、その検索履歴が蓄積され、新たに検索を行うとき、その検索履歴を使って、それぞれの人が興味を持っていると思われるものを優先して表示しているためである。
 自分が興味を持っているものを優先して表示してくれることは便利である。しかし、興味があることしか表示されないと、自分が興味を持っていないものを知る機会がなくなるかもしれない。
 これはソーシャルメディアにも言えることである。Facebookの友達になるときに、そもそも友達と言う単語を使うくらいだから、気が合う人、意見が合う人に引き寄せられるのではないだろうか。もちろん現実(リアル)の友達とは異なり、それほど知らない相手と友達になる場合もあるだろう。Twitterでは、知らない人をフォローすることも多い。しかしこの場合も、やはり、自分の興味がある人をフォローする傾向があり、結果として同じような意見の人が集まることになる。
 そのため、ある問題に関して、賛成の人のTwitterには、賛成の人が多く集まり、反対の人のTwitterには、反対の人が多く集まる傾向がある。そうすると、もし自分がある問題に対して賛成であり、賛成の人のTwitterをフォローしていると、そこでは賛成の人が大多数なので、いつの間にかそれが主流であると思ってしまう。反対の意見の人も同様に、反対が主流と思ってしまい、お互いに交わるところが無くなってしまう。
 このように、ソーシャルメディアを使用する場合、多くの人の意見が集まることで、一見多様性が実現できているように思えるが、フィルターがかかった集団の中にいる可能性があることも考慮しておく必要がある。自分の意見についてソーシャルメディア上で賛成してくれる人が多くいるからといって、一般的に妥当なものであるとは限らないのである。

○BYOD
 ソーシャルメディアには、リアルタイムの運用が求められる。リアルタイム性を実現するにはモバイル機器を利用することが必要になる。そのモバイル機器の利用形態の1つとして、BYODの考え方が広まってきている。
 BYOD(Bring Your Own Device)は、従業員が私物のモバイル機器などの端末を業務に利用することを言う。クラウドの普及およびスマートフォンの高性能化により、時間や場所に縛られることなく容易に仕事ができる環境が整ってきたことが背景にある。特にスマートフォンは頻繁に新機種が投入されており、企業が導入したスマートフォンの機種よりも個人が持っているスマートフォンのほうが大抵高性能であることも普及の1つの理由である。
 BYODは企業、従業員の双方にメリットがある。企業側は従業員に端末を支給する必要がなくなりコスト削減になる。従業員側は、会社のスマートフォン、自分のスマートフォンなど複数のモバイル機器を持ち運び使い分ける必要がなくなり、使い慣れた自分のスマートフォンで全てが完結できる。
 しかし、一番問題になるのは、セキュリティである。機密の業務情報が私物のモバイル機器に入る。私物なので会社から貸与されているものに比ベて管理意識が低下しがちである。そのためモバイル機器を落としたり、盗まれたり、情報漏洩する危険が高まるのである。
 情報漏洩対策として、ある種のツールの導入は有効である。業務情報のデータに関してはサーバー上のものを参照するのみとし、モバイル機器のSDカードなどのメモリーに保存しないようにするのである。またMDM(Mobile Device Management)を利用すれば、いざというときはリモートでモバイル機器にロックをかけて業務情報にアクセスできなくしたり、業務情報を削除したりすることも可能である。
 BYODは私物を業務端末にも利用しているので、企業は通信費やモバイル機器購入費用などの一部を補助する必要がある。このときに、どこまでが私物利用で、どこまでが業務使用なのかという線引きが問題になるが、グレーゾーンが多くあるため明確に区別することは難しい。

○公私混合
 私物使用と業務使用の線引きの問題は、モバイル機器などのハードウェアだけでなく、ソーシャルメディアにおいても存在する。
 企業においてFacebookページを運用する場合、幾人かが管理者になる必要がある。しかし管理者になる場合、個人のFacebookアカウントを保持している必要がある。Facebookアカウントは実名で1つのアカウントしか保持することができない。そのため、会社のFacebookページの管理者に任命されると、私に公が流れ込むことになる。人によっては1人につき1つのアカウントで私と公とを切り替え使い分ける事にとまどいや、いらだちを覚えるようである。
 これに対して、NTTデータの山下徹社長(2012年5月現在)は「公私混合」という考え方を提唱している。※9「公私混合」は従来からある「公私混同」というネガティブなものとは違い、心と仕事の両方を一緒に回し、「ハイブリッド」に公私をポジティブに融合することである。
 工場で従業員が決まった時間働くような工業化社会では、従業員の働く時間や場所が集中している方が、生産性を高めるのに都合が良かった。しかし、従業員のそれぞれが創造的(クリエイティブ)な仕事をする知識産業社会では、従業員を時間や場所で縛ることは有効ではなくなっている。
 良いアイディアは必ずしも仕事中に浮かぶとは限らない。散歩しているときや、風呂に入っているとき、あるいはFacebookで友達の投稿を読んでいるときかもしれない。そのときは私の中で公を行っているわけである。
 公私混合は必ずしも新しい考え方ではない。農業社会では町内、村内で共同で働き、屋根の吹替えや、雪かき、祭りなども助け合いながら行っていた。農業社会には、厳密な公私の区別は存在しない。また自営業も公私混合している典型例ではないだろうか。
 歴史的にみると、むしろ公私を厳密に区別しているのは、工業化社会特有のことである。知識産業社会になりつつある現在は、公私混合の考え方がぴったりくるのではないだろうか。

○ソーシャルメディア疲れ 
 ソーシャルメディア導入の効果はすぐに目に見える形で現れる性質のものではない。今までのようにマスメディアに広告を出せば、売り上げに直結するようなものではなく、時間をかけて顧客と信頼関係を築くことによって、効果がゆっくりと出てくるものである。
 そのため、企業のソーシャルメディアの担当責任者は、コスト対効果を社内的にいかに説明するかで頭を痛めている。彼らはフォロワー数や「いいね!」の数の増減を絶えずチェックし一喜一憂している。また、炎上が発生するかもしれないので、投稿に絶えず目を光らせていなければならない。投稿はいつ行われるか分からないので、気を抜く間がないのである。そのためソーシャルメディアの担当責任者は、辞表をいつも懐に持っているという噂も耳にする。
 このように、ソーシャルメディア担当責任者は、気苦労が多い割には報われることが少ないので、ソーシャルメディア疲れを起こしている。
 アメリカは、ソーシャルメディアが日本より進んでいるので、このソーシャルメディア疲れも深刻である。そのアメリカでは、"デジタルデトックス"ということが提案されている。
 ソーシャルメディアを使っているうちに、読まないとならない、書かないとならない、と感じるようになり、絶えずソーシャルメディアに接していないと不安でしょうがなくなってしまう。それはまるで中毒患者のようである。ソーシャルメディアから一旦離れその毒を抜くのが、"デジタルデトックス"というわけである。

○ソーシャルメディアリテラシー
 ソーシャルメディア疲れにならないためにも、ソーシャルメディアリテラシーを身につけることが重要である。ソーシャルメディアリテラシーには、情報を発信する能力をはじめいくつかあるが、ここでは、情報耐性力に注目したい。
 ソーシャルメディアを利用し始めたばかりのころは、投稿を読むフォロワーは知り合いばかりなので、何を書いても批判されることはない。しかし、徐々にフォロワーが増えてくるとそれに伴いそれほど面識がない人との付き合いも増えてくる。特にTwitterのフォロワーは知らない者同士が多い。知名度が出てきてフォロワーが増えてくると、それに伴ってフォロワーからの批判も増えてくるようである。顔も知らない人から批判されたり、場合によっては罵倒されることもある。知らない人から批判や罵倒をされると少なからず嫌気がさしたり、委縮してしまうことがある。
 この事に対して野村総合研究所 小林 慎和氏は、情報耐性力を持つ必要がある、と主張する。※10情報耐性力とは、インターネットを通じて、情報を発信すること、発信されることに対しての耐性である。
 この情報耐性力を高めることが、ソーシャルメディアリテラシーの中でも優先度が高いのではないかと思う。

4.おわりに

 企業が、ソーシャルメディアを活かすには顧客との信頼関係の構築が重要である。ソーシャルメディアにおいてはマスメディアのような一方的な広告は有効であると言えない。Facebook社は、その考えをFacebookページの利用規約に反映させている。この利用規約に反するとFacebookページを削除されてしまう可能性があるので、気を付けなければならない。そうは言ってもこの利用規約はソーシャルメディアを有効に利用する上での本質的なことを言っているにすぎないので、企業がソーシャルメディアを理解し、有効に利用しようと考えているのならば、必然的に守ることになるものであろう。
 ソーシャルメディアを運用するときは、情報発信をする以上はウラを取る、上から目線に気を付ける、偏った意見のコミュニティになっていないか等に気を付ける、これらのことを運用者を中心に十分に留意してほしい。そして、ソーシャルメディアを運用していく上で、BYODの考えが広まっているが公私の境界をどうするかなどの問題も発生してくる。それについては、公私混合という考え方を紹介した。
 今後はソーシャルメディアを運用していく中で、ソーシャルメディア疲れが多く発生するかもしれない。情報耐性力などソーシャルメディアリテラシーを身につけていくことが必要になる。
 6回にわたって、ソーシャルメディアの可能性と課題について考えてきた。ソーシャルメディアは拡声器のようなものである。都合が悪いこと、隠したいことも、そして、良いこと、価値があることも、広く伝わってしまう。この広く伝わるかどうかは、共感を得られるかにかかっている。このような透明性の時代において、共感を得ることは、表面上の小手先の技術だけで、どうにかできるものではない。そのため、これまで効率を最優先してきた企業においても誠実に他と向き合い付き合っていく、対話重視へと回帰していくのではないだろうか。

参考文献(リンク)
※1Facebookの利用規約
 https://www.facebook.com/legal/terms
※2Facebookページ利用規約 
 http://www.facebook.com/promotions_guidelines.php
※3Facebookページ利用規約
 https://www.facebook.com/page_guidelines.php#promotionsguidelines
※4 ITPRO 「ユーザー体験を損なわずに広告収入を上げる、見えてきたフェイスブックの戦略」
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120316/386807/
※5日本経済新聞 藤代 裕之 「個人ブログの内容間違い、発信者は責任を負うべきか」
 http://www.nikkei.com/tech/business/article/g=96958A9C93819499E2EBE2E2948
DE2EBE2E7E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;p=9694E3EAE3E0E0E2E2EBE0E4E2E0
※6TECCMC's BLOG(但馬救命救急センターのブログ)
 http://teccmc.blogspot.jp/2012/04/423.html
※7 現代ビジネス 牧野 洋 「ツイートの無断転載は手抜き取材と変わらない、欠かせない本人への直接取材」
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31931
※8 『「上から目線」の時代』 冷泉 彰彦著 講談社現代新書 
 
※9 DIAMOND online
 http://diamond.jp/articles/-/7730
※10 日経ビジネス 小林 慎和 「ソーシャルメディア・リテラシー未来を生き抜く必須スキル(個人編)」
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20110415/219445/?rt=nocnt

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