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「CVE(Corporate Value Engineering)序説 CFOとCIOのコラボレーション」
さくら情報システム株式会社

2012年07月号
  • 「CVE(Corporate Value Engineering)序説 CFOとCIOのコラボレーション」
さくら情報システム株式会社   遠山 英輔

 オージス総研ビジネスイノベーションセンターのファイナンス・ドメインでは、ITと広義のファイナンスのかかわりについて、様々な議論を行いながらお客様の価値創造につなげるビジネスを目指しています。CVE(Corporate Value Engineering)はこうした議論のキーコンセプトとして考えた筆者の造語になります。これは突き詰めれば企業価値向上のモデルベースの工学化ということであり、エンジニアとしてのCFO(Chief Finance Officer)とCIO(Chief Information Officer)の役割の議論と、そのコラボレーションのあり方、というところに行き着きます。
 そこで、本稿ではシリーズ化を前提に、このコンセプトの深堀を試みてみたいと思います。このコンセプトは発展途上でもありますので、皆様とのディスカッションペーパーとして読んでいただいて様々な議論ができれば幸いです。どうぞお付き合いの程を宜しくお願いいたします。

シリーズ目次
 今回
  1. CVEの概念
 次回以降
  1. Financial Engineeringの視点
     (CFOの役割とCIOが知っておくべきこと)
  2. STP(Straight Through Processing)の考え方 金融商品取引から金融EDIへ
     (CFOが知っておくべきITの勘所)
  3. IT Engineeringの視点
     (CIOの役割と百年アーキテクチャ)
    ※ 次回以降の目次は変更の可能性があります

I.CVEの概念

 迂遠なようですがCorporate(企業)の本質から考えてみましょう。一般的に、企業は利益を目的として作られる経済単位、と考えることができます。利益を目指して経済活動(ビジネス)をやるにあたっては、2つの要素との調和を図らなければなりません。一つは、利益を目指すにあたって避けることの出来ないリスクとの折り合いをどうつけてゆくか?ということ、いま一つは反社会的な手段を用いて利益を追求することは許されないわけですから、社会規範、社会のルール、法律などの枠内から逸脱せずにビジネスを動かしてゆくことです。こうした要素をまとめたものが近年注目を集めているGRC(Governance, Risk, Compliance)というフレームワークになります。この点については、筆者のバックナンバー「IFRSをGRC(ガバナンス、リスク、コンプライアンス)から考えると」をご参照ください。
 筆者はGRCのフレームワークは下図のようにまとめることが可能だと考えています。それは、社会規範、ルール、法制度、企業文化などの総体としてのCompliance(Cultureを含む)を基盤として、企業統治としてのガバナンスとリスクマネジメントが一体となって運営されてゆくことが、現代の企業においては必須条件になってきているということにほかなりません。

GRCのフレームワーク
図 1 GRCのフレームワーク

 私見の入ったやや拡散気味の議論になりますが、左上の領域で言うガバナンス(企業統治)は、戦略とオペレーションという要素を含むものと考えるべきでしょう。言い換えれば、これは企業価値創造のプロセスのガバナンスということになります。一方で右側の領域のリスクマネジメントは、リスクによってこの企業価値が毀損されることに対する備えであると同時に、利益の源泉たるリスクを(リスクリターンの視点)、その企業で許容できる範囲でマネージしてゆくプロセスをさしています。その意味で、これら二つを合わせれば広義のERM(Enterprise Risk Management)に相当すると言っても差し支えないと考えられます。
 つまるところ、企業活動はその企業がとることの出来るリスク量(リスク許容度)の中で企業価値の最大化を目指すことと言い換えることが出来ます。そこで問題なのは、企業価値の計測、すなわちVALUATIONとその最大化、そして企業価値(VALUE)の変動の程度であるRISKを適切にマネジメントすることになります。この心臓部分にフォーカスし、ITを活用して工学的にアプローチするコンセプトをCVE(Corporate Value Engineering)と名づけることにします。企業価値は現在割引価値で計測し、リスクはその現在割引価値のブレの可能性として計測して見える化することで、そのアプローチは一層工学的にすることも可能です。これは同時に、企業活動そのものをよりオープンに開示するための要件ともなります。

 それでは、いま少しCVEのコンセプトをブレークダウンしてみたいと思います。改めて、企業活動をポーター流に戦略とオペレーションと二分すれば、当然ながら経営全体と戦略をつかさどるCEO(Chief Executive Officer)と、オペレーションをつかさどるCOO(Chief Operation Officer)が企業の最高責任者ということは言うまでもありません。CVEのコンセプトは、このCEOとCOOの下で、すなわち戦略とオペレーションを言わば与件として、先に述べたValuation と Risk Managementをつかさどる方法論・プロセスとして位置づけています。さらには、この方法論やプロセスを工学的に支えるものをITと位置づけています。従ってCVEは、Financial Engineeringと IT Engineeringという二つの要素で考えます。そして、これは「CFOとCIOのコラボレーション」そのものという中核的な主張でもあり、同時にCVEはいわゆるFinancial Engineeringを包含しそれをITによって実現してゆくという発展的な概念として考えてゆきます。
 ちなみに、COOとCIOのコラボレーションは、その企業の中核的な業務システム(製造、マーケティングなど)にかかる領域となりますが、こことのかかわりは百年アーキテクチャの第三ステージの議論と合わせて、すこし先の稿で論じたいと思います。また、CEOの戦略的意思決定を支えるもの(判断材料)はCFOに負うところが大きいという意味で、CEOとCIOのコラボレーションは、CFOとのそれに多くの部分が包含されると考えても大過ないと思われます。そうした認識の下、CVEの議論はCFOとCIOのコラボレーションにフォーカスします。
 実際、CFOの役割は単なる「財務の最高責任者」という枠を超えて、リスク管理、戦略的意思決定の実質的かつ主要な担い手になりつつあります。そしてこの任を果たしてゆくためには、どうしても全社レベルのIT戦略との整合を取りつつ、ITインフラの最適化と活用を図ってゆく必要があります。

 図2は、こうしたCVEのコンセプトをまとめています。Valuation とRisk ManagementがFinancial Engineeringの中核にしてCEOの領域、それを支えるIT INFRASTRUCTUREが、IT Engineering、すなわちCIOの領域と位置づけています。

Corporate Value Engineering
図 2 Corporate Value Engineering

 話が多少重複しますが、CVEの一連のプロセスは、Reporting(社内への報告と外部への開示、端的には財務会計と管理会計)、Corporate Finance(Valuationのプロセスや、各種財務オペレーション手法、金融工学を駆使したリスクテイク・ヘッジのオペレーションなど)、 ERM(Enterprise Risk Management)に大別され、これがBusinessを支えるという考え方をあらわしています。また、私はこうしたコンセプトを体現する会計の考え方がIFRS(国際財務会計基準)と位置づけられると考えています。IFRS自体は、Valuationをベースとした、リスクも含む企業情報を洗いざらい開示する包括的なプロセスないしフレームワークとしてとらえるべきというのが筆者の意見です。
 さらに、このCVEコンセプトは、これらのベースとなるITインフラにもフォーカスします。ITは工学的にERMを実現するインフラという位置づけですが、これをモデルベースのアプローチ、さらには成熟度モデル的な考え方で見てゆくことを考えています。その意味で、CVEにかかるITインフラはサービス化という視点で、言わばSOA(Service Oriented Archtecture)ベースで企業価値経営を実現するものとして整理を試みます。

 さて、それでは、次号以降の本稿の話の流れ(予定)を最後に述べておこうと思います。

 次回はCVEコンセプトの中核のひとつとなる Financial Engineeringについて詳しく見てゆきます。これは、CVEが実現すべきビジョンや方法論をまとめると同時に、CIOが理解しておくべきCFOの役割-仕事の本質という視点での整理になります。コラボレーションの共通基盤、共通言語をまとめるということでもあります。<II.Financial Engineeringの視点>
 これを受けて、次は逆にCFOが知っておくべきITの勘所を整理してゆきます。ここでは、IT戦略とインフラ中でも特にポイントとなる「データの透過性」という概念をキーワードに考えてゆきます。つまりいわゆるトランザクション(取引)そのものがデータ化され、人の手を介さず処理されやがては財務・リスクなどのマネジメントのためのデータまで変化してゆくプロセスと、それを支えるITのコンセプトを整理します。その際には、金融業界で定着しているSTPの考え方がひとつのモデルになることもあわせて論じます。このことは、ITインフラそのものも一企業の中の閉じた領域で考えるのではなく、取引関係者ひいては社会全体の共通インフラの構築と、そこへの接続という視点で考える必要があることを意味しています。特に金融の世界では、前者をInternal STP、後者をExternal STPと呼びますが、とりわけ本邦企業の大きな課題となってきている金融EDIへの取組みを考えてゆく上でも、ここは大事なポイントとなってきます。<III.STP(Straight Through Processing)の考え方 金融商品取引から金融EDIへ>
 こうした議論を踏まえて、最後にIT Engineeringの角度からまとめを試みます。ここで、CIOがCVEコンセプトの中で果たすべき役割をまとめつつ、オージス総研の提唱する「百年アーキテクチャ」とのつながりについても整理してみたいと思います。 <IV. IT Engineeringの視点>

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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