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「製造業のリファレンスモデルを考える 第一部 ビジネスプロセスリファレンス-その3」
株式会社オージス総研

2012年09月号
  • 「製造業のリファレンスモデルを考える 第一部 ビジネスプロセスリファレンス-その3」
株式会社オージス総研   宗平 順己

 二号前から、製造業のリファレンスモデルについて考えています。
 前月は、初回に提示した詳細プロセスリファレンスに求められる要件に合致しそうなリファレンスモデルとしてAPQC PCFとSCORという世界的に広く利用されている二つのリファレンスモデルについて紹介し、要件に対する2つの候補の適合状況を整理したものを表1に示しました。

表1.APQC PCF,SCORの要件適合状況
APQC PCF,SCORの要件適合状況

 今月号では、この評価結果についてさらに考察を深めます。

1. 2つのリファレンスモデルの構造の比較

 表1に示すように要件の(2)ではSCORが,(3)についてはAPQC PCFが要件を満たしておらず,それぞれ単独では全ての要件を満足することができません。
 そこで,サプライチェーンのビジネス・アーキテクチャの検討が可能なSCORと,支援プロセスまで定義されているAPQCとを融合することを目的として,詳細構造の比較を行いました。

1.1 比較のためのモデル化

 APQC PCFもSCORも提供されているのはドキュメントであり,そのままでは比較ができません。そこで当社の提唱するビジネスモデリング手法の中から、企業内ビジネスプロセスモデルという表現方法を用いて両者の構造を可視化(モデル化)しました。なお,SCORの守備範囲がサプライチェーン部分だけであるので,APQC PCFについても該当部分のみを取り出して,その上でモデル化しています。
 この企業内ビジネスモデルは企業の保有するプロセスをクラスとして扱い,その間の関係をクラス図で表現するものです。
 作成にはビジネスモデル設計のためのUML拡張[4]を定義した,当社が独自開発したビジネスモデリング用のUMLモデリングツールElapizBEを用いています。
 このツールには,クラスやパッケージなどのモデル要素について,属性を示すタグ情報と階層構造(列で表現)を付加したCSV形式のデータを取り込める機能があることから,それぞれのドキュメントから階層化されたプロセス情報を取り出し,必要な形式に整合してツールに取り込みました。手作業でプロセスのクラス定義をする必要がなかったことから,正確に情報を取り込むことができました。
 なお,参照したドキュメントは以下の通りです。
・SCORプロセスガイド Ver6.1(日本語版)
・PROCESS CLASSIFICATION FRAMEWORK May 2004.
 入手時期の関係で,APQCは2004年のバージョンになっています。また,日本語化は宗平が実施しました。
 図1に第3レベルまでの両リファレンスのプロセスを示します。

APQC PCFとSCORのプロセスクラス
※SCORは見込生産時のプロセスのみ提示している、
また紙面の関係でReturnは表示していない
図1 APQC PCFとSCORのプロセスクラス

1.2 モデル化からわかる相違点

 図1より,設定しているプロセスに大きな違いが4点指摘できます。

(1) SCORでは調達,生産,出荷のプロセスに対して,生産方式(見込生産,受注生産,受注設計生産)に応じてプロセスを定義しているのに対し,APQC PCFでは,その区別がない。
(2) 受注について,APQC PCFでは「製品やサービスの販売」というカテゴリの中に受注管理というプロセスグループが設定され,さらに7つのプロセスが定義されているのに対し,SCORでは受注出荷というトップレベルプロセスの中のエレメントレベルで定義され,受注や販売というサブカテゴリーが設定されていない。
(3) 返品の取り扱いについて,APQC PCFでも物流と倉庫のマネジメントというプロセスグループに返品の管理というプロセスを定義しているが,SCORではメインプロセスとして返品を設定しており,扱いの大きさが全く異なる。
(4) 計画のレベル設定にについて,SCORではレベル2扱いであるが,APQC PCFではレベル3扱いになっている。

1.3 プロセス構造の可視化による比較

 ツリー図や表では,レベルの違いやグループの違いはわかるものの,プロセス間の関係,すなわちプロセス構造については把握できません。そこで,それぞれのクラス間の関係を企業内ビジネスモデル図(クラス図)として可視化しました。図2,図3にそれぞれのプロセス構造を示します。

APQC PCFのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)
図2 APQC PCFのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)

SCORのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)
図3 SCORのプロセス構造(企業内ビジネスプロセスモデル)

 2つの構造を比較すると、次の3点が指摘できます。

(1) バリューチェーンモデルでは支援プロセスとして位置付けられている調達をメインプロセスとする必要があること
(2) SCORの配送のプロセスが他の2つ比べると詳細すぎ構造化されていないこと
(3) SCORと比較してAPQC PCFの計画プロセスの構造化が不十分なこと

 次号では、この比較結果をもとに作成した詳細プロセスリファレンスについて説明します。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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