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「Enterprise Architecture 最新動向 - EAC 2012から - 」
株式会社オージス総研

2012年10月号
  • 「Enterprise Architecture 最新動向 - EAC 2012から - 」
株式会社オージス総研   明神 知

 今年の6月、エリザベス女王即位60年記念行事の余韻で街中、ユニオンジャックだらけのロンドンでEAC 2012が開催されました。2003年の米国アリゾナ、2010年のロンドンに続いて三回目の参加をしましたので、そのなかから新しい動向などをご紹介します。

1.概要

 2003年はEAの事例も少なく、その概念の紹介や事例紹介が中心でした[1]。
 2010年は「ビジネスに貢献するEA」がテーマで、EAと投資マネジメントやリソースのソーシングやケーパビリティマネジメントといったビジネス活動に組み込んだ使い方の事例や、SNSなど外部化した情報の取り込みが紹介されていました[2]。
 今回のEAカンファレンスですが、その特徴はビジネスに着実な成果を出していることと、技術とビジネス周辺への広がりです。例えば、クラウド、SNS、システム思考、Big Data、リスク管理、ビジネスパフォーマンス評価などです。
 EA事例、EAによるイノベーション、ビジネスアーキテクチャ、BPMによるイノベーション、BPM事例という5トラックの並行するセッションが設けられていました。
 ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、中東、アジア、オーストラリアからEnterprise (Business)Architect、Business Analyst、Corporate Strategist、CIO、CEA(Architect)といった肩書きの131名が参加していました。
 プレカンファレンスセミナーはデータモデリングとTOGAFカスタマイズ関連を聴講しました。
 EAの父、Zachmanも講演とレクチャ[3]を担当、元気な姿を拝見しDAMA-Jカンファレンス招聘の件を確認しました。

2.EA事始め

 Conference ChairのSally BeanがEAの概論をレクチャしていました。その資料からEAを俯瞰してみましょう。
(1)EAの位置づけ
 EAニーズはさほど大きいものではないが、大きな効果が得られた組織がある一方で、EAの価値を示すのに苦労している組織もあります。多くの人はEAをビジネススキルと捉えています。EAの役割とスコープは混乱しがちです。
(2) EAにはイメージ問題がある
 上司に話すときには3文字用語を多用してチンプンカンプンにならないように注意が必要です。会議ばかりやって、一体何をやっているのか理解できないことも多く、EAセッションに参加して学ぶことのほとんどは用語の意味と何でも鳥瞰してみることだそうです。
(3) EA定義の変遷(Wikipediaにみる)
 図1にあるように、EAはその定義に変遷が見られます。2011年は形式的な定義、2012年1月は継続的記述実践を、2012年2月は企業変化のプロセスをもってEAを定義しています。ただ、EAを厳密に定義すると思考麻痺してしまうという弊害もあります。EAはクリアな定義とは相容れない実証的、経験的世界を対象としています。筆者は、各企業ごとの目的にあわせて捉えるのが正しいと考えています。

図1.EA定義の変遷
図1.EA定義の変遷

(4)アーキテクチャとは?
 アーキテクチャとは構築環境を作り出す要素組織の利用法と選択を決定するルールセットのことで、ひとつ以上の実装を可能とするにはアーキテクチャが必要になります。ただ、唯一の実装でよければデザインでよいのです。
 EAをよく建築に例えますが、建築物はからみあった複雑さであり、企業は多くの要素の複合体です。都市計画のほうが多くの類似点を持ちます。
 EAは、企業における構造の複合、ダイナミクスの複合、人・組織の複合を扱います。因果ループは複雑なシステムを理解できるようにしますが、多くの要素からなる適応的な複合体では、因果ループは結果論としてわかるのみです。

(5) Enterprise Architectの仕事(様々な違う役割を担う)
組織やITのモデルをデザインしマネジメントする(本務)
チェンジプログラムの計画立案と参加
ビジネスプロセスの合理化(正当化)と改善
アプリケーションの鳥瞰
組織データの意味・語義の定義
ITデザインの権威
新しいアイデアの探索
意地悪い組織横断の問題対応
組織横断のシナジーの識別
参照モデル開発とデザインパターン適用
技術インフラの選択と計画

(6) EAの成功要因
 EAが成功するのは、目的が明確で、組織価値に直結しており、どこに痛みがあり、誰が担当しているのかがわかるときです。
柔軟性、イノベーション、アジリティ
 変更速度(プロセス、情報内容・配信、システム機能、技術)があり、高効率のパフォーマンス実現と意思決定がなされ、新技術と情報の開拓が十分なされていること
効率、コスト削減
 重複を避け、多様な技術を阻止していること
整合性、トレーサビリティ、統合
 戦略目的、ビジネス意図とIT変更との整合性がとれており、事業部門間のシナジーを考えて、不整合・非連結を避けていることや、組織学習に関する共通知識源を持っていること
リスクマネジメント
 規制要求へのコンプライアンスと可視化、相互依存の理解、欠陥技術への依存脱却がなされていること
その他に次のような要因を持っていること
 明確なスコープと目的、意味があり、行動につながる、維持可能な内容ポリシーとガバナンス、スキルあるメンバー、関連する経験と知識、マネジメントの理解、十分なコミュニケーション、As-Isアーキテクチャの十分な定義、信頼性・正確性、アーキテクチャワークの成果物の検証、モデルに引っ張られるのでなく、人が引っ張るプロセス
間違ったスタート
 遊び道具としてのツール購入、TOGAFを無批判に適用する、あなたのためにコンサルファームを雇ったときです

3.組織にイノベーションをもたらす

 オーストラリアのQueensland 大学のMichael Rosemann教授がイノベーションは、戦略を打つべきときに、問題、制約、機会によって駆動されることを事例をあげて紹介していました。例えば、韓国の小売流通業TESCOは店舗が少ないという制約を持っていました。これを地下鉄の駅にディジタルサイネージによる商品の展示とスマホによる注文を行うことで克服し躍進したのです。こういったイノベーションを支えるBPMとEAで意識的にイノベーション・プロセスを進めるのです。

4.Zachman Framework ver.3.0

昨年8月に、Zachman Frameworkがver.3.0に変更されています。どこが変わったのか、Zachmanの講演資料から解説しましょう。
 まず大きな違いは従来、「データ」であった第一列が「Inventory Models=Bills of Materials」に変わっています。これは「データ」としていたことによって、このフレームワークがITに関することだと誤解されていたので、これを払拭させるためだそうです。また、第六行は単に「Enterprise」であったものが、「Enterprise Implementation=Product Instances」として第五行までのエンジニアリング仕様書によって生成されるITを含む製品として明確に区別しています。さらに、図2にあるように副題として「The Enterprise Ontology」としています。

 Zachman Framework ver.3.0 [4]
図2. Zachman Framework ver.3.0 [4]

 このオントロジーはエディンバラ大学のAI Application Instituteで開発された、Enterprise Modelingを目的とする企業オントロジー[5]とは違うようです。
 なぜならZachmanはメンデレーエフの周期律表もオントロジーとして紹介しているからです。どうやらZachmanはGruberや溝口先生たちの[6]オントロジーの定義「概念化の明示的規約」や「基本概念や概念間の関係を明示的にした概念の体系」まで記述していないところから、本来のオントロジーの哲学的定義「存在に関する体系的な存在論」を使っているようです。知識工学者がいう計算機が理解可能な「概念辞書」までの厳密性を追求していないと考えられます。Zachman Frameworkが方法論と誤解されることが多いのでオントロジーと言いたかったのでしょう。
 筆者は1993年ごろドイツ製のリポジトリを販売していたことがあります。当時はまだメインフレームが中心で徐々にダウンサイジングが始まっていました。このときにZachman Frameworkをリポジトリのスキーマとして紹介しました。ドイツやイギリスのパワーユーザーの一部には、このフレームワークに沿って複数のCASE(Computer Aided Software Engineering)ツール連携を行なってプログラムの生成を行なっていました。したがって一部のツールベンダーやユーザーには、すでに知識工学者がいうオントロジーのレベルまで厳密化しているかも知れません。今月25日からのDAMA-Jのカンファレンス[7]で来日するので確認してみたいと思います。

 以上、6月のEAC 2012の講演のなかから抜粋して、ご紹介しました。

(参考文献)

[1] http://www.atmarkit.co.jp/fbiz/cbuild/serial/modeling/02/modeling01.html
[2] http://www.ogis-ri.co.jp/rad/webmaga/rwm20110601.html
[3] http://www.irmuk.co.uk/eac2012/pdfs/IRM_EAC_BPM_2012_Brochure.pdf
[4] http://www.zachman.com/
[5] http://www.aiai.ed.ac.uk/project/enterprise/enterprise/ontology.html
[6] 「溝口理一郎:オントロジー工学 , オーム社,2005」
[7] http://www.dama-japan.org/Conference

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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