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「マザー工場システムに学ぼう! グローバルITガバナンスの構築 その3」

2013.06.18 株式会社オージス総研  宗平 順己

 グローバル化を進める製造業ではグローバルなITマネジメントの整備において多くの課題に直面しています。この課題の解決策の一つとして,オペレーティングモデルを通じて,ビジネス・アーキテクチャとEAを関係づけられることをこの連載ではご紹介してきました。
 ところで,このようなグローバルマネジメント先行事例として,新しいマザー工場のあり方が議論されています。
 今回のシリーズでは,マザー工場の機能の変遷を整理したうえで,グローバルITマネジメントの課題と対比させ,マザー工場の展開で得られた知見をグローバルITマネジメントに展開することを試みたいと考えています。

1 グローバルITガバナンス

1.1 グローバルITガバナンスの課題

 JUASの第17回企業IT動向調査2011によると,グローバルなITマネジメントの課題として,以下の3点が顕著であると報告されています。[1]

グローバルなITマネジメントのルールや基準を確立する
グローバルなITコストを管理し削減する
海外事業拠点ごとのIT資産をグローバルに連携させる

 また,上記のグローバルITガバナンスの課題解決の問題点として,自由記入欄をもとに以下のような整理がなされています。

第一に世界規模の事業展開にともなってそれぞれの拠点においては人材などのリソースが不足するといったことや,多言語での対応が必要になるなど,「グローバル化に伴う構造上の問題」とでもいえる悩みである。
第二に「国内外や現地でのコミュニケーションの問題」である。これは単に言語の問題だけでなく日本国内の基準が通用しないといったことも大きな悩みとなっている。
第三に「国内と異なる事業環境上の問題」である。特に途上国における社会環境やビジネス慣行の問題の他,インフラ確保の難しさも含まれる。
そして第四に「人材確保や連携体制構築の問題」である。海外において人材を確保することの難しさや,ベンダーとの連携をどうやって確立するかといった悩みである。

1.2 グローバルITガバナンスの課題解決へのマザー工場の知見の適用

(1)課題の類似性と相違点

 さて,グローバルITガバナンスの課題は,日本の製造業が現地工場を設立し始めた時の状況に類似しているのではないでしょうか。
 現地での人材確保,日本の製造ノウハウの伝授,サプライヤーの確保といた,極めて類似した課題を克服して,日本の製造業は発展してきました。
 では,製造部門において克服したこれらの課題をIT部門は二十年以上も遅れて体験しているのでしょうか,社内に蓄積されたノウハウを,他部門に横展開できないのかという疑問が生じるのは仕方のないことです。
 そこで考えられる最も重要な違いは,保有する技術の成熟度の違いにあるのではないでしょうか。
 日本の製造技術は世界にも追随を許さない優れたものであり,現地法人もそのノウハウを吸収したいという強い気持ちを抱かされるものです。成熟度モデルでいうならば,レベル5,ベストプラクティス状態にあるといえます。
 これに対し,日本のシステム開発の手法が海外から見習いたいと思わせるものであるかというと,そうは思われていないではないでしょうか。
 例えば開発手法についてみると,次の様な日本の後進性が指摘されています。

世界での普及(Forrester Research, 2010)
 ウォーターフォール13%
 反復型開発21%
 アジャイル開発35%
日本(IDC Japan, 2011)
 ウォーターフォール51.2%
 反復型開発29.7%
 アジャイル開発19.1%

 この状況では,旧マザー工場の役割,「(3)技術伝承・集中研修型」の機能すら果たすことはできないといわれても仕方がないかもしれません。

 さて、次号では、今シリーズのまとめとして「グローバルITガバナンスへの望ましい対応」について、考察します。

(参考文献)

[1]社団法人 日本情報システム・ユーザー協会,「第17回企業IT動向調査2011(10年度調査)」,2011.5

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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