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「医療と介護の連携 -業務連携、情報連携、価値連携の社会システム構築に向けて-」
株式会社オージス総研

2013年07月号
  • 「医療と介護の連携 -業務連携、情報連携、価値連携の社会システム構築に向けて-」
株式会社オージス総研   明神 知

1. はじめに

 日本は課題先進国と言われます。その中でも日本の少子高齢化は世界最速です。日本の社会システムは人口増加とピラミッド型年齢構成を前提としているものが多く、最も影響を受けるのが医療介護の分野です。高齢者は脳卒中など急性疾患とともに、生活習慣病など慢性疾患も含めて複数の疾患を持つ複雑系の患者であることが特徴とされます。高齢者の医療は病院や診療所内に閉じた個々のCure(病気を治療する)だけでは人材不足、財源不足も含めた限界が出てきました。高齢者の医療は、病気の治療だけでなく、患者の生活レベル(QOL)を高める介護(Care)を一体化、連携して全体としての対応が必要になるのです。最近では「死の質」(QOD)が問われており、終末期ケアや看取りなどとともにライフログと言われる患者の生涯データの活用や、医療機関以外の介護や住民との連携が必要になってきます。特に医師は「戦う医療」としての治療だけでなく「支える医療」として地域住民や行政と協同して「健康づくり」を推進せねばなりません[1]。すなわち、多くの関係者の業務連携はもとより、そのために必要な医療・介護(看護)の情報連携、それによって得られる臨床への新たな知見の活用や事業経営分析、統計分析、医療福祉政策への活用といった二次データ活用の「価値連携」を実現する社会システムにしていく必要があります。このようにICT(情報通信技術)をフル活用する社会基盤について、本稿では「医療と介護の連携について」連載で次のような考察をしてみたいと思います。

  • 医療介護の連携(今回)
  • 医療介護の連携に関する先進事例
  • 医療情報(HER/PHR、HL7、医療オントロジー、セキュリティ)についてる
  • 医療介護の連携に関する方向性とシステム科学アプローチ(全体俯瞰)

2. 医療と介護の連携とは

 「医療と介護の連携」とは、医療職種・機関と介護職種・機関とが、機能を補完しあえる関係を築くことです。連携には、「急性期から回復期を経て、維持期に至るステージ間の連携」と「維持期(在宅)におけるステージ内の連携」の2つがあります[2]。
 (1) 急性期・回復期と維持期のステージ間の連携(制度間の狭間を埋める)
 ステージ間連携には、「医療保険と介護保険との連携」、「医療と福祉・介護の連携」、「医療職と福祉職・介護職の連携」といった側面があります。急性期・回復期から維持期に移行すると、多くのケースでは医療保険から介護保険へ移行します。
 逆に、在宅生活を送る中で、生活機能が低下し医療機関によるリハビリテーション医療を必要とした場合(維持期から回復期・急性期病院への入院)には、介護保険から医療保険へと移行します。
 リハビリテーション医療から生活リハビリテーションへ一貫したリハビリテーションの体制整備、医療保険制度と介護保険制度相互のスムーズな移行が必要です。そのためには、医療機関・関係者と維持期関係機関・関係者相互間における対象者の障害情報の共有と適切な引継ぎが重要です。
(2) 維持期におけるステージ内の連携(多職種間連携)
 「維持期におけるステージ内連携」には、「主治医と介護職・福祉職の連携」の他、「施設と在宅の連携」などがあります。
 維持期(多くは在宅生活を想定)の支援には、医療面・介護福祉面双方からの支援が必要であり、かかりつけ医、地域包括支援センター(厚労省が推進している住まい、医療、介護、予防、生活支援が、日常生活の場で一体的に提供できる地域での体制)、介護支援専門員、訪問看護ステーション、リハビリテーション提供事業所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設など、多くの職種・機関が関わっています。
 そこで、市町村の責務のもとに、地域包括支援センターが中心となって関係機関の連携体制の構築、地域包括ケア体制の構築を行うことが重要です。また、この地域包括ケアが実際に機能するためには、かかりつけ医と介護支援専門員双方が協力しあいながら、医療と介護に関わる多職種・機関が連携を図っていくことが必要です。これにより、各職種・機関がそれぞれの役割・機能を発揮し、再発予防のための保健指導や的確な医療・介護情報に基づいた療養環境の管理を行うことで、予後を見越した事前(予防的)対応が可能となります。
 また、本人が自分の情報を自分で管理し、意欲的にリハビリテーションにとりくむ姿勢を身につけるような支援をしていくことが望まれます。

3. 医療と介護の問題

(1)医療と介護の連携を阻むもの
 病気を治療する医療(Cure)と患者の生活レベル(QOL)を高める介護(Care)では、専門性が異なり、その専門人材、施設、保険制度も異なるのでサービス提供側が縦割りとなってしまいがちです。そのために患者、介護サービス利用者が自らの情報を携えて施設間を渡り歩くといったことも珍しくありません。
 大阪府福祉部高齢介護室の「医療と介護の連携に関する手引き」[2]では、次のような「医療と介護の連携を阻むもの」を挙げています。

  • 病院から在宅へ情報をつなぐツールや仕組みがない
  • 在宅で機能低下時に医療につなぐ仕組みがない
  • 疾病治療後速やかにリハビリテーション医療に繋ぐ医療機関のシステムが不足
  • 医療・介護関係者共通の"言語"が少なく、介護関係者が医療情報を十分理解できない
     一方で、医療関係者が介護に関する情報を十分に持ち合わせていない、在宅の視点が少ない(医療と介護の専門性の違い)
  • 各職種間の相互の役割・機能の理解不足
  • 在宅では関わる職種が多いにもかかわらず、関係職種の意見を調整したり、ネットワークをまとめる機関が明確でない
  • 在宅で関わる職種・機関の役割分担があいまいである
  • 担当者間でのケアプランの検討の場がない

(2)高齢者のリハビリテーション
 高齢者は脳卒中など急性疾患とともに、生活習慣病など慢性疾患も含めて複数の疾患を持つ複雑系の患者であることが特徴とされます。したがって個々の疾患を個別に対処していると副作用があったり、QOLを下げたりする結果に成りかねません。高齢者のリハビリテーションでは、三つの症候群モデルで原因疾患や生活機能低下の状況を踏まえた全体的な対処がなされるべきとされています[3]。ここでは二つのモデルについて取り上げます。三つ目のモデルは環境の変化に対応困難な「痴呆高齢者モデル」ですが、生活の継続性やなじみの人間関係が維持される環境の下にケア提供が必要です。
1)脳卒中モデル
 これまで、医療は発症後の治療を中心に対処してきました。また、予防や医療・介護のリハビリテーションは、脳卒中のように急激に生活機能が低下するものを中心に実施してきました。脳卒中モデルは発症後の各ステージの特徴と対応がわかりやすく、他の疾患への応用可能なので解説用のモデルとして使われています。図 1のように患者の生活レベル(QOL)を考えた場合、発症後の治療だけを扱う医療だけでは不十分です。治療の情報を介護に連携して発症直後の急性期からリハビリテーションを開始し、その後、自宅復帰を目指して短期的に集中して、リハビリテーションを実施します。自宅復帰後は、日常的に適切な自己訓練を行い、リハビリテーションの必要な時に、期間を定めて、計画的に提供します。さらに、QOLや保険の財政的には発症しないための予防が重要です。
 この段階では介護予備軍である高齢者を文化活動やスポーツなどで外へ連れ出し、活動に参加してもらうといった家族とも連携した地域のボランティア活動などが有効です。
 発症後は急性期、回復期、維持期の各ステージに合わせて、急性期病院、回復期病院・外来、通所リハビリや療養病床・介護保険施設で実施されるリハビリテーションによって医療から生活機能回復へと比重が変化していきます。これまで医療・介護保険や専門施設に頼った医療介護でしたが、維持期の支援の多くは在宅生活を想定しており、なおかつ地域の医療・介護資源は限られていることから、地域住民の積極的な参画による助け合い、支えあいといった地域コミュニティの重要性が高まっています。介護予防事業としてボランティアが参画して実施している「介護支援ボランティア制度」や、各自治体が独自に取り組む「健康ポイント制度」、杉並区が高齢者の外出支援を目的として実施している「長寿応援ポイント」といった個々の取り組みはあるものの、制度設計自由度が低かったり、財源の問題があったりして大きな事業にはなっていません。

脳卒中モデル[2]
図1 脳卒中モデル[2]

2)廃用症候群モデル
 廃用症候群とは、生活不活発病とも呼ばれるもので、安静状態が長期に渡って続く事によって起こる、さまざまな心身の機能低下等を言います。脳卒中などの発作後ベッドに寝たまま、からだを動かさないでいると、高齢者の場合は、ぼけ様の症状(物忘れ、日にちや曜日、居場所がわからなくなる、気力が低下するなど)が出てきたりします。このように手足や頭を使わない(廃用)ことによって生じるさまざまな二次的合併症(脳卒中とは直接関係のない症状)を廃用症候群と呼びます。これはに、「過度の安静」による、「つくられた寝たきり、歩行不能、家事不能」によって人為的に悪化させる場合もあるのです。図 2のように徐々に生活機能が低下してくることから、生活機能の低下が軽度である早い時期にリハビリテーションを行うこと(水際作戦)が基本となります。リハビリテーションの提供にあたっては、必要な時に、期間を限って計画的に行われることが必要です。

廃用症候群モデル[4]
図2 廃用症候群モデル[4]

 従来は、廃用症候群といった二次的合併症の配慮もなく、高齢者の心身機能の低下は「年だから仕方がない」などと考え、「安静度」を評価基準として入院者がかわいそうだから何でもしてあげて、「安全第一」で過剰な介護に陥る場合もあったのです。評価基準を「活動度」に置き換えて「水際作戦」を実施して高齢者の生活機能を引き上げなければならないのです。安易な車いすの使用によって「つくられた」寝たきりや歩行不能は在宅での日常生活の活動を低下させて、地域社会への参加も難しくする大変危険な誤りなのです。また、調理など家事を行う能力があるにも関わらず、訪問介護の家事代行によって、自分が持つ能力が次第に低下して家事不能に陥る場合もあるのです。これを防ぐには、調理を含めた家事や外出など生活活動全般への働きかけを積極的に行う必要があります。
 図 3のA.悪循環からB.良循環へと転換を図る必要があるのです。
 上段(A.悪循環)の左上、疾患によって身体の機能が損なわれている状態は「生命レベル」の問題で「安静」処置によって生活機能の廃用(使わないこと)によって「生活レベル」の低下、「活動」の制限が課せられます。これによって上段右側の人生レベルである「社会参加」に制約をかけて「生きがい喪失」にまで至ってしまうのです。これを、図 3下段(B.良循環)の中央から右へ、できる「活動」から「参加」し、「心身機能」の向上に取り組んで「活動」を向上させて生活全般が活発化するという「良循環」にしていくのです。そのためには住み慣れた地域において、高齢者のリハビリテーションに関わる多職種が個々の利用者の生活機能に関する情報の交換、履歴の共有化による連携によって関係者が具体的な取組みや技術を共有化するチームアプローチが不可欠です。

脳卒中モデル[2]
図1 脳卒中モデル[2]

(3)高齢化の地域差
 国立社会保障人口問題研究所は、2013年3月に「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」を公開しました[6]。将来推計人口は地域の将来のあり方を考える上で、最も基礎となる情報です。この情報を活用しつつ、自分のまち及び周辺市町村の将来人口を整理すると、人口の推移は一様ではなく、モザイク状に変化していることが分かります。
 地域により、人口動態が大きく異なり、医療需要のピークの時期や程度も大きく異なり、施設や人員レベルも地域差が大きいのです。
 医療と介護の問題を考える前提として、それぞれの地域が大都市型なのか、地方都市型なのか、過疎地域型なのかを把握し、更に他の二次医療圏と比較して、医療需要のピークが来るのが早いか遅いか、施設や人員レベルは充実しているかなど、「自分の地域の特性」を踏まえた対応を検討することが重要と言われます。とくに、高橋泰教授[7]は高齢化社会に関する3つの勘違いを示しています。

  • 今後数十年、高齢者は増え続ける
    →高齢者の増加よりも非高齢者が大幅減少
  • 高齢化対策は「過疎地中心」
    →2005年頃から都市部の高齢化のスピードが急上昇、地方の高齢化率の伸びが緩やかに、高齢化が過疎地の問題から都市部の問題に
  • 高齢化は「全国共通の問題」
     →後期高齢者増加分の50%以上が首都、大阪、名古屋圏に集中

 そのうえで、社会全体の高齢化対策の方向を、「激増する高齢者への対応」から、「急速に先細る非高齢者世代の負担をできる限り小さくする対応」へと、舵を切り替えなければならない時期に差し掛かっていると指摘しています。

4. 問題解決の方向性

 以上のような問題を踏まえて、厚生労働省は図 4に示すように、在宅医療を充実し、「地域包括ケアシステム」の確立によって、医療と介護の切れ目ない連携をはかり「治す医療」から「支える医療」へとパラダイムシフトを図ろうとしています。図 4左側の医療では、高度急性期病院への医療資源集中投入が可能なように、本当に患者に必要な医療を「かかりつけ医」「地域の連携病院」が選別して実施します。一方、右側の介護は患者の自宅や高齢者住宅での在宅医療・訪問看護を含めて、地域の生活支援・介護予防といった地域コミュニティとの連携で「どこに住んでも、その人にとって適切な医療介護サービスが受けられる社会」すなわち「地域医療包括ケアシステム」へとしていくのです。医療と介護のシームレスな連携を担うのが中央で多職種の接点となる「地域包括支援センター」です。

地域包括ケアシステムの確立へ[8]
図4 地域包括ケアシステムの確立へ[8]

 地域包括ケアシステムにおいて、地域住民の参画が重要になります。その参画を図るためのポイント制度などが個々に実施されていますが、大きな活動になっていません。その理由は社会システムとして好循環ループが形成されていないからです。図 5は次の好循環を形成するものとして提言されているものです。

  • 健康になると社会保障費が抑制され
  • 抑制分を次なる施策の原資に
  • 健康長寿延伸とする多様な手段への消費に民間企業の参入機会創出を
  • 自治体・民間企業・住民参加の三位一体での推進を図る

 このように、医療と介護の連携、さらには住民の参加といった多様な参画者のある社会システムの形成には、全体の関係を可視化して遅れやフィードバックも扱えるシステム科学アプローチが有効です。これは最終稿で触れたいと思います。

消費活性化と健康長寿の延伸を同時追求する「ヘルスケアポイント」[9]
図5 消費活性化と健康長寿の延伸を同時追求する「ヘルスケアポイント」[9]

5. おわりに

 以上、今回は医療と介護の連携について、何が問題なのかを明らかにしました。次回以降は、以下の内容について順次解説を行うつもりです。

  • 医療介護の連携に関する先進事例
  • 医療情報(HER/PHR、HL7、医療オントロジー、セキュリティ)について
  • 医療介護の連携に関する方向性とシステム科学アプローチ(全体俯瞰)

(参考文献)

[1] 村上智彦、医療にたかるな、新潮社、2013
[2] 大阪府福祉部高齢介護室、医療と介護の連携に関する手引き、2010年3月
http://www.pref.osaka.jp/attach/10156/00000000/tebiki.pdf
[3] 第9回社会保障審議会介護保険部会、高齢者リハビリテーション研究会、2004年2月
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/02/s0223-8h.html
[4] 老人保健事業の見直しに関する検討会中間報告、生活習慣病予防と介護予防の新たな展開に向けて、2004年10月
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/11/s1109-4.html
[5] 大川弥生、介護保険サービスとリハビリテーション、中央法規出版、2004年
(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_000034.html)
[6] 国立社会保障・人口問題研究所、(2013)年3月27日
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp
[7] 医療需要ピークや医療福祉資源レベルの地域差を考慮した医療福祉提供体制の再構築、国際医療福祉大学大学院教授 高橋泰
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokuminkaigi/dai9/siryou3_3.pdf
[8] 社会保障・税一体改革で目指す将来像、厚生労働省、2012年3月
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/shouraizou_120106.pdf
[9] みずほ産業調査vol.42 No.2、特集:日本産業の競争力強化に向けて-日本が輝きを取り戻すための処方箋を考える-、III.高齢化・少子化がもたらす影響と競争力強化の方向性、2013
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1042_03.pdf

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