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「デザイン思考 その3 -イノベーション-」
株式会社オージス総研

2013年09月号
  • 「デザイン思考 その3 -イノベーション-」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

 前回、デザイン思考はイノベーションを起こすプロセスであると説明しました。今回は、イノベーションから見たデザイン思考の位置づけについて見ていきます。
 イノベーションという言葉を世に広めたのは、オーストリアの経済学者シュンペーター(Joseph A. Schumpeter  1883年-1950年)だと言われています。シュンペーターは、『経済発展の理論』※1(1929年)の中でイノベーションを新結合(New Combination)と呼び、次の5類型を提示しました。

(1) 消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
(2) 新しい生産方法の導入
(3) 新しい販路・市場の開拓
(4) 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
(5) 独占的地位の形成あるいは独占の打破(新しい組織の実現)

 同志社大学教授 山口栄一氏によると、シュンペーターのイノベーションの5類型は、大きく技術イノベーション((1),(2))と経営イノベーション((3),(4),(5))の2つに分類できますが、そのどちらにも属さない、第3のイノベーションとして、感性イノベーション(Aisthesis innovation)を提示しています。「感性イノベーションは、ブランドや信頼感、またはクオリティ・オブ・ライフといった広い意味での美を追究する変革である」と定義しています。※2
 そして現在的なイノベーションは、この3つの類型を軸として、考えるべきであるということです。(図1)

イノベーションの3つの軸  http://www.ideo.com/about/
図1 イノベーションの3つの軸
 出典http://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4981

 第2回でIDEOのイノベーション要素として、Feasibility(Technical)、Viability(Business)、Desirability(Human)、の3つがあると紹介しましたが、それと山口氏の3つのイノベーションの軸との対応づけを試みてみましょう。

技術イノベーション≒Feasibility(Technical)
経営イノベーション≒Viability(Business)
感性イノベーション≒Desirability(Human)

 と考えることができます。
 感性イノベーションは美の追求、Desirability(Human)は人々が本当に望んでいるもの(インサイト)で少し表現は異なりますが、真の要望という意味では共通点があるのではないかと思います。

IDEOのイノベーションの要素  http://www.ideo.com/about/
図2 IDEOのイノベーションの要素
 引用http://www.ideo.com/about/

 また山口氏は、どんなイノベーションにも、必ず、ブレークスルーが存在し、イノベーションダイアグラムを用いることで、ブレークスルーを「タイプ0」、「タイプ1」、「タイプ2」、「タイプ3」として表現しています。(図3)ブレークスルーは、今までの常識や壁を打開し、既存のパラダイムから抜け出すことです。
 「タイプ0」は、現在の延長線上のもので、パラダイム持続型イノベーションと呼ばれます。 (A→A')
 「タイプ1」は、一度知の土壌に潜り、新たな知の創造(創発的思考)をすることで「既存のパラダイムを破壊するイノベーション」を実現します。(A→S→P→A*)
 「タイプ2」は、同じ技術でも「回遊」することで、新たな意味を付け変えて「破壊的イノベーション」となります。(A→B→B')
 「タイプ3」は、「タイプ1」と「タイプ2」を組み合わせたもので、回遊的創発を行うことで、「最もインパクトのあるイノベーション」となります。(A→S→P→P2→A2*)

山口氏のブレークスルーの3つの型  http://www.ideo.com/about/
図3 山口氏のブレークスルーの3つの型
 出典http://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4981?p=2

 「タイプ2」の例としては、半導体の製造のベンチャー企業ARM社が、高速化、高性能化など「タイプ0」の方向を目指すのではなく、あえて速度・機能を落として低消費電力化をはかり、携帯電話に特化するという、イノベーションを起こしました。これが「回遊」の例です。クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』※3に登場するハードディスクの小型化による破壊的イノベーションの例も、この「タイプ2」に分類できるのではないかとのことです。
 この「回遊」には「感性イノベーション」を意識することが重要であり、業界や技術分野を飛び越えることが必要です。
 この飛び越えには、演繹や帰納を使った思考方法は不向きで、アブダクション的な思考方法を用いる必要があります。
 アブダクション的な思考方法は思考途中に飛躍があり、意識して用いることはなかなか困難です。そこでアブダクション的思考の実現手段として、デザイン思考のプロセスを用いることが考えられます。デザイン思考を用いることで、「回遊」を行い、その結果イノベーションの実現可能性も高くなるのではないかと思います。
 革新的な「イノベーション」を起こそうと思えば思うほどそれに伴って、不確実性が増加します。不確実性が増加すると、統計データなどをもとに分析的に予測することが困難になります。そのため、この不確実を少しでも減らし、予見可能になるように、多様な仮説を設定して、試してみる事が重要になってきます。

不確実性とイノベーションの関係
図4 不確実性とイノベーションの関係

※1 『経済発展の理論』 J.A. シュムペーター (著)
※2 ビズジェネ 「回遊と創発」-イノベーションの2つの鍵
http://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4981
※3 『イノベーションのジレンマ』 クレイトン・クリステンセン (著) 翔泳社

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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