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「デザイン思考 その4 -集合知-」
株式会社オージス総研

2013年10月号
  • 「デザイン思考 その4 -集合知-」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

 前回は、イノベーションから見たデザイン思考の位置づけについて見ていきました。今回はイノベーションを起こす時に重要な集合知について見ていてきます。
 ジャック・トレイナー教授による「ビンの中のジェリービーンズ」の実験をご存知の方も多いでしょう。ビンの中にあるジェリービーンズの数を学生に当てさせる実験です。
 正解は850粒です。実験に参加した学生は56人いましたが、学生全員の推測値を平均すると、871粒となり、それよりも850粒に近い値を推測したのは、たった一人の学生だけでした。実験は何度か行われましたが、集団の推測の方が、個々のほとんどの推測より正確でした。

ジェリービーンズ
図1 ジェリービーンズ
 出典http://www.paveleaf.com/snack/candy/s0002/

 もう一つ例を出します。西垣 通氏が『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』の中で詳しく述べていますが、米国に「百万長者になりたい人は?(日本版「クイズ$ミリオネア))」というテレビ番組があります。回答者が四択問題に答えていき、15問連続して正解すれば100万ドルもらえるクイズ番組です。
 回答者は自分一人で答えが分からない場合、オーディエンス(スタジオの視聴者に聞きその回答を集計)か、テレフォン(電話で詳しい人に聞く)を選択しそれを参考にすることができます。
 それぞれの正解率は、オーディエンスは91%、テレフォンは65%でした。オーディエンス(つまり集団)のほうがテレフォン(個人)よりも圧倒的に高い正答率を出しています。
 「ビンの中のジェリービーンズ」、「百万長者になりたい人は?」共に集団の推測(の平均値)の方が、個々人の推測値よりも正確であることを示しています。これは単なる偶然でしょうか?それとも集合知の信頼性を裏付けるものでしょうか?数学的に検討してみましょう。Rを正解として、N人のメンバーがいた場合、集団の推測値をAとすると、Aはそれぞれ個人の推測値の平均なので、次のようになります。
 A ={X(1) + X(2) + ・・・ + X(N)} / N
 個々のメンバーの推測値の誤差は、(X(i)-R)2となるので、その平均は、
 {(X(1) - R)2+ (X(2) - R)2+ ・・・ + (X(N) - R)2}/ N
 となります。
 N人のメンバーの推測値の分散値(ばらつき)は
 {(X(1) - A)2+ (X(2) - A)2+ ・・・ + (X(N) - A)2}/ N
 です。
 
 集団の推測値誤差は、(A-R)2なので、
 これらを計算すると、次の式が成り立ちます。
 (A - R)2={(X(1) - R)2+ (X(2) - R)2+ ・・・ + (X(N) - R)2}/ N
       -{(X(1) - A)2+ (X(2) - A)2+ ・・・ + (X(N) - A)2}/ N

 すなわち、次の式が成り立つということになります。
 集団誤差=平均個人誤差 - 分散値

 個人の推測値誤差は分散値(ばらつき)により相殺されるので、集団の推測値誤差は個人の推測値誤差より小さくなります。
 ここで重要なのは、分散値(ばらつき)による相殺が有効に機能するためには、メンバーに多様性が必要になるということです。メンバーに多様性があることで、正解に近くなる可能性が高いと言えます。
 正解に近くなるということは、イノベーションを実現する上でも重要です。多様性が担保されることで、質の高い集合知が形成されやすくなります。
 一方現実社会では、ある1つのことに長けた(いわゆる"おたく")の集団がイノベーションを起こすことがあります。一見構成メンバーの多様性が乏しい集団でもイノベーションが実現されるのはなぜなのでしょうか?
 実は"おたく"その分野にだれよりも詳しく、製品に対する要求も極端に厳しいがゆえに一般のユーザーが想像すらしなかったアイディアを思いつく人たちでもあるのです。
 世間にはエクストリームユーザーと言われる極端な特性を持ったユーザーがいます。彼らは製品やサービスに対する思い入れが強く、要求や提案をするにとどまらず、時には製品の開発までも支援します。
 "おたく"集団によるイノベーションも、一般のユーザーよりも要求が突出しているエクストリームユーザー自身が新製品や新サービスを生み出している、と捉えることができます。 しかしクローズドな組織であれば、NIH症候群※2に陥り、他の組織の考えを全く採用しなくなったり、またそこまでいかなくても、同一組織の同一メンバーだけでコミュニケーションをしていると、徐々に何らかのバイアスが形成される危険性があります。そのバイアスは排除する必要があります。
 そのため、集団自体に多様性がないときは、異なる性質をもった複数の集団との交流が重要になってきます。そうは言っても、価値観や考え方が異なる、組織とのやり取りは困難が予想されるので、複数の組織間を結ぶ、コーディネーターとなる人が必要になってくるでしょう。
 このように、デザイン思考の効果を最大限にするには、デザイン思考を行うときには多様なメンバーを集めることで、集合知を発揮できるようにすることが重要です。

※1 『集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ』 西垣 通(著)
※2 NIH症候群(英: Not Invented Here syndrome)とは、ある組織や国が別の組織や国(あるいは文化圏)が発祥であることを理由にそのアイデアや製品を採用しない、あるいは採用したがらないこと。(出典:http://ja.wikipedia.org/wiki/NIH%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4)
※3 『多様な意見」はなぜ正しいのか』 スコット・ペイジ(著)

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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