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「UXを考える その4 顧客経験価値を実装する」

2013.10.10 株式会社オージス総研  宗平 順己

 前回、経験価値を高めるように顧客経験をデザインするということは実は非常に多くの実例があり、有効性が証明されているということをご紹介しました。
 このような状況と、一般に使われる情報システムとを比較すると大きなギャップを感じずにいられません。
 このギャップを埋めるのが、実はデザイン思考というアプローチです。先月号でご紹介した、エクペリメントデザインを受託しているイギリスのサービスデザイン会社Engineのプロセス(図-1)ですが、7月に待望の翻訳が出版された、「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases - 領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」に示されているサービスデザインのプロセスと実は同じであることがわかりました。

サービスデザインのプロセス[1]
図1 サービスデザインのプロセス[1]

このサービスデザインですが、この4月に設立された大日本印刷さんのサービスデザインラボのHPで下記の様に紹介されています。

http://www.dnp.co.jp/cio/servicedesignlab/serviceDesign.html#aboutSD

 「サービスデザインとは、サービス利用者(生活者)が感じる体験価値を重視して、個々のタッチポイントのデザインにとどまらず、事業としてサービス全体をデザインする行為です。

 近年、技術のコモディティ化や経済のグローバル化が急速に進展し、 単一の製品や技術のみで差別化を図ることが難しい時代になってきています。 製造業などの多くの企業では、「これまで培った技術を新規事業に活用したい」、 「新規事業を展開したいが独自性のあるアイデアが生まれない」などの課題を抱えており、 これを解決する新たな手法が求められています。

 例えば、ランニングシューズ。

 生活者が重視する価値は、 ランニングシューズ自体の製品価値から、トレーニングや健康管理といった様々な生活シーンをつないだ豊かなライフスタイルの実現という体験価値へシフトしています。

 そのため、個々のサービスをテクノロジーやネットワークでつなぎ、 多様なステークホルダーや複数のサービスが包括的に連携するシステムとして新たな体験価値をデザインすることが必要です。

 このように、サービス利用者の体験価値を重視して、サービス全体を設計する一連のプロセスや手法が世界中で研究開発・実践されています。 」

 これまでご紹介してきた経験価値デザイン、経験価値マネジメントと同じことを目指していることが理解して頂けると思います。

 このサービスデザインのプロセスで私たちの経験が乏しいのが、DISCOVER、DEFINEのところです。顧客インサイトを如何に得るかということなのですが、ここで先行しているのがデザイン思考のアプローチです。

 IDEO社のイノベーションプロセス
 有名なデザイン・ファームであるIDEO社のイノベーションプロセスは次の様に紹介されています。[2]

1理解
2観察
3視覚化
4評価とブラッシュアップ
5実現

 一方,IDEOと連携しているスタンフォード大学のデザインスクール「d.school(Institute of Design at Stanford)」の指導するデザイン思考の5ステップは一般に広く知られており,以下のような内容となっています。

 IDEO社のプロセスとは若干異なりますが,まずは,顧客インサイトを得るところからスタートしており,そのキーワードは「共感」です。
 「共感」は,SympathizeではなくEmphasizeであることに注意して下さい。Sympathizeは供給側から顧客をみているのに対し,Emphasizeは顧客側に立って,何が困っているのかを顧客と同じように感じることを意味しています
 よく言われる顧客志向はSympathizeでしかなく,デザイン思考はEmphasizeが重要であるとしており。前々回に示した石井先生の指摘ともよく一致しています。
 図-1のエクスペリメントデザインを実行しているサービスデザインのプロセスともほぼ一致しており,DISCOVER, DEFINEをより詳細化したものがデザイン思考のプロセスであると考えることができます。

 この具体的な手法について、次号から順に紹介していきます。

[1]Engine社HP, http://enginegroup.co.uk/approach/, 2013/08/14
[2]Tom Kelley, Jonathan Littman, (訳) 鈴木 主税, 秀岡 尚子, 「発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」, 早川書房, 2002.7

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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