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「デザイン思考 その5 -共感-」
株式会社オージス総研

2013年11月号
  • 「デザイン思考 その5 -共感-」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

 前回は集合知について考えました。今回は"共感"について見ていきます。
 スタンフォード大学デザインスクール「d.school」※1では、デザイン思考のステップとして次の5つを定義していることは「デザイン思考 その1」で説明しました。
 今回は、そのStep1の"共感"について、もう少し詳しく説明していきます。

・Step1 共感(Empathize)
本人も気づいていない本音や、価値観を明らかにする。
・Step2問題定義(Define)
正しく問題設定をして、解決策を生み出す。
・Step3 創造(Ideate)
アイディアの幅を可能な限り広げる。
・Step4 プロトタイプ(Prototype)
実際につくって試す。
・Step5 テスト(Test)
ユーザーからのフィードバック。

 "共感"は、英語のEmpathizeやSympathizeの訳として使われますが、デザイン思考における"共感"は、Empathizeです。Sympathizeは外からの視点で、感情に共鳴するに過ぎませんが、Empathizeは感情移入をして、「自分の事のように感じる」ことです。
 "共感"のステップでは、インタビューや行動観察などを行うことになります。それらは他の発想、問題解決手法でも一般的に行われていますが、デザイン思考では、「自分のことのように感じる」ことが他の手法と大きく異なり、重要なところでもあります。他の手法のインタビューであれば、あくまでもユーザのインタビューを客観的に行います。この場合、インタビューの方法が適切ならば、ユーザ自身が自覚している事柄については、全て聞き出すことができます。しかし、ユーザが自覚していない事柄については聞き出すことは困難です。このユーザが自覚していない事柄のことをインサイト{洞察}と呼び、このインサイト{洞察}の獲得が"共感"のステップにおける最も重要な目的です。インサイト{洞察}はユーザ自身も自覚していないので、まずは、ユーザを自分と同一化して感じることで少なくともユーザと同じ状況になることが必要な訳です。
 インタビューにおいては、子供のように、好奇心旺盛に、素直に聞く必要があります。先入観を持たず、理解できるまで、質問することも重要です。
 また、相づち、繰り返し、オープン・エンド・クエスチョンなど、バーバル・コミュニケーション (言語的コミュニケーション)および、視線、姿勢、しぐさ、声のトーン、表情、スキンシップなどノンバーバル・コミュニケーション(非言語的コミュニケーション)も理解しておくと、スムースに話を聞き出すことができるでしょう。
 またインタビューの際には認知バイアスにも気を付ける必要があります。認知バイアスには、たとえば確証バイアス(個人の先入観に基づいて、他者を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、それにより自己の先入観を補強するという傾向)、認知的不協和(意見に合わない事実は適当に理屈を付けて無視する)、感情バイアス(不快な事実は認めたくない)などがあります。
 インタビューをするときには、自分が認知バイアスに影響されてはなりません。一方ユーザが認知バイアスに影響されている場合は、その認知バイアスも含めて"共感"する必要があります。
 しかし、インタビューだけでは、インサイト{洞察}を獲得できない場合もあり得ます。そのときは、行動観察を行います。大阪ガス行動観察研究所※1の行動観察では、人間工学、エスノグラフィ、環境心理学、社会心理学、表情分析、しぐさ分析の6つの学術領域を用いて行動観察を行います。

 それぞれについて簡単に説明します。

(1) 人間工学
 人間工学は、人間の特性や制約を把握した上で、それを設計やデザインに活用する学術領域です。人と機械(マシン)との関わりあい-HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)を、身体的側面、頭脳的(情報的)側面、時間的側面、環境的側面、運用的側面の5つの側面から見ていきます。
(2) エスノグラフィ
 エスノグラフィ(民族誌)は、もともと異なる文化の人たちと長期間一緒に過ごすことで行動様式や価値観、文化を知ることを目的とした学術領域です。実際にはそれほど長期間行うことは困難ですが、短期間でもユーザと同じ体験をしてみることは重要です。ユーザと同じ体験をすることで、生活行動や作業を観察します。こうすることで、ユーザが無意識で行っている行動のデータを収集することができます。
(3) 環境心理学
 環境に関する心理学のことです。環境にはその人が日常的に接する自宅の部屋、庭、職場などがあります。たとえば、椅子が向かい合わせに設置されていれば、会話が弾みますが、椅子が背中合わせの場合は、会話は途絶えがちになります。
(4) 社会心理学
 人間は社会的な動物なので、他者の行為や行動により、自身の行動に影響を受けます。
 社会心理学者ミルグラムの1968年に行われた実験を紹介しましょう。
 最初は1人の人が街の決められたところで、立ち止まりビルの窓を60秒間見上げた後、立ち去ります。一定時間立ったところで、立ち止まり見上げる人を1人、2人、3人と増やしていき、通行人の反応を観察します。
 その結果、見上げるのが1人の時は、それにつられて立ち止まった人は、通行人のわずか4%だけでしたが、15人で見上げた場合は40%が立ち止まりました。
 また、つられて窓を見上げた通行人の割合は、見上げるのが1人のときに43%で、15人のときは86%になりました。。
(5) 表情分析
 人間の表情は感情と密接につながっています。微表情と呼ばれる、0.2秒未満の一瞬に表われるかすかな表情を読み取ることで、感情を読み取ります。
 たとえば、恐怖の表情は、眉が寄って押し上がり、上瞼が上がり、下瞼がこわばり、唇が横に引きつります。
(6) しぐさ分析
 人間が無意識に行うしぐさから、どのような事を感じているか分析する手法です。
 例えば、視点の場合は、右上を見るときは、見たことのない光景を想像し、左上を見るときは、体験したことや過去に見た光景を思い出しています。腕を組んでいるときは、心を開いておらず、唇に触るときは安心を求めている。などがあります。

 以上のように"共感"のステップは、ユーザの隠れたニーズを掘り起こす意味で、非常に重要なステップです。インタビューや行動観察を駆使して、ユーザのインサイト{洞察}獲得できるかどうかが、デザイン思考の以降のステップの成否の鍵をにぎっています。

※1 スタンフォード大学デザインスクール(「d.school(Institute of Design at Stanford)」)
http://dschool.stanford.edu/
※2 大阪ガス行動観察研究所
http://www.kansatsu.jp/observation/observation.html
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