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「デザイン思考 その6 -問題定義-」
株式会社オージス総研

2013年12月号
  • 「デザイン思考 その6 -問題定義-」
株式会社オージス総研   竹政 昭利

 スタンフォード大学デザインスクール「d.school」※1では、デザイン思考のステップとして次の5つを定義しています。前回は"共感"のステップについて説明しました。今回は、"問題定義"のステップについて見ていきます。

 "共感"のステップでは、インタビューや行動観察を通じて、インサイト{洞察}を獲得することが最も重要な目的です。
 しかし、インサイト{洞察}とはユーザ自身も自覚していない性質のものなので、インタビューアーや分析者がインタビューや行動観察を終えたとしても、そこで取得した情報がインサイト{洞察}を捉えたという確信を得るには至りません。そこで、次の"問題定義"のステップで、どのような視点で問題を捉えるかを定めます。これを着眼点(POV:Point of View)と言います。この着眼点がインサイト{洞察}を捉えていれば、後続の"創造"や"プロトタイプ"のステップにおいて、適切に問題解決を行えるわけです。そうなれば最後の "テスト"のステップでユーザは自分がまさに欲しかったものだと、実感できる訳です。しかし、着眼点がインサイト{洞察}を捉えていなければ、"テスト"のステップにおける、ユーザの反応は冷ややかなものになります。これはつまり、"問題定義"が間違っていたということであり、"問題定義"を再度やり直す必要があります。
 "問題定義"が間違っていた原因としてはインタビューや行動観察が不十分だった可能性もあるでしょう。しかし実際には、十分な時間をとってインタビューや行動観察を行ったとしても、100%正しく、インサイト{洞察}を捉えたという確信は得られるものではありません。それよりも、ある程度の確信が得られた時点で、次の"創造"のステップに進んでしまったほうが賢明です。
 もし"問題定義"が間違っていれば、元に戻ってやり直すことを前提にします。そのため、"創造"、"プロトタイプ"、"テスト"のステップもそれほど時間をかけずに、迅速に進める事が重要です。「小さく失敗する。」というのがデザイン思考の基本的なスタンスです。
 そのためにも、"問題定義"においては、その問題の本質的な箇所に対して、焦点を絞り込んでいくことが重要です。焦点がぼやけているより、焦点が絞られ制約があるほうが、次の創造のステップにおいて、アイディアは出しやすくなります。たとえば、『アイディアのちから』※2によると、15秒間で、「白いものを思いつく限り書きなさい。」と「冷蔵庫の白いものを思いつく限り書きなさい。」との2つの指示を比較すると、後者の方が多くのものを思いつくということです。「冷蔵庫の」制約が設けられたほうが焦点が絞られ、かえってアイディアは出しやすくなります。

共感マップ
図1 共感マップ

 さて、では実際の"問題定義"の手順を話していきます。
 "問題定義"の最初の作業として、インタビューなどを通じて得られたユーザの情報を整理します。整理には、共感マップを利用することができます。
 共感マップには、4つの領域を設けて、それそれ、"発言"、"行動"、"考え"、"気持ち"を書き込んでいきます。複数人で行う時は、模造紙やホワイトボードにポストイットを貼り付けて行くのが良いでしょう。"発言"や"行動"など表面的なことは、埋まりやすいですが、"考え"や"気持ち"まではなかなか聞きだせていない場合もあります。必要に応じて再度インタビューをしたり、"考え"や"気持ち"を推測する必要があります。
 そして、次の作業として、この共感マップの情報を元にユーザのニーズやインサイト{洞察}を定めます。
 しかしインサイト{洞察}だけを一気に抽出するのは難しいかもしれません。このときは、カスタマージャーニーマップを用いてユーザの周辺を明らかにして考えていくのが効果的です。カスタマージャーニーマップは、ユーザがサービスを通して接する様々な時点(タッチポイント)を記述したグラフです。
 カスタマージャーニーマップの書き方(項目など)は、様々あります。図2はニューヨーク近代美術館(MoMA)に行ったユーザのカスタマージャーニーマップ(CUSTOMEREXPERIENCE MAPとも言います)の一例です。比較的理解しやすいと思いますので例にあげます。
 縦軸は、ユーザのサービス経験(Service Experience)、その時の期待(Expectations)や感情の起伏(Emotional Experience)が表現され、横軸は時系列にタッチポイントが表現されています。
 図2上段のユーザのサービス経験(Serivece Experience)には「Get into MoMA」、「Go up to 3rd floor」など実際に行った活動(Activities)や、「Main hall」、「on the 3rd floor」などの周りの環境(Environments)、そして「talking …」、「looking for exhibition」などのインタラクション(Interactions)、さらに「Taxi」、「Ticket」などのオブジェクト(Objects)や「Me + Taxi driver」などのユーザ(Users)が記述されています。
 図2中段の期待(Expectations)は、「More bright light needed」などのユーザの要望など記述され、下段の感情の起伏(Emotional Experience)には、その時のユーザの気持ちがグラフ形式で表現されています。
 これを見ると活動(Activities)の「(8)Listen to the professor's explanation」のところで感情の起伏(Emotional Experience)がマイナス方向に大きく落ち込んでいます。その時の期待(Expectations)は、「more information」とあり、ここが、ユーザが問題だと思っている点(pain point)です。このポイントがユーザを理解する上で参考になります。
 こうしたカスタマージャーニーマップを用いれば、ユーザを取り囲む状況や気持ちの理解が進み、インサイト{洞察}を抽出する助けになるのではないかと思います。

カスタマージャーニーマップの例
図2 カスタマージャーニーマップの例
出典:Sue Design4http://suedesign4.wordpress.com/deliverables/task-3/

 今回は"問題定義"を見てきました。ここでは、対象領域の問題に対して適切に焦点が絞られることが重要です。抽象的すぎては、次の"創造"のステップで解決策をつくるのが難しくなりますし、あまり具体的すぎてもユーザの要望の一部しか捉えられず、そこから導き出される解決策は不十分なものになってしまいます。
 ユーザのニーズおよびインサイト{洞察}が正しく抽出されたかどうかがとても気になるところです。しかし残念ながらこの段階ではその判定はできません。それは、"創造"、"プロトタイプ"のステップで実際の解決策を得て、"テスト"のステップで検証します。そこで実際にユーザに試してもらい、ユーザがどう反応するかを見て判定します。

※1 スタンフォード大学デザインスクール(「d.school(Institute of Design at Stanford)」)
http://dschool.stanford.edu/
※2 『アイディアのちから』日経BP チップ・ハース+ダン・ハース 著 飯岡 美紀 訳

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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