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「なぜマーケティングが重要なのか?(5)― マーケティングが求められる背景 ―」
株式会社オージス総研

2014年01月号
  • 「なぜマーケティングが重要なのか?(5)― マーケティングが求められる背景 ―」
株式会社オージス総研   水間 丈博

◆顧客創造のための基本的機能

企業の目的は"顧客の創造"であり、企業の成果を挙げさせるための基本的機能は「マーケティング」と「イノベーション」だけである、とP.ドラッカーは言いました。顧客の要求からスタートするものがマーケティングであり、顧客に新しい満足を生み出すものがイノベーションです。
この提言は1974年に刊行された『マネジメント』の抄訳「エッセンシャル版」冒頭に出てきますが、この指摘の重要性は今でも色褪せることなく数多く引用されています。

ドラッカーによるマーケティングの重要性
図9 ドラッカーによるマーケティングの重要性

かつて日本をGDP世界第2位に押し上げたのはプロセス・イノベーションでした。世界で高品質なモノが不足していた時代に品質改善とTQCなどの生産現場の改善活動によって精緻なモノ作り方法を確立しました。"カンバン"のような創意工夫を間断なく継続し、"摺り合せ技術"などの得意技を確立し、世界に今日まで続く「メイド・イン・ジャパン」ブランドを浸透させました。
その後競合とのシェア争いが激化しプロダクト・イノベーションの時代になりました。弛まぬコスト削減と効率化でオイルショックによる原油高騰やプラザ合意による円高不況をものともせず(その陰で多くの下請中小企業が苦しめられましたが)、多品種少量生産も上手にこなしていきました。
"どう作るか"よりも"何を作るか"が優先され、ユニークで独自性のある製品やサービスが必要とされたのです。市場志向から顧客志向にターゲットが細密化していったのもこの頃からです。「多品種少量生産」を確立したのはトヨタでしたが、さまざまな業種で多品種化が進められ、多様化する消費者ニーズに応えようとする動きが広まりました。
そして国内の既存市場が名実ともに飽和状態となり、顧客の声を聞きながら、できるだけ早く新たな市場を創造する必要性に迫られてきました。
これからはソーシャル・イノベーションの時代と言われています。ネットワークとインターネットが広く普及したために個人や企業を問わず、発信された情報の伝播速度と拡散速度が急激に増大しました。CSR概念が浸透し、企業への信頼性が永続的なビジネス活動には必須であることが認識され始めました。地球規模の環境変動への関心が高まり、限りある資源の有効活用や人と自然と産業(企業)とが共存する社会を目指そうとする意識が広く浸透しました。こうした「スマートな社会」を目指す取り組みが様々な国や地域で試行されています。そして新たなイノベーションとビジネスが模索されつつあります。

・「マーケティングとイノベーション」の意味するところ
さて、なぜ「図9 ドラッカーによるマーケティングの重要性」に示された企業の基本的機能が「マーケティング」と「イノベーション」だけなのでしょうか。
イノベーションは新しい満足を生み出す、とはどういうことでしょうか。
企業は新たな価値を生み続けなければなりません。市場は新しい価値を求め続け、それに応えられる企業だけが存続する、と言う理念に基づいているのです。"新しい価値"は企業内部からでは無く、あくまで"顧客"を起点としなければなりません。イノベーションは技術的なものに限らず顧客に新たな価値をもたらすものである限り、新しい用途の開発、新たなマネジメントの方法なども含まれます。それは企業全体で実現するべきものであり、その企業全体の仕組みがマーケティングである、という構図になっています。ドラッカーは「マーケティングは顧客からスタートする企業全体の仕組みである」とも言っています。"売る仕組み"ではなく"売れる仕組み"なのです。
ですから、「イノベーション」と「マーケティング」は事業全体や企業全体のあらゆる機能に関わるもので、一般的に(日本では殊更に)考えられているような「技術開発」と「販売」とは似て非なるものである、ということがこの図の意味です。

本連載の第4回(前回)までは、マーケティングを語る意味と、歴史的変遷や重要な概念を主体に記述してきました。今回からは「現実の事象」を織り交ぜながら今後のマーケティングを展望していくことにします。

◆マーケティングが求められている背景

社会変化のスピードが高まった現在、ビジネスを成長、発展させるために、今ほど(特に日本で)マーケティングが求められている時代はないと考えます。
それは何故か?
国内市場全体、BtoC、BtoB、グローバル対応、国内企業の5つの切り口で事例や統計データ、各界の提言などを援用しながらその理由を探ってみましょう。

◇国内市場の変化
日本市場では市場成熟化と低成長が定着し、単に技術的に優れているとか、価格対性能比が良いというだけでは顧客購買に繋げることが難しくなってきました。この背景には

・人口動態の変化
少子化の進行、高齢者層の相対的増加、晩婚化や婚姻率の低下など(2005年から人口自然増数がマイナス基調へ・1975年から合計特殊出生率が2.00を下回る)
・「衣・食・住」の環境改善
健康で文化的な生活をおくる社会環境が整備され、耐久消費財(乗用車・家電製品など)の普及が進み、コモディティ化が進んで需要が急激に拡大するような市場の確保が困難になった。
・購買の選択肢の多様化
食品や化粧品などの消費財を中心に商品カテゴリーの細分化*1が著しく進んだほか、消費者向け調達手段や流通ルートの選択枝が増加した。
・低成長時代の影響
バブル崩壊後のマイナス成長、雇用条件の悪化、勤労者収入低減による可処分所得の低下、デフレの進行、リーマンショック後の不況など、消費者購買環境の悪化とともに、それに対応する形で消費者の生活防衛の一環として製品やサービス峻別能力が向上した。このほか、各世代に景気動向が影を落とし消費性向を複雑化させた*2
*注1:
家庭用即席めんを例にとれば、1958年に「チキンラーメン」(日清食品)が発売されて以後50年の間に、カップ麺、ゆで麺、冷凍麺、干麺などの形態別に高級品、普及品、廉価品が生み出され、さらに味付け別、内容量別などいわゆるバリエーションが細分化されてきた。
*注2:
出生した時代がその後の消費傾向を左右するとする消費の世代論的研究としては以下の著作が詳しい。
参考:『嫌消費世代の研究 -経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち-』
松田久一 東洋経済新報社(2009年)

一方、装身具などのブランド品は人気が衰えず、日本は世界有数の市場として認知されており、多くの海外ブランドの旗艦店が都内に出店しています。GDPは維持しつつも勤労者の所得が増加しない環境の下、消費者は過去の慣習にとらわれず、自分にとって真に価値があると信じられるモノには正当に対価を支払い、そうでないモノは廉価品で代替させるかまたは購買しないという姿勢が明らかになりました。SNSや無料通話アプリが普及し、自分に価値があるか否かは友人のアドバイスや共感、または口コミによって強まったり弱まったりする傾向も見られるようになりました。

【市場成熟化・コモディティ化への対策が必須に】
コモディティ化とは、"市場が成熟した結果、かつて差別化されてきた商品が差別化困難な状況に陥ること"である。
<事例1>かつて練歯磨粉はそれ自体が一つのカテゴリーを形成していたが、現在は虫歯予防、口臭予防、美白効果、歯周病予防など、細かなベネフィットに対応した市場に細分化され、新製品を投入する余地がなくなってきた。
出典:PERIGEE(読売ISマーケティング情報誌)
「コモディティ化への対応とこれからのマーケティング」早稲田大学商学学術院教授 恩蔵直人
http://www.yomiuri-is.co.jp/perigee/feature04.html
<事例2>内閣府発表の「消費動向調査」にある「主要耐久消費財買替状況」*3を見ると、地デジ化による薄型テレビへの止む得ない買替需要が過ぎた後は、パソコン、デジカメをはじめ軒並み低下している。"画期的な商品"はもうないのか。世の中に広告があふれ消費者に振りむいてもらうのも難しい現代、これを打破するには3つの方法しかない。
(1)低価格化を追求する
(2)デザインで卓越する
(3)消費者を交えて使い勝手を突きつめる
出典:「成熟しきった市場で何をするべきか」(Marketingis.JP)
http://marketingis.jp/archives/2278
*注3:『消費動向調査』内閣府
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2013/1303shouhi.html#durables
参考:日本国内の普通乗用車(軽自動車を除く)の平均保有年数は、昭和51年(1976年)に6.90年だったが、その後少しづつ伸び続け、平成13年(2001年)にはついに10年を超え、平成25年(2013年)には12.58年となった。
出典:『自動車保有動向』一般社団法人自動車検査登録情報協会
http://www.airia.or.jp/number/index2.html
<事例3>LVMH(モエ・エ・ヘネシー・ル・ヴィトングループ)の全世界売上は2012年度約2兆9千億円(2012年平均ユーロレート換算)で、2009年から3年連続二桁増を達成した。うち日本での売上高は8%を占めるが、北米、ヨーロッパ、さらにアジア、ハワイ等における日本人旅行者の購買力をも考慮すると極めて重要なマーケットと位置付けられている。
出典:LVMHホームページ LVMHグループの概要と活動「グループ成長戦略」http://www.lvmh.co.jp/group/grow.html
参考:『シャネルの戦略:究極のラグジュアリーブランドに見る技術経営』長沢伸也編著 東洋経済新報社(電子版)

◇BtoB企業にとっては
日本ではBtoCに比べてBtoBマーケティングは大変遅れている、と指摘されてきました(本節<提言>参照)。従来BtoBは永年の企業間の信頼関係や親子関係、請負構造に基づく取引が主体でした。情報システムがEDPと言われていた頃から存在する各種の業界VANは、企業間ECに発展して国内EC市場の90%以上を占め、現在でも取引総額は米国より多いと推定されています*4
これを牽引するのは輸送用機械(53%)、食品(45.7%)、電気情報関連機器(45.3%)などで、ECが日本の垂直型分業制を支えていることがわかります(数値はいずれも広義のEC化率)。
しかし、1985年のプラザ合意後に進んだ円高による国内生産拠点の海外移転が顕著となった"産業空洞化"や日産自動車が2007年に実施した"ゴーン・ショック"に象徴されるような調達先の選別・絞り込みが進んだこと等により、国内BtoB事業者は自ら新規顧客開拓に迫られるようになりました。
これがインターネットの普及と時を同じくしたこともあり、企業ホームページなどで製品仕様や特徴を表記することが広報活動の一環として定着しました。
日本で企業が本格的にホームページに取り組み始めたのは1995年ですが、この20年程の間に企業ホームページは

  • 「企業紹介」:企業の看板
  • 「企業の顔」:会社案内や製品紹介の代替手段
  • 「企業情報発信拠点」:広報宣伝メディア
  • 「双方向コミュニケーションツール」:ユーザ窓口の一つから戦略目的化
  • 「コミュニケーションプラットフォーム」:ユーザとのインタラクティブなツール

と発展的に役割が変遷してきました。(図10)

図10 企業WEB(ホームページ)の発展形態
図10 企業WEB(ホームページ)の発展形態

[図10:注]
日経BizGate「迷走するデジタルマーケティングの現場」Nexal 上島千鶴氏(2013.7.11)を参考に独自に編集。

さらに企業情報は各種メディアの多様化、価格比較サイトやサービス比較サイトの拡充などにより拡散した結果、顧客企業側の情報収集能力の飛躍的進化とあいまって供給企業側と需要企業側との情報の非対称性が崩れました。このため顧客企業からすれば「自社も競合も」等しく見えるようになりました。従来のベンダー側の情報優位性や営業リレーションの濃密性を活かしにくくなったといえます。
現在は企業の設備投資性向の低下やROI志向の定着化によって、より投資対効果の高い製品やサービスを厳選する傾向が強まっていると考えられます。

【立ち遅れたBtoBマーケティングがようやく動き出す】
<提言>日本企業のBtoBマーケティングは大変遅れている。「イノベーション」はまだしも「マーケティング」は無いに等しい。BtoBの営業利益率は年々低下してきた。特に製造業は低下が著しく、この50年間で8%から2-3%に低下した。
一方、世界の大企業を見るとIBM13.9%、インテル24.4%、オラクル34.6%(いずれも2008年までの5年間平均)である。差は開くばかりだ。それは原価を積み上げて価格を算出している慣習にも一因がある。本当の価格付けは顧客が支払っても良いと考える価値が尺度のはず。営業利益率が低いと言うことは、顧客が価値を見出していないと言うことになる。顧客が価値観を感じないものを一生懸命作っていると言うわけだ。
日本企業の部品や素材にかかわる技術力は、世界で高い評価を受けており、高いシェアを有している企業も数多く存在している(炭素繊維・半導体製造装置など)。しかし、それに見合った利益率を確保できているとはいえない。技術力があっても、それを十分な利益に結びつけることには失敗している。このままでは、日本は世界の下請け工場になってしまう。
出典:『BtoBマーケティング -日本企業のための成長シナリオー』 余田拓郎(慶応義塾大学大学院経営管理研究科教授)東洋経済新報社(2011)
一方、BtoB企業のマーケティングを支援する会社が数多く現れ、成功し始めた事例も見られる。
<事例1>イプロス
BtoB企業向け販売促進・マーケティング支援会社(キーエンス100%子会社)。マッチングサイトを設営し、参加企業数2.5万社、月間利用者180万人、月間ページビュー1,000万PVにまで拡大。イプロス大学という"集客からアフターフォローまで"の顧客育成研修会を無料で提供したり、販促ツールの制作方法など、キメ細かいサービスで中小企業の製造業を支援する。ただし2001年にサイトを開設してから10年以上の期間を要した。
http://corporate.ipros.jp/
参考:イプロス事例の要点はBIC公式Facebookに取り上げたのでご参照のこと。 (【中小製造業者が覚醒するWEBマーケティング】2013年6月20日)https://www.facebook.com/BusinessInnovationCenter.OGIS?ref=hl
<事例2>リードエグジビジョンジャパン国内最大手の国際見本市主催会社。2003年の年間開催本数は25本だったが、その後ニッチな産業分野やかつて展示会に馴染のなかった業界分野を次々と開拓(文具、雑貨、メガネ、園芸、道工具、農業など)、2013年の年間開催本数は94本にまで拡大した。ただし小規模な開催展も多いため、エリアを区切った複数展同時開催で出展社数の増減を上手く吸収している。最近は地方中小企業や海外企業も取り込んでいる。
http://www.reedexpo.co.jp/achieve/
*注4:
BtoB-ECの市場規模とEC化率は広義と狭義があり、広義では規模約262兆円、25.7%、狭義では規模約178兆円、17.5%であった。(広義は電話やFAXなど従来型電気・電子式媒体による受発注を含む・狭義は純粋にコンピュータネットワークやインターネット経由による受発注を指す)。
出典:『平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』平成25年9月 経済産業省 。
http://www.meti.go.jp/press/2013/09/20130927007/20130927007-4.pdf
参考:『情報化白書2012年版』一般財団法人日本情報経済社会推進協会

◇BtoC企業にとっては
企業の経営状況の迅速な開示や透明性確保が法的に義務付けられ、四半期開示や内部統制強化と業務遂行の適正性確保が進められてきました。特にコンシューマと呼ばれる一般消費者を顧客とする企業にとっては、CSR概念が浸透すると同時にソーシャルネットワークの普及により、くちコミやSNSの影響力が強くなり、企業SNSサイト炎上リスクを無視できず個別の顧客を意識した情報開示や企業オペレーションに留意せざるを得なくなりました。
逆にこうしたSNSなどの新たなメディアをビジネスに活かそうとする動きが活発化しました。それはグーグルアドワーズのような検索連動型広告やSEO/SEMと呼ばれる検索エンジン対応の適切化の工夫などから始まり、今ではSNSで会話されるキーワードを収集してマーケティング施策に繋げるO2Oなどの施策に活かされています。
特に画期的だったのはクリック課金型広告とパーソナライズ広告(ターゲティング広告と呼ばれる)でした。メディアから一方的に大量に発信されるテレビや新聞型広告を止めて、真に必要性に駆られたユーザをネット上のリアルタイム広告で一本釣りしたり、個人の嗜好や購買履歴に基づいたOne to Oneの広告形態が出現し、従来型広告の根幹を揺るがす動きになりはじめています*5。その裏側はIT技術の進歩とネットを新たなメディアに育てようとする新興企業群が支えてきていることは言うまでもありません。

【限られたパイの掘起こしと奪い合いが熾烈化】
コンシューマ向け市場では百貨店の低落傾向に歯止めがかからず、GMS(General Marchandaizing Store;いわゆる大型スーパー)業態の伸びも完全に限界に達した。コンビニ業界だけが依然として成長している。コンビニ大手はまだまだ成長機会があると見込んでおり、新商品開発や新店舗開拓に注力している。
<政府統計から>
百貨店の2012年度売上高合計は約6兆1500億円で、1998年の約10兆6000億円の6割以下に減少。GMSは12兆9500億円で、1989年統計の約12兆6000億円からほとんど伸びがない。コンビニエンスストアは約9兆400億円で、1989年度約6兆円から1.5倍に伸長している。
出典:『商業動態統計調査』経済産業省 (平成25年1月発表)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/
<事例1>「再建1年、JALが第5回企業ウエブ・グランプリ(ソーシャル部門)受賞」
JALは再建後公式Facebookを開設、1年間で500名もの社員が登場し、顧客と直接対話することで新しい意識が共有され新たな文化を創造しつつある。これが社会に認知され新たなファンを獲得した。
出典:『JALは、ソーシャルメディアでどう変わったか -共存を考える時代にマーケティングができることー』DIAMOND IT&ビジネス
http://diamond.jp/articles/-/16339
<事例2>「ルミネが、ネットショップのモバイルサイトを開設」
携帯向けネットショップ「i LUMINE」がリニューアルし、2013年10月スマートフォンサイトを新たに開設した。この特徴は欲しい商品の在庫がルミネ店舗のどこにあるのかが一覧で表示されるように進化したこと。
出典:MarkeZine 2013年10月1日
http://markezine.jp/article/detail/18559
<事例3>「GMSは専門店の集合体に進化」
イオングループは、2013年2月の決算説明資料で、"GMSは専門店化の集合体へと進化"を改革の柱と位置付けている。さらに中期経営計画では"4シフト"を掲げており、「アジアシフト・大都市シフト・シニアシフト・デジタルシフト」を進めている。
出典:イオン株式会社2013年2月期決算説明会資料
http://www.irwebcasting.com/20130411/2/b8db16aa0d/media/20130411_aeon_ja_dl_01.pdf
*注5:
『特定サービス産業動態統計調査』経済産業省(2013年10月)によれば、4大メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)広告は永らく低落傾向を示していたが、2013年4月に下げ止まりを示し、その後の景気上昇気配を受けてテレビ・新聞は5%程度プラスに転じた。他2メディアは横ばい。しかしインターネット広告だけが15%以上伸長している。
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/result-2.html

◇グローバル企業にとっては
現代は世界の市場で海外先進国や新興工業国の製品と本格的に競争しなければ勝ち残れない時代となりました。かつては日本製品の圧倒的な品質とコストパフォーマンスで優位を築きましたが、世界の水平分業型ビジネスモデルの発展や中国、韓国などのコモディティ化能力や技術力向上が進み、日本製品も価格競争に巻き込まれ始めました。こうした中、海外に製造拠点を移す動きが活発化し製造と販売の現地化が進む中、マーケティングに長けた欧米の競合と戦うために、世界の文化を理解し各国の事情に沿ったモノ作りや販売方法に注力することが必須となってきました。
米国の大企業の中には従来からR&D機能や製品デザインなどの中枢機能やアドミニストレーション機能をグローバルに展開する(BPOの活用など)企業がありましたが、日本では中枢機能は国内に留めることが常識でした。しかしグローバル化で先行する企業の中には事業本社機能や地域本社機能を海外に設置する事例も出てきました。大学卒の外国人を国内大卒者と同等に新規採用する企業も現れました。今後こうした動きは強まって行くと考えられます。

【グローバル化への腰が重い日本企業】
<提言>『日本経済はグローバル化で成長する』(2013年3月8日(独)経済産業研究所(RIETI)ハイライトセミナー)東京大学新領域創成科学研究科教授 戸堂康之
設備投資や公共投資は一時的には有効だが長続きしない。日本は大企業だけでなく中小企業でも世界に通用する技術力と高い生産性を誇れる企業がある。しかし海外展開の意欲が低い。こうした企業(筆者は臥龍企業と呼んでいる)を政策的に支援することによりさらに生産性と雇用を拡大できる。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/13030801/pdf/todo.pdf
<提言>『グローバル化で遅れる日本6つの課題 -意識向上に向け初等教育の改革を-』佐藤 登 名古屋大学客員教授
日本企業でグローバル化にある程度成功している例として自動車業界や重電分野があるが、総じて遅れている分野が多い。それには「大学教育」「若者の海外志向の低下」「教育分野の国際競争力」「産業界の国際競争力低下(特に家電分野)」「食文化の浸透度」「観光魅力の発信度」の6つの課題に取り組む必要がある。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131112/255753/
<提言>『大きく遅れたグローバル化 -日本企業は抜本的な対策が急務-』 日経ビジネスオンライン
グローバル人材の観点による日本企業の課題。日本には女性役員ゼロの会社が多過ぎる。日本IBMは同じ能力の男女社員なら女性を登用する。キリンはマーケティング経験者と海外勤務経験者の女性二人を社外取締役に迎えた。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130619/249963/
「名実ともにグローバル化を進めるユニクロ」
2001年に海外進出第一弾としてロンドンへ出店、その後上海、香港、ソウルへと拡大。現在は台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、アメリカ、フランス、ロシアを加えた12カ国に展開。海外ユニクロ事業は2007年まで赤字であったが、2008年から黒字転換。海外の戦略拠点は「グローバル旗艦店」と銘打った最高水準の商品やVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)に注力、有名クリエイターを動員した革新的な店舗を志向、世界への情報発信拠点と位置付ける。現在グローバル旗艦店はニューヨーク、ロンドン、パリなど世界10店舗。ニューヨークにもR&D拠点を設置。2020年までに国内1000店舗を目標とし、海外では毎年100店舗以上を新規出店する。2013年、海外店舗の売上割合は20%を超えた。内部でもグローバル採用や英語を社内公用語化するなど着々と手を打っている。
<参照>「ユニクロの事業戦略」
http://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/tactics.html
<資料>『中小企業のグローバル人材の確保と育成』日本政策金融公庫 総合研究所  2013年11月29日発行
http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_13_11_29.pdf
<資料>『TPP加入が国内食品加工メーカーに与える影響』(みずほ銀行)
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/pdf/msif_069.pdf

◇日本の企業全般
前節で述べたように、日本では技術・品質・改善指向の文化が根強かったために、技術系の人々はマーケティング的な考え方や市場や顧客を起点とした発想を修得する機会に恵まれず、技術中心の発想を転換することが困難でした。開発部門や生産現場の閉じられた組織の中で技術の精緻化が研ぎ澄まされていったのと引き換えに、市場や顧客の側から自社の組織や製品を見る機会が与えられることも、マネジメントに意識されることもなかったのです。組織の肥大化と階層化が進むにつれ、ますます技術者は市場から遠くなっていきました。これが"技術のガラパゴス化"の本質です。
そしてマーケティングは販売部門の一組織機能として永らく位置付けられてきたため、"経営"や"全社マネジメント"とは一線を画された場でのみ活動してきました。マーケティング部門が販売部門と別に設置されている企業すら未だに少ないことが実態です。ドラッカーが『マネジメント』の中で「販売とマーケティングは逆である。同じ意味でないことはもちろん、補い合う部分さえない。」と指摘したことは、長かった好景気の陰に隠れ、日本で実践されることはありませんでした。

【自信を持って国外へ出て活路を見出す】
<提言>『いいものをつくれば勝てるという考え方は間違っている』
「コトラー・カンファレンス 2013」(主催:日本マーケティング協会、日本マーケティング学会、ネスレ日本株式会社)http://markezine.jp/article/detail/17989
1970年代、日本がマーケティングの世界でも世界のチャンピオンだった時代、脅威に感じたアメリカのCEOたちは「コトラー氏がアメリカを打ち負かす方法を日本に教えたのではないか」と怒りをぶつけてきたという。「そうではなく、世界の中で私が提唱したマーケティングをより良く学んでくれたのは日本の学生たちだったのだ。」(コトラー氏)
ではなぜ、日本は低迷してしまったのか。「さまざまな原因が考えられるが、日本企業がマーケティングを誰に任せてきたのかを問い直す必要がある。戦略的なマーケティングは"3年後に何をつくるか"というように先を読むもの。マーケティング担当者はどんなプロダクトを創るかを考える過程に入り込み、プロダクトのポートフォリオに関わっていく姿勢が必要だ。日本にはCMOがいないというのは残念なこと。欧米では多くのCMOがいて、互いに学び合っている。」(コトラー氏)と、従来から指摘されている日本企業のマーケティング組織を批判。さらに、マーケティングの力を十分活用できていないこと、意思決定のスピードが遅い点も指摘した。
<提言>『マーケティングも「勘」から「科学」の時代、日本企業に特有の課題とは?(縦割り組織を壊さないとITマーケティングは機能しない?』
(ダイヤモンドIT&ビジネス)
http://diamond.jp/articles/-/37999?page=4
"ビッグデータ"や"ソーシャル"というキーワードが流行し、ITベンダーからすれば従来無縁だったマーケティング部門へ熱い視線が注がれている。IBM、アドビ、オラクル、セールスフォースなどもマーケティング支援の新製品を引っ提げて注力し始めている。しかし、海外と勝手が違い日本にはマーケティング責任者(CMO)が存在しないことが多く、こうしたビジネスを困難にしている。
<事例>『技術で勝ってビジネスに負けるな、日本!』
大和コーポレーション社長 曽根和光
http://k-sone-blog.daiwacorporation.co.jp/archives/1082
建機大手コマツ躍進の原動力の鍵は建機ネットワークを買収したことだった。
坂根会長がアメリカ子会社の社長時代(1996年)に、鉱山機械管理システムの販売、製造の世界トップ企業であった「モジュールマイニング社(世界の過半数の鉱山のネットワーク化権利を有している)」を買収していなかったら、コマツが開発した花形の無人化建機(GPSを使った遠隔監視システムを搭載。ユーザの使用状況を可視化することで保守サービスを高度化させ、顧客のコスト削減、セキュリティ強化という長年の課題解決を実現するビジネスモデルを確立した。)はここまで普及していなかった、と語っていた。
<参考>『世界を見れば日本の現在位置が見えてくる』(ITmediaマーケティング)http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1208/08/news001.html

以上を「図11」に簡単にまとめました。なお、最初に述べたようにこれは海外を含む社会(市場)を5つの切り口で捉えたものですから、それぞれの傾向や背景などは市場環境の変化として通底するものであることを付記しておきます。

傾向 読み取れること 背景 兆し 顧客の性向
国内市場 市場成熟化と低成長の定着化 従来型ビジネス(技術優位・価格対性能比)の限界 人口動態変化・衣食住の環境改善・選択肢の多様化・可処分所得の逓減 真に納得できる価値に対価を支払う? 自分達の価値
B2C企業 企業透明性の進化・CSR影響力増・個客の発信力増 製品志向マーケティングの終焉と個客価値マーケティング全盛へ 情報非対称性崩壊・OneToOneMarketing・ITのコモディティ化 ターゲティング広告・口コミ・比較サイト・共感 自分が信じる価値
B2B企業 HomePageのメディア化・CSR重視・情報優位性低下 企業コラボレーション・顧客開拓のデジタル化 新規取引先開拓の要請・マーケティング不在 取引先厳選・EC取引の増大・イノベーションのパートナー 価値共創へ
グローバル企業 現地生産から現地適合化 フラット化する世界・従来型消費社会は辿れず インターネットの拡大・情報の拡散・地域偏在性低下 現地化、BOP・PPP 技術よりも企業への信頼や共感
日本企業全般 「技術・品質」指向・摺り合せ技術・プロダクトアウト 企業パラダイム変換の必要性 グローバルにおける日本製品の優位性低下・長い低成長時代 イノベーションへの模索・デザイン思考・共感マーケティング 顧客本位の技術・作りたいモノより求められるモノ創り

図11 マーケティングが求められる背景
[図11:注]
BOP:Base of Pyramid=世界の所得別人口構成における最低所得層
PPP:Popularly Positioned Products=低所得者でも手の届く価格帯の製品

以上、マーケティングが求められている背景とその理由を一般的な5つの切り口で、時代背景とその分析、および現象といった視点で整理しました。

◇ 現在のマーケティング
国内企業の重要課題として「市場の変化への対応」が最も良く聞く言葉の一つですが、現在のマーケティングの様相("マーケティング"を主題にした商材やサービスのトレンド)を見ると以下の5つに集約できます。

  • 新規顧客開拓のための伝統的ファネルマーケティング
  • 国内の顧客維持競争に勝ち残るための競合優位追求型マーケティング
  • グローバル市場で新たな顧客獲得競争に勝ち残るためのグローバルマーケティング
  • 企業独自の魅力を発信し顧客を惹きつけるためのブランドマーケティング
  • 顧客の潜在意識、購買動機などを徹底的に追及する顧客経験価値マーケティング

これらは企業の置かれた環境、商品ミックス、競合状況、ターゲット顧客などにより前回までに紹介した様々な手法や考え方を採り入れながら模索しつつ進化していると言えます。それぞれの名称と指向性は異なりますが、"最終的に顧客に選択してもらう(購買してもらう)"目的は同じであり、それを実現するためのスタンス(ポリシー)が違うだけ、と言えます。

次回はこの5つの国内マーケティング・トレンドとも言うべき考え方を見ていきましょう。

参考
『マネジメント-課題・責任・実践-』P.F.ドラッカー 上田惇生訳 ダイヤモンド社(1974年)

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水間 丈博  記事一覧



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