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「広がる大規模公開オンライン講座「MOOC」 その2」
株式会社オージス総研

2014年11月号
  • 「広がる大規模公開オンライン講座「MOOC」 その2」
株式会社オージス総研   山内 奈央子

1. はじめに

前回は、MOOC(Massive Open Online Courses: 大規模公開オンライン講座 )の概要や MOOCを提供するプロバイダー/コンソーシアムの役割などについて説明しました。インターネット上で誰でも無料で受講できるMOOCですが、学習コースを提供している大学もMOOCプロバイダーも運営にはお金が必要です。彼らはどうやって収益を得るのでしょうか?第2回目の本稿では、MOOCプロバイダーのビジネスモデルや課題について触れたいと思います。最後におまけとして、筆者のMOOC体験記も載せますので、MOOC受講にご興味のある方はご笑覧ください。

2. ビジネスモデル

ビジネスモデルの話に入る前に、再度MOOCに関連する役割の整理をしましょう。学習コースを提供する大学、そして複数の大学と提携し受講者へコースを届けるMOOCプロバイダー/コンソーシアムがあります。

MOOCの提供イメージ
図 1 MOOCの提供イメージ

MOOCプロバイダーであるcourseraやUdacityといったベンチャー企業は、活動資金の多くをベンチャーキャピタルから得ています。たとえばcourseraでは2014年3月までに8000万ドルを超える資金を集めました。2014年現在、多くのMOOCプロバイダーはフリーミアムな方法を採っており、通常コースの受講は無料ですが、より付加価値の高いコースは有料コースです。有料コースの例としては、本人認証つきの修了証の発行(自分が学んだことの信頼性が増す)や、対面授業も受けられる反転学習コースなどがあります。courseraではウェブカメラやキーボード打鍵の癖を解析して本人認証する修了証発行コース(Signature track)のサービスを開始することにより、100万ドルの収益を上げることができたと発表されており[参考2-1]、現時点での有望な収益モデルとなっているようです。このcourseraの Signature trackは、1コースあたり30ドルから50ドル程度の価格になっています。なおSignature trackで得られた収益は、コースを提供した大学と分配する仕組みになっています。

無料コース・有料コースの収益の流れ[参考2-2]
図 2 無料コース・有料コースの収益の流れ[参考2-2]

有料コース以外の方法はまだ模索中といえます。このほかの試みとしては、大量の受講生の存在を利用した企業への人材紹介業です。受講生は金銭的には無料で学べていますが、対価として学習履歴などのデータを提供しているとも言えるのです(成績などの情報公開に同意した受講生のデータが企業に提供されます)。また、edXでは一部の加盟大学に対し加盟に伴うメンバーシップ費を徴収する試みも始めました。
コースを提供する大学側にとっては、有料コースによる収益に加え、直接の収益ではありませんが、その大学で運営しているオンラインコースへの誘導が収益に結びつくでしょう。筆者はcourseraでBerklee College of Musicの提供する無料コースを受講したのですが、その後 Berklee College of Music自身のオンラインコース(こちらは通常の大学同様、学費が必要で大学の単位が出るコース)の紹介メールが届きました。

3. MOOCの課題

さて、ここまで主にMOOCの良い面について触れてきましたが、もちろん課題もあります。

◆多くの人が脱落する

受講登録した受講者のうち修了する受講者はどのくらいいると思いますか?たったの1割未満です。多くは途中でやめてしまうのです。実は筆者にも経験があります。受講登録した時はとてもやる気があるのですが、講義が英語で辛くなったり宿題が大変だったりして忙しさにかまけてフェードアウトしてしまう場合。また、ちょっと講義内容を見てみたかっただけで、そもそも修了する気があまりない場合。 ドロップアウトする受講者の状況はさまざまかと思いますが、 気軽に受講できるため、気軽にやめてしまうことも多いのでしょう。
この問題はすでにMOOC提供側でも認識されており、改善を試みる活動がはじまっています。例えば、Udacityではコーチをつけたり、gaccoではオフラインの講義(対面の講義)との組み合わせにより、受講者を修了に導けるよう工夫しています。 2014年4に開講されたgaccoの歴史のコースでは、対面の講義と組み合わせた反転学習コースも提供され、修了率はなんと約80%になりました。

◆提供したかった人たちに届いているか

いままで地理的な理由や金銭的な理由により学ぶことができなかった人たちにコースを提供したい、ということがMOOCの目指す目標のひとつです。しかし実際にMOOCで学んでいる人たちは、既に高等教育を受けている割合が多いとの調査があります。しかし、MOOCによって扉が開かれたということには意義があるでしょう。既に高等教育を受けた受講者は有料コースにチャレンジするなどMOOC提供サービスの継続的運営を支える一員としての役目を担っていけば理想的なのではないでしょうか。

◆マネタイズの問題

ビジネスモデルの説明で既に触れましたが、現時点での有効な収益は有料コースによるもので、その他はまだ試行中といえます。MOOCが一時的な流行で終わることのないよう、MOOCを提供するベンチャー企業が継続的に運営できる仕組みを今後も模索していく必要があります。

4. MOOC体験記

ここからは筆者のMOOC体験をご紹介したいと思います。「coursera」「gacco」2つのMOOCプロバイダーで受講したときのものです。

1)coursera

◆Introduction to Guitar --Berklee College of Music

技術系やビジネス系のコースが豊富なcourseraですが、芸術系のコースもあります。オンラインでギターの弾き方をどうやって学ぶのでしょうか?どんな宿題がでるのでしょうか?興味津々で受講しました。
まずは動画で講義を受けます。講義はすべて英語ですが、ギターの弦の弾き方などは完璧に英語がわからなくてもついていけました。とにかく弾いてみようといったアプローチではなく、ギターの種類や部位の名称や奏法、楽典なども教える内容となっており、アカデミックさを感じます。
宿題は選択式の問題に加え、実技の宿題もありました。実技の宿題はSoundCloud(https://soundcloud.com/)という音楽ファイル専用のクラウドサービスを利用します。課題を演奏し録音し、SoundCloudにアップロード。課題提出はそのリンク先を記載し提出します。ちなみに、このSoundCloudも無料で利用できます(良い時代ですね)。
宿題の評価は受講生の相互評価で行います。5人の受講生の宿題が提示され、SoundCloudにアップロードされた録音を聞き、決められた評価基準に従って評価します。他の受講者の宿題を評価することも修了条件となっています。 MOOCという名の通り膨大な数の受講生がいますので、課題の評価を担当の先生とスタッフだけが行うことは難しい場合も多々あるでしょう。受講生の相互評価による妥当性は不確かかもしれませんが、相互評価をすることで得られる学習効果はありそうです。
世界のどこかでちまちまとギターを弾いている誰かに対して、「よかったよ」とか「ちょっとリズムがバラバラだったね」など評価したりされたりすることは、なんとも気持ちがなごむ良い体験でした。テクニカルトラブル以外ではあまり積極的にはディスカッションボードを活用できなかったことが心残りです。

courseraの修了証
図 3 courseraの修了証

◆コース情報

2013年7月から6週間開講(2014年も同コースを開講している)。受講生は、毎週の講義動画の視聴+クイズ形式の宿題、実技課題の提出が求められる。実技課題の評価方法は受講生同士の相互採点。

2)gacco

◆中世の自由と平等 --東京大学

2014年4月、待ちに待った開講でした。(courseraは英語がツラかったので) 東京大学本郷先生の「中世の自由と平等」の「反転学習コース」にエントリーしました。反転学習コースは有料コースで、本郷先生の対面授業を2回受講できます。憧れの(?) 東大で授業が受けられるということで、これはワクワクです。オンライン掲示板も日本語でのやりとりなので読み書きしやすいです。日本全国から歴史好きが集まっている様子で、さまざまな疑問点など議論がなされていました。
そして、対面授業。東京大学本郷キャンパスの大きな講義室に老若男女約80人もの人が集まりました。4,5人のグループに分かれ、与えられたテーマでディスカッションしたのですが、さすがみなさんかなりの歴史好き。大いに盛り上がりました。私のグループには、この日のために九州から出てきた高校生がいました。中高生の若い人たちが物おじせずしっかり自分の意見を発表する姿に感銘を受けた次第です。オンラインの講義は受動的な学習になりがちですが、得た知識をベースにしながら、対面授業の中で自らあれこれ考えることを通じて、さらに興味が膨らみ歴史のおもしろさが増しました。講義の後は、懇親会(立食パーティ)。私は所用で始めの乾杯の様子をのぞいただけでしたが、みなさん本郷先生を交えて楽しいひとときを過ごされたようです。
最終課題のレポートも提出し、無事修了できました。オンラインの活動も便利ではありますが、肌で感じるオフラインは刺激的で、とても高揚した気分になります。海外のMOOCではミートアップが盛んですが、大いにうなずけます。

gaccoの修了証
図 4 gaccoの修了証

◆コース情報

2014年4月から4週間開講。受講生は、毎週の講義動画の視聴+クイズ形式の宿題、最終課題として800字程度のレポートの提出が求められる。レポート課題の評価方法は担当教授およびスタッフによる採点。無料コースと有料の反転授業コースあり(1万円)。

5.おわりに

第2回目ではMOOCを支えるビジネスモデルや課題についてご紹介しました。MOOCの発展によって、高等教育は国境を越えました。日本の場合は言語の壁がありますが、日本版MOOCも始まり、私たちの学びはさらに便利に広がりました。また、個人が行う自己啓発のみならず、Yahoo!では社員教育の一環としてcourseraのコース受講を社員に推奨するなど、企業での活用も始まっています[参考2-3]。ビジネスモデルに関してはまだこれから感がありますが、ベンチャー企業がどのように生き残っていくのか今後も注目したいと思います。
最後までお読みくださってありがとうございました。

(参考文献)

[参考2-1] A milestone for Signature Track, Certificates for the life-long learner
[参考2-2] 板橋悟著『ビジネスモデルを見える化する ピクト図解』(ダイヤモンド社)の図解表記ルールに準じて作成。
[参考2-3] courser blog (2013/6/19)

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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