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2011年1月21日(金)

行動観察と社会心理学

第12回 チームワークの良さは観察すればわかるか?- “百聞は一見にしかず”行動観察の意義の核心をめぐって-

 ここまで社会心理学で盛んに研究されてきたリーダーシップやチームマネジメントについて論じてきた。社会心理学は、メンバーやリーダーの一人ひとりの心理や行動の特性に注目し、できる限り科学的な測定を行い、条件の違いによって、どんな変化・相違があるのかを明らかにすることに取り組んできた。そして、リーダーがいかにふるまい、組織的にどのようなマネジメントの体制をとると、生き生きとした職場が生まれ、優れたチームパフォーマンスが達成されるかを検討してきた。

 個人による性格や能力の特性はあまりにも多様である。しかもその多様な特性を持った人々がたくさん集まって作り上げる職場やチームは、もともと、気が遠くなるほどそれぞれに個性的でバラエティに富んでいる。そのうえ、組織環境や取り組む課題も様々なのだから、一律に「こうすれば絶対にうまくいく」と断言できる方法を見つけることは、かなり難しいと考えざるを得ない。だからといって、適当にやりすごしていたのでは、やりがいのある仕事に取り組む健全な職場生活を送れるか、優れたチームパフォーマンスをあげて組織目標を達成できるかは、運次第ということになってしまう。もっと自分たちの手でよりよい生活を作り出していきたいものである。

 ここで大事になってくるのが、自分たちの職場やチームの活動のようすを、第三者の目で、丁寧によく観察してみることである。実は、よく観察していれば、職場のチームワークの良さは、観察者には明瞭に“感じ取れる”ものなのである。このことは多くの皆さんが実感した経験をお持ちであろう。

 がんばった選手たちには申し訳ないが、2008年の北京オリンピックに出場した野球の日本代表や、2006年のドイツで開催されたワールドカップに出場した日本代表チームは、結果が芳しくなかったことよりも、選手たちの覇気に欠けるように見える振る舞いやプレーぶりに、国民の不満が集中した。逆に、今年2010年の南アフリカでのワールドカップサッカーにおける日本チームは、結果が素晴らしかったこともあろうが、スター選手が控えに回ってもチームを鼓舞する姿勢を示すなど、チームワークの良さが国民の賞賛を集めた。

 職場や組織やチームの活動を見るとき、我々は、知らず知らずのうちに、メンバー間の連携やコミュニケーションのようすに注目し、評価しているのである。“知らず知らずのうちに”ではなく、目の付け所をきちんと定めて、客観性を高めて科学的に丁寧に観察すれば、分析から導かれる結果は、職場の問題解決や優れたチームワーク育成に必要となる取り組みへの具体的な道筋を明瞭に示してくれるものになる。行動観察の意義はここにあるといえる。

 もっとも、社会心理学の研究に取り組んできた筆者には、行動観察の意義はそれにとどまらないと感じられてならない。我々が、職場やチーム、あるいは集団の活動のようすを観察して、そこから感じ取っているものは、実は目には見えないものであることが多いのだと思う。職場の雰囲気や組織の風土・文化、あるいはチームワークと表現されるものは、目には見えにくいものが多い。したがって、職場やチームのメンバーに質問をしてみて、彼ら自身が自己の所属する職場・チームに備わっていると認知している様々な特性を評価してもらい、それを集計して職場の雰囲気や組織風土を示すものとして取り扱ってきたのが、社会心理学や組織科学である。

 もちろん、このアプローチにも深い意義がある。ただし、職場やチームの全体としての特性には、各人が主観的に認知した結果を足し合わせただけでは説明できない、ひとつのまとまりとしてのものがある。個人個人の認知という部品に分解して、あとで組み合わせ得れば全体になるという性質のものではないも結構あるものだ。まるで個人が一人ひとり人格という個性を持っているのと同じである。

 目には見えないが職場やチームを特徴づけている特性を科学的にとらえて、目に見える形で示すことに取り組む行動観察は、職場の問題解決やチームの健全な育成を考えるときに、実に有益な情報をもたらしてくれる。それと同時に、個人の心理や行動の研究に集中するあまり、その個人が集まって作り上げている社会全体や組織全体、集団全体が保有する心理学的な特性に関する研究はおろそかにされがちなまま発展してきた、ある意味、歪な発展をしてきている社会心理学にとっても、取り組むべき課題とその方法論を示してくれる意味で、実に大切な意義を持つ取り組みである。

 昔から、質の高い仕事をする職人さんたちは、道具にしても素材にしても、しっかりとした観察眼・批評眼・審美眼を持った「目利き」の人たちであった。優れた組織マネジメントやチームマネジメントを実践している管理者やリーダーたちは、経験を積み、成功を体験し、ときに失敗を糧として、しっかりとした組織やチームの「目利き」となり、マネジメントを工夫しているのだろう。そんな「目利き」の人たちは、どこに目をつけて、どんな判断をしているのだろうか。

 この問いに答えるには、観察から何を見いだすかが重要な課題になる。行動観察は、ただ観察するだけではなく、そこから意味のある結果を導き出す取り組みである。そのとき、人間の心理や行動の特性について明らかにしてきた心理学の知見は有益だろう。とりわけ、社会的な環境のもとでの人間心理と行動の特性を探究してきた社会心理学の知見は役に立つと考えられる。「目利き」のすばらしい優れた技を、多くの人々が学べるように橋渡しをしようとするところに、行動観察と社会心理学のコラボレーションの意味があるのだと思う。


 ここまでの12回は、社会心理学の中でも、筆者がメインに研究を行っている集団力学や組織科学との関連の強いトピックを取り上げて論じてきた。しかし、社会心理学の研究の中には、消費者行動やマスコミの影響、デマや流言、流行の普及過程、あるいは、対人関係やコミュニケーション、対人魅力の評価など、行動観察と関連の深いテーマがまだまだたくさんある。次回からは、もう少し視野を広げて、様々な人間の社会行動とその背景で働いている心理を話題にとりあげ、行動観察との関連の中で論じていくことにしたい。

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