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2012年8月24日(金)

行動観察と社会心理学

第26回 チーム力、組織力とは何かについて考える(1)-レジリエンス-

 近年、組織力やチーム力について議論するとき、レジリエンス(resilience)という言葉が飛び交うようになってきている。レジリエンスとは、けがや手術から回復して健康な状態に戻る力を意味するもので医学の世界で良く使われてきた言葉である。弱った体を元に戻す力ということでいえば、復元力と表現するのがふさわしいと言えるだろう。

 過去の経験から学んだ成功原理を踏まえ、一生懸命に努力していれば着実に成果をあげることができていた右肩上がりの時代と異なり、経験したことのない状況や想定外の事態に直面することが多く、期待していたような成果をあげることが容易ではない時代に、我々は生きている。心が折れ、「いっそのこと、すっかり投げ出してあきらめてしまえば楽になれるのではないか」という気持ちに陥りそうになることさえ珍しいことではない。しかし、そんな困難に打ち負かされてしまうのでなく、なんとか目指してきた目標を達成できるように、くじけずにもう一度立ち直り、がんばる精神的な力が注目されるようになっているのである。

 ただ、レジリエンスに関しては、研究領域によって、その概念に微妙な食い違いが存在する。最も活発に研究がなされているのは、臨床心理学の領域と安全と防災に関する人間工学の領域の2領域である。臨床心理学では、精神的に落ち込んでしまった個人の立ち直りを支援する観点から研究が進んできた。これに対し、安全と防災に関する人間工学の領域では、事故や災害に遭遇した際に、被害を最小限にとどめつつ、安全な状態へと復元をはかる個人やチームの行動および組織の対応マネジメントに関心を寄せられてきた。 
 このとき認識しておきたいのは、臨床心理学は主として個人の精神的復元力に焦点を絞っているのに対して、人間工学では、個人の精神力もさることながら、事故や災害の被害を最小限にとどめ、できるだけ早く安全を確保するための行動と判断のスキルの育成と組織のシステムの構築に焦点を当てている。さらに言えば、臨床心理学では個人レベルのレジリエンスを育み高める働きかけを明らかにしていくことが目的になってくるのに対して、人間工学では、個人レベルのみならずチームレベル、組織レベルでレジリエンスを育み高めるための取り組みを明らかにすることが研究の射程に入っている。レジリエンスに関して人間工学的アプローチをとっている著名な研究者であるホルナゲルら(Hollnagel, Woods,& Leveson, 2006)は、レジリエンス・エンジニアリングの取り組みを提唱し、組織としてのレジリエンスを高めるマネジメントの重要性を説いている。

 なお、レジリエンスが、困難や苦境に陥っても、へこたれず落ち込まない、精神的なタフネスとしてとらえられている場合がある。たしかに、落ち込んでも復元する力を身につけることで次第にちょっとやそっとのことではへこたれない精神力が養われることはあり得るだろう。皆が苦難に傷つき精神的にも肉体的にも落ち込んでいるときでも、気分を変えて、顔を上げ、立ち直る力を与えるひと声をかけられるところにベテランの真骨頂があったりする。ただ、落ち込むことなくへこたれない「打たれ強さ」とでも呼ぶべき精神的な強さは、メンタル・タフネスあるいはハーディネスと呼ぶことがふさわしい概念である。レジリエンスは、通常の状態から逸脱して落ち込んだところから、通常の状態に復元させる力を意味する概念であり、あまりに広義なとらえ方は混乱を招くだけであり、注意が必要だ。

 さて、気になるのは、どうずれば個人レベルであれ、チームレベルや組織レベルであれ、レジリエンスを身につけ高めていくことができるのか、という点であろう。レジリエンスを人格的要素のひとつとしてとらえようとする立場もあるが、これでは持って生まれた特性と言うことになって、経験や学習によって身につけていくことは難しいものとなってしまう。果たしてそうであろうか。経験や学習によって成長とともに身につけるものとしてとらえようとする立場からは、少しずつではあるが、貴重な研究の成果も報告されるようになってきている。次回は、個人のレジリエンスの育成と強化には、いかなる取り組みが効果的なのか考えていこう。そして、その議論を基盤にして、チームや組織のレジリエンスを高めるには、いかなる取り組みが効果的か考えていくことにしたい。

<引用文献>
Hollnagel, E., Woods, D. D., Leveson, N. (2006). Resilience engineering: Concepts and percepts. Ashgate Publishing Co.

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