第28回 チーム力、組織力とは何かについて考える(3)-レジリエンスを高める組織マネジメント②-

2012.10.19 山口 裕幸 先生

 組織レベルのレジリエンスは、メンバー皆が相互作用しながら作り上げている全体的な心理的特性である。グループ・ダイナミックスを創始したレヴィン(Kurt Lewin)は、「複数の人間が集まって交流することによって、そこに『心理的場』が作り出される」と指摘したが、組織レジリエンスあるいはチーム・レジリエンスと表現される特性は、集団の「心理的場」に備わる様々な特徴の中のひとつであると考えることができる。

 組織レジリエンスやチーム・レジリエンスを高めるマネジメントを考えるとき、個々のメンバーが保持するレジリエンスを、それぞれレベルアップする取り組みが重要であることは言うまでもない。ただ、組織やチームの「心理的場」は、メンバーの相互作用のあり方によって、その特性が多様に変動する複雑系であることを念頭においたマネジメントが重要だ。優れたメンバーを集めても、強力なチーム力が保証されるとは限らないことは、このコラムの第7回から10回にかけて、すでに述べた通りである。

 「心理的場」は、メンバーが相互作用して作り上げているものなのだが、個々のメンバーには備わっていない特性を帯びることがある。メンバーが集まれば全体として自信のある態度を示すのに、一人ひとりとしてはそれほど自信を持っているわけではないという場合がある(あるいは、その逆もありうる)。全体になることで、その構成メンバーが個々に備えてはいない特性が、生み出される(創発される)のである。そして、大事なポイントは、全体としての心理的場が帯びる特性は、個々のメンバーの心理と行動に影響を及ぼすことである。

 組織レジリエンスを高めるマネジメントのあり方としては、個々のメンバーのレジリエンスを高める働きかけに加えて、全体の心理的場が、強いレジリエンスを備えるような「場づくり」の取り組みを合わせて行うことが大事になる。個から全体への影響と、全体から個への影響を、両方向から活性化する働きかけである。

 その働きかけの中核を担うのが管理者やリーダーである。苦難や試練に遭遇したとき、個々のメンバーの士気を鼓舞し、レジリエンスの発揮を促す働きかけをするとともに、メンバー同士の相互作用が全体のレジリエンスの高まりにつながるように組織全体、チーム全体の心理的場が構築されるように働きかけることが、管理者やリーダーに期待される。

 管理者やリーダーとて人間である以上、想定外の失敗や試練に直面すると、気持ちが一時的に落ち込むことはあっても仕方ない。ただ、彼/彼女らには、その落ち込みかからいち早く立ち直ることが期待される。組織やチームが立ち直り、メンバーも立ち直ることができるには、管理者やリーダーのレジリエンスが出発点になるからだ。

 レジリエンスは、性格のように、元もと個人に備わっている特性としての側面があるが、経験から学び身につける能力としての側面もある。苦難や試練を克服した成功体験を積むことは、レジリエンスを体得する貴重な経験といえるだろう。また、視点や発想を転換させることは、レジリエンスを育む基盤となる。例えば、「困難や試練は、それを克服できる人のもとにしか訪れない」と考えることで、前向きに積極的に苦難と向き合う態度を引き出すことができる。

 こうした苦難や試練を克服した成功体験、あるいは視点や発想の転換による取り組みは、個人レベルの学習に留まるのではなく、組織やチームのメンバーが一緒に経験し、学習し、継承できるものである。管理者やリーダーが、レジリエンスを引き出すような影響をメンバーにもたらすことで、組織やチームの全体に備わったレジリエンスは、新しく入ってきたメンバーに影響を与え、個人レベルでのレジリエンスの獲得を促し、全体のレジリエンスの高まりと継承へとつながるのである。

 レジリエンス自体が,個人レベルの特性、能力ととらえられるものであるため、どうしても、個々のメンバーへの働きかけに視点が偏ってしまう嫌いがあるが、管理者やリーダーのミッションとしては、「優れてレジリエンスの高い場づくり」の視点を忘れないことが大事だ。そのためには、自分たちの組織やチームを取り巻く環境や事態の推移を、「広く」、「高いところから」、そして過去と現在、将来を見通す「長期的な」視野でとらえる力、そして「多様で」、時には「逆からの」視点で捉える力を磨くことが重要になる。

 さらには、安定して安寧に進むルーチンワークに安住せず、困難な事態に陥った場面を多様に想定し、具体的に対応を検討するリスク感性も磨いておくことが望ましい。ほとんどのメンバーが下を向いてしまいかねない事態を想定すれば、管理者やリーダーには、そんなとき自分はどうするかを想定して、具体的な行動を計画しておく周到さが期待される。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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