第29回 チーム力、組織力とは何かについて考える(4)-プロアクティブ行動という視点-

2012.11.15 山口 裕幸 先生

 "プロアクティブ(proactive)"と書くと、人気の高い商品があるせいか、多くの人が真っ先にニキビ予防を連想するようだ。考えてみると、ニキビができないように、たとえ、できてもひどくならないように予防するのは、将来、起こるであろうことを想定し、対応を先取りして実践する行為である。ニキビができた後に、その現実に対応するのは、リアクティブ(reactive)な行動と呼ぶべきものである。多くの場合、我々が行っているのは、リアクティブな対応である。しかし、それだけでなく、将来のことを考えて、今からでもできることは、前もって対応を先取りしてしまおうというのが、プロアクティブ行動の考え方である。これからの組織力を考えるとき、このプロアクティブな行動がとれるか否かは、重要な鍵を握っている。

 改めて指摘するまでもなく、我々の生きている現代社会は、様々な変化が絶え間なく襲いかかってきて、今までは通用してきた判断や仕事のやり方が通用しなくなったり、経験したことのないような課題解決に取り組まなければならないことが起こったりする、多様で変動性に富むものになっている。新たな課題に直面する度に,いちいち立ち止まり、対応を検討しているのでは、どうしても後手をふむものになってしまうことが多い。チーム力や組織力の育成強化を考えるとき、この難問への対応を行うことは大切な取り組みになる。

 とはいえ、正確に将来を見通すことは難しい。いや、不可能と考えるべきだろう。ここで、そんな占いじみた話しをしようというわけではない。プロアクティブ行動の考え方は、将来の「現実」をピンポイントに予測しようとするものではない。では、いったいどのような考え方だというのだろうか。

 まずは、将来のあるべき姿を思い描く態度を持つところから始めよう。これは、自分が、あるいは自分の会社が、将来、どのような存在になろうとするのかを、自律的にデザインする姿勢を意味する。もちろん、社会の変動や、自然の変化は、そうした思い描く目標の姿に近づくのを阻害するように働く場合もあるだろう。そこで大事になるのが、「そういうこともあるだろう」と予め思っておくことである。

 何が起こるか、ピンポイントに予測するのは不可能であっても、「想定外の障がいが発生することもありうるものさ」と思っておく。そのうえで、自分(たち)が目指す目標はぶれることなく見定めておくのである。激動、激変とも表現されるような環境の変動のもとで、目標をぶれずに見定めておくことは、容易なことではない。どうしても下を向いてしまいがちだ。だからこそ、この目標は、平時に、自分(たち)の将来のあるべき姿、実現したい理想像を、主体的に思い描き、具体化したものであることが望まれる。

 前回までお話ししたレジリエンスも、自分のあるべき姿を思い描けるか否かによって、その活力に違いが出てきてしまう。「苦しくてもなんとか克服できるさ」という効力感を持っていることは大切であるが、そこに活力を与えるのは、自分の目標とする姿を持っていることである。一度は挫折し、落ち込んだとしても、そこから徐々にでも立ち直り、前へと進み、回復していく過程では、この目標の存在は大きい。

 さて、将来のあるべき姿を明確に自律的に思い描くことをすれば、プロアクティブだといえるのだろうか。厳しいようだが、それではまだ道なかばなのである。思うに任せない状況や、思いもよらない事態に直面することの続く中で、へこたれずにレジリエンスを発揮して、前進するには、もう一歩、次なるステップに踏み出す必要がある。次回、その次なるステップについて論じよう。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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