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2013年2月15日(金)

行動観察と社会心理学

第32回 チーム力、組織力とは何かについて考える(7)-ミッション共有は意外と難しい-

 チームのミッションをメンバー全員で理解し共有することは、それほど難しいことではなさそうな感じがするかもしれない。皆で集まり、意見交換し、「このミッションの達成に向けて皆で力を合わせていこう」と合意すれば事足りるように思える。ところが、会議を開いて皆で決定しても、そこで話し合われた内容が、メンバー皆に共有されるとは限らないことが、社会心理学の実験によって明らかにされている。ミッションの共有は、思いの外、困難な課題なのである。

  話し合いで交わされた情報が、メンバーにどのくらい共有されるのか、ステイサーとタイタス(Stasser & Titus, 2003)は、一連の実験を行って確かめている。その代表的なものに次のような実験がある。彼らは、7人の実験参加者を実験室に集め、彼らのグループのリーダー候補者が2人いて、どちらかに決めなければならないので、まず7人で話し合って意見交換した後、投票によって決するという課題を与えた。その話し合いの前に、ステイサーたちは、2人の候補者それぞれの長所を書いたメモを実験参加者に与えた。そのメモには、候補者Xさんの長所が1個と、もう一人の候補者Yさんの長所3個が書かれていた。ただし、Xさんの長所は全部で7つあり、実験参加者各自にひとつずつばらばらに書いてあったのに対して、Yさんの長所は全部で3つなのだが、実験参加者全員のメモにその3つ全部が書かれていた。

 さて、実験参加者たちは、話し合いの前は、長所が[Xさん1個]対[Yさん3個]だと思っていても、話し合いをして他者の情報を自分の知識にして共有が進めば、実は長所は[Xさん7個]対「Yさん3個」だと気づくことが理論的には予想される。その結果、Xさんに投票する人が多くなり、Xさんがリーダーとして選ばれるものと推測できる。

 ところが実験結果は、予想とは逆に、Yさんに投票する人が多く、結局、Yさんをリーダーに選出するグループの方が多かったのである。ステイサーたちの実験結果は関心を集めいくつか追試も行われているが、その結果はほぼ一貫している。なぜ結局のところ3つしか長所のないYさんが、全部で7つの長所を持つXさんよりも多くの票を集めたのであろうか。これらの結果は、話し合い、メンバーどうしで情報を交換して、それを各自が自分の知識としても、いざ投票をどちらにしようかと考えたとき、話し合いで得た知識よりも、もともと自分が持っていた知識の方を優先して判断したことを示している。

 個人が何らかの判断を迫られたとき、新しく入手した情報よりも以前から保持してきた知識の方を優先し、それに基づいた意思決定を行う現象は、「調整と係留のヒューリスティックス」と呼ばれ、しばしばヒューマン・エラーの事例に登場する。新たな情報が入ってきていても、それを生かし切れず、むしろ「以前から自分が知っていたことの方が確かだろう」と思い込んでしまうのである。

 こうした研究例ひとつとっても、ミッションの共有は、会議を開いて確認しあえば成り立つほど容易なものではないことがわかっていただけるだろう。身の回りで起こる出来事をメンバーが認知する際、あるいは、何か判断をするときや行動を起こす際、メンバー皆が常にミッションの達成を志向しながらそれを行えるならば、ミッションの共有は実現されたといえる。そのような状態を作り上げるには、会議や討論のようなフォーマルなものだけでなく、互いの考え方や価値観、趣味などを紹介しあえるインフォーマルでざっくばらんな情報交換の場を作る工夫が効果的であると言われている。ダイアローグと呼ばれるそうした率直な意見交換の場は、かつては多くの職場で見られたものであるが、近年、わが国では次第に少なくなっているようである。ダイアローグのような場が、なぜミッションの共有を促進するのか、その効果のメカニズムについて、次回、詳しく考えてみることにしよう。

<引用文献>
Stasser, G., & Titus, W. (2003). Hidden profiles: A brief history. Psychological Inquiry: An International Journal for the Advancement of Psychological Theory, vol.14 (3-4), 304-313.

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