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2014年11月10日(月)

行動観察と社会心理学

第52回 会議の社会心理学(1)-話し合えば的確な決定を導けるか-

 会議の多さに辟易としているビジネスパーソンは多いのではないだろうか。私の勤務する大学でも、教員どうしが顔をあわせるたびに、会議に時間を取られることへの愚痴が飛び交うものである。ビジネスシーンのみならず、小学校のクラスルームでも、町内会の寄り合いでも、マンションの理事会でも、我々は生活の様々な局面で話し合いを行っている。なぜ、こんなにも我々は話しあいをするのだろうか。

 我々が何かにつけ話し合いを行う理由としては、4つの期待の存在を挙げることができるだろう。第1には、一人で判断するよりも、話し合った方が、的確な判断ができるだろうという期待である。第2には、一人で考えるよりも皆で知恵を出し合った方が、それまでにない創造的なアイディアを生み出せるのではないかという期待である。第3には、様々に利害の対立や見解の相違がある中でも、話し合えば民意を反映した決定をすることができるだろうという期待である。第4には、話し合いをして意見交換をすれば、メンバー全員が同じ情報を共有して、仕事をしたり、事態に対応したりできるだろうという期待がある。

 さて、これらの期待は果たして叶えられているのだろうか。今回は、まず第1の期待に焦点を当て、これが確かに叶えられるのか検討してみよう。すなわち、皆で話し合った方が、個人の判断に委ねるより的確な判断が確かに導けるのだろうか。

 こうした問題を考えるときに貴重な示唆をもたらしてくれるのが、NASA(アメリカ宇宙航空局)の宇宙飛行士選抜試験で使われたサバイバル課題を使った集団討議の実験結果である。具体的には、月面着陸の際に、着陸船の不調により母船と大きく離れたところに着陸してしまったという場面を想定し、遥か遠くの母船まで月面を歩いて移動しなければならないが、無事移動するには、着陸船の備品の中から手元に確保した15種類の物品(開いているパラシュート、岩塩、ナイフ、ピストル等々)のどれが重要なのか、重要度に応じて順位をつけるという課題である。NASAが示した正解があるので、回答との誤差を算出すれば、回答者各自の判断の的確さと話し合って導いた集団決定の的確さの双方を明確に測定することができる。したがって、これらを比較すれば、話し合った方が確かに的確な判断ができるのか実証的なデータに基づいて検討することが可能になる。

 私は学生たちを対象に、このサバイバル課題を活用して、何度か集団意思決定実験を実施して来た。実験結果は、集団決定の成績は、その集団のメンバー各自の個人決定の成績の平均値よりも、より優秀なものになることを示すことが多かった。しかし、その集団の中の最優秀(最的確)の成績を示す個人よりも集団決定が優秀なものになることはほとんどないし、逆に最低(最不的確)の成績を示す個人よりも集団決定が劣悪なものになることもほとんどない。つまり、全員で意見交換する過程で、互いに影響を及ぼし及ぼされて、次第に平均的な決定に近づきながら、少しだけ的確な判断が加味されていくものと思われる。

 こうした実験結果は、集団で話し合うことによって、個人の判断の平均よりも的確な判断に近づくことが多いと考えてよいことを示唆している。しかし、この見解には、メンバーの判断や考え方が偏ることなく多様なものである場合という条件付きである。というのも、一定の条件が整うことによって、集団で話し合って導く決定は、その集団のメンバー個々の判断や考え方を超越して、非常に極端なものになることが実証的に明らかにされているからである。

 集団のメンバーによって個々に多様な考え方や判断が存在する場合には、時には意見を闘わせながら対立したり、論争したりすることで、お互いに納得できる中間点へと調整が進むことになる。今回紹介したサバイバル課題を使った集団討議の過程では、このような相互作用が見られることが多い。そんな場合、調整過程で皆の知恵が的確な判断に近づく形で反映されるのであろう。

 問題は、メンバーの判断や考え方が似通っている場合である。そんな場合、どのようなメンバーどうしの関係性の変動性(=グループ・ダイナミックス)が生まれ、結果としてどのような特徴を持った集団決定につながりやすいのであろうか。この問題について、次回は論じて行くことにしよう。

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