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2015年8月17日(月)

行動観察と社会心理学

第61回 組織の集合知性を育むには(2)-組織に潜在する集合知性の創発を阻む障壁-

 前回、メンバーそれぞれが持っている知識や知恵を他のメンバーにも提供し合い、疑問があれば議論して、より的確な知識と知恵に練り上げる仕組みが整っていることが、集合知性が働くための鍵を握っていると指摘した。インターネットの世界を覗けば、むしろ人々が自己の持つ情報や知恵を惜しげもなく提供しあっていることを確認できる。確かにICT(information communication technology: 情報コミュニケーション技術)の発展は社会全体の集合知性の創発を促進していると言えるだろう。

 ところが、組織の現状に目を向けると、メンバーは細分化された各自の職務の遂行に関心が集中してしまう。その結果、所属する部署内でのコミュニケーションに終始し、他の部署との意思疎通や、他の部署や組織外部からの情報には注意を払わず、部署間の連携は滞りがちで、組織全体としては効率が悪い状況が生まれがちである。こうした現象は最近では「サイロ化現象」と呼ばれ、組織の効率性を阻害する原因として、克服する必要性が指摘されている。

 見知らぬ人々と交流するインターネットの世界では、Wikipediaをはじめとして、集合知性の創発の具体例が見られるのに、組織の中では、それとは逆のサイロ化が進むというのは興味深い問題である。

 全体で達成すべき目標を持ち、その達成のために必要となる業務を整理して細分化し、メンバー各自に割り振るのが組織の特徴である。個々のメンバーにしてみると、「これがあなたの仕事であり、その職責を果たすように」と要請されているのであるから、その通りにしているだけのことで、自分の頑張りがサイロ化現象につながるとは思っていない。

 ただ、視野が自分の職責を果たすことにのみ集中する傾向が強く、組織全体の目標達成への関心は比較的うすいものになりがちである。自分の職責を果たすには、まずは自己の所属する部署のメンバーとのコミュニケーションや協同行動が大事であり、他部署とのそれは、優先順位の低いものになってしまう。分業という組織ならではの知恵は、組織の集合知性を育もうとするとき、潜在的な障壁として機能する側面も持っていて、組織に必須の分業システムの導入と、組織の集合的知性の育成とは、素朴なトレードオフの関係にあると見ることができる。

 集団や社会が、まとまりとして全体的な知恵を創発するためには、より多くの人々とつながってコミュニケーションをとれることが重要な鍵を握っていた。組織の場合、そうしたコミュニケーション・システムはすでに十全に整っている。しかも、対面状況でのコミュニケーションが日常的に確保されていることがほとんどである。場合によっては、グループ・ウェアのような集団コミュニケーションをより促進するようにデザインされたシステムが導入されていることもあるだろう。しかし、分業という組織が逃れるすべのない特性ゆえに、サイロ化は進み、組織の集合知性の創発は難しい。この障壁を越える方法はどこにもないのだろうか。

 知性に関わることなので、脳の話題を参考にしよう。亀田(2015)は、「ヒト成人では、脳の重さは体全体の5%ほどしかないのに対して、脳の代謝するエネルギーは全体の20%に上る。このような高コストにもかかわらず、ヒトを含む類人猿が大きな脳を進化的に獲得・維持してきたという事実の理由は、当然、コストに見合うだけの重要な適応課題があったからに違いない。」と指摘している。適応すべき課題との直面は脳の進化さえも引き起こしたと考えられるのである。

 組織は環境に開かれたオープン・システムであり、社会環境に適応していくべき存在である。とすれば、組織にとっても、これまでの対応の仕方では適応できない課題との直面が、部署を超え、組織を超えて、外界とつながり、コミュニケーションを交わす現象を引き起こすことは可能であろう。そこに組織の集合知性を育む基盤があるのではないだろうか。現在の社会において、どのような変動が組織の集合知性を育む基盤として機能しうるだろうか。次回はそんな視点を取り入れつつ、組織の集合知性を育む術(すべ)について考えていくことにしたい。

<引用文献>
亀田達也 (2015).  「社会の決まりはどのように決まるか」という問い 西條辰義(監修)・亀田達也(編著)フロンティア実験社会科学6巻『「社会の決まり」はどのように決まるか』 勁草書房 Pp.3-13.

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