BLOG

ブログ

新サービスや自主調査結果、関連する学問領域のコラムなどを掲載しています。

著者別記事一覧

2016年5月23日(月)

行動観察と社会心理学

第70回 信頼性の高い行動観察を行うために(4)-「他人の目」を意識することはどれほど行動に影響するか-

 ラッシュアワーの駅やバーゲンセールでにぎわうデパートのように、たくさんの人が集まっている群集の中にいると、知らず知らずのうちにある心理的な罠に陥ってしまうことがある。それは、「没個性化」と呼ばれる心理である。段階を追って説明して行こう。

 群集の中にいると、そこにいるほとんどの人は、自分のことを「どこの誰なのか」知らないのだと感じて、匿名性が保証されているという感覚を持ってしまいがちである。ハンドルネームを使用して自分がどこの誰であるかわからないようにしてコミュニケーションをとることができるインターネットの世界も、群集状況同様に、匿名性が保証されているという感覚を強く持つ環境だといえるだろう。

 もうひとつ気になることとして、周囲にたくさんの人がいる状況では、その場で果たすべき責任は、みんなで分け合っているのだから、一人ひとりの責任は小さいように感じてしまう責任性分散の心理現象も起こりがちである。この心理現象は「傍観者効果」と呼ばれており、ラタネとダーリー(Darley and Latane, 1968; Latane and Darley, 1970)の一連の実証研究によって、その起こりやすさと影響の強さが確かめられている。

 ジンバルドー(Zimbardo, 1969)は、匿名性が保証されている、あるいは責任が分散されていると感じ取るとき、人間は自己規制意識(自分の言動をコントロールしようとする意識)が低下してしまい、「没個性化」が生じると指摘している。そして、没個性化が生じると、衝動的で、情緒的な、非合理的行動が現われやすくなると指摘している。

 また、周囲の人々の行動に強く影響を与えることも指摘している。没個性化が生じるような群集状況では、そこにいる誰もが同じような心理状態になっていて、一人の衝動的な言動が引き金となって、周囲に一気に同様の言動を引き起こすことになる可能性が高いというのである。平穏にデモ活動を行っていた人たちが、何らかの出来事を契機に、暴徒化する現象も、この没個性化の心理が背景で働いていると考えることができる。

 我々は、「他者の存在」を気にする動物であることを、このコラムの初回でも紹介した。そして、没個性化の背後で働いている、匿名性の感覚や責任性が分散されているという感覚が生まれるときには、「他者の存在」を気にするところから、もう一歩進んで、「他人の目を意識する」心理が重要な役割を果たしていると考えられる。つまり、日頃、我々が自分の衝動や感情をコントロールして、理性的に振る舞うのは、他人の目を意識しているからであり、それを意識しなくてもいい状況であると認知することで、衝動や感情にまかせた非合理的な、いわば反社会的な行動をとってしまうことが起こると考えられるのである。

 筆者などは、他人の目を気にすることなく、堂々と自分らしく行動したいと、常日頃、安易に思っているが、他人の目を気にするからこそ、筆者のような人間でも、それなりに理性的に振る舞うことができて、社会的に受け入れてもらえるのだと考えることも大事だろう。

 「他人の目」を意識する心理は、「自分の評判」を気にする心理と関連が深い。最近では、人間は、集団生活の中では自分の評判を気にする心理が素朴に働いていて、周囲の人々から協力的な人だという評判を得るために、逆に言うと、非協力的で利己的な人だという評判を得ることがないように、周囲と協調的に振る舞うのだという社会心理学の研究も生まれてきている。

 周囲の人々に悪く評価されてしまうと、集団から孤立してしまうことにつながりかねない。人間は、誰でもひとりでは生きていけない。人類がアフリカの大地に降り立ったときから数十万年、我々の祖先は、周囲の人々と協力し合って集団で命をつないできたのである。原始の時代、孤立は人間にとって即座に死を意味した。孤立への恐怖は、死の恐怖と密接につながっている。孤立しないためには、周囲と協調的に振る舞うことが大事だ。だから我々は他人の目を気にせざるを得ないのである。こうして、「他人の目」を意識する心理は、人間の行動に強力な影響を及ぼしているのである。

 今回は、他人の目を意識する心理がもたらす影響について考えてきた。では、他人の目を意識しなくなることで、具体的にどんな行動が起こりやすくなるのだろうか。次回は、こんな視点から、群集行動の理解を進めていくことにしたい。

<引用文献>
Zimbardo, P. G. (1969). The human choice: Individuation, reason, and order versus deindividuation, impulse, and chaos. In Nebraska symposium on motivation. University of Nebraska Press.  pp.237-307

Darley, J. M., & Latane, B. (1968). Bystander intervention in emergencies: diffusion of responsibility. Journal of personality and social psychology, 8(4p1), 377.

Latane, B., & Darley, J. M. (1970). The unresponsive bystander: Why doesn't he help?.

ブログの更新情報は
Facebookでもお知らせしています