第11回 モノやシステムの本質を把握する(1)

2017.04.26 山岡 俊樹 先生

 先日、ある展示会があり、大阪市交通局南港ポートタウン線のある駅で下車した。高架の駅に接続している円筒状の通路を通り、その端から階段で下の道路へ降りるというデザインになっていた。円筒状なので、通ると不思議な感覚が醸成されて、興味深い体験をさせてくれるのだが、たかだか10m程度である。この通路の本質は何かと考えると、通行人を安全に快適に移動させることであろう。断面を円にしたため、断面の両端に使えないデッドスペースが発生し、通行幅が狭くなり、車椅子ユーザなどは通行が困難になるのだろうと思われる。このような円筒状のデザインは魅力的で、パリのシャルルドゴール空港でも見たことがある。

 しかし、公共施設で多数の通行客がある場合も想定すると問題点が多い。なぜそのようなデザインなのか?デザインするモノ・システムの本質を把握してからデザインすべきである。この円筒状の通路は造形やイメージを先行してデザインしていると思われる。勿論、美術館のように象徴的なデザインを志向する場合も有るが、美術館の本質を考えると機能的側面よりも象徴的側面のほうが、ウエイトが高くなり、合理的である。

 図2のJRの電車は、多くの乗客を乗せるため、本体上部の幅を広げたデザインである。下部は駅のホームとの関係から広げられないので、本体下部が絞り込まれた引き締まったデザインとなっている。

 一方、図3の電車の方は、私鉄の何社かが採用したデザインで、イメージ優先により、円弧状の側面形状にしたようである。側面の上部と下部の車幅を短くして、円弧状にしたため、室内空間は狭くなっていると思われる。その為、座ったときに頭と窓ガラスが接近した状態となり、あまり気持ちの良いものではない。また、構造的にはコスト高となっている。乗客にとってのメリットは、造形上のソフトなイメージ以外、見当たらない。しかし、通勤用なので、色彩などで華やかさが無く、折角デザインしたソフトな形状が生きていない。JRの電車の方は、合理的な理由があり、空間が広くなり、乗客にとってはメリットがある。

 実は、建築や各種製品等で、それらの持つ本質よりもイメージ優先でデザインされた例が多く見受けられる。そのモノの本質を捉え、その本質を短い一文にし、それをブレークダウン(分解)すると、本質に関する要求事項を抽出することができる。更に、抽出した要求事項を分解してゆくと具体的なデザイン項目を探し出すことができる。このような具体的なデザイン項目を基に可視化すれば、本質に対応したデザインが可能となる。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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