第35回 温かいデザイン(11)

2019.07.31 山岡 俊樹 先生

 人間からオブジェクトを見たときの心理的な距離を意味する心理的距離という基準、概念を考えている。例えば、温かいデザインならばその心理的な距離は短く感じられるだろうし、冷たいデザインならばその距離は遠く感じられる。

 このような仮説を基に社会人にアンケートをとってみた。人間が身近で使うサインペン、シャンプー、次にそれよりも距離をおいて使われる商品として、2種類のオーディオ機器(Bose wave, Tivoli audio)を決めた。更に距離が遠く住空間の一部として使われている商品として、エアコン、冷蔵庫を選出し、評価対象商品とした。調査協力者は社会人116名(男性65名、女性51名)であった。方法として、調査協力者に前述の6商品の写真を見せて、5段階評価(非常に近い(1点),近い(2点),普通(3点),遠い(4点),非常に遠い(5点))を行ってもらった。従って,平均点が少ないほど心理的距離は短いという評価になる。

 結果として、日常、手元で使うサインペンとシャンプーは、心理的距離感の評価点(平均点)がそれぞれ2.2と2.4であった。両商品とも女性の方が、数値が低かった。これは女性の方が男性よりも両商品に対する親近性を持っているためと考えられる。オーディオ機器(BOSE)とオーディオ機器(Tivoli)は比較的数値が高く3.1と2.9であった。Tivoliは本体に木材を使用しているためか、典型的なモダンデザインであるBoseよりも心理的距離が短いとの評価であった。また、女性はTivoliの方に短い心理的距離感を感じている。冷蔵庫とクーラーでは、男女とも身近で使う機器のためか冷蔵庫の方が心理的距離感を短く感じている。
以上をまとめると以下の通りとなった。

①身近で使う機器の方が心理的距離感は短い。
Bose>エアコン>Tivoli>冷蔵庫>シャンプー>サインペン

②オーディオ機器だけなのと形状も影響するので、一概には言えないが、木材などの自然素材の使用は、心理的距離感を短くする。

③オーディオ機器は他の4商品と比較すると、使用頻度はそれほど差が無いと思われるが、非日常品であり、技術面での先進性のイメージがあり、心理的距離感が遠いという判断となっている。

 この心理的距離の概念を活用するとなかなか説明しにくいことが比較的容易になる。例えば、ホームページに出ていたユニクロの写真(図1)とシャネルの写真(図2)を見てほしい。

 ユニクロの広告は温かい感じがして、心理的距離は短い。一方、シャネルの広告は温かい感じが無く、その心理的距離は遠い。これは両社が取り扱っている商品の違いの為である。ユニクロの製品は価格が安く、下着ということもあり、温かいイメージで、その心理的距離は短くして、親しみを持たせている。シャネルの製品は高級のため、近寄りがたいイメージにして憧れを醸し出しており、その為心理的距離が遠くなるようにしている。

 このように心理的距離は温かいデザインの評価基準にもなり、あるいは写真や記号論的な見方にも判断基準として使えるだろう。

 なお、心理的距離の詳しい報告は、2019年度デザイン人間工学報告会(大阪:8月30日(金),東京:9月10日(火) https://yamaokalab.wixsite.com/design2019)で行うので、参加されたい。

引用
(1)「UNIQLO|ユニクロ公式オンラインストア」2019年7月22日現在
https://www.uniqlo.com/jp/
(2)「2019 春夏 プレタポルテ コレクション ショー - 2019年春夏 ? CHANEL」2019年7月22日現在
https://www.chanel.com/ja_JP/fashion/collection/show-spring-summer-2019.html

※先生のご所属は執筆当時のものです。

関連記事一覧