第25回 サービスを構造的に観察する(2)

2012.07.12 山岡 俊樹 先生

 前回はサービスの構造をフレームにして、対象を見てゆく方法を述べた。これに従って、観察しても良いのであるが、少し粗いのでもう少し詳細にして、時間軸上でも分析できるようにしたのが、下記に示すサービスタスク分析である。


  図1 サービスタスク分析

 サービスタスク分析は、顧客-機械(システム)、顧客-サービス提供者、時間、顧客-環境、サービス提供者-機械(システム)、マネージメント、の6側面から問題点抽出や要求事項記述をしてゆく方法である。この6側面は、サービス構造図から演繹的に抽出された項目である。

(1)顧客-機械(システム)

 人間の情報処理プロセスは外界から、目や耳などを使って外界の情報を入手し、この情報を基に理解し判断を行う。そして、判断した結果は手や足などを使って操作を行い、人間の意思を機械(システム)に伝える。このサイクルの繰り返しで目的を達成する。この情報処理プロセスに対応して抽出された情報処理プロセスの3ステップが、情報入手、理解・判断、操作である。情報入手は、外界から情報を入手するために必要な項目で、見えやすいか(見るための視角、明るさ、対比、露出時間の4条件)どうかチェックする。理解・判断は入力された情報を理解し、判断するプロセスでメンタルモデルが構築されているか、分かり易いかがポイントである。ここではメンタルモデルを操作イメージと定義するが、メンタルモデルは操作する上で羅針盤のような操作するときの拠り所となるものである。分かり易いというのは、レイアウトや用語などが該当する。

(2)顧客-サービス提供者

 サービス提供者はお客(設備なども含まれる)に関して、気配りを行い、何か問題あれば、適切な対応を計画し、最適な態度で対応しなければならない。

 気配り:サービス提供者は顧客の行動を「共感」「配慮」し、何か困っているのか気配りを行う。

 適切な対応:サービス提供者は、気配りにより顧客の状況を把握し、「柔軟」「正確」「安心」「迅速(時間)」「平等」の視点で、対応を行う。

 態度:態度は顧客のプライドを尊重するという方針の下に、「共感」「信頼感」「寛容」な態度が必要である。

(3)時間

 時間は、顧客-サービス提供者の適切な対応と重複するが、操作・作業時間、休憩時間、一息、(機械、提供者からの)反応時間、の3項目を検討する。

(4)顧客-環境

 デザイン系要素と生理系要素に分けて考える。デザイン系要素として、形態、色彩、サイズ、質感、照明などがある。一方、生理系要素として、温度、湿度、気流、照明、騒音、振動などがある。ここでの照明は、生理的な意味での見易さなどを確保するための明るさである。

(5)サービス提供者-機械(システム)

 機械のメンテナンスを意味し、近接性の確保と修復性の確保、の観点から検討する。近接性の確保とは、メンテナンス時のアクセスの容易さを意味し、(a)作業スペース、(b)最適作業姿勢の確保、(c)最適な作業時間、(d)最適なレイアウト、の項目を検討する。修復性の確保とは修復性を保証するためで、(a)構造の簡素化、(b)分解のしやすさ、(c)部品交換の容易性、(d)部品のユニット・標準化、(e)工具の統一、の対応策がある。

(6)マネージメント

 マネージメントは、前述した(1)から(5)の項目に影響を与える側面である。サービス提供組織の方針、関係者間の情報の共有化、サービス提供者への動機付け、の3つの視点から問題点を抽出したり、要求事項を検討する。このマネージメントの3項目は、人間をアナロジーとして、人間の脳が組織の方針、血液が情報の共有化、そして手足などの各部位の活性化がサービス提供者の動機付けと対応している。

(7)要求事項

 要求事項は上記の(1)から(6)までに得た問題点を要求事項にした項目を記入する。

 従来のタスク分析は、人間-機械系に限定して分析していたが、このサービスタスク分析は、人間-機械系だけでなく他の5項目を加えたサービスというシステムに対して、多面的な側面から分析する方法といえる。この方法の使い方は、各セルに問題点を記入し、それの解決案である要求事項を要求事項の行に記入する。あるいは、直接、各セルに要求事項を書いても良い。

 例えば、レストランで注文するタスクでは、サービス提供者がメモも取らずに注文を聞いた場合、[注文]のタスクにおいて、顧客-サービス提供者>適切な対応(正確)の項目に対して、[メモを取らない]という問題点を書くか、[メモを取る,復唱をする]という要求事項を書く。問題点を書く場合の注意事項は、優秀なサービス提供者の場合、少しの問題点しか抽出できないので、注意を要する。これを避けるには、多くのサービス提供者を活用することである。その点、要求事項を直接書く方法は、大変であるが漏れなく要求事項を抽出できる。この場合、記述者は幅広い知識と観察経験が必要である。

※先生のご所属は執筆当時のものです。

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