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2010年2月2日(火)

行動観察と社会心理学

第6回 部下のやる気を引き出す働きかけとは?-コーチングの視点に基づいて-

 先月のコラムのエンディングのところで、部下のやる気を引き出すには、目標を部下自身が設定するようにお膳立てすることが大事であると述べた。家庭ならば、部下を子ども、あるいは日曜日にごろごろしている夫と見立てても良い。我々の社会生活は、自分の好きなことや関心の持てることに専念していて成り立つほど甘いものではない。嫌なことでもやらねばならないことは多い。筆者も、種々の会議出席や書類作成作業は、身の毛もよだつほど苦手である。しかし、やらねばならない。しかも、気合いを入れてきちんと的確にやらないと、後々、自分が困ることになったり、周囲に迷惑をかけたりしてしまうことになりかねない。やはり、やる気を奮い起こして取り組みことが大事だ。仕事も勉強も家事も同じである。

 ただし、部下が自分自身で目標を設定するようにお膳立てするといっても、上手にやろうと思えば一筋縄ではいかない。なぜなら、嫌な仕事や苦手なことであれば、自ずと設定する目標を低いレベルのもので"よし"としてしまがちなのが、人間の性(さが)だからである。低いレベルの目標設定で"のほほん"としている人に、成長や発展は期待できない。そもそも、低品質の仕事しかできない可能性が大きい。たとえ苦手なことであっても、主観的成功の確率が50%前後の目標を設定するような働きかけが、やる気を引き出すお膳立てとしては肝要になってくる(なぜかは前回を参照していただきたい)。

 お膳立ての根幹をなすのは、本人の意見・考えを良く聞くことである。聞くことを基軸としながら、部下がやる気を持って取り組むレベルの目標を設定するように働きかけることになる。この働きかけを効果的に行おうとするとき、有益な枠組みとなるのが、コーチングの考え方である。身近に聞くことの多い"トレーニング"の語源がtrain(汽車)で、敷かれたレールの上をきちんと走ることができるようにする取り組みであるのに対して、コーチングの語源はcoach(幌馬車)であり、荒野の中で道なき道を捜しながら目的地に向かって進んでいけるようにする取り組みである。言い換えると、本人が自らの進むべき道を切り開きながら成長していく力量を身につけてもらうための働きかけといえる。

 コーチングの基本的な働きかけは、図のようなサイクルに描くことができる。大事なことは、まず関心を持って丁寧に<観察>してあげることである。そして、部下が目標設定に戸惑っていたり、安易な目標設定でお茶を濁そうとしたりしている場面では、観察したことに基づきながら、部下の考えを尋ね、それに根気強く耳を傾ける<傾聴>を徹底して行う。このとき、ついつい「それならこうしたらよい」とか「私ならばこうする」といったアドバイスや結論を口にしてしまいそうになることが多い。しかし、それはせっかくの<観察>と<傾聴>を台無しにしてしまいかねないので注意が必要である。コーチングの極意は「答えは本人が持っている」と考えるところにある。したがって、安易に解決策や助言を口にするのではなく<質問>してあげることを心がける。質問に答えることで、本人が解決策に気づくようにすることが肝要である。自分で気づくことが、その人の力量を高めるし、的確な目標設定につながる。そして、一連のやりとりの中で、気づいたこと、わかったことを<整理>して、理解や認知が不十分であれば、助言も行う。そうして、また観察のステージに戻るのである。

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 もちろん、コーチングの取り組み自体が、たやすくできることではない。一定の経験と訓練が必要である。ただ、民主型のリーダーシップを発揮している管理者・リーダーたちは、部下のやる気を引き出していたというホワイトとリピットの研究結果(第4回のコラムで紹介した)からも示唆されるように、優れたリーダーはコーチングの基礎的な枠組みに則った働きかけをしていることが推測される。部下の自律性を尊重するからこそ、いざというとき、部下たちはリーダーの指示命令に率先して従うまとまりを見せるという構図があると考えられるのである。

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