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インタビュー

無駄なようで無駄じゃないソフトウェアコンテスト優勝者インタビュー

アイデア出しからものづくりまで 同じ研究室の8人で挑んだコンテスト
インタビュアー:オージス総研技術部アジャイル開発センター長 兼 コンテスト事務局長 藤井拓
コンテスト事務局 木村めぐみ
2017年2月9日

昨年11月16日に開催したオージス総研主催のソフトウェアアイデアコンテストOGIS-RI Software Challenge Award 「無駄なようで無駄じゃないソフトウェアコンテスト」で優勝したkbylabチームへのインタビューをお届けします。信州大学工学部へ訪問し、優勝者インタビューに加え、メンバーが在籍する小林研究室の小林一樹准教授からもお話を伺いました。

優勝チーム「kbylab」メンバーご紹介

チーム「kbylab」
信州大学大学院理工学研究科 長谷川 峻一さん 倉谷 典明さん 石原 義久さん 中村 俊樹さん Narayan Sharmaさん
信州大学工学部電子情報システム工学科 先田 真太郎さん 野口 遥平さん 吉村 貴大さん

チームkbylab
研究室の前にて左から吉村さん、野口さん、Narayanさん、倉谷さん、長谷川さん、中村さん、先田さん、石原さん

-- 皆さん、今回は優勝おめでとうございます。まずは自己紹介をお願いできますか。

倉谷さん

倉谷- 修士2年の倉谷です。今回はハードウェアの設計と開発を主に行っていました。この企画自体も最初の頃から長谷川くんと一緒に楽しんでやってきました。

先田さん

先田- 学部4年の先田です。僕も倉谷さんと同じハード班で、主に倉谷さんの下で指導を受けながら椅子の設計などを担当しました。

Narayanさん

Narayan- 私はネパールからの留学生Narayan Sharmaです。2016年10月からこちらの研究室に来ました。今回の研究ではハードウェアのほうで、倉谷さん、長谷川さん、先輩たちからいろいろ勉強することになりました。

石原さん

石原- 修士1年の石原です。今回のコンテストでは、バック班ということでフロントとハード側をつなぐ部分を担当しました。今回初めてやったサーバーのことだったり何かと大変なことがありましたが、がんばらせていただきました。

野口さん

野口- 学部4年の野口です。私もバックエンド班としてプログラム制作をメインに担当しました。石原さんからご指示いただいて、全てのプログラムの中心から指示を出す部分に携わりました。仕様変更が突如として現れたり、何かが急に動かなくなったときにどこでバグが起きてるのか分からなくて散々つらい思いもしましたけど、おかげさまでバグがなくしっかり動くプログラムができました。

吉村さん

吉村- 学部4年の吉村です。僕も石原さん、野口くんと一緒にバック班として微力ながらいろいろやっていましたが、どちらかというと僕のメインの仕事は貧乏ゆすりのテストでした。今回貧乏ゆすりがこんなことになるなんて全く思ってもいませんでした。

長谷川さん

長谷川- 倉谷くんと同じく修士2年の長谷川です。僕はこのチーム全体のリーダーと、フロント班でアプリ側の実装を兼任しました。僕が意識してたのは、みんなが作ってくれるものの魅力を最大限伝えたいなというところで、プレゼンの構成も考えていました。

中村さん

中村- 修士1年の中村です。長谷川さんと同じフロント班で、機能を作って長谷川さんに投げたらおしゃれになって返ってくる、というような作業を繰り返していました。

同じ研究室の得意分野が異なるメンバーでチームを結成

-- 今回コンテストに応募された動機は何だったのでしょうか。

長谷川- 研究室の指導教員である小林先生から「こういうコンテストがあるんだけど挑戦してみない?」とお話をいただいたのがきっかけです。僕自身は去年、個人でアプリコンテストに挑戦したことはあったのですが、自己紹介でみんなが話した通り、うちの研究室はハードができる人間、バックが得意な人間、フロントに興味のある人間がいたので、そこで協力して何かできたら面白いかなということで応募しました。

-- 皆さん全員、同じ研究室ですか?

長谷川- はい。同じ研究室のメンバーでチームを結成しました。kbylabという名前は、指導教員が小林先生なのでそこからkbyを、研究室なのでlabから付けました。

-- 長谷川さんがコンテストに応募しようという話をしたときには、皆さん全員やろうとなったのですか?

倉谷・長谷川- 全員そういうの大好きなんで。うちの研究室自体が、ちょっと変わってるなとか、面白いなって思うものを作りたい考えを持った人たちが多いかもしれないですね。

-- 今回、ハードウェア、バックエンド、フロントエンドと担当を分けてチームを構成されているのが珍しいと思ったのですが、もともと専攻はそのように分かれているのでしょうか。

倉谷- そういう訳ではないです。学部は電子情報システム工学科と言って、ハードウェアを主に扱う授業と、ソフトウェアを扱う授業の2種類あります。普通の研究室は、主にソフトウェアを扱ってきた人はこの研究室というふうに入ってくるのですが、この小林研は結構両方が流れ込んでくる研究室なんです。

長谷川- たまたまこの研究室のメンバーの特長が幅広かったというところですね。何を作ろうか考えるときに、みんながそれぞれ自分が担当できるところがあったほうがいいよね、ということもあって。そうなるとアプリだけで完結すると面白みに欠けるかな、とか、ハードだけだと僕らちょっと活躍できないかなみたいなところもあって、いろいろ出たアイデアの中でこれならみんな協力できそうだ、というので椅子とアプリという形になったというのはありますね。

面白いアイデアをだすため、とにかくアイデア出し

-- アイデア出しは時間をかけられたのでしょうか。

長谷川- 制作に至る前に結構時間をかけたつもりなのですが、何回かミーティングの時間をとりました。コンテストが『無駄なようで無駄じゃない』ということで、最初は、無駄じゃないというところより無駄そうなところから勝負したんですね。ホワイトボードに無駄なものを挙げてみようと、身の回りで自分が無駄と思っている行為や習慣をみんなでリストアップしました。その中で彼(吉村くん)の貧乏ゆすりが最後まで残ったんですよね。

最初はとにかくアイデアを出して、とりあえず乗っかってみて発展しそうかなと考えて。中には実用的な側面に寄り過ぎて面白くなさそうなものやぶっ飛び過ぎたアイデアもありましたが、人が聞いたときに「えっ?」っとなるような面白いアイデアを残そうと少しずつ絞っていきました。

-- 貧乏ゆすりをしたら椅子を上げるというアイデアの原型は、最初の段階からあったのですか?

長谷川- 貧乏ゆすりに着目してからも、貧乏ゆすりをどうするのかは決まっていなかったんです。ただ貧乏ゆすりという行動がテーマとして面白いな、と。それを、最初は止めさせてあげようかとか、止めたいのかなとか、彼の悩みも解決しようと思って。

みんなでアイデア出しをしているときに僕がたまたま「物理的に椅子が上がったら、人間って足が着かなくなるから貧乏ゆすりができないんじゃないか。」と言って、真上に上げることを最初は思い付いたんです。そこでいったんそれをコンセプトとして紙にまとめて提案したら「それはめっちゃ見てみたいね」みたいな感じでみんなが反応してくれて。そこからですね、appLiftが上げて、止めるっていう方向になったのは。

一次審査通過後、アイデアの名前もコンセプトも思い切って方向転換

-- 一次審査のときのアイデアでは、どちらかというと貧乏ゆすりを罰する方でしたよね。

長谷川- そうなんです。実は、最初は貧乏ゆすりに対してちょっとトラウマになるぐらいびっくりさせてやればもうやらなくなるんじゃないかみたいな発想だったんですね。それが面白いんじゃないかと思って。でも作っていくうちに、面白いというポイントは高いけれど、倫理的に駄目かなと思って。最初はアイデアを面白くさせることに、振り切り過ぎていたところがあったので、ミーティングを重ねてバランスを取っていきました。

-- 一次審査の後に、そういう方向転換があったのですか?

長谷川- はい。一次審査が通って小林先生に「一次審査通りました」とご報告したときに、んーみたいな顔をされて。これはちょっと、みんなが普段学んでることを生かしたほうが面白くなるんじゃないかということで、プレゼンでご説明した認知的な側面といったところにも踏み込んで考えていったんです。

倉谷- 認知的不協和は本当、偶然でした。僕の研究で、認知的不協和を利用したインタラクションという設計をしていて、ちょうどそこで調べた論文が「これ使えるんじゃない?」と。

長谷川- 審査を越えるごとにどんどんブラッシュアップさせたという感じです。二次審査向けの資料では、アイデアの名前もコンセプトも全く変えて提出したので、何か言われるかなと思ったのですが。

-- コンテストの審査としては変えることは全然OKで、むしろ改善になっていたら、それはそれでいいと思っています。

長谷川- 結果から見れば、変えてよかったとすごく思うんですけど。そのぐらい思い切って途中で方向転換しました。

優勝したアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「appLift:イスからはじまるコミュニケーション」 (PDF: 約 0.96MB)

本選のプレゼンも得意分野で分担

-- 本選でプレゼンしていただきましたが、プレゼンの分担はどうされましたか?

長谷川- プレゼンの構成や資料は僕が一通り考えたのですが、それをみんなで分担したくて、主にそれぞれが関わった部分に近いところで分担しました。

システムの設計は野口くんが詳しいので話してもらおうとか、ハードの設計がプロトタイプからどう変わったのかやレベルの設計や実装は倉谷くんが話したほうがいいなとか。あと、今回のプレゼンに20分与えられていましたが、聞いている皆さんをいかに途中で飽きさせないか考えて、演技が得意な石原くんのキャラを最後のほうに出したら面白く聞いてもらえるかなとか、僕が普段接していて感じているそれぞれの強みを生かせるように振り分けました。吉村くんは当然、貧乏ゆすり要員として活躍してくれましたけど。

-- 練習はされたのですか?練習での観客はいたのでしょうか。

長谷川- 練習はこのミーティングルームでしました。本選に行かないメンバーが観客として見て、分かりづらいところなど見直しました。練習でデモがうまくいかなかったり、貧乏ゆすりしてないのに勝手に椅子が動くこともあって、何回も練習してよかったと思っています。

本選会場にも持ち込んだ椅子APPLIFTを囲んで
本選会場にも持ち込んだ椅子APPLIFTを囲んでのインタビュー

デモの動作確認をする間もなく本選プレゼンに突入

-- 本選が始まってくじ引きで順番を決めました。kbylabチームはどの順番でも選べるカードを引き当てて、結局一番目を選択しましたが、一番目を選んだのはなぜでしょう。

石原- 僕が一番を選んだのですが、プレゼンってやっぱり印象に残りやすいのは最初か最後かなと思って。じゃあうちらを最初に一番最高の基準にしてしまって、他のチームがあれにはかなわない、と思うような感じにしておきたかった。

長谷川- 今、この戦略知りました。僕は何も聞かされてなかったんで。

倉谷- しかもトラブルを抱えたままね。電源切ったかっていうのを僕は3回ぐらい確認したのですが、本選会場に着いたらバッテリーがなかったんですよね。

石原・長谷川・倉谷- 予備のモバイルバッテリーを用意してたので急きょ取り換えて間に合いましたが、動作確認なしでいきました。焦ってました。一番不安だったのがデモだったんで。

石原- 正直、一番を選んでやばかったかなと。これで失敗したらどうなるかと。

-- でも結果的にはデモも成功しましたし、よかったですよね。

長谷川・倉谷- 結果オーライですよね、本当に。

コンテスト本選の様子はオブジェクトの広場2016年12月号に掲載した「無駄なようで無駄じゃないソフトウェアコンテスト本選レポート」でご覧いただけます。

他のチームの発表を見て、すごいところに来てしまった・・・と

-- kbylabチームのプレゼンが終わったあと、他のチームがプレゼンをされました。他のチームのプレゼンを聞いてどう思われましたか?

倉谷- 最初は、「賞金でこれ買えるんじゃない?」とか言ってたのですが、そのうち「せめて打ち上げ代にならないかな」となって、最後には「はー、みんなすごいな」って長谷川くんと話してました。

長谷川- 最初はみんなで優勝しようぜみたいな感じで自信を持って来たのですが、他の方もすごくレベルが高くて。プレゼンの資料に結構力を入れたつもりでも、皆さんの発表の慣れてる感じとか、演技をされてる方とか、いろんなジャンルの人がいて、あぁこれはすごい所に来てしまったなという感じでした。

僕たちは審査員からの質問で結構ビジネス面で突っ込まれていたと思うのですが、それを踏まえて他のチームは提案していたので、やっぱり良くも悪くも基準にされて、他の人たちはもっといいプレゼンしてるというのを見てしまったので本当に自信はなくしていました。

せめて準優勝ぐらいはいけるかなってみんなに話してたら、表彰式の発表で、まず真っ先に準優勝がなくなって。

倉谷- 表彰式のときに、長谷川くんと僕は並んでたのですが二人でもう後ろ向いてました。

長谷川- 一番狙ってた準優勝がなくなって、ゲスト審査員賞は質疑で突っ込まれたので難しいかなと思っていたら案の定違って、もう完全にどん底に落とされた状態で最後に優勝を発表していただきました。

-- 表彰式に入る前に一番強敵だと思われたチームはどこのチームだったんでしょうか。

長谷川- プレゼンの資料や作りでいうなら、僕はアールチームの『運命のAI』ですかね。あそこはすごく力を入れていましたし、そこが僕らの後で発表してたので、こんなチームがいっぱい来てるコンテストに来てしまったのかという感じで、結構やられました。

「アール」チームのアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「運命のAI」(PDF: 約 2.3MB)

倉谷- あとはTakahashiチームの『弾けるようなゴイをしよう』。コンセプトを文字で見ると結構ありそうですが、プレゼンを聞くとこれは確かにいいな、ちょっと欲しいなみたいな気持ちがあったので。あそこに勝てるのかな、という気持ちがありました。

「Takahashi」チームのアイデアの詳細は以下の文書からご覧いただけます。
アイデアを説明する文書「弾けるようなゴイをしよう」 (PDF: 約 1.1MB)

-- まさにそこは接戦でした。優勝を聞いたときはどのようなお気持ちでしたか?

倉谷- 声が出なかったです。二人で見つめ合ってました。

長谷川- 準優勝だったら、行こうっていう感じで行けたんですが、一回止まってましたね。そこはもう予想していなかったので。

倉谷- 絶対優勝したらガッツポーズしてやろうと思ってましたが、びっくりし過ぎてできなかったですね。

優勝を先生がとても喜んでくださった

-- 大学に戻られて、優勝に対する反響はどうだったんでしょう。

表彰状

倉谷- 先生は大喜びでしたね。表彰状とトロフィーを研究室のすごくいい場所に棚を作って飾ってくれました。

長谷川- 信じられないって何回も言ってましたね。研究室単位で取ったというのが初めてだったので喜んでくれたんだと思います。

倉谷- 僕は特にハードウェア寄りなので正直な話オージス総研さんと言ってもあまり知らなかったのですが、他の研究室の人に、その道では一度は耳にするでしょ、みたいなことを言われて、最初にコンテストを紹介してくれた小形先生の研究室の人たちから「あのコンテストで優勝するなんてすごいよ」みたいな感じで褒めていただきました。

長谷川- 実は、大学の工学部図書館の方からお話をいただいて、コンテストのプレゼンや開発秘話など振り返りを交えながら発表することになっているんです。思ったよりも反響がありましたね。

-- そうですか。皆さんに喜んでもらえてよかったですね、本当に。

一人では経験できなかったチームの力

-- 次に、お一人ずつお聞きしたいのですが、コンテストに出場してよかった点は何だったでしょうか。

倉谷- 一番はみんなが自分の仕事を自分で動いてやれる環境ができたのが大きいです。うちの研究室はとても自由な空気があって、指導教官も何をしろという指示を強くしないので、自分がやるべきことを自分からやる力が必要なんです。それが今回かなりできて、後輩たちがすごく頑張ってやってくれてるのを見てうれしかったです。

先田- 僕はこのコンテストを通して誰に付いていったら一番自分が成長できるかと考えたときに、倉谷さんかなと思ってハード班に入りました。いろいろ大変なところもあったのですが、ものを作る楽しさというのが分かった、それが一番大きかったなと思います。

Narayan- 僕は今年入ったのですが、みんなと一緒に研究するようになっていろいろと勉強することができました。楽しかったです。

石原- 自分の知らなかった未知の領域に踏み出せたこともしかりなんですが、先ほど出たように、うちの研究室は個人ごとに研究しているので、去年まではあり得なかったような結束と、ものすごい一体感を感じて、それが僕はすごくうれしいなと。このコンテストを通じて本当にかけがえのない仲間ができたことをうれしく思います。

野口- 私もみんなと一緒に一つのプロダクトを成功させられたのが一番よかったと思います。今までも主にソフトウェアをいくつも個人的に作ってきたのですが、全部自分一人でやっていたのであまり周りと連携することがなかったですし、そもそもハードウェアの知識が乏しいので、ものを作りたいと思ってもできなかったんです。

それを、自分のできない分野を他人に任せて、自分でできるところをしっかりとやることによって、一人ではとてもできないような大きなプロダクトを作れました。厳しいと言いながらもとても楽しい時間になったので、本当に皆さんとできてよかったなと思っています。

吉村- 僕も研究は一人でやってることがほとんどなんですね。今までチームで開発した経験がなくて最初はどうすればいいか分からなかったのですが、メンバーや先輩方に教えてもらったり進め方を見ながら、チームで何かを作るというのがどういうことか、うまく進めるにはどうすればいいのか分かったように感じています。本当にやってよかったと思います。

長谷川- 今回やってよかった、学んだこととしては、大きく分けると二つあると思ってます。一つはチームとして学んだこと、もう一つは個人的によかったことです。

まず、チームとしては、アイデアから実際にものができあがるまでをチームでできたことの感動はすごく大きかったです。最初に僕が思い付いたこのアイデアを、みんながいろいろ提案してくれて、こうやったら本当にできるんじゃないかと別々に作っていって、最終的にアプリ側とバックエンド側と椅子が全部つながった瞬間、この椅子が実際にウィーンと動いて下がる瞬間、すごく感動したんですよね。本当に感動という言葉がぴったりなぐらい。それが本当にいい経験だったと思ってます。一人では絶対できなかったですし。

個人的にすごくよかったなと思う部分が、デザインに関することです。みんなものを作る技術が高いので、作ることについてはすごいのですが、ものができあがった後にそれをどう伝えるか、というところは弱いんじゃないかと思っていたんです。魅力を最大限に伝えることがコンテストでは問われてくると思ったので、僕はデザインに関わる者として、ロゴやプレゼン資料の見栄えというところで、どうしたらみんなが作ってくれたものが伝わるかを意識しました。なので、最終的にデザインを通じて僕たちの思いが皆さんに伝わって優勝という結果を出せたことが本当によかったと思っています。

中村- 僕はもともとできることはバックエンド寄りだったのですが、長谷川さんがデザインが得意なのでそういう知識を学びたくてフロント班に所属させてもらいました。結局、お互い忙しくて直接教えてもらうことは少なかったのですが、アプリになったときの見せ方とか表現の仕方という部分でいろいろ勉強になることがありました。あと、やっぱりチームでみんなで何かを作るというのはいいものだなと思いました。

小林研究室
小林研での一コマ。倉谷さんの後ろには研究で使うハードウェア類が並ぶ。

将来の夢

-- それでは最後に皆さんの将来の夢をお聞かせください。

中村- 今はバックエンドを少し勉強させてもらっていて、これからフロントも力を入れて学んだ後にハードにも注力して、自分で何か形のあるものを作れればいいかなと思っています。

倉谷- 僕は主にハードウェアが得意で、何かものを作るというのはすごく得意なんで、結局、就職もそのようなものを作る企業に入ったので、自分が今まで大事にしてきた自分の欲しいものを作るということ忘れずに、とにかく世界が驚くようなものをアウトプットしていけるエンジニアになりたいと思っております。

長谷川- 僕も就職活動が終わって春からデザイナーとして働くのですが、簡単に言うと、デザインの価値を証明したいと思っています。もの作りの世界ではエンジニアやいろんな方が協力してものを作っていくと思うのですが、その中でデザインというものが最近だんだん重要視されてきていると感じています。ものが作れるだけじゃなくて、その魅力を伝えるところまで含めてデザインをしていきたいです。今回はコンテストでしたが、今度はビジネスでデザインが役に立ったよねって言われるようなデザイナーになりたいと思ってます。

先田- 僕の将来の夢は、人のためになってかつ人をときめかせることができるようなものを作っていきたいです。そのためには残りの大学生活を、必死に本を読んだり、そのための知識を付けることに重きを置いて過ごしたいと思っています。

吉村- 僕は将来的に楽しいとか面白いとか、そういうことを思ってもらえるようなソフトウェアを作り上げてみたいというのが夢で、それを世に出すことがいつかできたらなと思っています。

Narayan- 私は、日本で勉強した技術やチームワークのことなど、またいっぱい勉強して、その後博士を取って、その後ここで学んだことをネパールに持って帰って、ネパールの地域社会を助ける人になりたいてす。

野口- 私は、今までなかったものを新しく作り上げて、それでなくてはならない、当たり前のものとなり得る製品を作っていきたいと思っています。

石原- 僕は普段フィギュアにプロジェクションマッピングする研究をしていて、それをちょっと延長させて自分が好きなキャラクターを嫁として具現化できたらいいなと考えてます。自分が作るもので体だけじゃなくて心も健康にしていけたらと考えています。

-- なるほど。皆さんそれぞれの夢をありがとうございます。今後のご活躍をお祈りしております。

kbylabチームとインタビュアー藤井
インタビュー終了後、インタビュアーの藤井(左)とkbylabチームのメンバー

小林研究室訪問編

インタビュー後、kbylabチームのメンバーが在籍する小林研究室にお邪魔し、小林一樹准教授にもコンテストに関してお話を伺うことができました。

ゼミでコンテストに応募することを提案

小林准教授
信州大学 学術研究院 工学系 小林一樹准教授

-- コンテストの話は小林先生から学生さんたちにお話しされたと伺いましたが。

小林- そうです。同僚の助教の先生からこういうコンテストがあるけどテーマ的に私の研究室にぴったりじゃないかと言われて、僕もそう思ったので学生に勧めてみたという経緯があります。

-- 普通の研究室ですと個人単位で研究してるので研究室単位でチームとしてまとめるのはなかなか珍しい気がするのですが、今回素晴らしいですね、皆さん。

小林- そうですね。私の研究室だと一人一テーマに決めてるので卒業研究や修士論文であれば1から10まで全部責任を持ってもらうために今まで完全に独立したような形でやっていましたが、去年のメンバーが横のつながりもなければ縦のつながりもないようなちょっと寂しい状況だったので、どうしようかと考えていたんです。そういうタイミングでコンテストの話が来まして。

学生に、就活が落ち着いてきたからそろそろゼミを始めたいんだけど去年と同じような形で文献を紹介するのをやりたいと言ったら、上の学年の学生が「文献は嫌だ。もうちょっと面白いことがやりたい」みたいなことを言い出して。僕もちょっともやもやしてたところがあったので「全員で例えばコンテストに応募して入賞するまでずっと続けるというのはどうか」という案を出しました。その代わり文献はちゃんと一人一人読んで、打ち合わせのときに報告してもらうからねという話で。

今、大学や高校でもアクティブラーニングが注目されていて私も学生同士でどこまでいけるのか試してみたいなと。だから僕のほうではたまに疑問を投げ掛けるぐらいにしておいて、あとはもう任せるというスタイルでやってみました。

彼らの話を聞かれたらだいぶキャラクターが分かってくると思うのですが、すぐ調子に乗るので何回か挫折を味わってもらった上で成功体験につながればいいかなぐらいに考えてたら、今回のコンテスト、最初に応募したものでうまくいってしまったので、私としてはうれしいのですが、また調子に乗らせてしまうみたいなとこでもあるんです。

-- ただ、本選のときは一番最初に発表されたのですが、その後、他のチームが発表されるに従って自信をどんどん失って、表彰式では準優勝を狙っていたのに取れなくて、ゲスト審査員賞もなかったということで優勝もできないだろうと思われていたみたいです。

小林- その日のうちに結果を教えてくれなかったんです。次の日にびっくりさせるとか言って。実際にコンテストの最中は、一番最初の発表に決まったという情報が来た後は、もう何も状況が分かりませんでした。一番最初の発表ってことはちょっと見込みが薄そうだと思ってましたが、まさか自分たちで一番を選ぶとは思っていませんでした。このコンテストに出た人の情報がない中で最初を選ぶのは面白いなと。

-- 皆さん前向きと言うか積極性があって素晴らしいなと思うのですが、たまたまそういうキャラクターの方が集まっただけなのか、大学の学風や学科などが影響しているのでしょうか。

小林- どうでしょうか。大学としては比較的真面目な学生が多いかなとは思うのですが、多分、私の研究テーマ自体がつかみどころがないというのもあるのかもしれないですね。

-- 行動力がすごくあるなと。いい意味でも悪い意味でも、どんどん自分たちが思うがままに進んでいくということでは、すごく頼もしい感じもしますね。

小林- そうですね。いろいろ研究をする上でアイデアを出してもらおうというのは意識してるのですが、既にやってるから面白くないとか研究にならないこともあります。コンテストだとその辺の自由度がぐっと広がるので、ある意味、フラストレーションの発散の場になったのかもしれないですね。本当に任せて、ああしろこうしろという話はほとんどしなかったです。相談されたときには、答えたりはしましたが。

ここまでいい形でチームがまとまるとは思っていなかった

-- 最後の本選に出展された作品をご覧になってどう思われましたか?

小林- 面白いなと。最初の椅子をバラバラにして元に戻らなくなって、もうちょっとシンプルにすればどうか、みたいな話をする中で「これ(椅子)1個持っていかせてくれ」と。あるものでなるべくやってほしいとは言ったのですが、僕の部屋からいろいろ持って行って、その辺の工夫はなかなか面白かったです。最後の追い込みはすごかったですけどね。みんな2週間くらいはコンテストを理由にして研究が進まないって言ってました。

-- でも今まで優勝されたチームと比べても、これだけの人数が分担してチームで開発されたというのは、その規模やスキルにおいては今までの受賞者を圧倒しているような気がします。

小林- そこは僕もびっくりしました。長谷川くんが大体まとめてましたが、結構個性的な集団なので呼び掛けてもなかなかみんな集合しないなど苦労もある中でうまいこと形になっていった。分担も彼らが言い出して、フロントエンド、バックエンド、ハードウェアと分けたのも彼ら自身でした。彼ら自身がそれぞれの特徴を考慮して、カテゴリーを作って人を割り当てて。僕から見るとこの構成員でうまくいくのか、というところもありましたが、ふたを開けてみればうまくいってて、その辺はすごくびっくりしましたね。

-- すごく素晴らしいと思ったのは、ハードウェアからフロントのデザインまでいろいろ幅広いスキルを持った方がおられることです。特に工学系ですとデザインが弱いところが多く、アイデアもどちらかというと技術志向が強過ぎて、ユニークさとか人の興味や関心を引くようなアイデアとしてのアピールがなかなかできないことが多いと思うんです。そういう点で、素晴らしいと思いました。

小林- ありがとうございます。うちの学科はハードウェアとソフトウェア両方を取り入れたカリキュラムにしてるので、そういう人たちが混在しているという形でしょうかね。そういう中で私の研究室がソフトウェアだけで何とかしようと思えばできるようなテーマ、ソフトウェアとハードウェア両方組み合わせると面白くなるようなテーマ、ハードウェアだけでも何とかなるようなテーマを設定していて、個人の特性をその三つのどこかに当てはめるような形で研究として成立させる形を取っているのですが、たまたま今年はバランスよく人がはりついたのがあるかもしれません。

-- 先ほどチームメンバーの皆さんにお聞きしたときも、今回のチームでの開発がすごくよかったとおっしゃっていました。

小林- そうですね。僕も、チームワークとしてここまでいい形でまとまるとは思っていませんでした。経験上、学生の段階でチームワークはうまくいかないことが多いというのが僕の見解だったんです。先輩に依存してしまったり、何もやらない人が出てきてしまったり、やっぱりフリーライダーが出てくると。今回、本当にそれぞれがみんなうまいこと活躍してて、僕の中では奇跡的な状態かなと思ってたくらいです。コンテストのテーマの設定も秀逸だったのかな。やっぱり、そこで頭ひねってるんですよね。

-- はい、かなり。

小林- そういうテーマが恐らく、それぞれのこだわりを超えたものだったのかなって気がします。ハードウェアのほうから考える、制御のほうから考える、見た目のほうから考える、みたいないろんな角度から考えるテーマだったのかなと。これがちょっと技術的なテーマだったらデザインの人がついていけなくてモチベーションが下がるようなこともあったかと思います。

-- 次のコンテストのテーマを考えるのもまた大変になりそうです。

小林- そうですよね、面白い作品は来てほしいですもんね。あまりテーマで絞り込むともったいないというのもありますし。僕もよく打ち合わせ中に学生にむちゃぶりしますが、今回のテーマはそういうちょっとむちゃぶりっぽいところがあって、いろんな発想で考えられたのだと思います。

-- ありがとうございます。次も何か面白いテーマを考えます。

インタラクションデザインに関する研究やICT農業に関する研究に取り組む研究室。

【主な研究テーマ】

  • インタラクションデザイン
    人間と人工物(エージェントやロボット)との間でやりとりされる情報とその処理方法をデザインすることで問題解決をはかる方法を研究しています。
  • ICT農業
    情報通信技術を活用して、農場の情報をセンシングしたり、農業を支援するための研究をしています。