[シリコンバレー放浪記]
〜軟調な株式市場〜
■オンライントレード |
前回の前置きにもちょっと書きましたが、最近米国にてオンライントレードをはじめました。
利用しているのは手数料の安かった Ameritrade ですが、手数料が安いとは言え、日本で利用している某オンライントレードに比べると、
提供している情報量は格段に豊富です。
また、インターネット上での株式情報専門のサイトも多く、必要な情報はほとんどネット上で集める事ができます。
企業自身もインターネットを通じた IR 活動には積極的で、情報収集は本当に楽です。
日本でも最近、ずいぶんと情報を収集しやすくなっているとは思いますが、もっと頑張って欲しいなぁ、と思ってしまいます。
(もっとも、米国の方はあふれる情報に埋もれそうですが、、、)
■軟調な株式市場 |
さて、最近の米国株式市場は昨年の強気な市場から一転して、乱高下を繰り返しています。
平均株価だけを見ていますと、最近はそれなりのレベルを保っているように思えますが、一方で BtoC 関連企業の不調が目立っています。
昨年末から今年初めにかけては斬新な BtoC の”アイディア”に株主の人気と資金が集まり、
各企業はそれを元手にして、各サービスの認知度を高め、市場シェアを獲得しようと強気のマーケティング戦略でブランディングを行なっていました。
いえ、むしろ積極的なマーケティングを行なわなければ生残れない、という雰囲気さえあり、
各社のマーケティング合戦は激化し、株主もそれを行なう事を容認していた(あるいは要求していた)感じさえあります。
しかし、BtoC 企業の先行き不明確な赤字体質、いつ黒字になるか見通しが立たない、が明確になるにつれ、
会社の資金を湯水のように使い、Burn Rate (燃焼率) を高めるだけのマーケティング戦略しか戦略らしい戦略を打ち出せない企業に株主が嫌気を見せてきたのです。
たとえば、昨年末TVCMの露出度が No.1 だった Pets.com のマスコットは最近 TV で見かける事がなくなってきました。
同社はオンラインでペット関連の商品を扱う”ユニークな BtoC”として登場し、積極的な TVCM 放映によるブランディングに勤め、
アメリカ1の祭典、スーパーボールでもそのCMを放映し、そのマスコットは ”全米一有名なマスコット”とまでいわれましたが、
最近では同社のCM自体、見かける事がなくなりました。
同社の株価は2月の公開以来下落を続けており、公募価格11ドルに対し、最近では1ドルを割り込み上場廃止の心配さえ出てきています。
株価の低迷は BtoC 企業の雄、Amazon.com にも無関係ではありません。同社の株価は昨年末に $110 程度まで上昇したにも関らず、最近では 40ドルを割り込む程度 にまで低迷を続けています。
(もっとも、BtoC で No.1 の地位にある Amazon.com でさえ黒字化のメドがちゃんと立っていない、ということが BtoC 企業全体の不人気につながっている面もあります)
■去り行く役員達 |
低迷する株価は株主だけでなく、会社にも大きなダメージを与えています。
シリコンバレーを中心に、ベンチャー企業では一般従業員もストックオプションを持つ事が普通であり、
将来の株主たる彼らは、株価に対して非常に敏感です。
ストックオプションは離職率の高いアメリカにおいては、
(通常、権利行使までに2,3年の期間がある為)従業員を会社に長期間つなぎとめておく一つの手段として役立つ面がありました。
しかし、将来ストックオプションの権利を行使できる際に、株価がその行使価格を上回っていなければストックオプションも紙屑に過ぎません。
そのため最近の株価低迷により、現在では社員をつなぎ止めるどころか、逆の効果を持ちはじめたようです。
例えば自然言語によるオンラインQ&Aサービスの Ask Jeeves の COO の Ted Briscoe は同社にわずか4ヶ月勤めた後、
今年6月に他社の CEO になるとの理由で辞任しています。
同社の株価は昨年末に約 $200 で取り引きされていましたが、その後株価が下落しはじめ、
現在は 約 20 ドル前後で取り引き されています。
Ted 氏はのストックオプションは行使価格が $78.25 であり、辞任時には約 25ドルになっていました。
またオンライン医療サービスの Drkoop の COO である Dennis Upah 氏は 18 ヶ月で同社を退社しましたが、
彼のストックオプションの行使価格は $16.44 で、辞任時には約1.5ドルと10分の1程度まで下がっていました。
(同社の現在の株価はかろうじて1ドルを上回る程度であり、
昨年の上場後一時30ドルを超えていた事を考えるとかなりの下落率になっています)
■株価下落が招く人材難 |
CEO あるいは COO といった重要な役員ポストが10週以上空席のままの企業もあります。
報酬の大半をストックオプションで受け取る役員の場合、ストックがあがらなければ自身の報酬が下がってしまいますから、
株式の地合いが悪い事を考えると、よほど将来に見込みがある企業でないと敬遠されてしまうのでしょう。
もちろん、これらは役員に限った事ではありません。
前回の放浪記でも触れたように、シリコンバレーは今、深刻な人材不足に陥っています。
したがって、不足する労働力を補うために従業員が一日15時間、20時間といった長時間の勤務を強いられることも少なくありません。
その場合、従業員の士気を保つのにストックオプションが役に立っていました。すなわち、会社の業績を上げる事で自身のストックオプションの価値を高める事ができると、
社員はがんばれたわけです。
しかし、現在は行使価格と実際の株価の乖離が従業員の士気を奪うことになり、従業員をつなぎ止めるどころか、引く手あまたの外部労働市場へ逃してしまうことになりかねません。
■投資の行方 |
では、ベンチャー企業に対する投資はもはや敬遠されつつあるのでしょうか?
これに関しては必ずしもそうではないようです。
例えば、インターネット関連でIPO(株式上場)した企業を見てみると、
2000年1Q の 91 件、$13,415 M に対して、2000年2Q は 55件 $7,498 M と約50% という急激な落ち込みを見せています。
しかし、これは 2000 年 1Q が好調すぎた、という面もあり、例えば数字としては 79 件、$7,036 M であった昨年の 2Q と同程度といえ、
加熱気味の株式市場が少し冷まされた、という程度に過ぎないという見方もできます。
さらに、この数字は主に4月と5月の IPO 件数の不調によるところが大きく、6月頃からは IPO の件数が再び増加しており、
7月には 32件のIPOがなされるなど、再び活力を取り戻しつつあります。
ただし、株式市場の主役に関しては移り変わりつつあるようです
最近は BtoC 関連の企業よりも光ファイバーや、コミュニケーション機器関連の企業が主役になりつつあります。
例えば、光ファイバー関連の New Focus や、モバイルインターネット機器の Parthus Technologies 、
コミュニケーション機器の Sonus Networks など、アイディアだけでなく、他に真似されないような高い技術力をもつ企業は
軟調な株式市場においても IPO 後順調に株価を伸ばしています。(参考: 各社の株価 )
さて、最近の株式市場で好調なコミュニケーション機器関連の企業では、その資本に対して 30%がインターネット関連のベンチャーキャピタルが出資しているそうです。
つまり、BtoC 関連の株式ブームによって豊富な資金を得る事ができたインターネット関連のベンチャーキャピタルが、その資金を株式市場における次の主役に投資している、
そんな感じさえします。
金は天下の回りもの、といいますが、ハイテク企業への投資資金もまだしばらくの間は回りつづけそうです。
それでは今回はこの辺で。
※ この記事の株価は 8/24 前後の株価を基準にしています。したがって記事中の”現在株価”はリンク先の株価(Yahoo!)とは必ずしも一致ません。by iwade@亜米利加
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