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[実世界をそのまま表現するモデルとは]


6.実世界をそのまま表現するモデルとは

「実世界をそのまま表現する」モデルがどんなものかを考えるために、先ほどの「人−家−電話」モデルについてもう少し詳しく検討してみましょう。

確かにこのモデルは、その前の「顧客」モデルに比べると実世界をより適切に表現しているように見えます。しかし果たしてこのモデルが本当に「実世界をそのまま表現している」のでしょうか?
ちょっと考えただけでも次のようなことが思いつきます。

この他にも、このモデルでは表現できていない実世界の概念はたくさんありそうです。
こんな風に考えてみると、どうやら先ほどの「人−家−電話」モデルは、実世界をそのまま表現したものとはとても言えず、むしろ実世界のごく一部の情報だけを取り出して表現したもの、といった方が適切なようです。

ここで疑問が沸きます。
いったい実世界すべてをそのまま表現するモデルなど作れるのでしょうか?

ちょっと考えればわかることですが、そんなことは実際には不可能でしょう。
先ほど検討したように、実世界の存在といっても、それを見る視点、関心によって表現方法は変わってしまいます。また実世界には、素粒子から宇宙レベルまでスケールの大きく違う実体が存在していますが、それらすべてを一つのモデルでそのまま表現することなどできるはずがありません。

一般にモデルとは、対象についての関心のある部分だけを抽出して、それを何らかの形式で表現したものなのです。
ここでは「関心がある」ということがポイントになります。対象のすべてではなく、そのモデル化の目的に照らして必要な情報だけを抽出するのです。

これに照らして、先ほどの「顧客」モデルと「人−家−電話」モデルを再度見てみます。
モデルを評価するためにはモデル化の目的を明確にする必要があるため、ここでは仮にあるデパートが得意先管理をするための分析をしているものとしましょう。

どのようなモデルを採用すべきかは、そのデパートが顧客をどう見ているかによります。
顧客に連絡することだけに関心があるならば、「顧客」クラスに「氏名」「住所」「電話番号」といった連絡先に関する属性だけを定義した「顧客」モデルで充分でしょう。
顧客の連絡先だけでなく、性別、生年月日、職業、資産などにも関心があるならばそれらを「顧客」クラスの属性として追加する必要があります。もしそれだけでは足りずに、顧客の保有する財産や不動産に特別な関心があるのなら「人−家−電話」モデルのような形に近づいていくでしょう。


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