ObjectSquare [2011 年 9 月号]

[レポート]


”アジャイル開発先進国”ブラジルからのレポート

株式会社オージス総研 グローバルビジネス推進部 細谷竜一


オージス総研グローバルビジネス推進部の細谷です。 Agile Brazil 2011に参加するため、ブラジルへ行ってきました。

個人的な話になりますが、ブラジルへ行くのはこれが二度目です。 一度目は 1983 年、小学生のころ、親の出張について行ったのです。

その時の強烈な印象は、とにかく英語が一切通じない国だということでした。 「ウォーター」といってもだめで、「アグア」と言わないといけません。 「オレンジジュース」もだめで、「スーコ・ジ・ラランジャ」と言います。 すべてがそんな具合で、当時現地の案内人を務めてくださった日系人の通訳のかたがどれだけ頼もしく思えたことか・・・。

そういう印象があったため、今回は事前に数の数え方から、簡単なフレーズは有る程度ブラジル・ポルトガル語で覚えていったのですが、有る意味杞憂に終わりました。 というのは、IT 関係のブラジル人たちは英語が達者な人が多く、まったく意思疎通には不便しないことがわかったからです。 (とはいっても IT の世界を一歩離れれば、相変わらず英語はダメ。 事前に覚えた片言のポルトガル語もずいぶん役に立ちました。)


さて、本題に戻りましょう。

日本ではあまり知られていませんが、ブラジルは“南半球の IT 大国”と呼ばれています。 銀行は早期にメインフレームを導入したため、COBOL プログラマの数は米国に次いで 2 位です。

90 年代のハイパーインフレなどの特殊な状況も手伝って、ブラジルの銀行システムや会計ソフトは独自の進化を遂げたともいわれます。

国内指向の強いブラジル IT 業界ですが、このところ北米向けのシステム開発・サポートも伸びてきており、その流れの中でアジャイル開発も普及しつつあります。

南米とIT地政学

Agile Brazil 2011

そうした中で 3 回目を迎えたという Agile Brazil ですが、今回は大都市から数千 km 離れた赤道近くのリゾート地フォルタレーザでの開催だったにも関わらず、700 名もの参加者があり、また北米、ヨーロッパ、日本などからも多くの講演者が集まり、大変な熱気に包まれました。 大都市のサンパウロで開催した時には、ゆうに千数百名は参加があったと言いますから、正直なところ、日本よりもアジャイル開発はエンジニアの関心を引いているように思います。

Agile Brazil 2011会場の様子1 Agile Brazil 2011会場の様子2

Agile Brazil 2011会場の様子

日本の IT 業界とブラジルのそれは、歴史的背景や構造に類似点も見られます。 メインフレームがたくさん稼働し、かついわゆる SIer(システムインテグレータ)という業態が大きな部分を占めているからです。

それにも関らず、アジャイル開発のようなモダンな開発手法もどんどん取り入れていくユーザやエンジニアの姿勢には大変感心させられました。

また、サンパウロ大学のような優秀な大学を出た人も果敢に起業しています。 典型的なパターンは、起業してゲーム会社などの web サイトを Ruby で開発しながら、同時にトレーニング事業も手掛けてプログラミング言語やアジャイル開発などを教える、というものです。

ブラジルは急拡大する IT 需要にエンジニアの供給が追い付かず、トレーニング事業に対するニーズも高いのです。 「陽気なブラジリアン」というイメージがありますが、意外にまじめでこつこつやる人も多く、人気は夜間のトレーニングコースだそうです。 昼間働いて、夜スキルアップに励むのです。

トレーニング会社 Caelum

写真はトレーニング会社Caelumのアメニティルーム。
トレーニングコースは夜間が人気だということ。
陽気なブラジル人のイメージからは想像しにくいが、真面目な人も多い。
昼間働いて夜間コツコツとスキルアップに励む。
トレーニングに対する需要は高く、トレーナーはブラジル国内を飛び回っている。
また、ポルトガル語圏のモザンビーク(アフリカ大陸)にも足を延ばすことがあるという。


ところで、ブラジルはとても親日的な国です。 それは、約 100 年前に始まった日本人によるブラジル移民と関係があります。 ブラジルに約 150 万人いると言われる日系人は大変な努力家で、ブラジルの農業の発展に寄与するとともに、勤勉で優秀な大学ほど日系人学生の割合が増えていきます。 ブラジルでは日系人は一目おかれており、企業でもマネジャークラスに日系人が多いと言われています。

そのせいか、私がブラジルを訪れてもみな大変親切に接してくれました。 その上食べ物も旨い、酒も旨い、サッカー、ボサノバさらにサンバとくれば、どんなに遠くてもまた来たいと思わずにいられません。 食べ物は名物は「肉食べ放題」のシュハスコ、酒はサトウキビ系スピリッツのカクテル「カイピリーニャ」が国民的です。

テマケリア

写真はブラジルでいま大流行の「テマケリア」つまり手巻き寿司レストラン。
こんなところにも現地化した日本文化の浸透が見られる。
「日本にはないよ」と言ったらブラジル人はがっかりしていた。

Ci&T 訪問

Agile Brazil 2011 のあと、サンパウロ近郊に本社を置く Ci&T という SIer を訪問しました。

従業員数約 1200 名のこの企業は、ブラジル国内向け案件が 6 割、そして残り 4 割が北米を中心とする海外のユーザ向けの案件です。 システムの開発・保守・サポートを行います。

その驚くべき特徴は、すべてをアジャイルで実行することです。 そのため、オフィスレイアウトまでもがアジャイル仕様になっています。

Ci&T

通常、ソフトウェア企業のオフィスの様子はただパソコンとデスクが並ぶだけでどこも大差ありません。 しかし、この企業は違いました。 レイアウトに特徴があるというだけではなく、そこを通るだけでチームスピリットの熱気が伝わってくるかのようだったのです。 (なかなかその場にいないとこの臨場感を伝えるのは難しいのですが。)

作業スペースはチームごとに区切られ、コミュニケーションを促進するように設計されています。 大きな壁はホワイトボードのように使えます。

使い方は規定しておらず、チームごとに工夫しています。 写真は北米の大手飲食チェーン店向けのチーム。 各チームのスペースには、必ずその顧客のロゴマークが掲げられています。

このレイアウトは、一朝一夕にできたものではなく、写真にあるものですでに 4 世代目のレイアウトだとのことでした。 「 4 世代目でようやく『よし、これだ』と思えるものができてきた」とは COO の Bruno Guicardi 氏の弁。

Bruno Guicardi 氏

Ci&Tv社vCOO Bruno Guicardiv氏

その Guicardi 氏は「ソフトウェア開発の仕事はなかなかエンドユーザの顔が見えない。 だからそのユーザを代表する商品を置いたり、プロジェクトが終わったら記念にシャンパンを抜いてコルクに顧客名を書いたり、いろいろ工夫して顧客との一体感を出そうとしているんだ」とも。

また、大きな案件が終わった時には、営業部隊が太鼓を鳴り響かしてみんなでお祝いするのだそうです。

コルク 太鼓

オフィス内には専用の英語学習室が設置されています。 専属の英語教師 3 名を雇用して、社員がいつでも英語力をブラッシュアップできるようにしています。 この企業にとって、成長のキーワードは「アジャイル」と「英語」なのです。

英語学習室

英語学習室

開発現場では、変わった日本語の単語が飛び交っています。 「ゲンバ」「カイゼン」「カンバン」「アンドン」などです。 そうです、カンバン方式でおなじみの「現場」「改善」「看板」「行燈」です。

実はアジャイル開発の着想の原点は日本の製造業にあります。 いまソフトウェア開発手法の世界では日本ブームが起きていると言っても過言ではありません。

アンドン

天井に取り付けられた「アンドン」。 エンジニアが行き詰まると、天井の行燈を光らせる。
すると周囲から人が集まり、ああでもない、こうでもないと解決方法を一緒に考えてくれる。


訪問の当日、 Guicardi 氏と、現地で合流したチェンジビジョン社の平鍋社長と 3 名で食事をとり、アジャイル談義に花を咲かせました。

「エリートを集めて少数精鋭でやるものそれはそれで価値のあることだが、僕らは少数精鋭主義じゃない。 やる気のある人がたくさん集まっていい仕事をするということも大事なんだ。」と Guicardi 氏。

その言葉を聞いて、突如として、「民芸」という言葉を私は思い出しました。

名もない人々が集まって、日々こつこつと作業を繰り返す。 そういう無我の中から本当にいい作品ができてくる。

私の表現が正しいかどうかはともかく、大正時代から昭和前半にかけて一世を風靡した「民芸運動」の創始者である柳宗悦の言説が思いだされたのです。

「ほう、日本にはそんな考え方があるのか。スペルは?ふむふむ、Mingeiか!」 日本びいきなのか、早速愛用のスマートホンにメモを取る Guicardi 氏の姿が印象的でした。

日本に来られた時には日本民藝館にお連れしようかと思います。

百年の歴史を持つ日系移民と出会い、日本の生産方式に興味を持つソフトウェアエンジニアたちと出会い、そしてアジャイルと民藝運動について語り合う。

地球の裏側で、そんな「日本的なるもの」と向き合い、新たな友と出会う、心に残る旅となりました。



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