[OOエンジニアの輪!]
今回のゲストはテクニカル・ピットの倉橋 浩一さんです。 倉橋さんは、Web サービスや Java サーバアプリケーションを手軽に開発するソフトウェアである WebObjects の第一人者(笑)*1です。 WebObjects で開発を行うことのメリット、アメリカのプログラマと日本のプログラマの違いや、趣味の飛行機の話まで 世界に富んだお話をして頂きました。
*1ご本人曰く"(笑)"は必須とのことです。
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-- 倉橋さんの現在のお仕事について簡単に教えていただけますか?
100%、WebObjects なんですけど、 仕事の半分はコンサルテーション、半分は受託開発という形でやっています。 受託開発は、受託開発そのまんまなんですけど、 コンサルテーションの内、大体半分は教材の販売で、後は実際にセミナーを行ったり、 WebObjects で何か開発されているお客さんの手助けを行っています。 この 3 本の柱がテクニカル・ピットの重要な要素ですね。
-- テクニカル・ピットでのお仕事が100%、WebObjects なのは必然性、それとも戦略なんですか? そもそも、会社としてはどういう経緯だったんですか?
会社の設立当初は、懐かしの PC-9801 などで業務系のアプリやイベント展示関係のソフトなんかをやってました。
そんな頃、付き合いたいと思った女の子ができて、その子が Mac ユーザだったんです。
で、当時 PowerBook100 というノート PC が発売されまして、「ようわからんから教えてくれ。」というのをきっかけに、
その子とお付き合いに持ち込めればいいな、というヨコシマな気持ちで、僕の初めての Mac を買いました(笑)。
そうしたら、面白くて面白くて、気が付いたら Mac のプログラマーになっていたんです。
それから、Mac 業界でしばらくグラフィック関係のプログラムを中心にやっていました。
代表作は、「あなたに 500 本髪が増えるとこんな風に素敵になりますよ」と見せる増毛シミュレーションソフトで、
TVCM でも使われていました。
当時はまだハードウェアも貧弱だったので、大したことは出来なかったんですけど・・・結構いいソフトだったと思いますね。
「髪の毛を増やすとこうなりますよ」ってソフトは結構出てますけど、僕のほどリアルなソフトはまだないかなと。
で、そうこうしている内に、Apple が NeXT を買収しました。
最初、WebObjects のことは知らなかったんですが、NeXT のフレームワークが非常に面白かったので、趣味で研究していました。
そうしたら、その事を知った人が、「じゃあその延長線上にある WebObjects を、勉強しながら開発してみないか?」と仕事をくれたんです。
それが WebObjects の最初の出会いでした。いざ WebObjects を使ってみたら、こんなに簡単にデータベースプログラムが書けちゃっていいのかと、
それはもうびっくりしましたね。それまでデータベースアプリの開発には、Visual Basic や Access を使っていたんです。
使ったことのある方だったらご存知だと思うんですけど、Visual Basic のプログラムって、D ってことをやりたい時に、A・B・C・D ではなくて、
ぐるっと遠回りして反対の Z から順番に戻って D に来なきゃいけないようなところがあります。
でも、WebObjects は、D をやりたければ、A から D に直接行けます。
UI もプログラミングも非常に直感的な点が気に入りまして、「うちのビジネスはこれしかない!これだ!」と、100% 注力したんです。
あと、きっかけがもう一つあったんです。Apple の開発者会議 ( WWDC )
が、 Sun Jose であるんですけど、そこで隣の席の人と「WebObjects いいっすね。」と盛り上がったんです。
そうしたら、実はその人は Apple の社員で、帰国後その方から「本を書いてくれ。」と依頼を頂いて、
それが日本での WebObjects の最初の解説書になりました。
大した本じゃないんですけど、棚から牡丹餅、非常にラッキーなことでした。
僕は自分自身を「WebObjects の第一人者(笑)」と、最後に(笑)をつけて言ってるんですけど、
世間の人はその最後の(笑)の部分に気付いてくれずに幸福な誤解をしてくれて、現在に至っています ・・・
さすがに最近はメッキが剥げてきましたけど(笑)。
-- WebObjects を使ってビックリされて、Visual Basic や Access と比べて凄いなって思い始めたのは、いつ頃だったんですか?
97 年か 98 年だったと思うんですけど、何となく話が来て何となく始まったので、いつスタートっていうのは覚えてません(笑)。
-- WebObjects で開発を行うことのメリットを教えて頂けますか?
そうですね、月並みですが、信頼性の高さと圧倒的な生産性ですね。あとはプロトタイピングが非常に早い事ですね。
今のご時世、お客さんにとっては、いかに早くサービスを提供するか、というのが非常に重要ですよね。
例えばよそが 3 ヶ月でプロトタイプを完成します。と言っている所で、うちは翌週プロトタイプを見せられます。と言えば、受注が増えると思いますし、
お客さんにとっても実際動くものを見ることで発想が膨らみますよね。
結果として、より早く、より新しいサービスなどを提供することが出来ます。
Apple の CM で、 "Genius" という CM があったの覚えていますか?「ピカソやアインシュタインは狂人とか変人とか呼ばれたけれども、
彼達は世の中を変えたんだ。」というやつです。
僕なんて、ほんの紙 1 枚分の厚みぐらいしかないかもしれないけど、WebObjects を広めることで、
ほんのわずかでも世の中を変える手伝いが出来ればいいなと思っています。
実際、僕の「WebObjects はいいよ。」という勧めから、WebObjects を始めた人達の中には、
会社の規模を急拡大した人も居るし、今はまだ会社が小さくて大変だけだけど、WebObjects で独立して
毎日嫌々Visual Basic で仕事をする状態から脱出できた人も居ます。
この先どんな時代が来るか分からないし、最悪の場合、Apple が WebObjects 飽きたから止めるよ。と言ったりして
全員の人生に「ごめんなさい!」しなきゃいけなくなるかもしれませんけど、
WebObjects を勧めることで、人に悪い影響を与えているとは思えないんですよ。
例えば「取り扱い商品の、一覧表示と条件検索が出来ればいいんだ。」という人に対して、
とりあえず WebObjects のごく初歩的な使い方を提供することで、まずは自分なりのサーバを立ち上げてもらう。
さらに、WebObjects や Java についての理解が深まるごとに次第に機能を充実していってもらう。
そうやって、利用者とサイトが一緒に成長していくことができるんです。
これが WebObjects の良いところ、面白いところだと思います。
あと、もちろん一生懸命やってるんですけど WebObjects 屋さんって皆よく遊ぶんですよ。
例えば「J2EE の Bean 書くのに 3 日徹夜しちゃったよ。」というのがコンピュータ業界によくあるパターンだと思いますが、
例えば、この業界で 3 本の指に入る石井さんは、
事務所が鎌倉の海岸の近くで、仕事行く前にサーフィン行ってからコードを書いていたりするんです。そういう人がこの業界、実に多いんです。
20 代の頃は、3 日徹夜するのも当たり前だと思っていたんですけど、僕ももう 40 代ですので、さすがにちょっとそれは違うんじゃないか。
と思ってですね、「どうすれば楽に開発が出来るかな。」と考えていた時に、たまたま WebObjects に出会ったのは、非常にラッキーでしたね。
よく WebObjects のセミナーをやるんですけど、それは飯のためでもありますが、
もう一つ、 WebObjects ってこんなに面白いんですよ、仕事は楽しくやりましょうよ、ということを伝えたいんです。
シアトルのフィッシュ哲学*2の二番煎じみたいですけど。
例えば、僕は MT 車を運転する楽しみはわかりますけど、J2EE や .NET は MT 車ですらないです。
それらは、苦労のための苦労にしか見えないですね。
*2シアトルの魚市場を経営する、 パイクプレイス・フィッシュマーケットのジョン・ヨコヤマ社長が、 倒産寸前の魚市場が蘇った経験から得た哲学を指し、米国ビジネス界で注目されいる。 その内容は、 (1) 仕事は遊び (2) お客を楽しませる (3) お客と向き合う (4) 自分で決める の 4 つ。
-- 世の中の流れとして、J2EE や .NET が盛り上がっていますが、それに対して、いまいちという思いがありますか?
反感覚悟で言えば、「君達、それ使ってて楽しい?」って思います。
宗教じみているって言われるかもしれないですけど、WebObjects は使ってて本当に楽しいんですよ。
下手なツールを使うと、本来のゴールに向かうことよりも、
言語や環境上の制約を逃げるための逃げ道を探すことに労力を取られますけど、
WebObjects はやりたい事をストレートにすることが出来るので。
使っていて楽しいという感覚は WebObjects 屋さん皆が言いますね。
例えば JSP で 2 ヶ月かかるものを、僕が WebObjects で 3 日で作っちゃえば、それは気持ちいいですよね。
うまい比喩が思い浮かばないんですけど、うーん、F1 とかの自動車レースだと、例え後ろの方からのスタートでも、
マシンのトラブルやピットのミスなどに足を引っ張られることなく、自分の力を 100% 出し切ることが出来れば気持ちいいですし、
その上、他車をごぼう抜きでゴールすることができたら、言うことないですよね。
もっといいものがあるのに、どうしてそんなシンドイものを使ってるのか、
僕には理解できないです。もちろん、J2EE にも、.NET にも、それなりの良さがあるでしょうけど、
なぜ皆がそっちを使うかが僕には全くわからないですね。
-- WebObjects の使いやすさや生産性が認知されて、一般的な Windows や UNIX に どんどん導入されるとかなりブレイクするんでしょうけど、そういう事態はあまり望まれてないんですかね?
いや、そんなことはないです(笑)。でも、Apple 自体が市場を制覇するという方向の商売をしてないですよね。 うちはもうこのポジションでいいやって思っているように見えちゃいます。 例えば、シェアが 80% もあると、それなりに妥協も出るだろうし、変なプログラムもサポートしなければならなくなるでしょうけど、 今のポジションだからこそ変なものに振り回されずに作っていられるんじゃないかなと思います。 本当はもうちょっと、せめて 20% くらいマーケットシェアがあると、安心していられるっていうのもありますが。
-- 一回どこかの開発でやったらはまりそうな気がしますね。それは間違いないですよ。僕、趣味で香港によく行くんですけど、あっちに Web 関係の開発をやっている友達がいます。 この間そこの事務所に遊びに行って WebObjects のデモをやったんです。 最初は数人の前でやっていたんですけど、そのうち「これは面白い!」と全フロアの人が集まって来て、 セミナールームに人が入らないくらいになりましたね。そこは今、見事にWebObjects が開発にはまっちゃってます。
-- 今日のデモ*3で、 WebObjects を、直感的に操作して最終的に Java でコード生成されてましたよね。 修正を行う場合は、やはり直感的に操作して生成するんですか?それとも Java に直接手を加えるんですか?
*3今回のインタビューの前に、サンプルデータベースを用いて Web 対応データベースアプリケーションを作成する WebObjects のデモを実施していただきました。
直感的な操作で生成した部分も、コードを直接修正した部分も、まったく等価に扱われますので、その時の状況次第ですね。
どういう変更が入るかによるんですけれども、修正の影響する部分だけをちょこちょこ触っているので、
あんまり修正が大変だと感じたことはないですね。
.NETとか JSP で苦労するのは、変更に弱いということですよね。変更に比較的強いというのも WebObjects の長所だと思います。
ただ、仕様変更が楽と言ってしまうと、今後の見積もりに支障をきたすので、あまり大きな声では言えないですし(笑)、
やはり開発よりも仕様変更の方がコストが掛かりますが、 変更箇所へ及ぼす悪影響が .NET などに比べてより小さくて済むのは、
WebObjects の中で MVC モデルがきちんと切り分けられてるからだと思います。
-- WebObjects は最初から直感的な操作が出来たんですか?
そうですね、 WebObjects 自身はかなり初期の段階から直感的な操作が入っていましたね。 元々 NeXTSTEP が徹底的に直感的になるように作られていましたので、それをまさに体現する開発ツールですね。
-- 倉橋さんにとって、Mac はどんなところが良いですか?
まず UI が自然なことですね。僕は、一貫性とか、透過性が好きなんですけど、 Windows のアプリケーションって、OK ボタンや終了ボタンが上にあったり左にあったり右にあったりでバラバラですよね。 Mac の場合は Save ボタンは必ずここになきゃいけないとか、dot 単位で位置まで決められて、ルールが徹底していたんです。 MacOS の素晴らしい点は UI ガイドラインの存在によるものだったと思います。 古い OS には、OS としては様々な欠陥があったんですけど、それらにも関わらず、 使っていて気持ちがいいのは、UI ガイドラインの存在が大きいと思いますね。 一貫性のあるユーザ・エクスペリエンスが提供されていたからこそ、ユーザーのハートを掴んで離さないし、 信者が居る位惚れ込ませているのでしょうね。一部微妙に過去形ですが(笑)。
-- 要するに使いやすさということですね。
一言で使いやすいと言えばそうなんでしょうけど、その使いやすさと言っても、ただ何となく使っていて気持ちいいということではなくて、 ユーザの心理や行動がきちんと定量化されていたからだと思います。 そういった研究の成果がガイドラインとして提供されていて 、僕らサードパーティーにもガイドラインの遵守が義務づけられていたことが、 Windows と決定的に違うんでしょうね。
-- やはりそれは、Mac OS だけではなく、Steve Jobs が関わるようなところから生み出される製品にも該当するのでしょうね。
そうですね、Macintosh は Steve Jobs が作ったかというと、そこは議論の余地があると思うんですが、 それは置いておいて、どんなに優れたデザイナーがいても、それを世の中に送り出そうという情熱がなければ、形にならないですよね。 "for the rest of us"、つまりは「プログラマ以外の人のための道具を作ろう」という情熱の下に様々な才能が集結したことによって、 Macintoshという最高の道具が生まれたのだと思います。
-- UNIX 系 とかやってる方でも、GUI なんていうのは邪道だ、コマンドラインが一番だ!とか Script が一番だ!と 踏襲している人達も居ますよね。実際使われて、こだわりはありますか?
そうですね。僕は、Java 同様、UNIX も必要に迫られて使っているという程度なんですけど、 GUI で出来ることは GUI でやるし、コマンドラインの方が楽なことは、コマンドラインでやるし。 どっちか選択すべきものではなくて、両方ですね。僕は楽をするために、プログラマをやってますので、 WebObjects で何かアプリを作る場合でも、まず、いかに楽に後の開発ができるかを考えてフレームワークを作ります。 ま、この商売やって 20 年経ちましたけど、「いかに楽をするか」を貫いてきただけかなと自分では思います。
-- オブジェクト指向についてどのような考えをお持ちですか?
そうですね、一言で言うと「必要にして十分」っていうのが、僕にとってのオブジェクト指向ですね。
僕、一時期 Smalltalk をやってたんですよ。ご存知だと思うんですけど、Smalltalk こそ誰にも文句のつけようのないオブジェクト指向ですよね。
ただ、こういうことを言うと Smalltalk を本格的にやっている人に怒られるんでしょうけど、
ちょっと現実的ではないところもあったと思います。
そして、現実的な世界と、理想の世界の狭間にあったのが、NeXTSTEP という OS 環境でした。
プログラミング的にはもちろんのこと、その環境そのものがオブジェクト指向でした。
残念ながら僕がそれを知ったのは、NeXT がなくなってからなんですけれども・・・。
-- よく、オブジェクト指向の話だと、Java や C++ の話になりますけど、 倉橋さんの一番お好きな言語は何ですか?
今の所は Java が一番とお答えしたいところなんですが・・・うーん、未だに一番好きな言語は C++ ですね。 本格的にプログラム組みだしたのが C 言語で、一番お金を稼いだのは C++ でしたし、頭から尻尾までひととおり理解しているのも C++ だと思います。 それに比べると、Java は、すいません、未だによくわからないです(笑)。 こう言っちゃなんですけど、どうせまた変わるだろうからとりあえず今自分で使うところだけわかってりゃいいや。 という、いい加減な態度で接しています。そういう意味では、僕は Java 技術者かと尋ねられて、 はっきりハイと答える自信は無いんですが、C++ 技術者かと尋ねられれば、「はい!」と答えられます。 C++ はオブジェクト指向言語としては不完全な存在ですけど、理想主義に走らず非常に現実的なところが好きです。 ただ、今僕が飯を食っているのは WebObjects で、そこで動くのは Javaなので僕は Java を使っています。 決して「Java は素晴らしい! Java 万歳!」ということでやっているわけではないですね。
-- 素晴らしいコンセプトの WebObjects が Java を使っているから、Java を使っているということですね。
そうですね。もし、C++ でも動いてくれるなら、明日からでも乗り換えます(笑)。 まぁ、それはないですけどね。それに、もし明日から C++ で動くとしても、これだけ Java の世界が広がっているので、 今更もう戻れないと思います。まぁ、C++ で WebObjects 云々は、ノスタルジーですね。
-- 先ほど WebObjects のお話のときに、香港の話がありましたが、海外に行かれるのはお仕事ですか?趣味ですか?
趣味ですね。元々僕は出不精なので、家で好きな、カウリスマキの映画を見ながら、 美味しい酒を飲んで、美味しいつまみを食べてるのがいいんですけど、 かみさんが旅行好きで、あちこちに引き回されています。それで香港に行ったらちょっとはまってしまいました。
-- 香港はいい所なんですか?
いや、がちゃがちゃうるさいし、街は狭いし汚いし、行くと疲れるんですよ。
でも、帰ってくると元気になってますね。何より食べ物美味しいし。
他の国だと、趣味と仕事を兼ねたアメリカ西海岸が好きですね。
初めて WWDC で西海岸に行った時は、僕らの仕事環境となんて違うんだろうと驚きましたね。
僕も結構高齢プログラマですけど、向こうは 50 代、60 代の現役プログラマが、全く新しいテクノロジに関して、
第一線でバリバリ質問しているんですよ。日本じゃ有り得ないですよね。
僕は会社勤めをしたことがないので、人に聞いた話が主になるんですけど、プログラマはコードを書くことが仕事なのに、
日本の会社だと年を取るにつれて色々がたがた雑用や管理が入りますよね。
向こうの人はそういうのには関わらないで、ひたすらコードを書いているんですよ。
それが羨ましくて、その空気を吸いにカリフォルニアに行っている部分もありますね。
-- プログラマに対する地位やステータスが根本的に違いますよね。
そうですね。日本は全体的に金融・文型の世界だから、「理系の連中は好きなことをやってるんだから、金安くても働くだろう。」 みたいに取られちゃうんですよね。そういう面で、メーカ系や技術系の人は、安い金で使われちゃってるところがあるんじゃないでしょうか。 実際に僕らが「好きなことできちゃってるからいいや。」って思ってる面があるからこそ、そういう社会になっちゃったのかもしれないですけど・・・。 僕はやはり、エンジニアが尊敬される社会が羨ましいですね。
-- 需要と供給の関係で価格が決まるはずなのに、日本のプログラマは一概にあまり高くないですよね。
プログラマに関わらず、技術者は皆そうですよね。
-- 単にステータスが違うだけではなく、向こうの技術者は質の高い人がやってるんでしょうね。
鉛筆なんとかって言葉ご存知ですか?昔の COBOL とかの時代は、紙の上でコードを書いてましたよね。
鉛筆で一行いくら、人月いくらで仕事するって意味で、自らを日雇い労働者になぞらえた言葉があったんです。
価値ある労働としてではなくて、人月いくら、時間当たりいくらという、単純労働レベルで働かされた人が多かったということですね。
社会でのプログラマの位置付けがアメリカと異なってしまったのは、クリエイティブな領域でのプログラマと、
ルーチンワークとしてのプログラマを区別することなく一緒に来ちゃったことに起因しているんじゃないかと思います。
アメリカにもクリエイエティブな人と、ルーチンワークの人が居ますけど、日本とは大分位置付けが異なるみたいですね。
一番いけないのは、日本の場合は人月いくらで見積もってるから、ある程度年を取って給料高くなっちゃうと、
プログラムを辞めなきゃいけない環境がありますよね。
昔、「25 歳定年説」とか「30 歳定年説」という言葉がありましたよね。
アメリカでこういう言葉はあるかいって聞いたら「いやぁ、僕は聞いたことないねぇ」って言われました。
体力勝負って意味で使われることはあるみたいですけど、日本のようなニュアンスで使われることはないですね。
-- お話にもありましたし、HP も拝見したんですが、飛行機にはよく乗られるんですか?
たくさん飛行機に乗ってくれる人を優遇しようという、Frequent Flyer 制度が各航空会社にあるんですけど、旅行好きのかみさんが「アナタの海外出張にも便利だから、全日空のプラチナメンバー資格を取ろう。」と言い出しまして。 で、取得を目指して、例えば 1 日 に羽田と大島を 2 往復ですとか、東京と沖縄を 2 日で 3 往復とかして、 年間 42 回乗って 50,000 マイル稼ぎました。
-- それは飛行機を乗るためですか?
マイルを稼ぐためです(笑)。当時は、全日空の超割で全国どこでも片道 1 万円で行けたんです。
東京だと、東京 〜 沖縄間が一番マイルを稼げるんですよ。片道 2 時間半なんですけど、2 日で 3 往復した時は、1 日で一往復半、合計 7 時間半。
東京からサンフランシスコに行く位の時間乗ってましたね。
その位乗っていると、今自分がどっちに向かっているのか本当にわからなくなりますよ(笑)。
ちなみに、こういうのをマイレージ修行、マイレージ修行僧と呼ぶそうです。
で、一度プラチナメンバーになると、これがけっこうお得なんですよ。1 年間の航空運賃が 50 万円位掛かるんですけど、
これでサンフランシスコ 2 回、ニューヨーク 1 回、香港 1 回、全部ビジネスクラスで往復できますからね。
マイレージ修行では、回数を稼ぐために、比較的近距離の札幌 〜 女満別を一日 3 往復したりするんです。
その時乗った飛行機が YS-11 で、
乗ると実に味わいが深くてですね、これが国産の飛行機だということはぼんやり知ってたんですけど、
その頃に 「プロジェクト X 」で YS-11 の特集が放映されたんです。
番組を見て知ったんですけど、 たまたま YS-11 のモックアップ公開日が、僕の誕生日と 1 年違いで一緒なんですよ。
この偶然を浅からぬ縁があるんじゃないかとこじつけてですね、「YS-11 はいいなぁ。」と、YS-11 にばんばん乗り始めたんですよ。
ちなみに今年は YS-11 だけで乗った回数が 50 回を越えてます。
-- YS-11 には、私自身、随分昔に乗ったことがあるんですけど、YS-11 の良さってどこにあるんですか?
蒸気機関車の汽笛って、ただ「ピー」ではなくて、感情の根っこを掴まれるような、凄くエモーショナルな音がしますよね。 僕は昔オーディオマニアだったんですけど、YS-11 のエモーショナルなプロペラの音がたまらないですね。 あと、離陸するまではカラカラカラ・・・という、ちょっと情けない音で誘導路を進んでいくんですけど、 離陸の時には腹の底から絞り出すような低音に変わるんです。僕はそれが涙が出てくる位、たまらなく好きなんです。
-- 音圧が好きなんですか?
圧ではなく、質ですね。独特の低音。とにかく力こぶの入った低音がたまらないですね。
それでですね、旅の記録ということで、
始めは貧弱なデジカメを使っていたんですけど、そのうち、12 倍ズームの割といいレンズを使ったデジカメで撮り始めたんですね。
カメラをやってる人だったら当たり前のことなんでしょうけど、レンズが変わると、写真も凄くキレイになるんですよ。
しばらく満足してそれで撮ってたんですが、飛行機って離着陸の時は、デジカメ使えないんですよ。
そこで、「着陸前のフラップをいっぱいに広げているところが撮りたい!」と思って、 最初はまず 2 万円位のコンパクトカメラを買ったんです。
そのときに、知り合いのカメラマンから「普通のネガフィルムではなくて、ポジフィルム一回使ってみな」と薦められて、
「ヘィ師匠。」と深く考えずにとりあえず使ってみて、現像に出したんですね。
そうしたらそれが凄くキレイだったんです。いかにも空、いかにも飛行機のボディという、深みのあるいい色が出たんですね。
それと比べると、デジカメで撮ったものって、まっ平らなんですよ。「こりゃすげえ!」と、一番安い銀塩の一眼レフと、ズームレンズを買って、
撮ってみたんです。そしたらですね、自分なりに、しみじみ「いい写真だなー」って思うのが撮れちゃったんです。
「俺って写真巧いじゃん!」って、プロの師匠に見てもらったら、全然使えない写真ばっかりだったんですけど。
それで、気が付くとカメラのレンズがぽこぽこ増えてですね、今 4 本持ってます。
かみさんには 2 本しか持ってないって言ってあるんですけど・・・。まぁ、かみさんはこのページのことはダマっておこうかと(笑)。
-- デジカメから銀塩に戻った人は、僕の回りでも結構居ますね。ちょっとした時はデジカメでもいいかな。と思いますけど、 ちゃんとした写真は、やはり銀塩使いたいですよね。
同感です。で、どういうものを撮ってるかというと、もう一つのお気に入りということで、
この、たれぱんだなんですよ。
この二つ(左一番上写真のうちわ)が僕を象徴していますね。
この写真(左二番目の写真)は所沢の航空記念公園 に
展示されている YS-11 を撮ったものなんですが、実は自分ですごく気に入っていて、カメラ雑誌に応募しよう、
なんて思っていたんですが・・・そりゃいくらなんでも身の程知らずだ、と我に返りまして。
でも、私のお気に入りということで(笑)。
写真って、いつも全体にピントを合わせればいいというものではなくて、
ぼかすことで撮影者の関心とか被写体の意志とかを表現できるんですね。
-- それが、凄く確かにキレイに見えるんですよね。
人間の顔を撮るときでも、人間の顔にピントを合わせて、あとはぼけるように撮るとうまく撮れるんですよね。
いや、カメラをやっている人には当たり前のことなんですが、私のようなシロートには凄くこれが新鮮でした。
これ(左一番下写真)は、WWDC の時に Apple の中庭で撮影したんですが、WebObjects の旗にピントをあわせて、
わざとたれぱんだをぼかしています。こうすることで、たれぱんだの見ているものが表現できるかな、と。
ちなみに日付けは日本時間です(笑)。
-- なぜ、たれぱんだなんですか?
可愛いからです(笑)。なんというか、ただ、そこに居る、っていう点が好きですね。
私は古い人間なんで、言葉はなくてもいい、みたいな。
いや、実はこれもかみさんが見つけて来たんです。僕、結構かみさんの思うツボっていうのが結構多くてですね、
さっきあの、Mac をきっかけにお付き合いしようとした女の子が今、僕のかみさんになってるんです。
そう言われてみると、かみさんに引っ張りこまれているものが多いな・・・。
-- YS-11 のきっかけもそうですよね。
そういわれてみると、流される人生ですね(笑)。
-- WebObjects は違うじゃないですか。
でもこれもどちらかと言うとお客さんがきっかけですね(笑)。 WebObjects があるのを知ってて、自分から行った訳ではなくて、人からWebObjects があるよって聞いて始めたので。 最初はあんまり凄いなって思わなかったんですけど、やってるうちに凄いなって思ったんです。 そうですね、「俺の生きる道はここにある!」という判断はしました。しかし、我ながら流され型の人生ですね。
-- ベテランの域に入る倉橋さんですが、後輩、若手エンジニアに対してアドバイスを一言お願いできますか
「やりたくないこととやりたいことの両方をやれ。」ですね。いや、「やりたくないことを、好きなツールでやれ」かな。
-- ほぉ。この業界の人にインタビューをすると、まず「好きなことをやりなさい。」という話はよく聞くんですけど、その逆は新しいですね。
やりたくないこともやらないと、伸びないですし、やりたい事が出来ないなら生きてる甲斐はないですよね。
やりたくないことで自分を伸ばして、好きな道具、やりたい事で楽をしようと。僕はそうありたいですね。
僕はこの仕事を 20 年やってきて、ようやく仕事を選べるような立場になったんです。
あまり仕事は断らないんですけど、昔のつてなどで、WebObjects 以外の仕事の依頼が来ても、断れるようになりましたね。
基本的に WebObjects の仕事はどれも嫌いではないですから、「やりたい仕事が出来る = WebObjects の仕事が出来る。」という今の自分は、大変幸せです。
ただ、好きなことばっかりやってるっていると、技術者としては伸びないですから、そこはバランスを取らないといけないのかもしれませんが・・・。
-- ある種、正しい社会人の姿なのかもしれませんね。。今日は楽しい話をありがとうございました。
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