RUP の拡張: エンタープライズ・アドミニストレーション作業分野 |
このホワイトペーパーの題材は、Scott W. Ambler、John Nalbone、Michael Vizdosによる「エンタープライズ統一プロセス: IT 業務の全体最適化のためのプロセスフレームワーク」から抜粋したものです。 |
エンタープライズ・アドミニストレーション作業分野は、RUP を拡張して、組織が物理資産・情報資産を安全に作成・保守・管理・導入する方法を定義したものです。その目的は、単に官僚制を一段階積み上げることではなく、むしろ、そのような作業を合理化することにあります。この文書を読むと、組織内にいかにして官僚主義が形成されるかが簡単に分かります。人によっては、エンタープライズアドミニストレーションを運用及びサポート作業分野を拡張したものだとしていますが、この作業は EUP のほとんどすべての作業分野にまたがっているため、私たちは別のものとして分けました。特にこれは、Information Technology Infrastructure Library (ITIL) の助言の基本となっています。EUP の他のフェーズや作業分野と同じように、この作業分野に含まれる作業を適用する方法は、組織によって異なります。自分の環境に合った方法を採用してください。
この作業分野には、次に示す 5 つの役割があります。1 つは抽象、4 つは具象の役割です。( 訳注: "抽象"は各役割に共通の役割, "具象"は各役割に固有な役割のことです。抽象クラスと具象クラスと対比されているのですが, 分かりにくいかもしれません)
エンタープライズ・アドミニストレーション作業分野のワークフロー(図1を参照)には、会社の物理資産、情報資産、およびセキュリティの管理が含まれています。この作業分野でもっとも重要な作業の1つは、プロジェクトチームと効果的に協力して作業をサポートしながら、同時に組織の長期ニーズが満たされるよう気を配ることです。
図1. エンタープライズ・アドミニストレーション作業分野のワークフロー
組織の物理資産には、ハードウェア、ネットワーク、コンピュータ設備があります。組織のハードウェアおよびネットワークのインフラストラクチャの管理に責任を持つのはネットワーク・アドミニストレータです。ネットワーク・アドミニストレータは、自身が運用やサポートを担当するメンバーであるか、またはそれらの人々と常時密接に協力して仕事をします。ネットワーク・アドミニストレータは、ハードウェアおよびネットワークの計画を最新状態に保ち、情報を利用できる形にしてさまざまなプロジェクトチームに伝えなければなりません。また、関連するネットワークとハードウェアに関するガイダンスに沿って、自分の仕事がエンタープライズ・アーキテクチャモデルに表された長期的構想を反映していることを確認します。
ネットワークアドミニストレータは、プロジェクトの初期段階に参加して、チームが適切なハードウェア・ソフトウェア・ネットワークのインフラストラクチャを設定できるよう手助けします。また、作成フェーズを通して、ネットワークおよびインフラストラクチャのサポートや、テスト環境および稼働環境の構築といった点で、プロジェクトチームを支援することも彼らの仕事です。移行フェーズの終わりには、ネットワークアドミニストレータも加わって、稼働環境への円滑な導入を確実に行わなければなりません。稼動フェーズでは、発生した状況を運用およびサポート担当者が監視するのを手伝います。最終的にシステムが引退するときには、システムのうちネットワークに影響しそうな部分を問題なく止められるよう、深く関わることになります。
設備アドミニストレータは、通信およびネットワークのインフラストラクチャの構築や保守など、組織のコンピュータ設備に責任を持ちます ( IT 以外の世界では建物や未開発の土地もここに含まれることがあります ) 。ネットワークアドミニストレータと同様、設備アドミニストレータも助っ人の立場であり、稼動フェーズなどあらゆるフェーズでプロジェクトチームと協力し、運用やサポートの状況の監視を手助けします。
情報アドミニストレータは組織の情報資産 ( データ、知的財産、ライセンス ) の管理を担当します。図2に示すのは情報資産の管理作業です。情報アドミニストレータは、以下の事柄を実施しなければなりません。
図2 「エンタープライズ情報資産を管理する」ワークフローの詳細
情報アドミニストレータの責任は、社内のデータを管理することです。情報アドミニストレータは通常、すべてのフェーズに関わります。ここではプロジェクトチームに対して非常に柔軟に対応する必要があります。チームがさまざまなことを試すには、自由裁量の余地が必要だからです。情報アドミニストレータは、システムが稼動段階に入る前に、情報資産がすべて正しく定義され、準備されていることを確認しなければなりません(ライセンスの手配が済んでいることの確認など)。情報アドミニストレータの仕事を効果的に行うには、次の点を認識しておく必要があります。
次に IT アドミニストレータがしなければならないのは、知的資産 ( IP ) の管理です。これは貴重なリソースなので、組織にとって非常に重要です。さらに、情報アドミニストレータの作業にはライセンス管理があります。ライセンス管理は、コストと法律の両面において重要です。コスト面からいうと、不必要なソフトウェアにライセンス料を払いすぎるのは望ましくありません。法的な面からは、ビジネスソフトウェアアライアンス ( BSA ) から人がやってきて、商用ソフトウェアの著作権侵害だと言われるような事態は避けなければなりません。悪い評判が立つだけでなく、罰金も厳しく、財政に影響を与えかねないからです。開発者はライセンスに従ったり標準を守ったりすることまで考えないことが多いので、エンタープライズ・アドミニストレータがこれらの問題についてチームを教え導く必要があります。
セキュリティ・アドミニストレータが対処しなければならないセキュリティには 2 種類あります。
物理セキュリティとIT セキュリティを融合したものは収束セキュリティ ( convergent security ) と呼ばれ、現在どちらの種類のセキュリティベンダーもこれに力をいれて追求し、サポートしています。
セキュリティアドミニストレータは、EUP のすべてのフェーズに関与するべきです。プロジェクト推敲時に新しいセキュリティ・アスペクトを設定するところから始まって、システムが引退した後にはセキュリティ面から見てすべてが組織のガイダンスに沿っていることを確認するまでです。セキュリティ・アドミニストレータは以下の問題に対処しなければなりません。
エンタープライズ・アドミニストレーション作業分野で一番怖いのは、それを実施するために巨大な官僚制度を作り上げてしまうことです。逆に、アプリケーションチームがエンタープライズ・アドミニストレータを避けるのではなく協力して仕事をしてくれるよう、この作業分野の作業を合理化することを目標にしなければなりません。プロジェクトチームとよく話をして尊敬と信頼を勝ち得、同時にチームの教育と支援を行う必要があります。それぞれのタイプのエンタープライズ・アドミニストレータが、自分の専門に関するガイダンスを作成し、プロジェクトチームがそれを適用できるようサポートすることが非常に重要です。ガイダンスに一般的なベストプラクティスが反映されていて、分かりやすく書かれており、守りやすく、効果的にサポートされている場合には、プロジェクトチームは喜んで従ってくれるはずです。そうでなければ、プロジェクトチームはガイダンスになかなが従ってくれないと考えるべきです。このガイダンスには次のものが含まれます。
EUP のエンタープライズ・アドミニストレーション作業分野は、RUPを拡張してエンタープライズレベルでの管理ニーズをカバーしています。この作業分野には、物理的資産・情報資産の管理と全社的なセキュリティが含まれます。また、この作業分野におけるさまざまな推進構想や作業に関して、プロジェクトチームをサポートする方法についての情報も含まれます。
本ページの原文 ( 改訂されている可能性あり ) : www.enterpriseunifiedprocess.com/essays/enterpriseAdministration.html Copyright 2004-2007 Scott W. Ambler
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