ObjectSquare [2006 年 7 月号]

[オージス総研の本]


エンタープライズ統一プロセスの表紙

エンタープライズ統一プロセス
IT 業務の全体最適化のためのプロセスフレームワーク


スコット W. アンブラー / ジョン ナルボーン / ミカエル ヴィツドス 著
株式会社オージス総研 監訳
翔泳社 4,725 円 (税抜き 4,500円)
ISBN: 4798109347

目次 目次
内容紹介 内容紹介

目次

第 I 部:RUP からEUP へ
第 1 章:はじめに
第 2 章:ラショナル統一プロセス ( RUP )
第 3 章:エンタープライズ統一プロセス ( EUP ) の紹介
第 II 部:開発の先
第 4 章:稼動フェーズ
第 5 章:引退フェーズ
第 6 章:運用及びサポート作業分野
第 III 部:エンタープライズ管理作業分野群
第 7 章:エンタープライズビジネスモデリング作業分野
第 8 章:ポートフォリオ管理作業分野
第 9 章:エンタープライズアーキテクチャ作業分野
第 10 章:戦略的再利用作業分野
第 11 章:人材管理作業分野
第 12 章:エンタープライズアドミニストレーション作業分野
第 13 章:ソフトウェアプロセス改善作業分野
第 IV 部:まとめ
第 14 章:エンタープライズ統一プロセスの採用
第 15 章:終わりに
付録 A:役割
付録 B:成果物
付録 C:用語集
付録 D:略語集

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ごく簡単な書籍紹介

エンタープライズ統一プロセス (EUP) は、ソフトウェア開発のプロセスフレームワークである UP を、企業全体の IT 業務を網羅するプロセスフレームワークへと拡張したものです。EUP は、企業の IT 業務の全体像を提供するものであり、ビジネスをより良く支援するために IT 業務をどのように改善すればよいかを考えるために役立ちます。EUP の考案者は、「オブジェクト開発の神髄 ( 日経 BP 出版センター、2005 ) 」や「アジャイルモデリング ( 翔泳社、2003 ) 」の著者である Scott Ambler 氏と Ronin International 社の同僚です。

本書では、EUP を構成する作業のワークフローを中心に、それらの作業を実施するための戦略や選択肢、事例や陥りがちな失敗パターンが概説されています。どちらかといえば、企業の IT システムの企画や改善を行う立場の方々や企業全体のビジネスモデルや共通アーキテクチャを考案する立場の方々向けの書籍です。作業の詳細な説明はありませんが、ITIL, PMBOK, EA, ビジネスモデリング, 再利用などで個別に論じられている企業全体の IT 業務の全体像を理解するためにお薦めの本です。

UP と EUP のミニ解説

統一プロセスとは

少し前置きが長くなりますが、本書の内容を理解するためには統一プロセス ( UP ) の知識があった方が良いので、まずその説明をします。

UP は、UML 3 人衆の 1 人である Ivar Jacobson らが提案した UML を活用するための開発プロセスフレームワークです。開発プロセスフレームワークとは、開発プロセスを定義するための素材集のようなものです。すなわち、様々な開発に対応できるような汎用の開発作業やワークフロー、成果物、開発上の役割が定義されたものです。

開発組織が、これらの開発プロセスフレームワークを適用する際には、これらの開発作業のワークフロー、成果物の形式、各種のガイドラインの中で自組織の環境や開発分野において必要なものを取捨選択して開発プロセスを定義します。この取捨選択し、開発プロセスを定義することをテーラリングと呼びます。

統一プロセスは、以下のような 4 つの特徴をもっています。

 これらの特徴で UP の最も大事な点は、一定の期間毎に動くソフトウェアを順次作り、それを発展させながら最終的な製品に仕上げる「反復的な開発アプローチ」であるという点だと思います。このように「反復的な開発アプローチ」を用いることの長所は以下の 2 点です。

また、UP では、一つのシステムを企画して納品するまでの開発ライフサイクルを以下の 4 つのフェーズで分割しています。

これらの 4 つのフェーズに達成すべき目標を設定し、その目標の達成度の評価により、次のフェーズに進むべきかを判断します。このようにフェーズを設定することにより、UP では「反復的な開発アプローチ」の長所に加えて、長期的な目標設定や管理をしっかりと行うことができます。

この統一プロセスを具体化した開発プロセスフレームワークとしては、ラショナル社 ( 現在は IBM 社 ) のラショナル統一プロセス ( RUP ) や当社のオテラサービスで提供している開発プロセスがあります。これらの開発プロセスフレームワークでは、開発プロセスを定義するために使える開発作業のワークフロー、成果物の形式、各種のガイドラインなどの素材が充実しています。

エンタープライズ統一プロセスとは

エンタープライズ統一プロセス ( EUP ) は、ソフトウェア開発のプロセスフレームワークである UP を土台にして作り上げた、企業全体の IT 業務を網羅するプロセスフレームワークです。EUP は、ビジネスをより良く支援するために企業全体の IT 業務の全体像を提供することを目指しています。EUP は、UP の形式に準じて企業全体の IT 業務のワークフロー、役割、成果物を定義することでこのような全体像を提供しています。

EUP では、UP に以下のフェーズ、作業分野、作業分野群を追加しています。

ここで作業分野とは、作業を種類ごとにグループ分けしたものを意味し、作業分野群は複数の作業分野をグループでまとめたものです。

稼動フェーズは、開発したシステムを運用及びサポートし、問題点報告や拡張依頼などから修正や拡張すべき内容を特定し、その開発を行い、その変更をシステムに反映していくというフェーズです。稼動フェーズでは、フェーズで行う作業の全体像や次の引退フェーズに移るためのマイルストーンが定義されています。

引退フェーズは、現在稼動しているシステムを新システムやパッケージソフトで置き換えたり、システムを廃止するためのフェーズです。引退する対象システムと他のシステムとの相互作用を分析したり、引退する対象システムのデータを抽出、変換し、新システムに移行させるなどの作業が行われます。

運用及びサポート作業分野は、稼動フェーズで行われる作業とほぼ重なりますが、サポートの対応戦略、バックアップやリストア、災害への対応などに関連する説明が追加されています。

エンタープライズ作業分野群は、以下のような作業分野で構成されます。

エンタープライズビジネスモデリング作業分野は、経営方針や経営戦略から出発し、企業全体の業務モデルをエンタープライズビジネスモデルやエンタープライズデータモデルなどにより定義する作業分野です。これらエンタープライズビジネスモデルやエンタープライズデータモデルは、他のエンタープライズ作業分野の情報源となります。

ポートフォリオ管理作業分野は、企業に存在する既存システム及び企画中の新規システムの全体像を把握することにより、それらのシステムの開発や拡張の優先度を決め、開発の承認を行ったり、リスクを管理するための作業を行うものです。

エンタープライズアーキテクチャ作業分野は、企業内のシステムで共通に使われる技術アーキテクチャを考案し、そのアーキテクチャを検証し、そのアーキテクチャを開発プロジェクトで適用するのを支援するためのものです。

戦略的再利用作業分野は、既に開発されたソフトウェアから再利用できる成果物を収穫し、それをさらに洗練することで得られた再利用できる資産を作り、その資産のプロジェクトへの適用を促進するためのものです。再利用の複数のレベルや再利用の戦略についても説明されています。

人材管理作業分野は、IT 技術者のためのキャリアパスを企業内で作成したり、採用を行ったり、教育を行うためのものです。  エンタープライズアドミニストレーション作業分野は、企業の施設やハードウェアの資産の管理を行ったり、データやネットワークの管理を行ったり、セキュリティを管理したりするためのものです。

ソフトウェアプロセス改善作業分野は、UP のような新たな開発プロセスを組織に作ったり、テーラリングしたり、導入するためのものです。

EUP において、これらの作業はプロジェクトマネジメントオフィス( PMO )やソフトウェアエンジニアリングプロセスグループ ( SEPG ) などの組織やエンタープライズビジネスモデラー、エンタープライズアーキテクト、エンタープライズアドミニストレータなどの役割で担うことが提案されています。さらに、これらのエンタープライズ作業分野群で実行すべき作業や成果物の種類などを提案しています。

EUP の特徴の 1 つは、これらエンタープライズ作業分野を行う際に、膨大な文書(マニュアル)に頼るのではなく、エンタープライズ作業を行う役割の人たちによる教育と実地指導を強調している点です。このような考え方は、変化への対応を重視するアジャイル開発の考え方と通ずるものです。

EUP の最大のセールスポイントは、絵空事ではなく、現実的に実践可能な IT 業務の姿が示されているという点です。但し、エンタープライズ作業分野がうまく機能するのためにはエンタープライズ作業分野を担う人たちと個別の開発プロジェクトを担う人が「効率化」という共通の目標に向かって協力できることが前提になります。

日本のように委託開発が多いという状況で、そのような前提を満たすのは容易いことではないでしょう。しかし、委託開発の状況でもエンタープライズ作業分野を担う人たちと個別の開発プロジェクトを担う人の双方の利益を尊重するようなパートナーシップを築くことでこのような前提を満たすことができるのではないかと私は期待しています。

EUP についてさらに詳しい情報は、エンタープライズ統一プロセス日本語リソースサイトをご参照下さるようにお願いします。このサイトには、訳文や訳語は異なりますが、本書の内容の一部抜粋が掲載されています。

参考書籍及びサイト

本書では、限られたページで IT 業務の全貌を描こうとしているため、2 つの点が省略されています。

第 1 点は、各作業分野の作業の詳細や成果物の形式の定義が省略されているということです。成果物で使われるモデルの形式の説明は、スコット・アンブラー著「オブジェクト開発の神髄( 日経 BP 出版センター、2005 ) 」及び「アジャイルなモデルのエッセンスサイト」で提供しておりますので、ご興味があればご参照くださるようお願い致します。

第 2 点は、EUP の前提となるソフトウェア開発のプロセスであるラショナル統一プロセス ( RUP ) や 統一プロセス ( UP ) の説明がほとんどないということです。これらのより詳しい説明が必要な場合には、フィリップ・クルーシュテン著「ラショナル統一プロセス入門( アスキー、2004 ) 」をご参照下さるようにお願い致します。

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エンタープライズ統一プロセス 読者プレゼント

今回特別に、エンタープライズ統一プロセスの解説本である 『 エンタープライズ統一プロセス 』 を抽選で 1名 の方に読者プレゼントいたします。
ご希望の方は、以下の内容を明記の上、メールの Subject に「エンタープライズ統一プロセス プレゼント係」と書いて OOSQUARE-EDITOR@ogis-ri.co.jp 宛にお送りください。

  1. お名前
  2. 郵便番号
  3. ご住所
  4. 電話番号
  5. 「オブジェクトの広場」で取り上げてほしい情報・記事
  6. 「オブジェクトの広場」の感想

締め切りは、2006 年 7 月 31 日まで。当選者の発表はご本人宛にメールにてお知らせいたします。

 ご応募で頂いた個人情報につきましては、本件「エンタープライズ統一プロセス」プレゼントのご連絡のみに使用いたします。
 お客様の個人情報は、当社の個人情報保護方針に基づき、適切にお取り 扱いいたします。また、ご本人の承諾なしに、第三者機関へ提供することはありません。

プレゼントの応募は締め切らせていただきました。
たくさんのご応募ありがとうございました。
抽選の結果、当選された方には 08/11 までに案内メールをお送りいたします。
(2006/08/01)

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