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「なぜマーケティングが重要なのか?(4)― マーケティングの全体像(下) ―」
株式会社オージス総研

2013年12月号
  • 「なぜマーケティングが重要なのか?(4)― マーケティングの全体像(下) ―」
株式会社オージス総研   水間 丈博

 前回に引き続き「マーケティングの全体像(下)」として、「マーケティング・ミックス」を取り上げます。マーケティング・ミックスを詳述する理由は、「STP*1」に加えて「計画/実行」段階の主要な活動領域になることと、現在のような競合が激化し消費者の指向が多様化した世界では4Pだけでは限界が見えてきたことをご理解いただきたいためです。

*注1:
市場を区分する「セグメンテーション」、狙いを定める「ターゲティング」、自社の顧客への印象を形作る「ポジショニング」を総称した略語。前回掲載【なぜマーケティングが重要なのか?(3)】 - マーケティングの全体像(上)- 参照。

マーケティングの3C,4P,顧客4Cの関係概念
図8 マーケティングの3C,4P,顧客4Cの関係概念

(4)マーケティング・ミックス

 図8に本稿の主題を関係概念図にしました。「3C」は前回触れました、「企業(自社)」・「顧客」・「競合」の頭文字をとったもので、企業戦略やマーケティングを考えるベースとなるものです。
 以下に4Pと新たな概念4Cについてご説明します。
 「4P」とは「プロダクト」・「プライス」・「プロモーション」・「プレイス」の頭文字をとったもので、今日にいたるまで「マーケティングの基本中の基本」として広く知られており、「マーケティング・ミックス=4P」とも考えられてきました。

・製品(Product)
 顧客に提供され販売されるすべての「製品」「サービス」を指します。機能、特徴、アーキテクチャ、デザイン、パッケージ、コア品質など、製品を特徴づけるすべての属性概念が含まれます。マーケティングを考える時、顧客や競合と対比される際に、さまざまな属性が比較され評価されます。
・価格(Price)
 伝統的な標準小売価格や仕切り価格、卸価格に加えて、売上値引きやリベート、取引条件や支払条件など、価格政策全般を含めた概念です。企業の利潤を左右する重要な要素であるため"価格戦略"として様々な考え方があります。代表的なものは(1)コスト積上型(製造コストから自社の利潤を上乗せして決める方法)(2)競合対比型(競合製品の性能や価格と比較して自社の製品価格を決める方法)(3)顧客ベネフィット型(カスタマーバリューを類推して価格を決める方法)です。
・プロモーション(Promotion)
 なんらかの手段で顧客に到達し、認知を得て、商品の特徴を理解してもらい、最終的に購買に踏みきってもらうための様々な方法と手段を包含しています。代表的な構成要素として広報、広告、キャンペーン、セール、セミナー、販促ツール、Webサイト、Eメールなどがあります。広汎な市場から潜在顧客層を見つけ出し、購買に繋げるまでを活動対象としますので、マーケティングを知らない人は「マーケティング=プロモーション」と考えていることがほとんどです。
 実際は4Pの一つに過ぎないのですが
(1) 多大な労力を要することが多いこと
(2) マーケティング部などプロモーションの主管部門以外にR∧D部門や販売部門など他部門を巻き込む局面が増えること
(3) 活動そのものにコストが掛かるために全社的に費用対効果が問われる半面、明解な効果測定が難しいこと
などがその理由の一端と言われています。ただし、これらの現象はどの企業でも課題になっており、効果を数値化する努力*2が進められています。
*注2:
従来から認知率、購買率、リピート率やRFM分析(顧客の購買履歴分析)などがCRM導入とともに実施されてきたが、昨今のマーケティング・テクノロジーの進展に伴ってWebサイトのページビュー(PV数)、滞在時間(Visit Duration)、コンバージョン率(CV率:問い合わせや購買に至ってプロモーションの目的を達成できた割合)などが正確に測定できるようになってきた。
・流通/チャネル(Place)
 これは様々な「販売ルート」を総称した概念です。直接販売(自社の店舗やオンラインショップで購買者と直接取引する)、代理店販売(チャネル販売とも言われ、第三者の代理店に商品を卸して販売を委託する)、卸(ホールセールとも呼ばれ、競合品も扱う中間取引業者に一括して商品を供給する)などのほか、同業他社とアライアンスと言われる協力関係を築く場合や、グループ会社を経由させる手法など様々です。直販のうちネット販売も格別なチャネルの一つとして扱われることも多くなりました。また、直販は店舗販売のほかに直接顧客にコンタクトするルートや、セールスマン(営業員)による販売も「人的販売」としてチャネルとして数えられます。その理由は「プル型(呼び込み型)」と「プッシュ型(押し込み型)」で販売戦術が異なる理由によります。

 「4P」はミシガン大学教授のE.J.McCarthyが1960年に提唱したもので、永らく米国をはじめとするマーケティング専門家の間で主流の考え方とされてきました。しかし、これは製品提供者側(売り手側)の論理である性格が強過ぎるという批判も根強く、1993年に米国のRobert F.Lauterbornという学者が新たに買い手側の視点に基づく「4C」を提唱し広く受け入れられるようになりました。4Pのそれぞれに対照される概念として「顧客視点」で4つのCが置かれていることが特徴です。

・製品・・・⇒顧客価値(Customer Value)
 "顧客は商品が欲しいのではなく、その製品によって得られる価値に対して対価を支払っている"とする考え方です。顧客が求める本当の価値(ベネフィットとも呼ばれる)とは何なのか、顧客の求める要望に対して何を以って応えることができるのかを考えます。(顧客がドリルを買うのは穴を開けたいから。)
 "製品の価値を決定するのは購買者である"、という今では当然のことを明示した意味は大きく、現在は広く受け容れられています。
・価格・・・⇒顧客コスト(Cost to Customer)
 消費者の価値観は多様化していると言われます。価格は長い間、提供企業が原価を積み上げ、流通経路を想定して計算された利潤を上乗せして決めた価格を定価(標準小売価格)として消費者に提示してきました。市場と消費者が変化した現在は、実売価格を市場の判断に委ねるオープンプライス品が増え、価格決定の主導権が消費者側に移りました。また「顧客コスト」とは、単に製品購買価格だけでなく、選択するためのコストや入手するまでのコストなどを総合的に見るべき、との考え方が浸透してきました。そのため企業が製品を"幾らで販売するか"よりも、"消費者が最終的に購買する価格にするためにはコストは幾らでなければならないか"が重要になりました。これを決定するためにリサーチすべき要素が格段に増えたといえます。
・流通・・・⇒利便性(Convenience)
 生産財やB2Bの世界では依然として商品やサービスによっては、従来チャネルや対面営業主体の流通形態が存在する一方で、店頭販売だけではなくEC(Electric Commerce)のようにどこでも、何でも、いつでもモノが買える環境が拡大してきました。インターネットの普及にともなってPCやスマートデバイスの台頭が大きく影響していることは明らかです。さらに、いつでも市場情報に基づいた価格比較ができるような価格比較サービスも一般的になりました。従って単に顧客へのコンタクト方法や商品配送ルートの確実性や迅速性だけではなく、顧客の情報入手の容易性・価値の分かり易さ・購買シーン・利用シーンなど、製品に関わるライフサイクル全般について消費者の利便性を追求する必要がでてきたのです。
・販促・・・⇒コミュニケーション(Comunication)
 SNSや口コミが消費者の重要な購買要件になることが明らかになってきました。従来、販促は企業側から購買者側へ一方通行に情報を提供し需要を駆り立てる役割でしたが、今は個々の顧客との相互コミュニケーションが定常化し、例えば無印良品*3のように個別の顧客リクエストを商品化に活かす企業も現れました。そのため企業側は、自社の売り込みたい商品情報よりも、正しい姿勢や適切と考えるコンセプトを打ち出し、より正確で共感してもらえる情報発信がコミュニケーションの基本となりました。これは顧客の中にファン層を形成し、従来の考え方でいう「固定客化」を促す前提となりました。これは単なるプロモーションではなく、売り手と買い手の相互コミュニケーションをいかに緻密・的確に形成するかに販促の重点が移ったことを示します。
*注3:
無印良品は「くらしの良品研究所」を立上げ、直接消費者からの声を収集して製品企画に反映し、またその結果(採用結果・不採用理由も含めて)を消費者に周知している。(参考)http://www.muji.net/lab/

 現在ではこの4Pも4Cも「マーケティング・ミックス」と呼ばれます。マーケティング・ミックスとは、マーケティング戦略において、望ましい反応を市場から引き出すために様々なマーケティングツールや手段・方法を組み合せることであり、マーケティング戦略や計画に活かされマネジメントサイクルで管理されるものになります。従って4Pと4Cは提唱された時期こそ異なりますが、対立する概念ではなく、それぞれ適切に組み合わされ、運用されるべきものといえます。4Pの考え方は今でも有効*4なのです。

*注4:
「4Pの考え方は今でも有効」の根底には、4つのPが製品やサービスを販売しようとする場合必ず実体として存在するために他ならない。上で述べたように、4Pは高成長時代の考え方(本連載(2)マーケティングコンセプトの変遷で述べた「製品志向」に該当)とも言え、"供給者側の視点である"との批判を浴びた。現在では上記4Cのような「顧客視点」の考え方などを取り入れなければ成功は困難になっている。

 ここまでの話でご理解いただけたと思いますが、4Pは3Cの中の「Company:自社の視点」として、4Cは3Cの中の「Customer:顧客の視点」として表現されています。マーケティングを考える際、これら「3C・4P・4C」を避けて考えることはできません。逆にこの図8からマーケティングをスタートさせることもできます。(必要なデータやリサーチは後からでも補足可能とも考えられます。)それぞれの要素は事業戦略や競合戦略、市場リサーチ、市場政策、差別化、販売計画などに繋がっており、それぞれがまた様々な考え方や手法に展開されていきます。

◆IT技術の進展による影響

 このように顧客視点の「4C」を見ていくと、情報技術の進展が4Cの重要性の増大に大きく寄与していることがわかります。つまり、

  • 製品:製品機能が見やすく、比較しやすくなった
  • 価格:価格の地域偏在性が完全に崩れ、オープンになってきた
  • 流通:多様な流通の利便性や迅速化をもたらした
  • 販促:供給者と購買者間の相互コミュニケーションが一般化した
 となります。
 これをかつて(日本の高度成長時代)と現在とを対比すると、例えば図9のようになると考えられます。このようにIT技術の進歩が私たちの消費者行動だけでなく、事業の競合環境や産業構造にまで大きく影響していることが読み取れます。

 

IT技術の進展が4Cに及ぼした影響
図9 IT技術の進展が4Cに及ぼした影響

◆まとめ

 「マーケティングの全体像」と題して2回にわたって「企業コンセプト」「調査/分析」「計画/実行」の順に特に重要な概念を見てきました。かなり端折った解説となりましたが、企業コンセプトがその後の活動に影響すること、調査/分析の成果が具体的なマーケティング計画のインプットとなること、顧客を中心とした3C分析の重要性、STPを適切に実施することがその後の投資対効果を左右すること、4Pの重要性は普遍的ではあるがもはやそれだけでは成功が難しくなってきたこと、顧客視点がますます重要になってきたこと、などを論述しました。

 冒頭に述べた"マーケティングはマネジメントに近い概念である"の意味をご理解頂けましたでしょうか。ただ、マーケティングの必要性とマーケティング部門に求められる機能は異なることが通常ですから、むしろ"誰もがマーケティングマインドを持つこと"の方がこれからは重要になると思います。本連載第一回で述べた「なぜマーケティングをここで論考するのか」の真意もここにあります。

 次回は、これまでの知識を踏まえて"マーケティングが求められている背景"をマクロな視点で掘り下げてみることにします。

参考
『競争の戦略』M.E.Porter ダイヤモンド社1985
『はじめての経営学』一橋大学大学院 楠木健ほか 東洋経済新報社 2013
『マーケティングマインドのみがき方』ブーズ・アンド・カンパニー 岸田雅裕 東洋経済新報社 2010

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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