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「マネジメント 3.0 エッセイ第2回」

2021.06.30 株式会社オージス総研  藤井 拓

線形な考えと階層型組織に基づくマネジメント1.0

本エッセイシリーズは、Jurgen Appeloの『Management 3.0』 [Appelo, 2010]の内容に対して筆者が考えたことや体験談を中心に記すものである。
本記事では、マネジメントを行う際に、企業が対しているビジネスの世界や市場をどのように捉え、それへの対処策をどのように考え、実行するかという点において、線形な考えと非線形な考えの2つの考え方があることをまず説明する。さらに、線形な考えと階層的組織に基づくマネジメントモデルとしてマネジメント1.0を説明し、マネジメント1.0モデルの長所と短所(課題)について論じる。また、マネジメント2.0についても少し言及し、それがマネジメント1.0の短所(課題)を克服できていないことを論じる。

■線形な考えと階層型組織


マネジメントを行う際に、企業が対しているビジネスの世界や市場をどのように捉え、それへの対処策をどのように考え、実行するかという点は極めて重要である。これらの活動を支える考え方として、以下の2つが考えられる。

線形な考え:能力があったり、過去の経験に基づいて、ビジネスの世界や市場の因果関係を理解することができる
非線形な考え:ビジネスの世界や市場の因果関係は、非常に複雑であり、個人的な能力や過去の経験だけでは、理解することが困難である

ここで、ビジネスの世界や市場の因果関係とは、例えば、何を行ったり、提供すれば、ビジネス的に成功するかということである。
線形な考えに立つと、ビジネスの世界や市場の因果関係をより理解すると思われる人の考えを分業により良い大きな規模で実現することで、ビジネスを拡大できる。このために組織が機能ごとに分かれたり、階層化したりする。つまり、階層型組織になるわけである。
このような線形な考えに基づくマネジメントアプローチとして有名なものが、フレデリック・テイラーの科学的マネジメント [武田, 2002]である。皆さんがご存じのように、このマネジメントアプローチは、21世紀の現代でも多く使われており、マネジメント3.0に対するマネジメント1.0と呼ばれている。

■マネジメント1.0の長所と短所


マネジメントが、ビジネスの世界や市場の因果関係を理解し、それに対する有効なアイデアや方針を掲げることができる場合、マネジメント1.0は以下のような可能性をもたらす。

効率を改善できる
規模を拡大できる
統制を取ることができる

例えば、流れ作業で製品を生産するような場合に、以下のようなことを行うことができるのである。

作業のやり方を分析することでよりよい作業方法を見つけて作業効率を改善できる
ラインを増やすことでより生産量を増やすことができる
生産作業で全体的に守るべきルールを定めたり、ライン毎の生産量の割り当てを行う

この例は、流れ作業で製品を生産するものだが、ソフトウェア開発や営業など異なるビジネス機能にこのモデルを適用することができるし、実際に適用されている。
また、統制という面では、組織全体に対する財務的な観点での目標が設定され、それが階層的に分解される形で部門目標や個人目標が設定されることも多いだろう。また、これらの目標の達成度が、業績評価に直結するとともに、個人の昇進の判断に大きな影響を与える。
これは、マネジメントが抱くビジネスの世界や市場の因果関係に対するアイデアや方針が有効な場合は、それを拡大したり、維持したりする上で有効なマネジメント方法だと言える。
他方で、このモデルに基づいている日本の組織を見た場合に、以下のような状態に現在陥っていることも多いのではないだろうか。

A) 既存の常識(やり方)を踏襲する(リスクや挑戦を避ける)
B) 所属のメンバーや下位の組織の意見や考えがより大きなレベルの方針に取り入れられにくい
C) 野心的な目標を設定したり、新しいことに取り組もうという所属のメンバーや下位の組織の意欲が低下する
D) 新しいことに組織横断的に取り組むのが難しい
E) 階層の上位と現場の感覚が乖離する

ここで挙げた状態には、以下のものが混在していると思われる。

1) 線形な考えとそれに基づく階層的組織で発生しがちな1次的な現象
2) 1)の現象の結果として起きる2次的な現象

1)に該当するものは、A)、B)、D)であり、線形な考えとそれに基づく階層的組織の長所である効率性や統制のマイナス面を表している。また、これらの1次的な現象によって、C)、E)が発生すると考えられる。
これらの状態が以下のような組織能力における弱点を生んでいる。

世の中の速い変化に対応できない
組織固有のアイデアに基づくイノベーションを起こせない

これらが、マネジメント1.0の短所であり、昨今の変化の速いビジネス状況においてビジネス成果の停滞や衰退を招いているのである。

■マネジメント2.0について少しだけコメント


マネジメント2.0は、マネジメント3.0の立場からバランスドスコアカードなどを取り入れることで階層型の組織の短所を克服するものとして分類されている。これは、例えば、組織のマネジメントにおいて、財務的な観点だけではなく、組織の成長や自律性という観点を取り入れることでマネジメント1.0の短所を克服しようというものだと思われる。
筆者は、日本の企業では、トップが方針を打ち出し、それを忠実に指示と統制に基づいて階層的に実行するだけではない組織も結構多いのではないかと考えている。その考えが正しければ、日本の企業でマネジメント2.0の段階にある企業が多いことになる。
それでも、日本の企業が全体的に以下の弱点(課題)を持っているという現状を考えると、マネジメント2.0もこれらの弱点(課題)には有効ではないのではないかと考えられる。

世の中の速い変化に対応できない
組織固有のアイデアに基づくイノベーションを起こせない

■今回のまとめ

今回の記事では、マネジメントを行う際に、企業が対しているビジネスの世界や市場をどのように捉え、それへの対処策をどのように考え、実行するかという点において、線形な考えと非線形な考えの2つの考え方があることを説明した。
さらに、これらの2つの考え方の中で線形な考えは、規模、効率、統制などの点に強みがある階層的な組織と組み合わさることが多い。線形な考えと階層型組織に基づくマネジメントモデルがマネジメント1.0である。
マネジメント1.0では、規模、効率、統制などの点に強みがあるものの、結果として以下のような弱点を持つことが多い。

世の中の速い変化に対応できない
組織固有のアイデアに基づくイノベーションを起こせない

また、マネジメント2.0は、マネジメント3.0の立場からバランスドスコアカードなどを取り入れることで階層型の組織の短所を克服するものとして分類されている。しかし、マネジメント2.0も、先に挙げたマネジメント1.0の弱点を克服できていないと考えられる。

参考文献
Appelo, Jurgen. (2010). Management 3.0: Leading Agile Developers, Developing Agile Leaders. Addison-Wesley.
武田修三郎. (2002). デミングの組織論―「関係知」時代の幕開け. 東洋経済新報社.

<つづく>

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