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[レポート]


ESEC2003 キーノートセッション

はじめに

7月9日〜11日に開催されたESEC(組み込み開発展)にて有料のキーノートセッション(7月9日開催分)を受講してきました。

ESEC では毎年特設ゾーンというものが設置されていますが、今年は従来から設置されているゾーンに加えて新たに、「ユビキタス(*1)コンピューティングゾーン」というものが設置されており、組み込み分野でのユビキタスコンピューティングへの関心の高さが伺えました。

(*1)「ユビキタス」:ラテン語で、「遍在する」「いたるところに存在する」という意味で、インターネットなどの情報ネットワークに、いつでも、どこからでもアクセスできる環境を指し、ユビキタスが普及すると、場所にとらわれない働き方や娯楽が実現出来るようになる。 ユビキタス・コンピューティングは、メインフレーム(複数で一台を使用)、PC (一人一台)、に続く、一人が複数のコンピュータを使う第3世代を示したもので、マーク・ワイザー氏(米ゼロックス社パロアルト研究所)が提唱した。
アクセスに使う端末は、パソコンや携帯電話に限らず、冷蔵庫や電子レンジといった家電製品、自動車、自動販売機等もインターネット接続される。

キーノートセッションでは、このユビキタスをキーワードに、"ユビキタス社会で期待されるモバイル端末である携帯電話"を題材に KDDI 研究所の浅見徹氏の講演と、"ユビキタスコンピューティングのための T-Engine プロジェクト"を題材に東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏の講演が行われました。

以下に、それぞれの講演内容について簡単にまとめます。


携帯電話の進化とユビキタスネットワーク

講師:

株式会社 KDDI 研究所
代表取締役社長
浅見 徹 氏

内容:

講演の前半では、携帯電話発展の経緯とユビキタス社会で期待される役割、技術課題について説明をされました。

日本の携帯電話・PHS 加入者は 2002 年 11 月で 7,840 万人、その中でインターネットアクセス可能な携帯電話の加入者数は 5,843 万人ほどだそうです。データ通信速度もこの 10 年で 100 倍になりました。
浅見氏は、携帯電話はこのような量的成長の時代から、今後は、

  1. カメラと通信の融合による、リモート監視サービス
  2. カーナビや人ナビに活用される位置情報の活用
  3. 財布や定期がわりになるモバイル ID としての役割

の3つの方向について進化していく方向にある、と考えておられるようでした。1 つ目と 2 つ目のサービスについては、今後ユビキタス環境のコアとなっていくでしょう。3 つ目のサービスの実現についてはセキュリティ対策が必要となります。携帯電話が老人から子供まで誰でも使えるユビキタスネットワークのユーザインタフェースになるためには、使う側の"人"に依存したセキュリティでなくシステム側で安全性を保障するようにする必要がある、とおっしゃっていました。

また、さまざまなセンサーや情報家電などのコンピュータ化が進み、それらがネットワークで接続されると、屋内外を移動しながら携帯電話を通じてそれらと通信し、サービスを享受するユーザに対して、サービス利用中にアクセスネットワークや端末の違いを意識させず(=シームレス)にサービスを提供していくことも重要な課題となると説明されていました。

ユビキタスネットワークの"ゲートウェイ"としての役割を期待される携帯電話ですが、新しい機能の追加は機器の追加ではなく今までの携帯にマージする形で行われ、これから先も携帯電話自体は人が持ち運ぶのに苦にならない大きさ (浅見氏は講演では、「女性のハンドバッグに納まる大きさ」と説明されました) を超えることはないだろうということです。

後半は、ユビキタス時代に向けた重点課題と、ユビキタス時代を見据えたKDDIのR&Dについての講演でした。

これについての詳しい内容は


ユビキタスコンピューティングのためのT-Engineプロジェクト

講師:

東京大学大学院
情報学環 教授
坂村 健 氏

内容:

この講演では、T-Engine の概要、T-Engine フォーラムの活動と最新情報を説明されました。

坂村氏が中心となって進めてきた TRON プロジェクトでは、ITRON という形で組み込みシステムの OS の"弱い標準化"を行ってきました。しかし、そんな ITRON の開発環境の自由度の高さから、実際には異なる企業がそれぞれの形で実装した ITRON 仕様準拠 OS が多数あるという状態になってしまい、開発されたソフトウェア部品の流通促進や移植性向上の点において問題がありました。

これらの問題を解決するのが、T-Engine です。T-Engine とは TRON の基盤技術を活用したオープンな組み込み製品用の開発プラットフォームです。T-Engine は、"強い標準化"をテーマにしており、OS カーネルには、ダイナミックメモリアロケーション可能な「T-Kernel」を利用することが必須となっています。

T-Engineはさまざまな組み込み CPU をサポートしています。ハード、ソフト、開発環境の仕様が標準化されているので再コンパイルするだけで、異なる CPU でもソフトウェアが動作可能です。

T-Engine フォーラムに参加する企業は国内外を問わず、今回の ESEC2003 にも多数の参加企業が出展しており、その数は年々増えている、と坂村氏は説明されていました。

「100 年ソフトを目指す」T-Kernel のソースコードは、今年の11月ごろに一般公開される予定だそうです。

T-Engineフォーラムについての詳しい内容は
https://www.t-engine.org/
をご参照ください。




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