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[レポート]


ES-3 プロダクトライン開発による、既存資産の再利用と開発効率の向上


講演1: プロダクトライン入門 〜戦略的製品開発事業への挑戦〜

講師:

(株) 豆蔵
ES事業部 コンサルタント
今関 剛 氏

概要:

1. 今、「製品開発事業」に何が求められているのか?
1-1. 組込みソフトウェア開発組織の目指すべき姿

2. ロードマップ駆動型製品開発事業とは?
2-1. MOT(Management Of Technology)とソフトウェア戦略
2-2. プロダクトラインによる再利用型開発

3. 新規開発スタイルへ移行するためには?
3-1. 戦略ロードマップの策定と事業計画の見直し
3-2. プロダクトラインを組織レベルで展開する

4. プロダクトラインの周辺と今後の展開
4-1. 海外の取組みと日本の製造業に向けたテーラリング

https://web.reedexpo.co.jp/ESEC/jp/conference/html/index.phtml から引用

内容:

プロダクトラインの概念とその背景を説明し、MOT の観点からプロダクトラ インをどうのように実践していくべきかを説明していた。

プロダクトラインの背景

一般に製品と呼ばれるものは市場セグメントに応じて異なる製品を提供して いる。ハイエンドからローエンド、子供用から老人用など様々な市場に応じ て様々な性能、機能、形態、価格の製品ラインをそろえている。

今日では市場セグメントの更なる細分化により少量多種の製品ラインが要求 され、当然組み込みソフトウェアにも機能の多様化とスピードが要求されている。

このような中、ソフトウェア工学のレベル(人的スキル、プロセス改善)だけではなく、製品戦略、市場分析も含めた開発が必要である。 これを実践するのがプロダクトライン型開発である。

プロダクトラインの概念

”ソフトウェア プロダクトラインとは、共通特性を共有している関連のあるソフトウェアの集合体である。共通特性は、特定の市場セグメントまたはミッションのニーズを明確に満たすように管理され、さらに、共通のコア資産の集合から規定された方法で開発されるものである。”とSEIの定義を引用 していました。

ソフトウェアプロダクトラインは、基本的にコア資産、プロダクト開発、マネジメントの3つの活動から構成されます。コア資産を再利用してプロダクトを開発し、開発と資産のフィードバックや組織構造などプロダクトライン全体をマネジメントしましょうというものです。

その中でも、ドメイン分析による共通性と可変性の分析、アーキテクチャの定義など再利用性を高める上で重要な部分を説明していました。

MOTとの関係

プロダクトラインの実践に向けて MOT(Management Of Technology:技術経営)の視点の重要性を訴えていて、その一つとして戦略ロードマップが有効であると主張していました。

戦略ロードマップとは、技術や市場の将来を予測/評価し、技術と製品の発展プロセスをロードマップの形で表現し、経営戦略/技術戦略を統合するものだそうです。

このロードマップで製品戦略を定義した上で、プロダクトライン開発に移行していくと良いということでした。


講演2: ユビキタス時代における要求仕様の多様化に打ち勝つための戦略 「プロダクトライン」の実践

講師:

組込みソフトウェア管理者・技術者育成研究会(SESSAME)
酒井 由夫 氏

概要:

1. なぜ、プロダクトに注目すべきなのか?
1-1. Product-Process-Peopleのバランスの重要性(プロセスの改善だけで魅力的な商品が生み出るのか?)
1-2. "ユビキタス"時代の組込みソフトウェアエンジニアが抱える苦悩
1-3. 多様な要求に対応しつつ、組込み機器の本質的な機能・性能を洗練させていくソフトウェア開発戦略とは?

2. 組込みシステムの特徴分析
2-1. 組込みシステムを4つの視点で特徴分析する
2-2. 組込みシステムの特徴に応じた適切な材料・道具の選択

3. 組込みシステムを商品群として捉える
3-1. 電子ポット商品群のラインナップ
3-2. 電子ポット商品群のさまざまなスコープに基づくロードマップの作成
3-3. 組込みアーキテクチャと商品群との関係

4. ソフトウェアコア資産の摘出の具体例
4-1. プロダクトラインの3つの活動
4-2. プロダクトラインにおけるドメイン分析
4-3. ドメイン構造図の位置づけ
4-4. 普及型および近未来型電子ポットのドメイン構造図
4-5. 機能追加によるドメイン、クラスの変化

5. 組込みシステムの安全性・信頼性の確保
5-1. 組込みソフトウェアの信頼性確保
5-2. バリデーションとベリフィケーション
5-3. コア資産のテスト

https://web.reedexpo.co.jp/ESEC/jp/conference/html/index.phtml から引用

内容:

ユビキタス時代の組み込み機器の機能多様化を想定し、プロダクトラインを適用する場合の実践例として、電子ポットの架空ケースを使って説明していました。

着目すべき視点

プロセスを改善するだけで魅力的な商品は生み出せない。だから、商品開発(戦略)全体を眺めましょうという切り出しから入りました。

先の今関さんの講演を踏まえてか、トップダウンの視点が必要であることを訴えていました。

組み込みシステムの特徴

組み込みシステムの特徴として、要求の多様化と静的制約(安く小さく)はトレードオフの関係にあるのが普通。でも、携帯電話を考えると、どちらも重要視されている。ユビキタス時代になったら、いろんな機器が同様の状態にならざるをえない。

だから、プロダクトライン開発しましょうという動機付けの主張があって、実際にどうやるのかを次の電子ポットの架空ケースで説明するという展開です。

電子ポットによるシミュレーション

ロードマップの策定とアーキテクチャ定義

まず、電子ポットの製品ラインナップとそのロードマップを考えることから始めていました。その例では、普及型、携帯電話カード内蔵型、家電ネットワーク型などを想定し、そのリリースロードマップや、法規制予測ロードマップ、機能ロードマップ、技術ロードマップなどを検討していました。

その上で製品アーキテクチャを考え、この場合に製品ラインナップ全体でリーズナブルなアーキテクチャを構築する必要がある、というか、ロードマップによって製品ラインナップの全体像が見えているので、リーズナブルなアーキテクチャ構築の判断が可能になるとのこと。

コア資産の摘出

次に既存資産からプロダクトラインを開始することを前提として、コア資産の摘出方法について説明していました。

UML のパッケージ図を用いてドメイン分析を行い、製品ラインナップに応じて共通部分と可変部分を切り分けて、共通部分をコア資産として摘出していくというものでした。

また、機能追加によるドメイン分析結果の変遷を実際に例示していました。


感想:

講演 1 の今関氏はトップダウンの視点でプロダクトラインを実践していかなければいけないという主張でしたが、講演 2 の酒井氏はあえてボトムアップ的にプロダクトラインを実践していると語っていました。

本質的にはトップダウンでなければいけないことは理解しているが、だからといって何もしないままでは先に進めないという酒井氏の自論からの行動のようです。

プロダクトラインはトップダウンで実践しなければならない。 なぜなら、ビジネスレベルでの製品計画や組織構造を含む概念であるから。

ソフトウェア開発の現場を知らない経営層がプロダクトラインの実践に着手するかは疑問。

ならば、現場からプロダクトラインを実践し効果を示していく。その上で、経営層に論理的に納得できる提案をして会社全体の取り組みとして段階的に規模を大きくしていく。

という目論見で酒井氏は長期的(5年とか言っていた)に取り組んでいるそうです。

書籍「ソフトウェア プロダクトライン」の中でもリーダーシップが重要であることは書かれていましたが、上記のようなプロセスで実践する場合、経営レベルの権限がない分よりリーダーシップが重要になるだろうと感じました。

参考:


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