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[2008 年 4 月号] |
[紹介記事]
去る2月、ETロボコン2008の開催がオフィシャルサイトでアナウンスされました。2月に事前説明会、3月に参加者申し込みが行われ、本年度の参加チームもそろそろ活動を始めようという段階でしょう。この記事を書いている段階では、まだ詳細なスケジュールや競技規約が公開されていませんが、総勢183 チームが参加した昨年にも増して、本年度も大いに盛り上がる大会になるでしょう。
著者自身は、2006年度大会に学生チームのメンバーとして、2007年度大会にオージス総研の組み込みソリューション部新人チーム「Two Weeks-II」のメンバーとして、ETロボコンに参加してきました。残念ながら、成績は2大会とも予選落ちでしたが、この大会に参加することで、組み込みソフト開発とロボット競技を心から楽しみながら、UML・モデリング・開発プロセスなどを実体験として学んできました。
この記事では、ETロボコンに2回参加してきた経験を基に、参加者の視点でETロボコンの楽しさをご紹介します。ETロボコンをまだご存知なかった方、 2008年度大会に初めて出場する方が、ETロボコンの良さを理解していただけたら幸いです (参加経験がある方はよくご存知でしょう!)。
なお、この記事は2007年度までの参加体験をベースに書いています。2008年の大会は大きく様変わりすることも考えられますので、その点はご容赦ください ^^;
ETロボコン (正式名称はETソフトウェアデザインロボットコンテスト、英語名はEmbedded Technology Software Design Robot Contest) は、その名の通り、組み込み分野におけるソフトウェアデザインの技術を競うロボットコンテストです。ETロボコンには以下のような特徴があります。
ETロボコンでは、LEGO Mindstormsキットで作成したロボットが競技フィールドの走行タイムを競う競技部門と、ソフトウェア設計の内容を競うモデル部門があります。競技内容は、他のロボットコンテストでも行われているようなものですが 、ETロボコンが他のロボコンと異なっているのは、モデル部門があることです。
モデル部門では、競技者がソフトウェアの設計についてUMLなどの表記法で記述したシートを大会に提出し、審査員がモデルの表現と内容の観点から評価を行います。また予選では、シートが会場に張り出され、競技者同士の相互レビューも行われます。公式記録に残るのは審査員による評価ですが、競技者による相互レビュー結果がよかったチームへの表彰があります。
このモデル部門のシートは、表現方法や内容への制限はなく、UMLによるモデル、戦略の解説、走行ログの解析結果など、各チームが多様な観点から「いかに自分のチームの戦略が優れているか」を表現するものです。単純にモデルを書くだけでなく、自分たちのアイディアを分かりやすく説得力のある表現で説明しなければいけないため、毎年参加者が悩まされていると思います^^;
参加者への技術教育が充実している点もETロボコンの特徴です。技術教育の内容としては、4月の基礎教育 (組み込み開発基礎とUMLモデリング)、本選後のワークショップがあります。
特にワークショップは内容がすばらしく、年々発展しています。2006年度大会の時点で参加者300人規模で、審査員によるモデルの評価や大会の総括などが行われました。2007年度大会では、規模も大きくなっただけでなく、内容もよりインタラクティブなものに様変わりしました。審査員によるモデル解説ツアー、技術解説、モデル相談会など、審査員と競技者が直接対話する場、さらには競技者同士が技術的トピックについてディスカッションする場が用意され、参加者が自由に好きなテーマに参加できるような形式になっていました。
2008年度も、昨年度に引き続き、参加者同士が一緒に考えるというスタイルは続いていくと思います。
ETロボコンには、学生から社会人まで自由に参加することができます。実際、大学の研究室内教育、企業の新人研修、あるいは個人の勉強成果を実践する場として活用されています。昨年の実績では、参加チーム総数181チームの中、企業チームが100、学生チーム34、個人チームが47参加しました。2008年度は地区大会が3つから5つに増えたこともあり、昨年にもまして参加チームが増えることが考えられます。
以上が客観的に見た時のETロボコンの特徴です。次に、私自身が参加者として考えるETロボコンの楽しいところ・良いと思うところをご紹介します。
ETロボコンの楽しさは、やはりロボットをプログラミングして動かす楽しさが大きいと思います。
自分の作成したプログラムでロボットが動きだすため、普段組み込みソフト開発をやらない人は、大きな感動が得られると思います。自分自身も、LEGOロボットによるプログラミングを経験する前は、C言語のCUIアプリ、JavaのGUIアプリ、スクリプト言語でWebアプリなどしか経験なく、ネットワーク上でやり取りをしていたとしても、見た目はPCで完結した世界しか知りませんでした。
試行錯誤をしながらも、LEGOロボットが期待した動きをしてくれた時は、PC上で動くアプリ以上の感動が得られます。 その分、バッテリ残量で動きが違ったり、リアルタイム処理に苦しんだり、PC上のアプリでは考えもしなかった組み込み特有の事象に悩まされたりします^^;
ETロボコンのテーマであるUMLモデリングを学習しようとした場合、書籍で学んだり、セミナーやトレーニングに参加して学ぶことなどが考えられますが、どうしても限界があります。例えば、書籍で学習する場合、UMLの表記法などを理解することはできますが、実際に得られた知識をどう実践すればよいかまでは分かりません。セミナーやトレーニングで学習する場合は、講師の方が分かりやすく教えてくれますし、自分の疑問点を質問できます。しかし、時間の制約上、演習の時間が少なかったり、演習用に作られた問題しか経験できません。
UMLを利用する方法については、書籍を読むだけではカバーできない部分が多く、実際に小さなプロジェクトで実践してみることが重要です。その点、ETロボコンは、UMLやモデリングを具体的なテーマに沿って実践する場としてちょうど良いイベントです。また、個人的に学習することに比べ、いろいろな人たちと共に競争することで、モチベーション向上の効果もあります。
過去にETロボコンに参加して良いと感じたのは、競技をした後にワークショップが開かれ、教育的なフォローが行われている点です。
参加者は準備期間から大会本番まで長期間に渡って、設計上の問題に苦しめられていますので、ワークショップで分かりやすい解説を聞くと、なるほど!と胸がスカッとする思いがします。競技を行うイベントだけの場合、胸の中の疑問をスカッとさせることはできなかったでしょう。また、セミナーの解説だけでは講師の方の話も実感をもって理解することはできないと思います。実体験を伴うからこその経験です。その意味では、競技とワークショップが相互的に補完し合っているように思います。
ただし、UMLの表記法や開発プロセスの詳細に関しては、書籍などで各自学習する必要はありますので、ご注意を^^;
大会終了後のワークショップのほかに、良いと感じたのは他の参加者が書いたいろんなモデルを見ることができる点です。
過去の大会において、準備期間の間悩んで「よしこれで行こう!」と納得してシートを提出した後に、予選会に参加して自分とは違った観点で書かれたシートが一同に会している様を見ると、自分は狭い範囲だけで考えていたんだなと思い知りました。あるチームは、データの解析結果を詳しく書いて、いかに戦略が正しいか解説していたり、またあるチームは面白いメタファーでモデルを表現したりしていました。自分たちとは表現の仕方がまったく違っているのを見て、目からウロコが落ちる思いでした。
テーマは同じなのに、モデル自身やシートの表現の仕方はチームごとにそれぞれに違いがあることに、モデリングの面白みを感じます。ちょうど、オブジェクトの広場の「モデリングカフェ」において多様な読者解答モデルを見ているのと同じように、「ああ、そういう考えもあったのか」と考えさせられます。
学生であれば友達や先輩・後輩、社会人であれば職場の同僚など、たいていの人はあまり広くない人間関係の中で、学業や仕事していると思います。そういう中で日々を過ごしていると、他の学校や他の会社のエンジニアが自分とは関係ない存在のように思えてしまいます。
しかし、ETロボコンのような大きなイベントに参加することで、同じ関心事、同じ目標などを共有した大勢の人と知り合うことができます。自分の仲間が、こんなに大勢いるんだということに気づきます。現在は、ブログやSNSなどでオンラインのコミュニティに参加している人も多いと思いますが、現実に大勢の人たちが参加している場に参加すると、オンラインのコミュニティとはまた違った経験を得られます。
ETロボコンで他の参加者から聞いたこと、経験したことを、日々の学業や開発に活かし、また日々の学業や開発で得られたことを翌年のETロボコンなどにフィードバックすることができれば、いっそう充実した経験を得られるのはないかと思います。
以上、著者なりに考えたETロボコンの楽しいところ・良いところをお伝えしてきました。私自身は、ETロボコンの良さはロボコン自身の面白さだけでなく、共に学ぶ場があることだと考えています。読者の中で、本年度の大会に参加される方は、ETロボコンを共に学ぶ場として大いに活用してください。
著者も、2008年度は個人チームとして参加します。ETロボコン2008へ参加する方々、本番に向けて共にがんばりましょう!
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