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[Object Day参加報告]


この記事は、日経オープンシステム 1999年7月号に掲載されたものです。
©日経BP社

ますます関心が高まるオブジェクト指向技術

最新の技術・市場動向を紹介するOBJECT DAYは満員の盛況

日本におけるオブジェクト指向技術のリーディングカンパニーとして知られるオージス総研は,5月26日,ウェスティンホテル東京(東京・恵比寿)において,「OGIS-RI TECHNICAL CONFERENCE 'OBJECT DAY'」を開催した。ビジネストラック,テクニカルトラック,UMLスペシャルトラックの3コースに分けられた各セッションでは,オブジェクト指向技術を利用したシステム開発の実例をはじめ,マーケットの最新動向,最新技術に関するチュートリアル,UMLに関する最新情報などが詳しく紹介された。

本稿では,同セミナーの中から基調講演とUMLスペシャルトラックの最終セッション,「オブジェクト技術導入の落とし穴」の概要を紹介する(全セッションのそれぞれの概要は,https://www.ogis-ri.co.jp/otc/objday/index.html でご覧になれます)。

基調講演

ビジネスオブジェクト標準化のもたらすもの

東京国際大学教授・ビジネスオブジェクト
推進協議会専務理事 堀内 一氏

ビジネスオブジェクト推進協議会(CBOP)の目的は,オブジェクト指向技術における,ソフトウエアコンポーネント再利用のための基盤標準化(デファクト化)と,コンテンツ流通の基盤を確立することにある。従来行われてきたソフトウエアの手作り/個別手配の手法では,迅速で効率的な開発を行うことは難しい。そこで求められているのが,ビジネス情報とソフトウエアのコンポーネント化である。これが実現すれば,他の有する専門性の活用も容易となり,共通の技術基盤に基づく新しい価値の創造を,スピーディに実現することが可能になる。

標準化を進めるに際してCBOPは,ISO/IECのJTC1をはじめ,OMGなど他のコンソーシアムとの協調関係も結んでいる。CBOPは97年12月1日に設立された。会員数は,現在100社/4学術会員/7後援団体(99年6月30日現在)にのぼる。

トライアルとガイドライン作りを主眼とするフェーズⅠは,今年3月31日に終了。現在はフェーズⅡ(99年4月~2001年3月の予定)に入っている。

フェーズⅡの活動基本方針は,ビジネスベースの成果追及,産学協同の促進,対外活動の活発化,対外アライアンスの促進だ。

情報およびソフトウエアをコンポーネントとして流通させ,ソフトウエア開発の効率化と企業連携を円滑化していくというCBOPの狙いに沿って,具体的成果の実現に向けた 様々な活動が,各部会で活発に行われている。

オブジェクト技術導入の落とし穴
パネリスト● 横河電機ITパッケージ開発部 井上健氏
  東 芝SI技術開発センター 山城明宏氏
  Designer's Den Corporation 酒匂寛氏
  オージス総研オブジェクト第1事業部 重見剛
  オージス総研オブジェクト第2事業部 山口健
司会進行● オージス総研オブジェクト第1事業部 羽生田栄一

テーマ選択の背景 オージス総研 羽生田栄一

オブジェクト概念の定着が進み,本格的なプロジェクトもスタートし始めている。デザインパターン的な発想の普及も進展してきた。しかし,実際にプロジェクトを実施するとなると,簡単にはいかない。

そこで,本パネルディスカッションでは,実際に現場でオブジェクト指向での開発を実践されている,開発者,コンサルタントの方々をパネリストに迎え,OO(Object-Oriented)技術導入の際の具体的体験談,失敗経験,導入の注意点について,各々の立場で発言していただこうと考えた。

システム開発におけるポイント オージス総研 山口 健

最初の事例では,RADツールを利用して単体テストまでは順調に進むが,テストフェーズでバグが収束しない,環境に依存するバグが結合テストフェーズで頻発するという症状が出ていた。解決には,設計フェーズへの十分な注力や実績あるアーキテクチャ(フレームワーク)の再利用,プロトタイプでのアーキテクチャ検証などが必要。

次の事例では,スパイラル開発を採用しプロトタイプまでは順調に完成する。しかし,本番では生産性が思うようにあがらず,結局,要件分析からやりなおすことになる。このような事例では,プロトタイプの目的を明確に定義することが必須だ。

最後は,ツールベンダが提供するホワイト・ペーパーの情報を元に設計を行った案件で成功した経験を持ち,今回も同様の手法でいこうと考えた事例だ。設計者が設計の妥当性を説明できない,意味不明なクラス,コードが存在するなどの問題があった。その対応方法としては,再利用する部分の階層化(環境/業務への依存/非依存により),コンポーネント化や,アーキテクチャを理解しているSEの参画などが考えられる。

過度の期待は禁物 主体性が大切 オージス総研 重見 剛

OO技術さえ導入すれば,既存の問題点のすべてが解決できるというのは誤った認識。問題解決のためのメカニズムを検討し,その実現のために,どんなOO技術が適用できるのか,あるいはできないのかを明確に判断しなければならない。

十分なトレーニング・教育を行うことも大切だ。そして,コンサルタントと対話のできる人材を育成し,バランスのとれたメンバー構成で,人任せにせず,自分たちで実際に手を動かしてみることが重要だ。

オブジェクト指向技術は常識化する 横河電機 井上健氏

横河電機におけるオブジェクト指向技術への取り組みとしては,まず,1990年にGEと共同で行ったGUI構築C++クラスライブラリ「GIST」がある。

横河システムをオブジェクト指向化する試みも既に行われており,この技術を社内に広める活動も実施している。課題は,PAやFAに求められる高度な信頼性,パフォーマンス,長寿命の実現だ。

オブジェクト指向技術を利用するメリットには,世の中にあるものをオブジェクトとして自然に表現しており分かりやすい,分析から設計・実装までオブジェクトが一貫して扱える,クラス,コンポーネントの再利用で機能拡張・変更も行いやすい,教育の素材が揃ってきた,などがある。ハードウエアとネットワーク技術の発展により,ひとつのソフトウエアが扱うべき内容・機能が複雑かつ大規模になってきたことから,その必要性が高まってきた。

しかし,オブジェクト指向技術は誰にでも簡単に(楽をして)使える技術ではない。より確実で柔軟なオブジェクト指向技術が必要だ。その解決には,世の中の発展と同時に,個人の努力も求められる。

Modeling &Consultingのポイント 東芝 山城明宏氏

モデリングにおけるポイントとしては,視点,対象層,工程に応じてモデリングの方法は異なる,モデリングによってScalability,Complexityを管理できる,ソースコードと同じ情報しか表現できないダイヤグラムはドキュメントとしての価値が低い,という3点を挙げることができる。

当社での取り組みは,分析モデル,設計モデルへのUMLの活用と,プラットフォームを前提にした設計モデルの開発など。

一方,コンサルティングにおいては,対象,期間,開発メンバに応じた利用技術の選択,教育への投資,先行チームの立ち上げ,コンサルタントの立場から現場への参加を常に行う,といったことが重要になる。当社では,支援メニューと開発ガイドの作成,教育資料の充実に取り組んでいる。

トレーニング・教育の重要性 Designer's Den Corporation 酒匂寛氏

オブジェクト指向を導入する際の,管理面における問題点としては,教育不足,計画不足,リーダーシップの不在,想像力の欠如,管理の不在,無責任な態度,定量化努力の不足,繰り返し開発の罠などが考えられる。これに対し技術面では,仕様と設計の未分化,デザインパターンの未習熟,アーキテクチャ設計の不在,オブジェクト指向への根本的な誤解,基礎的教養の不足,論理的に考える態度の未成熟などの問題点を挙げることができる。

これらを避けるためには,技術者は最低10ヶ月,管理者も最低4ヶ月程度は訓練を積まねばならない。外部リソースの有効活用や,プロジェクト推進の当事者意識を持つことも大切だ。もちろん,すべてをアウトソーシングしてしまうという解を選択することもできる。

トップレベルの技術集団を自負
2000年にもコンポーネントなど提供
オージス総研
常務取締役宇治邦明

当社は,1989年から「オブジェクト技術」に本格的に取り組み始め,今やトップレベルの技術者集団に成長したと自負しています。ここ4~5年でオブジェクト技術絡みの業務が急増,売上も約5倍になりました。

これまでは,オブジェクト技術そのものがビジネスの中心でしたが,今年度からは,ドメイン(業種,応用分野)も強く意識して多面的なビジネス展開をします。具体的には「組み込み」,「金融分野」,「製造業分野」などです。

また,UML(Unified Modeling Language)を中心としたラーニング・ビジネスも積極展開します。既に当社のWeb上で24時間受験可能な認定試験も始めています。

さらに2000年をメドにコンポーネントやフレームワークの提供も始める予定です。現実のドメインでのビジネスで得たノウハウが生きるはずです。(談)


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