ObjectSquare [1999 年 4 月号]

[新人およびOO初心者に贈る「オブジェクト指向」本格入門]


5.技術者としての心得

優れたエンジニアと優れた研究者ではその目指すところも心得も異なるでしょうが、共通していえるのは、好奇心と向上心と対人能力でしょう。ソフトウェア工学は実学であるべきで、研究者は現場の苦労と悩みを、現場は最新の研究テーマを知ろうと努力することが必要です。仕事や専門と関係のない本や人と知り合いになる努力を怠らず、専門へのフィードバックを心がけましょう。勉強の仕方も基本的には独学で何でも勉強できます。同好の士を募り仕事とは違うテーマで勉強会をしてください。翻訳や出版という目にみえる成果を目標にするのも得策です。

本屋も有効活用できますし、古本屋さんもあなどってはなりません。専門分野ごとの古書店の書棚には、その分野の歴史が古い本も新刊もわけへだてなく共時的に配置され、新刊本でもすぐ値くずれを起こすような本は並べられていません。情報の洪水の中で相対的によい本を目にできます。その点、Internetの世界ではまだそのような役割を果たしてくれる仕組みが存在しません。

日々の仕事の中で技術を磨いていく必要があります。その際、これぞという師匠をひとりみつけて納得できない部分はとことん聞くべきです。どんな仕事でも技術的にちょっとした新しい試みのできる部分は何個所かあるもの。またすべての仕事はOJTであるという意識をどこかで持っていた方が気が楽です。どうしてもそう思えないなら転職を考えましょう。今後ますます会社という組織を固定的にとらえる必要のない時代になっていきます。自分の仕事をしていく上でのよき秘書という意識で会社を見直すのも1つの考え方です。

開発の現場に関していうと、実際のシステム開発はオブジェクト指向だけで事がかたづくような単純な話ではありません。言語、ミドルウェア、ツール等のノウハウが必要になります。分析設計技法をメンバーに習得させる必要と、システムの基本構成を定義し作り込むアーキテクトや設計ノウハウをもったエンジニアの育成も重要です。アーキテクトと協力して開発上のリスク管理を中心にスパイラル型でプロジェクト全体を運営していくリーダーの選定・育成、そしてプロジェクトへのクライアント参加および開発側上司の理解取り付けも重要です。いわゆるプロジェクト運営能力およびそれをバックアップする組織の育成が最大の課題といいうことです。しかし、こうした問題にも開発プロセスやプロジェクト自身のモデル化ということでオブジェクト指向技術の応用が考えられます。

私が日々やっているコンサルティングという仕事は、原理的にはお客様の抱えている問題を解決するお手伝いをすることですが、その基本はそのクライアントがそもそもどのような問題を抱えているのか、その構造と意味に気づくように仕向けるという、言ってみれば精神分析医のような側面が重要です。その意味でも、モデリングは一番重要な要素になるわけです。

現在のように過去の制度・価値観が大きくゆらぎ政治経済的にも危機に瀕しているいまこそが仕事の上でも研究の上でも新しい面白いことをするためのチャンスです。皆さんに可能性は大いに開かれているといえます。


© 1999 OGIS-RI Co., Ltd.

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