[2008 年 12 月号] |
[技術講座]
UML モデリング推進協議会(UMTP https://www.umtp-japan.org/)が 2003 年にモデリング認定試験を開始して、もう5年が経過しました。 その間に、モデリングも普及し、システム開発はもちろん、業務の可視化なども広く行われるようになってきています。 それに伴い、より高レベルなモデラーが求められ、またその公正な認定が必要になってきています。 その要望を受け UMTP は、2008 年 4 月から L3 試験を開始しました。 ここでは、その L3 試験についての概要を紹介します。
UMTPでは、L1〜L4 の 4 レベルのモデリングスキルを定義し、そのモデリングスキルを確認するために、レベルに対応したモデリング認定試験を用意しています。 2008 年 10 月現在、L1〜L3 レベルまでの 4 試験(L1 は L1-T1、L1-T2 の 2 試験)を実施しています(図1)。
2008 年 8 月 9 日までに、受験者はのべ 16,500 人を越えています(図2)。 また、中国、ベトナムでも試験を開始しています。
L3 のレベルは、次の通りです。
それぞれについて、解説します。
L3 では、実際の業務でモデリングを行うことができるレベルを想定しています。 そのため、様々な種類の問題において、如何にそれをモデル化するかという能力が求められます。
L2 のレベルでは、そのモデルが良いか、悪いかの 2 通りで判断していました。 しかし、実務では、単純に良いか悪いかだけではなく、あるモデルは、別のモデルより拡張性や変更容易性の点で優れているという視点も必要になってきます。 L3 ではこのように高品質なモデルを定義できることが要求されます。
L3 ではビジネスモデリング、分析、アーキテクチャ設計、組み込み開発を行うための専門的な知識を備えている必要があります。
L3 試験開発の早期には、ビジネス系、組み込み系の分野別に問題を分けて、選択して受験してもらうことを考えていました。 しかし、問題を作成していくうちに、ビジネス系と組み込み系という基準だけでは問題領域(ドメイン)を明確に区分できないことが分かってきました。 ビジネス系、組み込み系も様々な、問題領域(ドメイン)が存在しており、そしてビジネス系、あるいは組み込み系の人も、その全ての問題領域(ドメイン)を理解しているとは限りません。
そのため、現在の L3 試験では、ビジネス系、組み込み系を含め様々な問題領域(ドメイン)の問題が出題されることになります。 その問題領域(ドメイン)を理解するための情報は問題記述にあるので、たとえ全く知らない問題領域(ドメイン)だったとしても、いち早く問題領域(ドメイン)を把握することが必要になります。
L3 の試験では、開始後すぐに、モニター受験を行いました。 モニター受験では、UMTP 会員で、ある程度レベルが分かっている人に実際に受験してもらい、試験のレベルを確認しました。 その結果、モニター受験者の合格率は 60% 程度で、通常の受験者と比較して 20% ほど高めに出ました。 この結果やモニター受験者の感想、意見などから、今のところこの L3 試験のレベルは妥当と言えるようです。
一般に試験に合格するには、現場での実践的能力よりも、"試験勉強"がものをいう面があります。 そのため、現場で実践的能力は一番だけれども、忙しく、"試験勉強"をする暇が無いために試験には落ちてしまう人もいます。 また、現場経験はそれほどないけれども、"試験勉強"をしっかり行ったため、試験には合格する人もいます。
L3 試験では、経験はあるが忙しくてそれほど"試験勉強"が出来ない人、まさに L3 で認定しようとしている人が合格しています。
実務においてモデリングを行うモデラーは、エンドユーザーの話や、様々な資料から、情報を整理してモデルに落としているのではないでしょうか。 そこで、L3 試験の問題は、問題領域(ドメイン)の説明が A4 で 2 ページほどあります。 その問題領域(ドメイン)は、受験者にとって、全く知らない分野である可能性もあります。 いち早く、問題領域(ドメイン)の説明から、重要な点を洗い出して、モデル化することが求められます。
これは、実務でエンドユーザーから問題領域(ドメイン)の内容をヒアリングすることに慣れている人にとっては、さほど難しくないことです。
問題数は、モデリング問題 3 問、知識(原理原則 OCL)問題 5 問です。 モデリング問題はそれぞれ 3〜4 問の設問があり、その 1 つの設問の配点は 1 点であり、知識(原理原則 OCL)問題の 1 問の配点は 0.2 点です。 従って、配点の比重はモデリング問題のほうが知識(原理原則 OCL)問題より、断然高いということになります。
試験時間は 120 分です。 時間配分はモデリング問題 1 問あたり 30 分で 3 問で 90 分、知識(原理原則 OCL)問題に 30 分を目安とすると良いでしょう。 受験者の意見では、試験時間は、長からず、短からず適度な長さのようです。
合格点は 60 点です。問題数が少ないこともあり、全ての問題について、ある程度解答し点を積み上げておく必要があります。
L3 では、ただ単にモデルが良いか、悪いかではなく、良いか、より良いかを聞きます。
今まで UMTP の L1、L2 の試験については、ピアソンビュー社から配信してきましたが、後から述べるユーザインタフェースの関係で、L3 については、プロメトリック社において先行して配信することになりました。 またプロメトリック社においては、L1-T2 も配信しており、L2 も 2008 年 10 月 1 日より配信する予定です。
L3 では、L2 と同様にモデルに対する穴埋め問題が多数出題されています。 L2 では、この穴埋め問題の、選択肢の数や、解答欄の数が多すぎて、ユーザインタフェースの操作性が不評でした。 (※1)そこで、L3 問題では、このユーザインタフェースについても大きく変更しました。
L3 の問題は、図 4 のように、選択肢を図(モデル)の空白部分にドラッグ&ドロップすることで、解答することができるインタフェースを採用しています。 これにより、あたかも、モデリングツールでモデリングをするように解答することができます。
※1 2008 年 10 月 1 日より、L2 についても、L3 と同様のユーザインタフェースに変更になります。
モデリング問題は、図 5 のような種別を意識して作成されています。 1 つの問題(あるいは設問)が 1 つの種別に 1 対 1 で対応している訳ではなく、1 つの問題(あるいは設問)に複数の問題種別が対応することになります。
L3 のモデリング問題は、L2 のモデリング問題と比較すると、"より良いモデル"、"より正確なモデル"を問うものになっています。
"より良いモデル"とは、通常の分析・設計者同士で合意が取れるであろうモデルです。 必ずしも複雑な原理原則、パターンなどを知っている必要はありません。
問題で使用されるモデルが"より正確なモデル"になっているので、関連クラス、複数の関連、再帰的関連などが多用されています。 そのため必要に応じて、OCL がモデルに記述されています。
知識問題は、原理原則や OCL に関する問題です。 "知識問題"と言いますが、単純に知識(記憶)を問うのではなく、一般的な原理原則の考え方を問うものです。 従って、原理原則の名称などを暗記しておく必要はありません。
しかし全く知識が必要ないという訳ではありません。 特に OCL は、代表的な構文については、その意味を理解できる程度に、身に付けておく必要があります。
L3 は基本的には、L2 の延長線上にあり、実務ですでに UML モデリングを実践している人は、勉強する必要がないかもしれません。 L1−T2 から L2 よりも L2 から L3 へのほうが、レベルのギャップ差は少ないようです。
今後 UMTP のサイトにサンプル問題を順次掲載していきます。
書籍は 1 冊だけに頼らず、幅広く読んでいくことが重要になります。 以下に参考になる書籍をあげます。
L3 試験は、開始からすでに 170 人以上の人が受験をしています。 実務でまさにモデリングを使っている人が、L3 試験にチャレンジし、合格しているようです。 腕に覚えがあるモデラーの皆さん、どんどん挑戦してみてください。
© 2008 竹政 昭利 |
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