RUP の拡張: 人材管理作業分野 |
このホワイトペーパーの題材は、Scott W. Ambler、John Nalbone、Michael Vizdosによる「エンタープライズ統一プロセス: IT 業務の全体最適化のためのプロセスフレームワーク」から抜粋したものです。 |
人材管理作業分野は、RUP を拡張して、情報技術 ( IT ) 組織内の個々のメンバーの有効性を管理し向上させる方法を定義したものです。今日の組織の生き残りをかけた競争には2つの面があります。1 つは製品やサービス、もう 1 つは優れた才能を持った人々にその才能を発揮してもらうことです。ソフトウェア開発作業の管理とは、プロジェクトの計画やスケジュールを作成し、発展させるという技術的な仕事だけではありません。メンバーを管理し、その成長を助け、メンバーと外部の関係者とのやり取りを仲裁する必要もあります。この作業分野では、メンバーがうまく協力して組織のプロジェクトの成功に貢献できるよう、彼らをまとめ、メンタリングし、教育し、指導し、やる気を出させるというプロセスを記述します。
会社のどのような側面を成功させるにも、人材管理は重要です。ここでは、IT 要員に関する問題を取り上げます。私たちの経験では、IT の世界の独特な性質を反映した人事戦略が必要です。人事と IT のチームが緊密に協力し、人材管理作業分野で挙げた概念を実現するとよいでしょう。この作業分野のワークフローを図1に示します。
図1. 人材管理作業分野のワークフロー
IT 部門の要員計画を立てるには、全社的な視点からビジネスのニーズを評価することが大切です。計画立案時には、要員の問題が、適切な人を確保すること、退職したくならないように満足させておくこと、自由にさせることの 3 点に尽きることを忘れないでください。ポートフォリオ管理者は、ポートフォリオに含まれる個々のプロジェクトの要員配置に直接口を出すことはありませんが、さまざまなプログラムやプロジェクトをまたがった必要リソースの調整について提案することで、会社全体の利益を極力大きくすることに貢献できます。
IT 技術者は他の多くの要員とは違っていることを認識する必要があります。たいていは高度に専門化していて(ただし、非常に優秀な人たちは実際にはゼネラリスト化したスペシャリストですが)、比較的腰が軽いのです(よりよい機会があれば簡単に組織を去っていく可能性があります)。IT 専門職には技術の仕事が大好きで管理職になることに興味のない人が多いため、管理職のキャリアパスの他に技術職のキャリアパスも必要です。その結果、まだ数年しか在籍していないけれども、何十年も一緒にいる上席副社長に匹敵するだけの価値を持つ上級開発者を得ることができるかもしれません。
組織内の他の部門と同じように、人事部門も要員の管理に協力しなければなりません。IT 組織によっては、公式の人事からの口出しを基本的に無視し、自分たちの中で完結した単位を作りたがりますが、それはよい考えではありません。人事に関する法的リスク、スキル管理(および評価)、受託業者やコンサルタントを活用してITの不確実性を緩和するといった時代の風潮など、さまざまな専門知識が人事の専門家によってこの作業にもたらされることを忘れないでください。それでも、人事部門の多くは IT 要員の扱いに苦労しています。ですから、彼らと協力してやっていく準備が必要です。図2には IT 要員の管理に必要な基本的な作業を示しています。
図2. 「要員を管理する」ワークフローの詳細
要員には、受託業者と正社員の両方が混ざっていることがあります。なぜ組織で受託業者を利用する必要があるのでしょうか。理由はいくつか考えられます。もっとも明確な理由は要員の増強です。ニーズを満たすだけの人員をすぐに雇用できないことがあるからです。受託業者を利用することで、要員の問題を短期的に解決することができます。また、正社員を雇用するだけの一定したニーズがないこともあるでしょう。要員が臨時にしか必要でないのなら、受託業者に依頼する方が経済的です。外部の受託業者やコンサルタントを使って要員ニーズの変動を吸収するというのが、組織がこの問題を解決する1つの方法です。その他には、特別のスキルセットを手に入れるためという理由があります。支払った金額に対して受託業者から最大限のものを手に入れるもっともよい方法は、メンタリングによって従業員にスキルを移転してもらえるよう配属することです。これによって正社員のスキルを向上することができ、正社員にとっても組織にとっても専門家として育っていく上で役立ちます。
この作業の目的は、IT 部門と人事部門が協力してさまざまなチームのメンバーのキャリアを作り上げることです。専門家としてのキャリアは自分で管理するのだと皆が理解しておかなければなりませんが、従業員の成長を促すのは組織の責任です。そのための方法はいくつかあります。
実務経験: メンバーは、自分でやってみることで学び ( 新しいスキルを身につけるにはたいていこの方法が一番効果的です )、同時に成果を出します。
トレーニング: 通常はそのまま現在の仕事に適用できるスキルに的を絞って、具体的に教えることが中心となります。トレーニングコースの例には、ある特定のベンダーの Enterprise Java Bean (EJB) アプリケーションサーバの実装、Microsoft Windows のユーザインターフェース設計、特定のベンダーの Java 統合開発環境 ( IDE ) の新しいバージョンの使い方などがあります。
教育: 一般にその人のキャリア全体を通して役に立つ、長期的なスキルや知識を与えるためのものです。カンファレンスへの参加、専門家との話や仕事、新しいツールや技法の使用、概念の実際の適用などがあります。
メンタリング: 経験豊富な専門家が、実務を通して自分の知識を人に伝える方法です。一般には、トレーニングおよび教育の作業を補助するものとして使われます。メンタリングを効果的に行うには、メンターが、その仕事の基本だけでなく、日々それを行うために必要なスキルを理解し、メンタリング対象者にスキルを移転できなければなりません。
人が新しいスキルを身に付けた場合には、それが組織にもたらす価値に応じて報酬を与える必要もあります。これは必ずしも金銭的なものでなくても構いません。本や雑誌を手近に準備し、さまざまなレポートのオンライン購読をしてください。最悪なのはトレーニングやカンファレンスの予算を削ることです。このような予算は、組織の長期的な生き残りを考えると重要なのですから。それでも、財政が逼迫してくると、たいていこの部分がまっ先にカットされてしまいます。
今日の組織にとって、後継についての計画は大きな課題となっています。後継計画の目的は、現在のメンバーが組織からいなくなった場合に備えて、それに代わる後の世代の IT 要員を確実に準備することです。これには、経営陣と主要 IT メンバーの両方を含みます。
組織は、主要な技術者と経営陣についてこれを行う必要があります。おそらく技術者の方が重要ですが、多くの場合それは無視されています。メインフレームの COBOL システムを保守・開発する立場であれば(多くの組織はこれに該当します)、そのスキルを持ったメンバーの多くが今後 10 年の間に定年退職するのだと認識しておかなければなりません。古めかしい考え方をする人たちと縁が切れるという点はよいのですが、ドメインや技術に関する貴重な経験を失うことになります。これらの技術から別のものに移行するか、あるいは適所に新しいメンバーを移し始める必要があります。技術と経営のどちらの職位について行なう場合でも、組織がそれに成功するためには、後継計画を立てるときに、柔軟性を保つよう注意することが重要です。
本ページの原文 ( 改訂されている可能性あり ) : www.enterpriseunifiedprocess.com/essays/peopleManagement.html Copyright 2004-2007 Scott W. Ambler
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