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「サービスデザイン思考におけるBtoBtoC(前編)」

2018.08.10 株式会社オージス総研  竹政 昭利

1.はじめに

サービスデザイン/デザイン思考では、インサイト(洞察)-消費者本人も気が付いていない要望や課題-を把握することを重視しています。
今までにないアイディアから生まれたものだとしても、そもそも、要望や課題を捉えていなければ、誰もそれを使いたいとは思いません。
また要望や課題が、アンケートなどで容易に明らかになるのであれば、多くの会社が我先に参入し、まさにもう製品やサービスとして市場に出そうとしているかもしれません。それに今から取り組んでも、時すでに遅し、後塵を拝する結果に終わるだけです。
そうならないために、まず最初にインサイト(洞察)を捉える必要があるわけです。インサイト(洞察)とは消費者自身気が付いていない、要望や課題です。本人が気づいていないので、当然アンケートなどにも出てくることはありません。しかし、うまくインサイト(洞察)を捉えることができれば、他社に先駆けて新しい製品やサービスを提供することが可能になります。
今回取り上げるのは、BtoB企業においてインサイト(洞察)を持っている消費者をどのようにとらえるべきか、という点です。
BtoC企業ならば、顧客が消費者になるわけですから、違和感なく考えることができるでしょう。
それではBtoB企業の場合はどうでしょう。BtoB企業の場合、最終消費者と関わり合いがないこともあります。そうすると単純に消費者を見ることができません。
又BtoB企業も様々な企業業態があり、ひとくくりに考えることは難しい状況です。そこでBtoB企業における消費者とは誰なのか、インサイトを探るべき相手は誰なのかを、いくつかのケースに分けて考察してみたいと思います。

2.ケース1 一般論

一般論としては、BtoB企業だとしても、やはりBの先の消費者を見ておくことでしょう。
ナスタという会社があります。創業88年の老舗の住宅金物メーカーです。ポスト、宅配ボックス、換気口などをつくっています。これらのものは、建物に装着され付属品として提供されます。
従って、この会社の直接の顧客はハウスメーカーであり、BtoBの会社と言えます。
もともとナスタはBであるハウスメーカーの要望を聞いて製品をつくってきましたが、実際に製品を使うのはBであるハウスメーカーの先の居住者であるCであり、Cの要望を聞く必要があると考えました。
日本語の晴れ(ハレ)は非日常を意味しています。たとえ暗く後ろ向きになりがちな雨の日に洗濯ものを室内に干す場合でも、「晴れた日の洗濯」のように非日常の場面でワクワクした気持ちになるよう、「ハレのある洗濯」など最終消費者がほしいと思うものを提案しています。(※1,※2)
BtoBtoCを考えているわけです。
この会社の場合はBtoBではありますが、最終消費者が直接使用するものを作っており、Cをイメージしやすい立場にあったと言えます。

3.ケース2 部品の場合

では消費者が使う商品の中の部品をつくる会社はどうでしょうか?たとえば、部品メーカーなどです。
SharpはIGZOという、スマートフォン向けの液晶を製造しています。
このIGZOという液晶は、消費電力が少なく、操作性が良い、高画質、などの特徴があります。(※3)
消費者は、スマートフォンに対して、特に、バッテリーの持ちを良くしてほしいと思っています。
IGZOは電力の利用効率が高いため、バッテリーの持ちが良くなります。
IGZOの液晶を搭載しているスマートフォンはバッテリー持ちが良いと知っていれば、消費者はIGZOの液晶が搭載されているスマートフォンを選択するでしょう。
そういった流れができてくればスマートフォンを作っているメーカーもIGZOを搭載したいと思うでしょう。
もっとも、IGZOの場合、Sharp自体がスマートフォンを作っているので、現段階では他のメーカーが搭載するのは難しいのかもしれませんが。またバッテリーについても、もし将来高性能で長持ちするものが開発されたら、スマートフォン、ノートパソコン、電気自動車など様々な分野で、ひっぱりだこになるのではないでしょうか。
そういったものは部品ではあるけれども、消費者のニーズに直接関係しています。

4.ケース3 見えない部品の場合

液晶やバッテリーは消費者との接点があり、消費者にとっても、部品として意識しやすいものでした。
それでは、消費者から直接見えない部品はどうでしょうか?(家電製品の中に組み込まれた部品など)
その1つの部品だけを取りだして考えるとき、それに対する消費者のインサイトを把握するのは難しいかもしれません。この場合、その部品を組み込んでいる商品を作っているメーカーBとともに消費者Cのことを考える必要があるのでしょう。
いくら部品の性能が良くてもオーバースペックだとか、消費者の要望がないところだと、時間と労力をかけても、消費者の満足には繋がらず意味はありません。
商品が全体として消費者のインサイトを捉えており、その方向に、部品の性能が強化されていればよいのです。
中国で、洗濯機でイモを洗っている例があるそうです。
日本の家電メーカーは、そのような使い方は想定していないので、壊れたとしても、説明書通りに使用してください、と切り捨てられるだけでしょう。
しかし、これは単なる笑い話ではなく、メーカーが想定しなかったユーザーニーズが見つかった、と考えることができる事例です。
そしてそのニーズへの対応を考えた場合、洗濯機に求められる性能はこれまでとは異なったものとなります。構造がシンプルで頑丈、泥が大量に出ても問題なく使用できるなどが求められます。当然部品も1から考え直す必要があるでしょう。
このとき、洗濯機メーカーはもちろん、洗濯機の部品メーカーも一緒になって、考えていく必要があるのではないでしょうか。
別の例をもう1つ紹介します。「モーターの日立」と言われます。かつて、日本鉱業(ジャパンエナジー)の鉱山で使用するモーターを用途に応じて開発し、その名声を獲得しました。今でも多くのファンがおり、超高層ビルのエレベーターの乗り心地で、日立とそれ以外を判別できるということです。エレベーターという箱に乗るのは、ちょっぴり緊張するものです。
より快適な乗り心地をユーザーが求めていれば、日立のモーターを使ったエレベーターを選ぶようになるのでしょう。

5.後編に続く。

BtoB企業における、インサイト(洞察)を持っている消費者の捉え方について3つのケースを考えてきました。
後編はさらに、BtoBtoCを考えにくい素材メーカーの場合や様々な関係者がいる場合について考えていきたいと思います。

「参照、引用」
1.https://www.nasta.co.jp/special/laundry-nasta)
2.デザインマネジメント 田子学、田子裕子、橋口寛 著
3.http://www.sharp.co.jp/k-tai/igzo/

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