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「人材育成とPDCA」

2013.10.10 株式会社宇部情報システム  永山 弘

人材育成とPDCA

 今年の7月に、インフラ部門から営業部門に異動したため、ITガバナンスとは少し離れますが、誰にでも共通で、いつも悩まされている、人材育成を取り上げます。
 過去に営業経験のない私が、いかにして営業マンを育成するのだろうか。この疑問を突き詰めると、自分がその分野を経験してなければ、更に言えば成功体験がなければ、人を育成する資格がないのか、ということに行き当たります。しかし、分野を超えた人事異動はよくあることで、むしろ「○○一筋」だけの組織のほうが珍しいでしょう。ですから、未経験であることに悩まず、新組織の基本はしっかり押さえた上で、あえて異文化の視点で人材育成に取り組もうとしています。
 とは言え、経験以外の材料がないと、具体的な指導ができません。そこで、私が活用している人材育成のツールを紹介します。正しくは、これから活用しようとしている、ですが。

ITSS

 この記事を読まれている多くの方は、ITSSに営業職があったのか、とお思いかもしれません。実は私もその一人です。営業関連の職集には、「マーケティング」と「セールス」があります。ここでは「セールス」だけ取り上げます。「ITスキル標準V3」を引用します。

 職種「セールス」の説明は以下のとおり

 顧客における経営方針を確認し、その実現のための課題解決策の提案、ビジネスプロセス改善支援及びソリューション、製品、サービスの提案を実施し成約する。顧客との良好なリレーションを確立し顧客満足度を高める。
 IT投資の局面においては、経営戦略策定(目標とビジョンの策定、ビジネス戦略策定)及び戦略的情報化企画(課題整理、ビジネス及びIT分析)を主な活動領域として以下を実施する。
- 経営戦略策定
・顧客における目標とビジョンの確認
・顧客におけるビジネス戦略の確認
- 戦略的情報化企画
・顧客におけるビジネス課題の整理及びソリューションの提案

 「セールス」の専門分野は以下の3つに区分されています。

 ・訪問型コンサルティングセールス
特定顧客に対して良好なリレーションを開拓、維持、向上し、継続的に販売活動を行う。
 ・訪問型製品セールス
特定の製品、サービス、あるいはソリューションに精通し、幅広く顧客に対してその販売活動を行う。
 ・メディア利用型セールス
各種のメディアを利用して不特定多数の顧客へアプローチし、主に製品を中心とした販売活動を行う。

 達成度指標はビジネス貢献(商談規模や回数など)とプロフェッショナル貢献(戦略立案や顧客リレーションなど)に分けて、それぞれのレベルが記述されています。スキル領域、スキル熟達度、知識項目も同様に分類され、定義されています。
 では、ITSSが自社の営業活動や期待人材とどれだけフィットしているかが問題です。実際には、そのまま適用するには少々乖離があります。しかし、「合わないよね」で終わらせるのではなく、使える標準はできるだけ使うことを基本とし、特定の顧客名や製品名を加筆してイメージしやすくします。

営業プロセスシート

 これは、昨年度に実施した社内営業研修の成果物で、営業プロセスを整理し、見える化したものです。具体的な行動の枠内は省略しています。

営業プロセスシート
図1 「営業プロセスシート」

 この成果物を今年度の営業活動に活用することになっています。営業研修に参加した人たちの意見・感想からも、成果物以上に得るものがあったことがうかがえます。
(参加者の意見・感想)
・日頃の営業活動を見直すことができた
・他拠点・他製品の営業マンと情報共有でき、参考になった
・開発部門も参加したため、営業と違った視点・意見が刺激になった
・営業上の心得から具体的なテクニックまで多くのアドバイスを得ることができた

役割行動シート

 これも昨年度、社内人事制度の大幅な改訂にともなって作成されたもので、評価のモノサシになるものです。中身は省略しています。
 全社基準と整合のとれた形で営業部門用にカスタマイズしたいところですが、実際に評価に使われるため、慎重に進めています。

役割行動シート
図2 「役割行動シート」

PDCA

 これは、これまで紹介したような成果物があるわけではなく、仕事の進め方としてPDCA(Plan-Do-Check-Action)に沿って行うよう指導する、という意味です。もっとも重要となるPlan立案の例を、バランスト・スコアカードの4つの視点を使って紹介します。まず、年度の受注・売上目標などを財務視点KPIとして、新規顧客獲得数や既存顧客からのリピートまたは顧客満足度ポイントといった顧客視点KPIに落としこみます。さらに、セミナー集客などの販促活動や、訪問回数などの営業活動におけるKPI、商品知識やロールプレイングなどの組織・個人のレベルアップKPIに展開します。これら4つの視点が連鎖していることで、組織としても個人としても納得感があり、やりがいのあるPlanにすることができます。上記で設定したのは年度のKPIなので、年度末に目標達成するためには、もっと短いサイクルで、PDCAサイクルを回さないといけません。具体的には、4つの視点それぞれの計画を、月毎あるいはもっと細かく旬毎の進捗計画へと展開することです。一般的なPDCAサイクルは以下のように図示されます。

PDCA
図3 「PDCA」
 月間計画の未達があった(Check)場合、改善の施策立案(Action)に続き、Planの見直しとなるわけですが、一般的には、財務KPIはあくまで年度内は変えずに必達とし、挽回するために、行動レベルの月間KPIを見直します。財務KPI、例えば年度売上目標の修正は、経営へのインパクトが大きいため、そうそう変更するものではありません。そこを意識したPDCAサイクルの図は以下のようになります。
PDCA(2)
図4 「PDCA(2)」

 現在弊社で実施できているPDCAは、ここでご紹介したレベルには遠いものです。業績の検証はできていますが、行動レベルの検証(訪問回数、商談進捗など)は十分できていません。改善の余地が大いにあります。行動レベルの検証をし、組織で改善をしていくことが、いわゆる営業マネジャーに求められる仕事だと思っています。

3-1 最後に

 ここで紹介したのはスマートなSFAソフトでも、営業マンに持たせるモバイル機器でもありません。人材育成とは、このようなアナログツールを活用し、部下との日常的なコミュニケーションを増やし、根気よくやるものだと認識しています。この記事を読まれた方々の中で、同じ悩みを持っていらっしゃる方々の励みになれば幸いです。

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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