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「なぜマーケティングが重要なのか?(14) -デジタルマーケティング(3)プラットフォーム系(2)-」

2015.02.12 株式会社オージス総研  水間 丈博

前回は「デジタルマーケティング」全体像の中のPLATFORM系を取り上げ、主にBtoCで活用されるDMP(Data Management Platform)を概観しました。今回は主にBtoBで活用されることが多い「マーケティングオートメーション」を中心に掘り下げます。

1.マーケティングオートメーションとは何か

マーケティングオートメーション(Marketing Automation:以下MAとします)は、米国で1990年代に流行し導入が進んだセールス支援システム(いわゆるSFA: Sales Force Automation)の前工程を支援するものとして2000年に入ってから開発が進みました。
SFAは主に多数の顧客を対象にしない非コンシューマ系(BtoB)企業で採用されており、"リード"と一般的に呼ばれる"見込み客情報"を管理する目的のものですが、SFAにインプットされる見込み客情報の精度や購買確度が課題となっていました。これらのリードは、営業部門が独自に収集するもののほかにマーケティング活動(広報や販促活動など)によって収集されますが、そこでの省力化と精度向上を目的に開発されたものがMAでした。例えば、大量に収集した見込み顧客のメールアドレスからセミナー案内や製品情報メールを送付し、反応のあった顧客だけにさらにお得な情報やキャンペーン情報を送付するといった施策を繰り返すと、自然に確度の高い見込み顧客が絞り込まれます。これをできるだけ自動化しようと言う発想です。ですから、MAとは"見込み顧客を確度の高い顧客へ誘導(育成)するためのマーケティング施策実行を支援するツール"ということができます*1
こうした事情から、MAは主にBtoB企業で導入が進みました。日本での導入は米国から10年以上遅れたと言われていますが、現在では様々なMA製品が国内でも販売されています*2

(1)MA発展の背景

MAが発展した背景に簡単に触れておきましょう。
企業内のマーケティング機能の一つに"見込み顧客の収集"があります。多くの場合、展示会やセミナー、Webに届いた資料請求やメルマガ登録などを通じて集められます。BtoB企業の場合はこうしたリードが営業部門に引き継がれますが、一企業であっても複数の人々がリードに含まれることが普通ですから、企業名や部門名で名寄せをする必要があります。営業リソースは有限である上に商談にまとめ上げるまでに"アポを取る"、"商品やサービスの詳細説明に赴く"、"提案機会を探る"、"意思決定者を特定する"など数多くの関門を突破する必要があります。当然、マーケティング部門が収集した見込み顧客の中の"興味本位の個人"や"情報収集目的の法人"に人手を割く余裕はありません。一方で営業部門が売上に貢献する割合は低下し続けていました*3。そこで「マーケティング(販促)活動」と「営業リソース」を繋ぐニーズが高まり、米国で急激に多くのMA製品ベンチャーが立ち上がったのです。

(2)日本への導入

日本へのMA導入が始まったのは、ここ1~2年の動きです(2015年1月現在)。従ってまだ本格的な市場展開はこれからというところです。大いに期待されているのですが、何故これほど日本で導入が遅れたのかについては諸説あり、

などと言われています*4
このほか投資先としての日本の魅力が、IT分野に限らず低下し続けていると言う実態もあると考えられます。(IMD国際競争力ランキングで日本は1993年トップだったが2014年は21位に低迷*5。)
さらに、日本の特異な事情があります。それはBtoB企業にマーケティング概念が存在しなかったことです。これが米国市場との決定的な違いです。その主因は高度成長時代の成功体験とBtoB企業のビジネスモデルにありました。
長かった日本の高度成長期は"需要過多"の時代でした。苦労して見込み顧客を囲い込む必要性は低かったのです。需要に応じた品質改良と機能改善を継続することにより販売も伸長していきました。このため、特にBtoB企業ではマーケティングそのものの導入が遅れてしまったのです。
現在は市場が様変わりし、少ないチャンスを確実につかむ必要性が高まってきました。
その原因は以下の3点に集約できます。

ただ、日本でMAの導入が遅れたと言うことは、逆に言えば"これからMAを上手に導入し活用する企業は競合優位を獲得できる"と言えるかもしれません。

(3)MAの仕組み

MAの根幹をなす考え方は"リードジェネレーション"や"リードナーチャリング"と言われます*6。これは本連載『(6)現在のマーケティング(上)』で記述したファネルマーケティングの"AIDMAモデル"をITで支援するものと考えることができます。
以下にリードジェネレーション・MA・営業リソースを含めたセールスフォースとの相互関係を示します。

「マーケティングオートメーションの位置付け」
[図26] マーケティングオートメーションの位置付け

このように、最初の見込み客とのコンタクトポイントをスタート地点とし、その内容に応じて見込み客の注意や興味対象別にカテゴリー分けし、それぞれにどのようなマーケティング施策をどのタイミングで実施するのか(これをマーケティングシナリオと呼びます)、またその施策の結果はどうだったのかを記録していきます。従来からマーケティング活動は数々の施策を打ち出し、できるだけ速く結果を評価して修正を繰り返しつつ効果を高める、というPDCA活動が仕事の中心です。これを繰り返すことにより見込み顧客の購買への欲求を高めつつそのステータスを把握し、見込み顧客の属性や検討対象が明確になった時点で、多くの場合営業部門へ情報が引き継がれます。こうした成熟したリードをMQL(Marketing Qualified Lead)と呼びます。しかしながら、この"DO"と"CHECK"に時間と手間が掛かっていることが課題でした。そこで"DとC"をできるだけ省力化・自動化しようと期待されているのがMAなのです。

(4)MAの機能とMAへの期待

MAの機能は製品により様々ですが、主な機能を列挙すれば以下のようになります。

・見込み客マネジメント
見込み顧客の名寄せや似た行動や興味対象を持つ見込み客を分類する高度なセグメンテーション機能を持ちます。DB化されており、見込み客のすべてのアクティビティ履歴が保存されます。
・スコアリング
顧客のアクティビティに応じて顧客の意欲がどれほど高まったのかを数値化する機能です。例えば、メルマガに登録したら10ポイント、セミナーに出席したら50ポイント、カタログ請求がされたら100ポイント、といった評価指標を設定しておくと、自動的に反応結果がスコアリングされ累積されます。
・コンテンツマネジメント
この"コンテンツ"とは、「新製品ご案内メール」や「特定顧客向けのWebページ」(LP: Landing Pageと呼びます)、「特別キャンペーン応募の入力フォーム」といった見込み顧客向けのクリエーティブ類を指します。施策実行に伴って必要となるこうしたコンテンツの制作を支援し、管理する機能です。
・キャンペーンマネジメント
シナリオに応じて生成したコンテンツを"誰に・どのタイミングで・何回"実行するかを登録(スケジューリング)し、実際に実行しモニタリングする機能です。
・レポーティング
リードナーチャリングの進行状況を視覚化する機能です。"ダッシュボード"と呼ばれる一覧で様々なステータスを確認できるものもあります。効果の検証や結果分析に利用されます。
・他システム連携
既存顧客管理システム(CRMなど)、ソーシャルネットワーク(SNS)、状況分析のためのBIシステム、顧客向けリコメンデーションシステム、SFA、CMS(コンテンツ管理システム)、コールセンターシステムなど、他システムと連携する機能です。

「マーケティングオートメーションの主な機能 」
[図27] マーケティングオートメーションの主な機能

*1:Marketing Automationの定義
マーケティングオートメーションに統一的な定義は存在せず、MAベンダーによっても呼び方は様々である。例:"マーケティングプラットフォーム"(シャノン)、"統合的ソーシャルマーケティングプラットフォーム"(Salesorce)、"次世代型マーケティングプラットフォーム"(Sitecore)など。
参考までに英語版Wikipediaの翻訳を記す。
「マーケティングオートメーションとは、マーケティングファネルの最初から最後までの間のリード(見込み客)に焦点を当てて、"営業可能なリード"にする。見込み客を個々の行動に基づいてスコアリングし、電子メールやソーシャルチャネルなどを駆使したキャンペーンなどを実行する。このように見込み客が最初に興味を持った段階から営業に繋げるまでの、見込み客を育成する仕組みである。」(筆者訳)
http://en.wikipedia.org/wiki/Marketing_automation
*2:Marketing Automation製品
米国でSFAが先に普及したが、SFAは名寄せが不得意だったため、それを補完するニーズに応える形でMAが発展した。BtoB企業では「MA+SFA」がセットで利用されることが多いといわれている。米国のMAツールシェア状況を参考までに掲げる。
http://venturebeat.com/2014/05/01/pardot-is-the-fastest-growing-marketing-automation-system-beating-hubspot-marketo-act-on/
Hubspot, Marketo, Infusionsoft, Eloqua(Oracle), Pardotの順にシェアが高いが、多くのベンダーがひしめいていることがわかる(2014年5月のデータ)。
参考:「国内で選択可能なMAツール8選」http://dmj.underworks.co.jp/2014/06/16/marketing-automation/
*3:BtoBの顧客が購入意思決定する時期
最近のBtoB顧客の57%は営業マンに接触する以前に購入製品を決めている、とする調査がある。顧客の情報収集力増大に伴い、意思決定を営業が説得を本格化する以前に前倒しになっていると考えられる。そのためマーケティングにも「売上創出」義務が課されつつあるとする。
[出典]「2014年のキーワード"マーケティングオートメーション"をモダン・マーケティングの概念と一緒に学ぼう」Markezie 2014年8月26日http://markezine.jp/article/detail/20050
*4:[出典]「SFAの補完機能であるマーケティングオートメーションはなぜ日本に上陸しないのか?」
MarketingCampus 2011年7月25日
http://marketing-campus.jp/lecture/noyan/054.html
*5:[参考]「国際競争力(IMD)ランキング」 世界経済のネタ帳
http://ecodb.net/ranking/wcy.html
*6:「リードジェネレーション」と「リードナーチャリング」
一般的に「リードジェネレーション」は見込み顧客を"創成"すること、すなわち見込み顧客を獲得することを指し、「リードナーチャリング」は獲得したリードを"優良なリードへ育成すること"と定義される。
[参考]「情報マネジメント用語辞典 リードジェネレーション」ITmediaエンタープライズ
http://www.itmedia.co.jp/im/articles/1107/27/news107.html

2.マーケティングオートメーションの活用方法

(1)シナリオを描く

前節で述べたように、マーケティング「オートメーション」と名付けられてはいますが、言わば"定義されたシナリオとスケジュールに基づいて施策実行を支援するツール"ですから、自動化できる点は限られます。"PLAN"の部分や施策結果の判断を自動化できるわけではありません。最も重要なのは、シナリオを描き、どのようなストーリーを想定してどの局面でMAを活用するのかという点です。
シナリオの作成は様々な手法が提案されていますが、本連載『(11)最新のマーケティング(2)』で紹介したCSJ(カスタマージャーニーマップ)を利用するのも一つの方法です。CSJは見込み客の行動と企業側との接触ポイントを"インターラクション"として時系列に従って記述し、その際の顧客側の反応を想定する方法です。このインターラクションへマーケティング施策をあてはめるのです。同時にそのタイミングとコンテンツを割り当てます。インターラクションにおける見込み顧客の反応は期待通りに行かず、途中で躊躇する場合も多くあります。それぞれの反応に応じてどのように次の施策に繋げるのかを想定するので、複雑な経路を設計する必要があります。
BtoCでは、具体的な利用者像を詳細に定義し、過去の実際の顧客行動を参考にして"どのような行動を取るか?"をシミュレーションしながら提示するコンテンツを決めていく「ペルソナデザイン」が広く使われています*7

例えば、あなたが「3Dプリンター販売会社のマーケティング担当者」だとします。ある展示会でノベルティと交換で名刺を獲得しました。興味の対象は明らかではありません。Web、広告、広報、DMなどの社内リソースは自由にあなたが活用できるものとします。

以下に様々考えられる一例として、シナリオのための施策とコンテンツ案を示します。

「シナリオ生成のためのマーケティング施策とコンテンツ素材の創出(例) 」
[図28] シナリオ生成のためのマーケティング施策とコンテンツ素材の創出(例)

シナリオはWeb設計の際にも活用できますが、基本的に以下の3つの要素が必要と言われています*8

1)価値の提案(興味を持ってもらう)
2)商品紹介(機能、特徴、値段、どこで買えるか、品質など)
3)強みの紹介(競合品にはない特徴、購入者が得られるベネフィットなど)

(2)MAを活用する

作成した個々のシナリオに対して設定したマーケティング施策(製品紹介メール、新発売キャンペーン、セミナー案内など)と、それぞれのスケジュールや評価方法などを登録していきます。必要に応じて特定顧客向けランディングページを制作したり、登録フォームを追加生成したりします。
MAはこれらの作業を一連の簡易なオペレーション(ドラッグアンドドロップなど)で実現できるようになっています

(3)反応をモニタリングする

実行されたシナリオの結果をモニタリングします。多くのMAツールは結果が視覚化されるようになっています。時間を置かず迅速に結果を分析することが重要です。"なぜ、これほど思いきったキャンペーンに反応しないのだろうか?"、"今回の企画メールだけ反応が高かったのはなぜなのだろうか?"など、潜在顧客の行動理由を想像することが重要です。その結果、新たな仮説が浮かび上がり、それが別のシナリオに展開されるようになります。
この部分は自動化できませんので、マーケティング担当者の経験とセンスが活かされる重要なプロセスになります。MAを導入することによって、この重要な分析時間を多く取ることが期待できます。

(4)シナリオやセグメンテーションを見直す

施策実行の分析の結果、新たなマーケティング施策を案出したり、新たにランディングページを追加したり、当初のデータに戻ってセグメンテーションを見直したり、といった次のプランに繋げるプロセスです。素早くここまでのプロセスを繰り返すことによって、リード育成の成果が出てきます。この部分は試行錯誤も多いかもしれません。しかし多様性が増した潜在顧客をできるだけ多く惹きつけるには、企業側も多様な方法によって間断なく工夫をし続けることが求められていると言えるでしょう。

以下に導入事例を幾つか挙げておきます。

[事例1]
SEERhealth社(Hubspot事例:翻訳) (マーケティングエンジン)
SEERhealthは米国アトランタにあるヘルスケア産業向けのサービス会社。
この事例記事では、見込み客層を"ファネルの上中下"で分け、それぞれに望ましいコンテンツ(eBook、ブログ記事、プレゼン資料、WhitePaper、LandingPage、オファリングなど)を用意し、ワークフローに合わせてCTA(Call-to-Action)を効果的に配置する、といった方法を紹介。
このCTAとは、リンクやボタンなどを効果的に配置する、見込み客の"行動喚起"や"行動誘発フック"といった「最後のひと押し」をするような仕掛けのこと。
http://info.mktgengine.jp/weblog/hubspot_marketing_automation_case_study_1
[事例2]
日本エスリード(Marketo事例) (電通eMarketing One)
日本エスリード社はマンションデベロッパー。ファミリー層向け新築マンション販売で見込み顧客をMAで管理。"市内外/子供が小学生以上か未満か"でEメール対象クラスタを4種類に分けた。PDCAの'DO'部分が短縮化され、75%時間を削減、'PLAN'に集中できるようになったと言う。
かつての課題は反応の良い客だけを相手にした結果、商材販売に偏りが出たこと。特定のペルソナに絞った弊害が出てきた。そこでOnetoOneを指向。導入は2カ月だった。BtoB向けのソリューションはマンション販売に適していたのだと言う。
http://www.dentsu-em1.co.jp/ma/case_study1/index.html?em1cp=3
[参考事例集]
米国事例集(例)6つの様々なベンダーの成功事例が効果と共に紹介されている
https://econsultancy.com/blog/63748-marketing-automation-six-case-studies-and-an-infographic-on-how-it-improves-sales-and-revenue/
[参考]その他ベンダー各社サイトに顧客導入事例が多数紹介されている。
Pardot(Salesforce)
Marketo
Infusionsoft
*7:[参考]ペルソナデザイン 「コンテンツ企画の前に!WEB担当者のためのペルソナデザインマニュアル」
http://www.inboundmarketing.jp/blog/2013/08/02/persona/
*8:[出典]シナリオ制作(コンシューマ製品例)「売れるシナリオ作りをロジクールから学ぶ」
http://homepage.aluha.net/column-wp/archives/252
コンシューマ製品事例だが、シナリオ制作方法も分かりやすく解説。

3.マーケティングオートメーションの導入のポイント

(1)"押し込みツール"にするとブランドを損なう

前回も触れましたが、最も重要なのは「Vision(戦略と言い換えても良い)」です。これを明確にせず、手っ取り早く従来型のプロモーションを効率化し"自動的に優良顧客を増やす道具"と考えると失敗します。理由は、見込み顧客とのタッチポイントの設定とそのリアクションに応じた接触を自動化するため、単なる"押し込み(押し売り)"になってしまうリスクが高いためです。

『ブランド力の醸成』と『頻繁な押し込み』を峻別すること

が何より重要と考えます。この両者は対立する概念です。MAはブランド力の醸成に重点を置いて運用すべきです。ブランド力は"企業そのものの魅力"とも言えますので、MAの運用にはヴィジョンや活用コンセプトを明確にすることが必然になるのです。

(2)商品価値を明確にする

商材である"商品そのものの価値"を明確にしておくことは必須です。商品価値とは、機能特徴、有用性だけでなく、"他社品や競合品には無い特異点"であり、その商品を見た人が"これを購入する必要がある理由"でもあります。誰でもモノやサービスを購入する際には無意識のうちにお金を出す理由付けをしています。BtoB商品の場合は、"こんな悩みを持ったお客様がこうして解決した"といった事例が説得力を持つのはそのためです。同じ課題を持っている人なら注目するはずです。
競合品との明確な優位性が納得性を伴って伝わらない場合、見込み客は離反(興味を失い代替品を探し始める)する可能性が大きくなります。

(3)コンテンツを充実させる

せっかくシナリオを綿密に設計しても、肝心のコンテンツが陳腐だとタイミング良く発したシナリオの効果が半減してしまいます。使い回しのメール文章や焦点がずれたWebページ、同じ商品画像を何度も使用する、と言った"手抜き"を続けると顧客の興味を失わせることがあります。
シナリオで、狙った見込み客に狙ったタイミングで効果的なWEB画像を配置するなど、最適化する技術をLPO(Landing Page Optimization)といいます*10
コンテンツ品質は様々なノウハウが駆使されるところでもあり、LPO業者やデザイナーなどの専門家に支援を受けることをお勧めします。"ランディングページはシナリオの数だけ作るべき"といった意見もあります*11

(4)営業やIT部門との協力関係を築く

MAは大量の見込み顧客の情報を整理して自社の製品やサービスに対する興味を高めてもらい、営業部門へ優良見込み客として引き継ぐためのツールですから、営業部門との協力が欠かせません。どのようなコンセプトでリードを育て上げ、どのような条件で営業部門へ引き継ぐのか、綿密に情報共有しておくことが求められます。
また、Webページのスクリプトや脆弱性解消のためにIT部門の支援が必要なこともあります(特に登録フォームは'クロスサイトスクリプティング'に狙われやすい)。さらにWebの運用全般をIT部門に依存しているケースもあるでしょう。
企業全体としてMA導入の効果を最大化するには営業やIT部門との協力関係を確立しておくことが前提となります。

(5)コンパクトに開始する

前章[図28]で例示したようなシナリオやコンテンツを用意したとしても、例えば"利用者の声"は見てくれたがその後の"競合比較"には興味を示してくれなかった顧客や、"機能詳細案内メール"には反応があったが、その後何も反応せず、しばらく後に"展示会招待状申込み"をしてきた顧客など、想定通りの行動パターンにはまらないことが数多く出てきます。一つの施策実施の結果、幾通りもの場合分けが生じ、追跡(管理)しきれなくなる恐れがあります。"試行錯誤"とはいえ、実際の見込み客向けに実行するのですから、注意深く進める必要もあります。そのため、最初は小さく始め、少しずつ規模や対象を広げることをツール各社も勧めています。

*10:LPO
LPOでは、新旧ページを比較したり別デザインのページを同じ数だけ実際に表示したりして、反応の違いや効果の程度を測定するA/Bテストなどが駆使される。僅かなコンテンツ文の違いやメッセージの違いが大きな効果差異をもたらすことがある。
[参考]「世界のABテスト・LPO事例33選」
http://www.assion.co.jp/blog/abtest-case-worldwide-33/
[参考]「初心者でも大丈夫!売れるランディングページの作り方」(KAIROS Marketing)
http://blog.kairosmarketing.net/inbound/landing-page-20130926/
*11:[参考]「ランディングページはそれぞれのシナリオの数だけ作る」
http://blog.kairosmarketing.net/inbound/landing-page-20130926/

4.統合マーケティングコミュニケーションについて

(1)IMC理論

最後に重要なマーケティング概念の一つとしてIMC理論に触れます。IMCとは"Integration Marketing Communication"のことで、1993年に米国ノースウェスタン大学教授のドン・シュルツ氏が提唱しました。消費者との接点を"タッチポイント"とか"コンタクトポイント"と当連載でも称していますが、"コンタクトポイント"という言葉を最初に創成したのもシュルツ教授と言われています。
IMCは、消費者を企業活動の中心に据え、このコンタクトポイントを"コミュニケーション"とし、そうした様々な機会を統合するべきだ、と主張しました。言わば「オムニチャネルの源流」とも言うべき考え方なのです。

(2)IMCとは

2003年に出版された著書"IMC, The Next Generation: Five Steps for Delivering Value and Measuring Returns Using Marketing Communication"では、

といった、今日のオムニチャネルや"顧客を中心としたマーケティング"の根底にある概念を早くから打ち出していました。
"消費者こそが企業の真の資産であり、消費者視点を徹底させてすべてのコンタクトポイントで企業やブランドのメッセージに一貫性を持たせたコミュニケーションを取るべき"、としています。その後20数年の間に社会環境変化に合わせてIMCは進化し、商品開発や社内外の関係者をも含めた統合的なコミュニケーション(インターナルマーケティング)を採り入れ、現在はIMC3.0と称して、市場のビッグデータを活用し消費者の行動を予測していく可能性に着目していると同時に、コンテンツの重要性を再認識すべきとしています。

(3)IMCの価値

IMCは、"ブランドの価値"を追求する過程で消費者とのコミュニケーションの重要性に、いち早く着目したシュルツ氏によって体系づけられたマーケティングパラダイムの一つと言えます。IMCが今日でも色褪せないのは、ブランド育成の考え方が消費者の嗜好多様性と商品の多様性が拡大する一方である現在の市場の中で、企業が生き残る可能性を示唆しているためではないかと考えます。

次回からは、ADTECH系の様々な仕組みを見て行きます。

[参考資料]

[書籍]「ドン・シュルツの統合マーケティング」(書籍) ドン・シュルツ/ ハイジ・シュルツ(著)、 上木原 弘修・州崎 健・宮澤 正憲 (翻訳) ダイヤモンド社(2005)
[参考]Marketing Automation Buyer's Guide 2013 (有償資料)https://econsultancy.com/reports/marketing-automation-buyers-guide

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