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「医療と介護の連携(その2):先進事例 -業務連携、情報連携、価値連携の社会システム構築に向けて-」
株式会社オージス総研

2013年12月号
  • 「医療と介護の連携(その2):先進事例 -業務連携、情報連携、価値連携の社会システム構築に向けて-」
株式会社オージス総研   明神 知

1. はじめに

 前回は、「医療と介護の連携」には、

  • 急性期から維持期の各ステージ間の連携と、
  • 維持期(在宅)のステージ内連携があること

 そこには人材・組織・制度の問題とともに高齢者の機能低下の特徴に合わせた対応が必要であること、また、その解決には「地域包括ケアシステム」の確立と地域住民の参画といった社会システムの構築が必要であること、を解説しました。
 今回は、「医療と介護の連携」の問題の方向性を検討するために内外の先進事例を紹介したいと思います。
 まず、最初にここで取り上げる範囲として「地域包括ケアシステム」の5つの構成要素を、地域包括ケア研究会[1]から引用して図 1に示しました。これまでは医療、看護、介護、保健、予防といったサービス提供者側からの視点で考えられてきましたが、実はその土台ともいえる「生活」と「住まい」が前提として整備されていることと、何より自分の人生をどのように終えたいかという選択と心構えが重要です。治すから患者・家族が「自分力」を取り戻す過程を支援し[2]、自分でケアプランを考えるといった取り組み[3]や、税による「公助」だけでなく「自助」「互助」「共助」といった支え方を盛り込んで行くことが求められています。

地域包括ケアシステムの構成要素[1]
図1 地域包括ケアシステムの構成要素[1]

2. 海外事例

 (1) 各国比較
 英国家庭医療専門医(General Practitioner)の澤憲明医師がCommonwealth Fundのレポートを引用して国際医療制度ランキングを解説しています[4]。これは英国、米国、ドイツなどの先進国7か国を対象にしたランキングです。上位3位は、オランダ、英国、オーストラリアですが、これらの国の医療制度は英国とほぼ同様のプライマリ・ケア・システムを採用しています。日本では一次医療における「ゲートキーパー」になって医療費抑制のために紹介されることが多いのですが、英国では重大な疾患を見逃さない臨床能力を持った「専門医」であり、むしろ適切な二次、三次医療につなぐ「ゲートオープナー」なのです。患者満足度も92%の患者が満足しており対象11か国中、最も優れているという評価です。
 さらに、このレポート[5]には詳細な各国比較がなされています。表 1に代表的な項目を示しましたが、日本の高齢化とEHR(Electronic Health Record)利用率の低さが際立っています。日本では医療機関に閉じた電子カルテの導入が進んだことや、当初からの医療情報共有に関する設計思想の違いが、その原因だと考えられています。

表1 医療制度の各国比較[5]
英国 スェーデン 米国 日本
高齢者(65才以上)人口 16.5% 18.3% 13.1% 23.0%
かかりつけ医 × ×
ゲートキーパー × × ×
包括ケアシステム 国家主導 国家主導 国家主導 国家主導
EHR利用率 97% 88% 69% 20%

(2) エストニアのIT立国事例
 人口130万人ほどの小さなバルト3国のひとつ、エストニアがIT先進国として注目されています。今年の2月に東京大学政策ビジョン研究センターで行われた「国民医療ナンバー制度のあり方を考える」国際会議でTartu大学のエストニア・ゲノム・センターIT部門長のErkki Leego教授が講演会場から自国のサーバーにアクセスして教授自身や患者さんの医療映像を表示していました[6]。
 エストニアは2013年までにeHealthサービスを含むすべての公共サービスのデジタル化を目指し、サービス中心に公共インフラを構築する予定です。すでに2000年にはe-Tax、2002年に国民電子IDカード、2005年に電子投票、2008年にe-Healthの導入、2010年には電子処方箋といった電子政府の施策を矢継ぎ早に実施してきています。特にeHealthサービスは全国レベルで展開しておりアレルギーや慢性疾患などクリティカルな情報、一般開業医及び病院での検診履歴、検診時に行われた検査のうちレントゲン等のイメージ情報、救急車利用履歴、処方箋情報、開業医及び他病院からの紹介情報といった情報が参照可能になっています[7]。

(3)オランダのビュルトツォルホ(在宅ケア事業)[8][9]
 村上智彦医師が「医療にたかるな」で日本の医療・介護業界に蔓延する「責任回避志向」や医師の「権力欲」による介護の病院化を防ぐネットワーク組織として紹介しているのがビュルトツォルホです。オランダの地域看護師が2006年に起業し,翌年1月に1チーム4人で始まった「専門職が自律的に専門性を発揮するための組織」ビュルトツォルホ(コミュニティケアという意味)は、その後急速に拡大しました。2012年4月には,九州ほどの広さのオランダ全土で約450チーム,看護師・介護士(以下,ナース)約5000人が活躍しています。管理部門はわずか約30人,間接費は8%と他の在宅ケア組織の平均25%を大きく下回ります。利用者は約5万人,2012年の売上高は約1.8億ユーロです。クライアント当たりのコストは他の在宅ケア組織の約半分,全国の在宅ケア組織のなかで利用者満足度は第1位,従業員満足度も高く最優秀雇用者賞を受賞しています。現在,オランダのすべての産業を通じて最も成長している事業者といわれます。ビュルトツォルホのナースは,6割以上が学士レベル以上の地域看護師(他の在宅ケア組織では看護師は少数,介護士が中心)。利用者に対する最善の「解決策」提供に向け,1)ニーズアセスメント・ケアプラン作成,2)インフォーマルネットワークのマッピングと活性化,3)専門職ネットワークのマッピング(家庭医・パラメディカル・福祉・病院等)と連携・調整,4)QOL向上に向けたケア提供(看護・介護・ガイダンス,家事援助は関連組織との連携も,5)共感的・社会関係支援の提供,6)セルフケアの支援,を実施します。
 シンプルな組織でチームに最高の自律性を与えることに加え,ICT(Buurtzorgweb)の活用によってナースを煩雑な事務から解放し,実践共同体としての一体感を生み出していることもビュルトツォルホの今日的特徴です。
 Buurtzorgwebには3つの側面があります。1つ目はいわゆるERP(業務管理)であり,従業員・利用者データ,勤務時間・シフト管理,文書共有,各チームのケア提供状況の把握等を通じたアカウンタビリティが確保されています。
 2つ目は独自の品質管理システムに基づく電子健康記録である。ビュルトツォルホでは利用者との対話・利用者の経験をベースにしながら,OHAMAシステム(地域看護活動の標準分類方式)に基づき,問題・介入・成果の観点からケアの評価と質の管理を行っています。3つ目はナレッジマネジメント・コミュニティであり,ミッション共有と連帯感醸成,事例やイノベーションの相互学習,ナースと管理部門のコミュニケーション,組織の意思決定が図られています。

(4)システムとしての医療
 筆者は今年の6月に次男がオブザベーション研修に行ったオアフ島の日系人が設立したKuakini病院を見学しました。この病院はホノルルのBest Doctorsを何人も抱えるハワイ大学residency programの中において中核の3病院のひとつであり、ホノルル市街からは少し離れたところにあります。患者層はハワイの現地人の方から日系人や日本人の方々も大勢おり、地域の基幹病院です。日本と違うのは、たくさんの開業医が個室の診療所を構えているMedical Plazaというビルが併設されていること。ホームドクターがかかりつけ医として患者の全体を見ており、手に負えないときには病院に連携する仕組みが確立しています。このホームドクターはdoctors of first and last resort、最初に出会い、最後まで関わる医師なのです。
 元々の成り立ちが慈善病院ということや患者が共稼ぎの家庭が多いので介護を自分たちで出来ないということで、敷地内にはケアセンター、老人ホームが併設されています。ボランティアは医療介護のあらゆる領域で期待されており、自分たちで助け合う文化もあって一体となったシステムとして運営されています[10]。

(5)イギリスのマギーズ・キャンサー・ケアリング・センター[11]
 癌の病態のどの時期でも、いつでも相談に乗り、ゆっくり自分で考え判断ができる力を取り戻せるようにサポートすることを目的につくられた、イギリスの「マギーズ・キャンサー・ケアリング・センター」という機関があります。
 乳がんの患者であったマギーさんが癌の宣告を受け、また再発したときに非常にショックを受けて一緒に考えられるような空間が欲しいと計画したのが始まりです。マギーズセンター第1号があるのは英国スコットランドのエジンバラです。ウェスタン総合病院の敷地内にあり建築概要は280?、大きなNHS(ナショナルヘルスサービス=地域の基幹病院、多くは2000床近くを有する医療機関)のすぐ横に建つが同一の建物ではなく独立した一戸建ての家です。そこには、いつでも相談に乗れるように専門の看護師が常駐し、臨床心理士も時に加わり、ボランティアも活躍しています。運営はすべてが寄付で賄われるので、相談料は無料、予約の必要もなし。そのために、ファンドレーターと呼ばれる人がいます。その人たちが資金調達のためのプログラムを組み、広報し、多くの支持者を得られるように地域に働きかけていく仕組みを考え広めているのです。後述する「暮らしの保健室」は、この「利用者側の視点」でマギーズセンターのコンセプトを取り入れて設立されたのです。

(6) ドイツの園芸療法(市民菜園)クラインガルテン[12]
 クラインガルテン(小さな庭)はドイツ全国どこの街にもあり、一区画が100~400平方メートルと広さも十分な「市民菜園」です。ここでは野菜・花・果物を育てるだけでなく、芝生を敷き休憩用の小さな小屋を建てたり、子供の遊具を置いたり、趣味で小さな池を作ることもできる。このようにクラインガルテンの使い方は、貸し農園よりずっと自由。借りる期間は基本的に無制限で、賃貸料は年間2万円程度と格安です。
 シュレーバー医師が労働者の健康回復を目的に、労働者やその子供達のために、郊外に遊び場を備えた畑付きの庭を作り、今あるクラインガルテンのスタイルを確立したのです。彼にちなんで、クラインガルテンは今でも「シュレーバーガルテン」と呼ばれることがある。最初のクラインガルテンは1864年ドイツ東部のライプツィヒに作られ、その後ドイツ全国、欧州へと広がり、近年は日本や韓国でも作られています。クラインガルテンはドイツ鉄道(旧ドイツ国鉄)が鉄道労働者のため積極的に整備したこともあり、よく線路脇に見られます。また、道路と線路に挟まれた三角地帯など他に使い道のないところにも作られ、土地の有効活用に役立っています。

(7)コミュニティ薬局
 医療・介護の連携では薬局の役割も重要です。高齢者は複数の疾患を持った複雑系としての対応が必要となるとともに、必ずしも医師の指導通りの服用が出来ないことも多く、在宅医療での最適かつ効率的で安全・安心な薬物療法の提供が求められています。
 アメリカ最大のドラッグストアチェーン、ウォールグリーンは21世紀の薬局としてどう進化していけばよいのかデザイン思考で有名なIDEOに助言を求めたのです。そこで、健康を気遣う人々へのインタビュー、来店者へのエスノグラフィーを実施したところ、自分の健康について気軽にアドバイスを受けられる場所を欲していたのがわかりました。IDEOはWGスタッフと共同でプライベートな相談ができるスペースのアイデアのプロトタイプを作って検討し、顧客対応スタッフが健康に関するヒントやよくある質問をiPadアプリを使ってタイムリーに回答できるようにしたのです。2011年11月時点では、シカゴとインディアナポリス市場で20店舗展開しているそうです[13]。

3.日本の事例

 次に、医療介護連携に関する日本の事例として先駆的な尾道方式、政府主導の「どこでもMY病院」と「シームレスな地域連携医療の実現」、市町村が主体的に進めている「東大-柏モデル」を紹介します。
 (1)地域ケアのモデル「尾道方式」[14]
 尾道市が構築した包括的地域連携システムは、国の保健医療行政に大きな影響を与え、「尾道方式」として全国的なモデルとなっています。尾道市医師会が地域医療連携システムの構築に取りかかったのは1994 年のことですが、1930 年代にイギリスで提唱された高齢者総合評価(CGA:Comprehensive Geriatric Assessment)に盛り込まれているProgressive geriatric careを参考にしたのです。これは、もともと入院のきっかけとなった疾病の治療を急性期病棟で終えた後も、最終的に適切な生活の場に落ち着くまで、体系的なサービス資源の流れをシステム的に整備してケアマネジメントすべきという老年医学の考え方です。尾道方式は図 2のように「患者本位」を大原則とし、急性期から回復期、生活期への転院時や、在宅退院時など、長期継続ケアの各段階で計画的に「ケアカンファレンス」を行い、「多職種協働」で医療と介護を効率的、包括的に提供できる体制を構築しているのが大きな特徴です。

尾道方式[14]
図2 尾道方式[14]

(2)どこでもMY病院構想
 「どこでもMY病院」構想は、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が2010年5月に公表した「新たな情報通信技術戦略」における医療分野の計画の一つです。医療分野の他の取り組みが医療サービスの提供者向けの仕組みであるのに対し、「どこでもMY病院」は「自己医療・健康情報活用サービス」の別名があるように、利用者向けのサービス、つまり「PHR(Personal Health Record)」の一つと考えられます。この構想に沿った様々な活動がなされており、「どこでもMyカルテ研究会」では多くの実践例が報告されています[15][16]。
 個人向け健康医療福祉履歴管理サービス「ポケットカルテ」[17]は「どこでもMY病院」構想の実現説明資料の最終ページで「(参考)「ポケットカルテ」サービス」として掲載されており、構想実現の参考となる、日本で運用中のPHR(Personal Health Records:個人健康情報管理)の先進事例として位置づけられています。
 (3)シームレスな地域連携医療の実現[18]
 患者側の「どこでもMY病院」と一体となって推進するべく2010年にIT戦略本部で策定されたのが、医療機関側の情報連携を推進する「シームレスな地域連携医療の実現」です。これは、医療機関間の境界だけではなく、医療機関等の存在する市町村・二次医療圏などといった地理的境界、医療・介護といった職種の境界などを超えて、切れ目のない医療・介護情報連携を実現することにより、地域の医療・介護サービスの質の向上を目指すものです。実証事業や補助事業、地域医療再生基金の活用によって、平成24年度には161件の地域医療連携ネットワークの整備が報告されています。
 (4)長寿社会の街づくり(東大-柏モデル)[19]
 超高齢社会に対応した、高齢者が安心して元気に暮らすことができるまちづくりを柏市・東京大学・UR都市機構の三者で検討する研究会を平成21年6月に発足し、平成22年5月に三者協定を締結して柏市での地域包括ケアシステムの具現化を進めています。具体的には、
 1)地域のかかりつけ医が合理的に在宅医療に取り組めるシステムの日本のモデルの実現
 2)サービス付き高齢者向け住宅と在宅医療を含めた24時間の在宅ケアシステムの組み合わせた日本のモデルの実現
 3)地域の高齢者が地域内で就労するシステムを構築し、できるかぎり自立生活を維持【生きがい就労の創成】
 というものですが、これらを市町村(介護保険部局)が主体性を持ち、地域の医師会等と連携して取り組んでいます。

4.自助、共助の事例(自分力、治すから支える医療介護へ)

 次に、患者や高齢者の視点に立った「支える医療介護」の事例を紹介します。
(1)新宿戸山ハイツの「暮らしの保健室」[2]
 2011年7月に新宿戸山ハイツに開設された「暮らしの保健室」は、空き店舗に開設された気軽に相談できる相談所です。秋山看護師がマギーズセンターのコンセプトを取り入れて、医療・介護連携という掛け声の下に患者不在でパス(送出し、受入れ)されるボールのように患者を扱う患者不在の状況に「患者視点」の相談室として設立したのです。保健室の相談は無料で、予約も必要ない。平日の午前9時~午後5時に相談を受け付けており、来訪者の多い午後から必ず保健師、看護師の資格を持った人が1~2人対応しているほか、一部はケアマネージャの資格も持っており、金曜日には薬剤師、栄養士も入るという。
 それ以外の時間帯についても、ボランティアが詰めており、「ボランティアスタッフは自ら家族を介護したり、看取ったりした経験を持ち、介護中の気持ちとか、お年寄りの対応をマイルドにしてくれる」とのこと。現在、新しい相談は1カ月当たり40例程度。サロン的な要素があるため、1回目の相談が終わった後、リピーターも多く訪れている。さらに、行政窓口は全て電話相談だが、暮らしの保健室は来訪が8割近くを占めており、電話は2割程度に過ぎない。
 この活動を通じて見えてきたことは、高齢者や障害者のちょっとした不安に応えてゆっくり話を聴いて、落ち着いて考えられる相談支援の場が、健康不安を減少させて「介護予防」にもつながるということ。救急車をむやみに呼ばず、医療に適正なアクセスができる「自分力」を引き出すことになるのです。
 この保健室は今年度、厚生労働省の「在宅医療連携拠点事業」の指定を受けており、来年度以降は地元の新宿区や東京都の支援も想定しています。
(2)全国マイケアプラン・ネットワーク[3]
 介護保険サービスは、ケアプランに基づいて提供されます。このケアプランは、ケアマネージャが立てることが多いのですが、サービスを受ける人・家族が自ら立てることもできます。これによって、他人から言われて受けるサービスから、自ら必要なサービスを能動的に受けることによって「ヘルスリテラシー」を獲得するとともに自分らしい生き方にもつながります。全国マイケアプラン・ネットワークは、介護保険のケアプランを自分で作ろうという利用者と家族、および賛同者のネットワークです。互いに情報交換をしたり、専門家の助言をいただいたり、介護保険についての勉強をしたりしながらケアプランを立て、介護を取り巻く問題を当事者側から発信しています。
(3)ソーシャル・エンタープライズ[20]
 ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)は、社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業体の事です。ソーシャル・ビジネスとも呼びます。
 1980年代以降英米で、社会保障費が大幅に削減されたのを機に、NPOが事業体のコア・ミッションそのものを収益事業とする事業モデルとして注目されるようになりました。社会的企業は無償の奉仕であるボランティや慈善事業ではなく有料のサービス提供活動による社会的課題の解決を目指します。したがって市場において充分な競争力を求められ、成功した社会的企業においては、商品開発や商品・サービスの品質のレベルは高く、企業からの人材の調達も活発です。また、主な資金源が自らの事業である為、より柔軟でスピーディーな事業展開が可能です。社会的企業は社会的課題の解決をミッションとして持っている為、単なる営利企業とは異なり、自社の利潤の最大化ではなくミッションの達成を最優先します。こうした点は社会的企業の弱点ともなりうるのですが、逆にその社会的企業の掲げるミッションがステークホルダーの共感・賛同を得た場合には、ステークホルダーからの支援が得られる為、こうした弱点は補われるのです。
 政府や自治体が行う福祉政策は住民全体に対する公平性を確保する為、サービスの内容は最大公約数的なものとなり、細かいニーズへの対応がし辛いという弱点を持っています。また福祉政策は多くの有権者が望むものが優先されます。社会的企業は逆に、従来の福祉からも従来の営利企業のサービス対象からもこぼれ落ちた分野に特化した事業展開を行うことで、事業を成立させる事が多いのです。医療介護連携の分野では限られた予算で優れた社会サービスを提供するために、社会的企業に期待するところが大きく、以下に事例を紹介します。
 

  • イギリスの事例:South East London Doctors Co-operative(SELDEC)
     SELDOCは約500人のGP(家庭医療専門医)が加盟・運営し、ロンドン南の3つの区の100万人の患者の治療にあたっている協同組合組織で、コミュニティ病院を拠点に時間外診療、夜間・休日診療、24時間受付サービス、往診サービス(モバイル・ドクター)、一般医への連絡調整、専門医療機関への取次等を行っている。相次ぐサービスの合理化に成功し、最も弱い立場にある人たちが質の高い医療を、必要な時に利用できるようにしています。SELDOCの一般開業医たちが協同組合で活動しているという事実は、利害関係者の間により強力な共同体意識をはぐくみ、地域社会へ医療サービスを追加するために利益を再投資することへとつながっています。
     アメリカは医療費で人を殺し、イギリスは待ち時間で人を殺すと言われます。
     イギリスは国民医療サービスNHS(National Health Service)によって無料化は進んでいるものの、医師不足と制度の欠陥などで評判が悪いのですがSELDECはとても評判が良いのです。
     一般診療時間外に電話をすると、時間外勤務中の医師が折り返し電話をくれて、電話で医療相談。 必要であれば往診もしてくれるし、薬の処方箋を処方して時間外に開いている近所の薬局を調べて処方箋をFAX・取りに行けるように手配もしてくれます。
     収入は加盟一般医の時間外報酬分、登録患者一人につき2.99ポンド(約600円)の拠出(会費)と診療出来高料金で安定しています。数年前の総収入4億6,400万円、利益は7,200万円と報告されています。収益はコミュニティに還元され貧困層への医療提供など営利性と公共性の両立を担保する仕組みを持っています。SELDOCは加盟一般医の所有で、理事会、評議会、メンバー会議、年次総会による参画型でガバナンスされています。
  • イギリスの事例:SCA Healthcare」
     これもイギリスの事例ですが、SCAグループはハンプシャーで1991年から高齢者、障害者への福祉サービスを提供していました。その後、歯科医療と一般医療サービスの不足に対応すべく、2006年に歯科医師らがソーシャル・エンタープライズとしてSCA Healthcareを分離独立して設立しました。この組織はコミュニティ病院を核とした最初のソーシャル・エンタープライズ事例として保健省から先駆的団体と選定され補助金は支給されています。約550人の職員に75人のボランティアが関わり、6つのプライマリケア・トラストとの連携、45の契約締結を通して総収入約600万ポンド(約12億円)をあげています。
     以上のようにイギリスでは医師により設立されたソーシャル・エンタープライズのほかに、看護師や療法士によって設立・運営されている「Central Survey Health」を代表とする協同組合型のソーシャル・エンタープライズもあります。
  • イギリスの事例:NHS(国民保健サービス) Foundation Trust
     イギリスのNHSは1980年代から特定業務の外部委託を始め、民間部門が一部のサービスを提供するようになっていました。こうした動きにあわせて、社会サービス分野の協同組合が登場し、NHSの規制緩和も進み2003年、既存の公立病院の中に新しい公益法人として ファウンデーション・トラストが導入されました。ファウンデーション・トラストに与えられた営利性と経営の裁量権によって、資金調達の自由、内部留保の運営への再投資、私費医療からの収入獲得といった、「営利性と公共性の両立」と「患者・住民・職員等による所有」が実現されたマルチ・ステークホルダー型の協同的組織であることから、これもソーシャル・エンタープライズと位置付けられています。
  • 日本の「医療生協」
     医療福祉生協連は、医療 ・ 福祉事業を行う生協の全国連合会で全国の110の医療福祉生協と日本生活協同組合連合会が加盟しています。正式名称は日本医療福祉生活協同組合連合会で、2010年7月に創立、10月より事業を開始しています[21]。主に医療・福祉職員の確保育成事業、教育事業、指導事業、医薬品・医療材料などの共同購入事業、生協・協同組合間連携、情報発信などを行っています。イギリスのソーシャル・エンタープライズは生産者参加型が多いのに比べて日本の医療生協はNHS内に創設されたファウンデーション・トラストのマルチ・ステークホルダー型の協同的組織に近いと言えます。
     例えば、東京ほくと医療生活協同組合の病院・診療所・歯科・介護事業所は、「地域で頼りになる病院や施設が欲しい。」という組合員の願いと職員の奮闘によってつくられ発展してきました。
     差額ベッド料を徴収しない病棟医療・小児から高齢者までの外来医療をはじめ、在宅医療・リハビリ・保健予防活動や多くの居宅介護支援事業を展開しています。地域の少子高齢化がすすむなかで「安心して住みつづけられるまちづくり」をめざし、保健・医療・福祉(介護)のネットワークづくりをすすめています。
     そして医療生協の事業活動とともに地域の組合員活動が加わり、自治体・協力施設とも連携し、支部や班での「多彩な組合員の助け合い活動」「安心ネットワーク活動」が広がっています[22]。

(4)介護保険ボランティア制度
 この制度は、地方自治体が介護支援に関わるボランティア活動を行った高齢者(原則65歳以上)に対し、実績に応じて換金可能なポイントを付与するもので、介護保険料を実質的に軽減する制度です。2005年に稲城市が国へ制度創設を提案したもので、2007年には国が「地域でボランティア活動に取り組む高齢者の活動実績を「ポイント」として評価し、このポイントの使途について介護保険料や介護サービス料に充てる制度」として実施を認めたものです。稲城市では、2008年4月から本格実施に踏み出しており、介護費用の抑制効果も報告されています[23]。

(5)夢のみずうみ村[24]  介護業界で「夢のみずうみ村」方式が広がっています。作業療法士の藤原茂氏が理事長を務める、社会福祉法人夢のみずうみ村(山口市)が発信元です。
 この施設では「通ううちに要介護度が軽くなる人が多い」のです。「上げ膳据え膳」が介護施設の主流ですが、それでは利用者の生活力は戻りません。手厚い介護が逆に生活力を奪う矛盾を経験した藤原理事長が「自ら動き、選ぶことで回復できる」仕組みを編み出したのです。

(6)健康の駅[25]
 健康の駅とは、健康な町づくりをリードする施設のことです。医療・福祉、自治体など、健康増進に関わる活動をしている組織等が運営しています。地域の住民たちが自由に交流できる健康拠点のことで、未病のうちに健康に関心を持ち、運動、生活習慣の改善や食を通じて健康づくりにつながる活動や情報を得ること等が出来る場所をいいます。
 健康の駅は、「まちの駅」の中のひとつであり、まちの駅は元気で我が町が大好きな人が集まる「たまり場」をネットワークする取組みです。川の近くにあれば「川の駅」、農場であれば「農の駅」と名付けることができ、これらの駅を総称してまちの駅といいます。
 その中で、健康増進に関わる活動をしているものが健康の駅であり、現在、全国に20箇所(平成24年3 月31 日現在)が認証され、各地で様々な活動が行われています。具体的な活動としては、健康作りのための運動教室はもちろん、様々な講座等の開催、各種健康相談、健康に関する情報ライブラリー(書籍・パソコン)の設置などがあり、中には、森の中で聴く音楽会や"笑い"は人の心を癒し、健康にすると道化教室を開催するところもあります。

5.IT活用事例

 これまで医療ITは一部の専門的な会社が開発してきました。ところがSNSやモバイル端末、オープンソースやクラウドコンピューティングといったITのコモディティー化によって医療介護現場の人々による改革を意味する「医療3.0」と言える事例が出てきています[26]。その代表的な事例を見ていきましょう。
 (1)医療クラウド
 東日本大震災による医療情報の喪失によって医療IT、なかでもデータの保存についてクラウドコンピューティングの重要性が再認識されています。今年の8月に東京医科歯科大学で開催された医療や福祉、健康分野でのクラウド導入のあり方を考える「クラウド医療・健康・福祉フォーラム」では様々な活用事例が紹介されました[27]。

表2 クラウド活用事例[27]
テーマ 組織 内容 ツール 効果
患者中心型医療情報連携え 柏原赤十字病院 患者情報共有、患者宅のテレビ活用も セコム・クラウド電子カルテ、ポケットカルテ 医師の遠隔指示
在宅医療・看護・介護連携 睦町クリニック 在宅医療、訪問診療の多職種連携 セコム・ユビキタス電子カルテ タイムリーで正確な情報共有
在宅医療・看護・介護連携 在宅医ネットよこはまオカダ外科医院 多職種連携の実践でICTをフル活用 カナミック・クラウドサービス 介護スタッフの医療知識の獲得と成長
医療情報管理 医療法人レメディ北九州ネフロクリニック 患者の医療情報や、処方せん、透析情報などをクラウド上で管理 Salesforce 災害など非常時にも患者の命を守るインフラ
遠隔画像診断 宇都宮セントラルクリニック ベンダー中立アーカイブ(VNA) 冨士フィルム 夜間読影、緊急読影、広域医療、優秀な読影医師の活用、診断品質向上
訪問歯科診療 洋歯科クリニック クラウド&スマートデバイスによるチーム医療 ソフトバンクiPhone,iPad,Medical Care Station(SNS)、3Bees 時間と費用の節約
医療イノベーション、未病産業 神奈川県 マイカルテお薬手帳 慶應大学との共同開発 利便性、安心感

(2)SNS活用
 SNSの代表である、TwitterとFacebookに関する医療活用について済生会栗橋病院の綱木学外科医長が次のように述べています[26]。
 Twitterは東日本大震災に際して医療従事者による情報発信のためのハッシュタグ「#311care」が活躍したことは広く知られています。しかし140文字という制約と誰でもが見ることができるという特徴によって医療者が離れて行きました。個人情報保護の観点からは投稿を見せる相手をコントロールできるFacebookがより安全なSNSと言えます。誰に何が見えているかを常に意識してFacebookの設定をカスタマイズして使うことが肝要です。たとえば検索エンジンには表示させず、メッセージは相互承認した友達に限定するといったことです。
 栗橋病院外科では、特定のユーザーだけが参照可能なようにグループ化機能を活用して、休日の報告、遠隔からの医療支援、カンファレンス、手術のフィードバックに活用しています。プライベートの情報を仕事の中に持ち込まないように、仕事上の「友達」をリスト化して閲覧から除外することも可能です。
 患者からの友達申請や、苦情などが寄せられた場合、ITリテラシーの低い医療従事者による患者情報の流出、さらにはユーザーの意向とは関係ない仕様の変更など難しい問題もはらんでいますが、無料であることがIT化のハードルを下げていることは大きなメリットでもあります。限界に注意しながらもSNSの活用を進めることが必要であります。
(3)オープンソース
 神戸大学大学院医学研究科の杉本真樹講師は、医用画像閲覧にOsiriXというオープンソース・ソフトウェアを紹介しています[26]。
 オープンソースの電子カルテとしては2000年より経済産業省の公募事業で次世代電子カルテとして開発したOpenDolphinは、医師自ら欲しい機能を容易に開発、追加できるオープンソース・ソフトウェアです。複数の医師は開発した機能を公開しており、結果的にOpenDolphinの機能拡充が進んでいます。
 姫野病院のOpenNetKarteも、地域医療連携と「どこでもMYカルテ」をクラウド上で実現する低コストの電子カルテとして注目されています[28]。

6. おわりに

 以上、今回は医療と介護の連携について、内外の事例を見てきました。
 国や自治体では「地域包括ケアシステム」の確立に向けて医療・介護保険の負担の見直しや内容の改訂といった施策が矢継ぎ早に出されています。一方、これを受ける患者や家族を支える支援組織も散見されるようになってきました。
 これら両者の整備をもって「地域包括ケアシステム」の確立ができるのではないかと思われます。ITの成果が利用者のITリテラシーで左右されるように、医療介護も、そのサービスを享受する側の患者や家族の「ヘルスリテラシー」による「自分力」がなければ、何のためのケアなのか分からなくなってしまいます。次回以降は、以下の内容について順次解説を行うつもりです。

  • 医療情報(HER/PHR、HL7、医療オントロジー、セキュリティ)について
  • 医療介護の連携に関する方向性とシステム科学アプローチ(全体俯瞰)

(参考文献)

[1] 地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点、地域包括ケア研究会、三菱UFJリサーチ& コンサルティング、2013
http://www.murc.jp/uploads/2013/04/koukai130423_01.pdf
[2] メディカルタウンの自分力~救済の客体から解放の主体へ~、2012年、30年後の医療の姿を考える会編
[3] 全国マイケアプラン・ネットワーク
http://www.mycareplan-net.com/
[4] 英国医療サービスとプライマリケア、澤憲明、東京財団医療・介護制度改革を考える連続フォーラム<第1回>、2013年5月15日
http://www.tkfd.or.jp/files/doc/TFF60_sawa_sd.pdf
[5] International Profiles of Health Care Systems, 2012, The Commonwealth Fund
http://www.commonwealthfund.org/~/media/Files/Publications/Fund%20Report/2012/Nov/1645_Squires_intl_profiles_hlt_care_systems_2012.pdf
[6] Estonian Health Information Exchange Regional Remote Medical Care and Examples of Applications of Medical Information in Estonia
http://pari.u-tokyo.ac.jp/event/smp130214_ross.pdf
[7] "eHealth先端国"と称される、エストニアの電子行政システム・医療データ管理システムとは
http://www.nikkeibp.co.jp/article/dho/20130908/364422/?ST=p_bizboard&bzb_pt=0
[8] 村上智彦、医療にたかるな、新潮社、2013月
[9] オランダのコミュニティケアの担い手たち(前編)、 在宅ケアのルネサンスBuurtzorg 、堀田聰子
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02986_04
[10] Kuakini Health Systems(A Health Care Organization)
http://www.kuakini.org/index.asp
[11] 地域包括ケアの具現化に何が必要か「暮らしの保健室」のヒントとなった英国「マギーズセンター」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2037
[12] クラインガルテン――この世の天国まで徒歩2分
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0804/22/news025.html04
[13] 医療/健康のサービス&エクスペリエンスデザイン事例、棚橋弘季、
http://www.coprosystem.co.jp/marketingblog/2012/02/08.html
[14] 地域ケアのモデル「尾道方式」多職種協働による地域医療連携の実際と薬剤師の役割、
http://medical.mt-pharma.co.jp/pharmacist/phs/pdf/phs_vol2/phs_vol2_01.pdf
[15] 医療構想・千葉
http://iryokoso-chiba.org/
[16] 地域医療連携と「どこでもMYカルテ」をクラウド上で実現
http://www.iryokoso-chiba.org/images/myC5/myc5_himeno.pdf
[17] ポケットカルテ
https://pocketkarte.net/g_top.action
[18] シームレスな地域連携医療の実現について、医療情報化に関するタスクフォース報告書付属資料、2011年5月、IT戦略本部
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/iryoujyouhou/pdf/siryou2.pdf
[19] 柏市における長寿社会のまちづくり、2013年6月、柏市保健福祉部福祉政策室子
http://www.mhlw.go.jp/file.jsp?id=146240&name=2r98520000034a1x_1.pdf
[20] ソーシャル・エンタープライズ~社会貢献をビジネスにする~、塚本一郎・山岸秀雄編著、丸善、2008
[21] 日本医療福祉生活協同組合連合会
http://www.hew.coop/
[22] 東京ほくと医療生活協同組合
http://t-hokuto.coop/akabanehigasi/a04/a04_01.htm
[23] 稲城市介護支援ボランティア制度の保険料抑制効果からみる介護予防効果
http://www.city.inagi.tokyo.jp/kenko/fukushi/kaigohoken/kaigosien/23houkoku.files/4syou.pdf
[24] 夢のみずうみ村
http://www.yumenomizuumi.com/greeting/index.html
[25] 平成24年版厚生労働白書、第2部 現下の政策課題への対応
http://www.mashiki.jp/pdf/kenmi.pdf
[26] ITが医療を変える、現場からの課題解決への提言、Team医療3.0著、杉本真樹編、アスキー・メディアワークス、2012
[27] クラウド医療・健康・福祉フォーラム、2013
http://www.impressbm.co.jp/event/medical201308/

*本Webマガジンの内容は執筆者個人の見解に基づいており、株式会社オージス総研およびさくら情報システム株式会社、株式会社宇部情報システムのいずれの見解を示すものでもありません。

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