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SILICON VALLEY REPORT

Web APIのプレイヤー

~Silicon Valley Reportより~
原著:山野裕司
加筆:山内亨和
2013年4月4日

本稿公開にあたって

オージス総研にはOgis Internationalという米国法人があります。 Ogis Internationalはオージス総研社内向けに、Silicon Valley Reportと題して、米国のIT動向を毎月報告しています。
本稿は2012年4月版のSilicon Valley Reportをオブジェクトの広場向けに加筆修正したものです。 このため、情報が若干古いという点について、ご承知ください。

はじめに

Web APIとは、Web上のデータや処理にアクセスするためのAPIです。技術的には、HTTP、JSON、XML、RESTなどが使われています。 SOAPベースのWebサービスと比べ軽量で使いやすかったことから、インターネットを中心に普及しAjaxやスマートフォンなどで使われています。
本稿では、Web APIが誰にどのように利用されているか、そして誰がAPIを提供しているのかについて解説します。

誰がAPIを使っているのか

実際にAPIを利用しているのはどのような企業なのでしょうか。

NextGen Shopping社の創業者であるMarc Mezzaccaは、スタートアップが車輪の再発明をさけ、すばやくサービスを作り、イテレーションをまわすためにAPIを使っていると言っています。 これは、全てを自分で作るのでなく、誰かがすでに作ったものがあればそれを活用するSOAの考え方と一緒です。
WeWork Labsというニューヨークにあるコワーキングスペースに集まるスタートアップを観察したところ、単にAPIを使っているのではなく、APIに依存し、ビジネスモデルの一部にAPIを組み込むのが一般的になっているとのことです。 5年前であれば、なぜAPIを使うのかと聞かれたのが、今ではなぜAPIを使わないのかと聞かれるような状況のようです。
Startup Giraffe、GoChime、ReadSocialの三つの会社におけるAPIの使い方を紹介します。

STARTUP GIRAFFE - クリティカルな部分でのAPIの使用

Startup Giraffe社は、起業家がアイデアを短期間で 必要最低限の製品(Minimum Viable Product)にするのをサポートする会社です。 起業家のアイデアをもとに、MVPの定義、設計、実装をおこないます。 Startup Giraffeは、彼らのビジネスにとって重要な顧客との取引にクレジットカード決裁をサポートするStripe APIを使っています。 ベータ版の時代からStripe APIが使っているとのことですが、これは少々リスキーです。 しかしながら、今の時代にベータ版のクラウドサービスはありふれていますし、安定していない可能性のあるサービスを使ってでも、早くビジネスを立ち上げるほうが得策だという判断をしたということなのでしょう。

GOCHIME - 多くのAPIを直接的、間接的に利用

GoChime社は、ブランド、ブランドのファン、そして顧客を結びつけるサービスです。 あるブランドの製品の購入を検討している人をソーシャルメディア上で見つけ、ブランドのファンに そのブランドの製品をお勧めしてもらいます。 もし、実際に購入に結びつけば、ブランドのファンはリワードを受け取ることができます。

go-chine-how-to-work
図 1 GoChimeの仕組み
(図はhttps://www.gochime.com/rewardsより引用)

GoChime社は、ソーシャルメディア上のデータをリアルタイムで抽出、分析するためにDataSift社のAPIを利用しています。 DataSift社は、Twitterのデータを再配布する権利を持つ、数少ないサービスプロバイダーです。 DataSift社自身も、TwitterやFacebookのAPIを利用しています。 また、GoChime社は、お買い得情報を集めるためにYipit社やGroupon社のAPIを使っていますし、ブランドのファンのリワードのためにPayPal社やMassPay社のAPIを利用しています。 GoChime社は、直接的、間接的に多くのAPIを利用しており、APIがなければ、彼らのサービスは成り立ちません。

 GoChime
図 2 GoChimeの利用しているAPI
(クリックすると拡大します)

READSOCIAL - APIがビジネス

ReadSocialは、Web上のコンテンツにコメントする機能をAPIで提供しています。 Webのコメントシステムの認証、認可のためのプラットフォームとしてはDisqusが有名ですが、コメントの数が増えると議論を追いかけるのが困難になります。 ReadSocialは、パラグラフ単位での議論を可能にする仕組みをAPIで提供しています。 つまり、彼らのビジネスはAPIそのものです。一番簡単な使い方はReadSocialの提供するJavascriptライブラリをWebサイトに貼付けることです。 このJavascriptライブラリがAPIを呼び出しています。もし、より複雑な連携が必要であれば、APIを直接呼び出すこともできます。

誰がAPIを提供しているのか

では、どのような企業が、どのような種類のAPIを提供しているのでしょうか。 これを分析するために、API管理サービスを使っているAPIプロバイダーについて調べてみました。 3 Scale社、Apigee社、Mashery社の三者の顧客、108社、240個のAPIが対象です。なお、API管理サービスについては次回紹介します。

APIプロバイダーの業種
図 3 APIプロバイダーの業種

図3は、APIプロバイダーを業種別に分類したグラフです。 一番多いのはサービスプロバイダー、そして次にメディアとエンターテイメント、そしてソーシャルやリテイルが続きます。 サービスプロバイダーとは、クラウドサービスのプロバイダーです。 セマンティック技術を使ったナレッジマネージメント、データの提供や解析などが含まれています。 リテイルには、Best BuyやSearsのような実店舗を持つ大企業や、Shopping.comのようなオンラインショッピングサイトが含まれています。 クラウドやソーシャルのような新しい分野の企業だけではなく、Searsのような会社もAPIを提供しているのは興味深いところです。

APIプロバイダーの提供機能
図 4 APIプロバイダーの提供機能

では、これらの企業はどのようなAPIを提供しているのでしょうか。図4はAPIの提供機能で分類したグラフです。 一番多いのは、コンテントの取得、そしてツールや検索、地図情報と続きます。

コンテントAPIプロバイダーの業種
図 5 コンテントAPIプロバイダーの業種

図5はコンテントをAPI経由で提供している企業の内訳です。これを見るとメディアとエンターテイメントが37%、リテイルが22%、サービスプロバイダーが17%、ソーシャルが13%となっています。 企業が自分たちの持っているコンテントを公開しているケースが多いことがわかります。 今回は詳細な調査をおこなっていませんが、これらのコンテントにはユーザー生成コンテント(User Generated Content)が含まれることも多いと思われます。

ツールAPIプロバイダーの業種
図 6 ツールAPIプロバイダーの業種

一方、図6はツールを API経由で提供している企業の内訳で、サービスプロバイダーが36%、モバイルやワイヤレスが18%、ソーシャルが14%となっています。 モバイルやワイヤレスのツールを提供しているのは主に、AT&TやVerizonのような巨大キャリアです。 デバイスやキャリアの情報を取得、SMSへのアクセス、支払いなどのようなモバイルキャリアらしいAPIも提供していますが、モバイルデバイスからヘルスケア情報を取得するためのAPIなども提供しています。 米国ではヘルスケアの改善に対する関心が高いので、このようなサービスで契約者を引きつけたいということなのだと思われます。

Scribeの場合は、APIがビジネスそのものです。 Scribe社はWebページやブログのポスト、プレスリリースなどを分析し最適化するSEOサービスをAPIで提供しています。

2013年時点の国内のWeb API状況 (2013年4月加筆)

冒頭でも書いたとおり、本稿は2012年4月時点における米国のWeb API利用状況を解説したものです。 最後に、最近の国内のWeb API事例をいくつか紹介して、本稿を締め括ります。

TwilioというWeb APIがあります。電話やSMSの機能を提供するWeb APIで、米国のTwilio社が提供しています。 例えば、HuluはTwilioでコールセンターを構築しており、機器を導入して構築する場合に比べてはるかに単能機、低コストで導入できたそうです。 2012年10月に株式会社KDDIウェブコミュニケーションズがTwilioと業務提携をし、国内のサービスを開始しています。 モバイルアプリは当然として、例えばCTI等の業務パッケージでも利用が広がるのではないかと推察します。

また、弊社事例で恐縮ですが、フュージョン・コミュニケーションズ株式会社と弊社が共同開発した「FUSION iPaaS」サービスを2012年10月にスタートしました。 iPaaSとは、Integration Platform as a Serviceの略で、クラウドサービス間、またはクラウドサービスと企業内システムとの連携を実現するためのPaaSです。 FUSION iPaaSではサービスの第一弾として、楽天市場の店舗運営システム(RMS)のWeb APIと楽天市場出店企業の自社システムを、セキュアに、より簡単に連携するためのWeb APIを提供します。 すなわち、FUSION iPaaSは、Web APIのハブとして機能すると言えます。 今後は更にEC向けのシステム連携機能を随時拡大していく予定です。

国内においてWeb APIを使った開発は広く浸透したとはまだ言えませんが、紹介した事例のようにWeb APIの裾野が広がることによって、利用が進んでいくのではないでしょうか。

どんなWeb APIを作るか、どこでWeb APIを使うかを構想する上で、本稿が参考となれば幸いです。

参考資料


オージス総研がお手伝いできること

当社では、Web APIの公開や活用について様々なサービスを提供しています。

もしWeb APIを活用してのビジネスをお考えの方、公開、実装などでお困りの方は当 社まで気軽にご相談ください。

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(2016/08/08:「オージス総研の取り組み」の内容を変更しました)
(2015/09/16: 追記:「Data簡単API化サービス 無料トライアル実施中」)
(2015/04/09: 「オージス総研がお手伝いできること」の内容を変更しました)