2015/6/2 - 4にシンガポールはマリナ・ベイ・サンズ、コンベンションホールで CommunicaAsia2015 という CIO 向けカンファレンスが開催された。本カンファレンスよりアジア地域におけるIoT、クラウド、ビッグデータに関する動向、課題、今後の展望などをご紹介する。
オープニングパネルディスカッションの様子
個別セッションの様子
本イベントの背景
近年のバズワード、IoT、クラウド、ビッグデータが本カンファレンスのテーマであった。この3つがセットなのはこれらが相互に関連し、相乗効果を持つ技術だからだと推測される。
- IoT: センサーやICタグから大量のデータが発生する
- クラウド: IoT含めた大量のデータをリアルタイムに世界中から収集する
- ビッグデータ: クラウド等に集まった大量・多様・高頻度なデータを活用してビジネスに貢献する
参考:オージス総研 Web マガジン「2013年02月号 BigData 第1回 ビッグデータとは」
伝えたいこと
IoT
- 現段階ではIoT活用目的はコスト削減や危機回避がもっぱらで、特定分野以外では活用があまり進んでいない。
- IoTを用いたビジネス上の価値創造、収益化が今後のIoT利用拡大には必要。
クラウド
- アジア太平洋日本地域のクラウドの利用は今後数年で爆発的に増加する見込み。
- クラウド上のデータは自由に国境を越えていくが利用に際しては各国毎のルールや環境などの課題への対応が必要。アジア太平洋地域で比較的共通する課題としてはセキュリティ、プライバシー関連法制度、回線(品質、接続)がある。
ビッグデータ
- ビッグデータを活用したマーケティングが浸透しつつあるが、従来の顧客分析によるマーケティングが時に顧客にネガティブな結果をもたらす事がある。
- 原因はシステム間の情報やデータの連携が出来ていないことによる。解決には新旧データの結合、更なるスピードの追及、新しいメトリクスの導入、イノベーションが必要。
全体通じて
- IoT、クラウド、ビッグデータについて、これらの技術トレンドがビジネスに与えるインパクトを理解し、ビジネスそのもののあり方を真剣に考える必要がある。
- 想定参加者はCIO、企画部門、情報システム部門。ただし、想定参加者を顧客(案件のオーナー)とするシステム開発に携わる我々も認識しておくべき事だと考える。
各講演から見る最近の動向、課題、今後の展望
(IoT) Securing the Future of the Internet of Things
スピーカー:Rob Van Den Dam (IBM Institute for Business Value)
IoT第一の波は到来、しかし利用は限定的。飛行機のモニタリング、スマートメーターなどの成功例があるが、他の分野にはさほど浸透していない。(エネルギーを大量に消費する)重工業で設備がネットワークにつながっている率は30%、スマートTVがインターネット視聴に利用される率が10%。
IoTが特定分野以外に浸透しない5つの理由。
- コストが高い
- メンテナンスとサポートのコストが高い、機器購入価格が高いのに製品寿命は短い、低利益にも関わらず製品ライフサイクルが早いので開発費が多くかかる。
- プライバシー侵害の懸念がある
- 中央集権的機関も含めてインターネット上には信頼できるパートナーなどない。インターネットに常時接続するIoTデバイスを通じてプライバシーが侵害される危険性がある。
- 将来の保証がない
- 今想定されているIoTデバイスである乗物、家電、家のライフサイクルは10年単位と長いが、これらのライフサイクル中ずっとセンサーやシステムをメンテできる保証がない。
- 機能的な価値がない
- インターネット接続はトースターの機能的価値ではない。旨いパンが焼けるのが機能的価値。
- ビジネスモデルが破綻している
- 機能的価値のないトースターを買う客はいるのか、多分いない。客がいないとビジネスが成立しない。
IoT第二の波にのるために必要なのはIoTの再デザイン。
- 劇的低コスト
- 真のプライバシー保護の実現
- ビジネスモデルの継続性・耐久性
IoT再デザインにはオープン分散アーキテクチャーが効果的である。オープンかつ分散型のアーキテクチャーが必要とする要素は3つ。
- 自律的
- 自立的かつ相互作用的に権限の調整ができる
- オープンソーステクノロジーの例:ethereum
- 安全
- クラウドを経由しないファイル共有ができる。
- オープンソーステクノロジーの例:BitTorrent
- 疑り深い
- 中央集権的な機関の介在がいらないピア・ツー・ピア・メッセージングが可能。
- オープンソーステクノロジーの例:TeleHash
オープン分散アーキテクチャーはIoTデバイスの性質に応じて使い分けが必要である。
(使い分けについて説明したスピーカー資料を元に筆者が翻訳)
(IoT) In IoT We Trust –Why Should The Future be Built on IoT
スピーカー:Matt Hatton(Founder & CEO,Machina Research)
今後、IoTデバイス数、それによる収益は爆発的に増加、特にSoT(Subnet of Things)が大きな市場になるだろう。
- インターネットにつながるデバイスの数は今後10年で6倍以上、4億に。IoTによる収益は10年度には4.3兆USDになる見込み。
- 特にM2MとIoTの中間的なもの、SoT(Subnet of Things)が大きな市場になるだろう。
(M2M、IoT、SoTの違いを示したスピーカー資料を元に筆者が翻訳)
SoTはIoT Service MarketPlaceのサービスによって高い付加価値を得るだろう。ここで提供されるサービスとしては以下が考えられる。
- 高度分析
- 請求・課金管理
- データブローカー
- データホールセーラー
- インターオペラビリティ(相互運用性)提供
私見
- IoTデータを収集・保有できるメーカーや政府以外のプレーヤーにはビジネスチャンスが少なそうなIoT。しかし、上記領域ならばデータ収集・保有できない企業(SIerやコンサルティング会社、ソフトハウス)でも技術やノウハウ、ビジネスモデルをつくる力さえあれば、参入余地がありそうである。
(クラウド) Are you ready for Cloud?
スピーカー:Bernie Trudel (Chairman, Asia Cloud Computing Association DC and Cloud CTO, Cisco Systems APJ)
アジア太平洋日本地域のクラウド導入はアプリ(メール等)中心に高い伸び。
- クラウドの通信量は2018年には2013年度の4倍、6.5ZBと見込まれる。
- IT支出のうち12%がクラウド、支出の伸びは従来のIT資産への支出の4倍と高い伸び。クラウドへの支出のうち約45%がプライベートクラウド、残りがパブリッククラウド。
- クラウドの種類で言えばアプリケーション、特にメール&ワークグループ、ファイル&プリントが多い。
- クラウド導入可能度は高い順に日本、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、香港、韓国と続く。
アジア太平洋地域のクラウド導入時の課題は各国毎に異なり、国別の対応が必要。
- 国によって大きく異なる。適切な情報収集と国別の対応が必要。
- 規制、個人情報保護などが違うので国境を越えるデータ転送・共有の際には配慮が必要。
- 比較的共通する課題としてはセキュリティ、プライバシー関連法制度、回線(品質、接続)がある。
アジアのクラウドを取り巻く現状はAsia Could Computing Associationのサイトに詳しい。
- 現状など: https://www.asiacloudcomputing.org/research
- 各国の規制・法制度整備状況の比較: https://www.asiacloudcomputing.org/images/research/ACCACRI2014ForWeb.pdf
(クラウド)How can the enterprise Cloud be protected?
スピーカー:David Siah (Country Manager , Trend Micro Chairman, CSA Singapore)
クラウドの普遍的かつ大きな課題にセキュリティがある。
- スピーカーの所属する非営利団体CSA(Cloud Security Alliance)ではクラウド上のセキュリティを実現するためのベストプラクティスを収集している。
- CSAの調査によれば物理サーバや仮想サーバに比べてクラウドのセキュリティ上の阻害要因は多岐に渡る(以下図表参照。各要因の詳細は以下URLを参照。) https://cloudsecurityalliance.org/download/cloud-computing-vulnerability-incidents-a-statistical-overview/
(スピーカー資料を元に筆者が翻訳)
CSAのベストプラクティスがクラウド上のセキュリティ確保の一助になるだろう。
- 仮想化プラットフォームを確立し統制するためにはクラウド導入各フェーズでの仮想化のリスクへの対策を行う必要がある。
- CSAではベストプラクティスに基づくクラウドセキュリティのガイドラインを用意している。詳細は以下URLにあるSECURITY GUIDANCE FOR CRITICAL AREAS OF FOCUS IN CLOUD COMPUTING V3.0を参照。 https://cloudsecurityalliance.org/research/security-guidance/#_overview
(クラウド)Catching Next Wave of Growth -Business in Real-time across IT, NFV, SDN & Cloud-
スピーカー:Geoff Hollingworth (Head of Product Marketing Cloud, Ericsson)
5年後にはクラウドの恩恵により、ビジネスのありようが変わるだろう。
- オペレーションよりアプリケーションにより多くのヒトおよびカネのリソースが配置される
- ハードウェアリソース占有から仮想化へ
- 複雑なオペレーションから単純化・自動化へ
- 製品開発は月~年単位から週~月単位へ
その背景にはITの工業化がある。
- クラウドとネットワーク仮想化(SDN、VNF)によって各工程で工業化サイクルが展開され、結果として製造・販売・納品が高速になる(下記工業化サイクル参照、スピーカー資料を翻訳して簡素化。)
- NFV(Network Function Virtualization、ネットワーク仮想化技術)
- SDN(Software Defined Networking、ソフトウェア設定だけでネットワークを動的に変更できる技術)
(スピーカー資料を元に筆者が翻訳)
(ビッグデータ)BigData Implementing Analytics - led Customer Engagement and Loyalty Building
スピーカー:Himanshu Jha(Data Solutions, Yahoo APAC)
近年、ビッグデータによる顧客分析、マーケティングが浸透しつつあるが、効果的といいがたい場合もある。
- スピーカーの個人的な経験の例。とある銀行のローン口座を保有していたが、解約したくSNSでローン口座解約を申し込んだが反応が遅い。その一方で新規ローン勧誘電話やクレジットカード勧誘E-mailが来る。業を煮やしたスピーカーは結局、銀行に自ら足を運んで口座解約したとか。
原因はシステム間の情報やデータの連携が出来ていないことによる。解決策の実施が必要である。
- 新しいデータ
- 新しいデータ(非構造化データ)をDWHに入れて、異なるシステムの新旧データを結びつける。
- スピード
- ETLによる加工をやめHadoopに生データを入れて、それをリアルタイム分析する、機械学習を活用して分析をスピードアップさせる。
- 新しいメトリクス
- Buzz Reportなどを活用。(補足:Buzz ReportとはSNSデータによる関心度やトレンドの分析。日本だとNTT DATAや電通等が手掛けている。)
- イノベーション
- カスタマエクスペリエンスやロイヤリティの向上に貢献するようなサービスのイノベーションを起こす。イノベーションは小さなプロトタイプから始めて徐々にスケールアップしていくという手法が有効。
(ビッグデータ)Face BigData But where is it heading?
スピーカー:Steve Illingworth (Chief Technology Officer Pivotal APJ)
今後のビッグデータは以下の特徴を持つだろう。
- 大容量データの処理基盤はPaaS化する。
- ビッグデータに付き物の大容量のデータを処理するのに、Hadoop、トランザクション、リレーショナルクエリ等各機能別に複数台のサーバを用意し仮想化させて対応していたが、今後はそれらがソフトウェアプラットフォーム・アズ・サービス(PaaS)として提供される。
データを分析ツールに合わせて動かすのではなく、分析ツールがデータのほうへ動く。
- SASやRなどソフト専業メーカーによる分析ソフトでのDB内処理。
- Madlib などオープンソースのアルゴリズムが各DBに対応。
システムが特定のクラウドサービスにロックインされることを防ぐため、オープンな技術で構築することが望ましい。
全体を通しての所感
スピーカーの多くがPivotal、IBM、Huaweiなどグローバル企業であったためか、アジア独自の状況というよりも世界の状況といった内容が多かった。
IoT、クラウド、ビッグデータについて流行だから、とりあえずやろう、という浅い対応ではなく、これらの技術トレンドが各企業のビジネスに与えるインパクトを理解し、ビジネスそのもののあり方を真剣に考える必要があると強く感じた。
この講演内容はCIO、企画部門、情報システム部門が対象の概念的な内容であるが、彼らを顧客(案件のオーナー)とするシステム開発に携わる我々も認識しておくべき事だと考える。
番外編
日本のカンファレンスでは見かけないであろう光景 2 選。
マリナ・ベイ・サンズのコンベンションセンター内には室内移動用カートが数台運行しており、これが高級自動車と同モデル(写真はキャデラック、ベンツなどもある)。会場の広さに加えて、世界中から富裕層が集まるため広告効果も大きいのが背景にあると思われるが、なんともバブリーなセンスである。
カンファレンス会場の一角に参加者が平日昼間から無料でビールを飲める人脈づくりコーナーが登場し、大盛況。欧米系も中華系もお酒が強いので昼ビール程度ではイベント運営に支障無いのだろう。恐るべし。